「……しぁ……なぃ……ょぅ……ぁ」
知らない天井だ、一回は言ってみたいセリフだよね、声カッスカスでまともに言えてないけど……。
はい、お久しぶりです、ニーナです。今わたしはすごい入院費が高そうな病室に居ます。起きた時はまた転生したかとも思ったけど、普通にニーナのままだったよ。
まぁ、それはそれでびっくりしたけど。だってあの時は完全に死んだと思ってたし、実際に死んだ感覚もあったし。
とりあえず身体を確認、拘束具や首輪もなし、異能を軽く使ってみても特に違和感も警報的なものもない。
少し張り詰めていた意識が緩む、どうやらここはあの施設の関連する場所じゃなくて普通の病院みたいだ。
緊張が解けたせいか急に催してきたな……トイレ行こ。
ベッドから降りて、繋がっていた点滴を持ってトイレに向かい用を足して洗面所で手を洗う。
いや〜、この病室すごいよ。トイレは綺麗だし洗面台は広くて大きな鏡もあって、蛇口からでてくる水は温かい、まさに高級病室って感じ……。
いやおかしくない?何で普通にトイレ行けてるんだ?
何で普通に起き上がって歩ける、身体に痛みがないのは何でだ。
人間は数日寝たきりだっただけでも上手く動けなくなるものだ、ましてや瀕死だったわたしが完治する程の時間を寝続ければまともに動くことは出来ないはずだ。
だというのにわたしの身体は少し気怠いだけで、痛みも違和感すらもない。
そう、痛みがないのだ。強化薬によるダメージも、何だったら消えなくなっていた副作用による身体の異常も綺麗サッパリなくなっている。
「あー、あー、あいうえお〜」
さっきまでカスカスだった声も軽くうがいをしただけで、ある程度は回復してしまった。
「ていうか背伸びてるよね……」
最低でも10センチ以上は伸びていた。
年単位で寝てたことは確定ですねこれは。
施設の医療技術が外の世界と比べて劣っていた可能性は低い、むしろ最先端のものだったと考えるべきだ。
だとするとこんなありえない結果を起こせるのは異能だけだ。治癒、再生系統の異能による治療以外は考えられない。
ただそうなると新しい疑問が生まれる、誰がそこまでしてわたしを治療したのかだ。
施設にいた頃、暇を持て余したわたしは先生たちを質問攻めにしていた、故に異能に関する知識は人並み以上にある。
生体情報干渉系統、その中でも他者干渉型の異能は極めて希少だ、さらに瀕死の人間をここまで完璧に再生させて健康な状態を維持できるようなものとなれば、言葉通り数えるほどしかいないだろう。
そんな異能者から治療を受けるには途方も無い金が必要になる、しかもわたしが目を覚ますまで年単位で治療を続けるとなれば一体どれ程の……。
「……うん!やっぱりわたしは可愛いな!なんといっても顔がいいよ顔が、ロリ体型も合わさって庇護欲がすごいよね!」
………………。
はい、現実逃避はやめますね……。
まぁ、うだうだ一人で考えてても意味ないしさっさと看護師さんか先生でも呼んで話を聴こう。
わたしは洗面所から出てベッドの横にあったナースコールを押した。
─────
看護師さんはナースコールを押してすぐに病室にやってきた、そしてわたしが起きていることを確認してめちゃくちゃビックリしていた。可愛いな。
「すっ、すぐに先生を呼んできますのでここで待っていてくださいね!」
そう言って看護師さんは小走りで去って行き、暫くしてベテランぽい雰囲気の女医さんを連れて戻って来た。
「少しだけ検査させてね、聴きたいことがきっと沢山あると思うからお話はその後ゆっくりしましょう」
女医さん、先生は落ち着いた様子でわたしを気遣いながらそう言って、本当に簡単な検査を行った後、質問タイムを設けてくれた。
という事で得られた情報を軽くまとめよう。……なんか前にも似たようなことした気がするな。
「ここはどこなの?」
A,ここは病院ですよ、身体の悪いところや痛いところを治す場所です。
「わたしは何でここにいるの?」
A,貴女の保護者さんがここに入院させたからですよ、入院費も払っていただいてます。
「何年くらい寝てた?」
A,五年と八ヶ月です。この病室にやって来たのは半年ほど前ですね。
「えぇっ!五年も!本当に!?」
A,はい、本当です。今年で十五歳ですよ。
「わたしの身体をどうやって治したの」
A,人を癒せる異能によるものですよ。
「……あの、私の保護者って……」
A,三宮澪奈一級執行官ですよ、大切なご友人だと伺っています。
「…………」
