TS被検体少女による模範的曇らせ   作:鰻重特上

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もう投稿はしないと言いましたがあれは嘘です。

という事で番外編です、一話完結です。


番外編
今際の夢/トロイメライ


 

「レーナ!みてみて!可愛い?」

 

「……可愛すぎる……本当に可愛いよ……」

 

 ワインレッドのブレザー制服に身を包み、嬉しそうにはしゃぐニーナはもはや犯罪的な可愛さだった、恐らく何らかの法に触れている。

 

 

 なぜ彼女がこの様に制服に身を通しているかと言えば単純で、明日から高校に通い始めるからだ。

 

「ふふっ、明日から学校かぁ……ちゃんと友達つくれるかな……」

 

 ニーナは少し不安そうにそう言うが何も心配する必要はない、ニーナはそのまま、ありのままでいれば友達は直ぐに沢山できるから。

 

「大丈夫だよ、ニーナなら」

 

「そうかな?」

 

「うん、絶対に。親友の私が保証する」

 

 きっとニーナは学校一の人気ものになる、それくらい魅力に溢れているから。

 

 

 純粋で綺麗な心、裏表のない真っ直ぐな性格と相手の心の機微を読んで正しく対応出来るだけの思慮深さ、加えてたった数ヶ月で都内でも有名な学校に入学出来るだけの高い学力。

 

 そしてこの輝かんばかりの圧倒的な見目の良さ。

 

 この容姿とニーナ生来の性格の良さが合わされば落とされない人などいないだろう。

 

 それだけに嫉妬してしまう、ニーナとこれから学園生活を送ることができる学生たちに。

 

 何だったら私も同じ学校に通いたい、今からでも何か方法はないだろうか。

 

 

「……ねぇレーナ、写真撮りすぎじゃない?そんなに撮ってどうするの?」

 

「撮りすぎじゃないよ、まだ千枚も撮ってないから」

 

「基準がおかしい!?流石に恥ずかしいよ!」

 

 ニーナにそう言われ、ずっと構えていた愛用の最高級一眼レフカメラを渋々降ろす。

 

 ……仕方がない、お願いすればニーナはまだ撮影させてくれるだろうが、嫌がる顔が撮りたいわけではない、名残惜しいがここまでにしよう。

 

「ごめんね、ニーナの制服姿が余りにも可愛かったから」

 

「もう……別に制服なんて何時でも着てあげるし、これから三年間は毎日見ることになるんだよ!だから落ち着いて!」

 

 かわいい……いや流石に落ち着かないと、またニーナに怒られる。

 

「じゃあ、わたしは着替えてくるね、このままシワが付いちゃったら大変だし」

 

「うん」

 

 嫌だもう少し見たい。

 

 発した言葉とは裏腹に私の手はニーナの腕をつかんで引き止めていた。

 

「レーナ?」

 

 ……どうしよう……誤魔化すか。

 

「わっ!はふふっ、なにっ?あっははははっ!?」

 

 私はそのままニーナの腕を引っ張って自分の胸に引き込みくすぐった。絶