……申し訳ありません、まだお仕事がありますので、また時間を設けますね。
「ゆっくり休んで下さいね、詳しい検査はまた後日に行ないますから」
そっか、レーナ生きてるんだ……。
「よかったぁ……」
起き上げていた身体をベッドに沈めて、心からそう思った。
レーナなら大丈夫だと思ってはいたけれど、それでも不安はあった。もしかしたらなんて、最悪の結末を考えてしまうくらいには。
でもレーナは生きていてくれた、しかもわたしを救ってくれたのだ。
執行官がどんなものかはわからないが、こんな病室を長期間使える程の給料が貰えるすごい仕事だということはわかった。
わたしが十五歳ってことはレーナは十六歳だ。きっとすごい努力したんだろう……きっと沢山の人に尊敬されてるはずだ。
幸せになれたのかな。
新しい友達や家族は出来たのかな、居てくれたならそれ以上はない。
レーナが幸せになっていてくれたならそれはこの上ない、命をかけた意味があるってものだ……。
「……レーナに会いたい」
いや、やっぱりちょっと怖いかも。
まぁ、今すぐ会うってわけでもないし、ゆっくり心の準備をしてから……。
そんな事を考えていた時、病室のドアがノックされ、さっきの可愛い看護師が入ってきた。
「どうしたんですか?」
「眠ってた?ごめんね」
「ううん!大丈夫ですよ!」
わたしは身体をベッドから起こして応える、そして看護師さんは言った。
「ありがとう、あのね三宮澪奈さんに貴女が目を覚ましたことを伝えたら、すぐに行くと言っていたから」
「あと三十分くらいで来てくれると思うよ、良かったね!」
あと、さんじゅっぷん?
レーナくる……???
……ま、まっ!待って!はやいはやい!なんも準備できてないって!いま会ったらとんでもない無様を晒してしまうって!
とっさに異能を最大出力で展開し観測領域を広げられる限り広げた。
とりあえず少しでも早くレーナの接近を感知する!よし大丈夫、やっぱり永続的なものだった、観測領域の範囲は強化薬のピーク時以上だ!
「落ち着け、落ち着けわたし」
言い聞かせるようにそう繰り返し、深呼吸をすれば少しずつ落ち着いてきた。
よ、よし、まだ大丈夫だ、レーナが来るまであと三十分くらいはある、まだ時間はあるんだ、それまでにしっかり心の準備をするんだ。
そうして暫く、やっとレーナがやって来ることを受け入れ始めたところだった、観測領域が物凄い速度で真っ直ぐこっちに向かってくる人影を捉えた。
只々こっちに向かってきているのではない、その人は空中を駆けてわたしの病室に向かってきていた。
ていうかこのままだと窓をぶち破って突入してきそうなんだけど!
わたしはその人が向かってきている方に視線を向け、視界に収めた窓とカーテンを病室の端に転送して。
飛び込んできた人影にベッドへ押し倒された。
「ぐふぇっ!?」
勢いよすぎだよ、あまり痛くはなかったけど、全然可愛くない声でちゃったじゃん、ていうか誰……。
「……ふっぅ……ひっ、ひっぅ……ひ」
見覚えのある長い黒髪がわたしの頬に掛かって、何度も聞いた泣き声が耳を揺らした。
「……ニーナ、ニーナ……ニーナ……」
「……レーナ?」
レーナだ、あの頃よりもずっと背も伸びてるし、声も少し変わっているけど、間違いなくレーナだった、わたしの、最愛の人だ……。
「レーナ、ひさ」
「ニーナ……私、強くなったんだよっ……」
「もう誰にもニーナを傷つけたりなんてさせないくらい、強くなったの」
「ずっとずっと私がそばで守るから」
「もうニーナに苦しい思いも、痛い思いもさせたりしない」
「……ニーナを傷つける奴らも全部、私が殺すから」
「大丈夫だよ、もう大丈夫なの」
「大丈夫……」
……あぁ、わたしは間違えたのか。
わたしを強く、もう失わないとでもいうように強く抱きしめて、震える声で大丈夫と繰り返すレーナに、わたしは理解した。
舞い上がっていた心が沈んでいく、すすり泣くレーナをいつもの癖で抱きしめ返そうとした手が止まる。
何が幸せになれたのかなだ。
わたしは結局、自分勝手にレーナの幸せを決めつけて、押し付けただけだった。
「……レーナ」
「ニーナ?……もう大丈夫だよ、私が」
「レーナ、聞いて」
「…………」
「レーナ、ごめんね」
「約束したのに、ずっと独りにしてごめんね」
「寂しかったよね、苦しかったよね」
今更かもしれないけど、謝らせて。
「わたしが悪かったんだ、間違ってたんだ、本当にごめ」
「ちがう」
「違う、違う、違う……ニーナは何も悪くなんてないっ、違う!ちがうっ!!」
「違わないよ、わたしは悪いことをしたんだよ」
あの頃と同じ様にレーナの頭と背をゆっくりと撫でる、優しく。
「レーナはわたしがいなくなっても幸せになれるって思ってた」
「…………」
「外の世界で新しい友達や、優しい家族ができて、幸せになるんだって」
「そんな事を考えて勝手に死のうとしたんだよ……」
レーナはとても強くて優しくて、素敵な子だから。
そんなことは何も関係ないのに。
「いつかわたしの事も乗り越えて、忘れてくれて、沢山の人に愛される人生を送るんだって」
「……その為なら死んでも良かったんだ」
「レーナの為に死ねて幸せだなんて思ってたんだよ……」
そう思っていた、そう思いながら死にたかったんだ。
「レーナ、何も言わないで死のうとしてごめんなさい」
「生きることを勝手に諦めてごめんなさい」
「…………」
貴女の幸せを勝手に決めつけた、わたしにはレーナがいないと駄目だってわかっていたのに、レーナなら大丈夫だって。
そんなわけなかったのに。
「寂しかったんだよね」
「…………」
「苦しかったんだよね」
「……うん」
「独りにしてごめんね」
「ゔん」
「……寂しかったよ、ずっとニーナがいなくて、苦しかったっ!」
「ごめんね」
「ひっ、独りは嫌だった、怖かった、ずっと一緒にいたかったの、何で死んじゃったのってっ!」
「……ごめん」
ずっと一緒にいるって、独りにしないって約束を破ってごめんなさい。
「レーナ、私と仲直りしてくれる?」
でも、もし許してくれるなら。
「それで、もう一度だけ約束をしよう」
「今度は絶対に破ったりしない」
「絶対にレーナを独りになんてしない」
わたしを独りにしないで。
「ずっと一緒にいる」
ずっと一緒にいて。
「もう勝手に死んだりしないから」
「最後の最後まで、レーナと生きるのを諦めたりしないから」
こんなの我儘な願いだって分かってる。
「……それで、どうしても駄目だって時は」
「わたしと一緒に死んで」
「……約束だよ」
わかってるよ。
「うん、もう絶対に破らないよ」
「でもそのかわり、レーナが死んだらわたしも死ぬから」
「……わかった」
レーナはわたしを抱きしめていた腕を解いて顔を上げた。
涙で目を真っ赤に腫らしていたし、急いで来てくれたからか髪は乱れていたけれど、それでも、成長したレーナは綺麗だった。
「レーナ、綺麗になったね……」
「……ニーナのほうが綺麗だよ……」
これからだ、わたしたちの人生はこれから始まる、そう思えた。
……そうだ、忘れてた。
「レーナ」
「なに?」
「ただいま!」
「……おかえり、ニーナ」
わたしたちはお互い見つめ合って、微笑みあった。
そしてゆっくりとレーナがわたしに顔を近づけてきて、何をしようとしているのか気づいて止めようとしたけど間に合わなかった。
そのまま2人の唇は重なって。
わたしとレーナはキスをした。
【三宮仁奈/ニーナ】
愛は理解したが、恋はまだわからないおこちゃま。レーナにいきなりキスをされて頭がパーになった。
《……オートニーナシステムを起動》
【三宮澪奈/レーナ】
ニーナのことを色々な意味で愛している。久しぶりのニーナで頭がパーになってキスした人。キスしたあとニーナの精神年齢が10歳かそれ以下であることを思い出して「やってしまった」と思ってる。
─────
「……レーナ、今のなに?口と口で、それに舌も……」
「あっ、あっ、……これは挨拶!大切な、一番大切な人にする特別な挨拶だよ!!」
「そうなんだ……レーナありがとう!うれしい!わたしもレーナが世界で一番大切だよ!」
(……ユルシテ、ユルシテ……)
─────
という事でハッピーエンドIFでした、蛇足ですがお楽しみ頂けていたら幸いです。
このあと二人は一緒に暮らし始め、生活力が壊滅していたレーナのためにニーナが家事を勉強して料理が趣味になったり。
ニーナが高校に入学して友達を沢山作ってレーナが嫉妬したり。
ニーナがいるからと正攻法での復讐に目標を変えたり。
余りにも無防備なニーナに限界が来てレーナがニーナを押し倒したり……幸せですね(押し倒されるまでレーナのその好意に気が付かなかったポンコツを見ながら)。
これからも二人の人生は続いていきます、ずっと、ずっと幸せに。
これにてこの作品の投稿は終了です、たった二週間という短い間でしたがご拝読ありがとうございました。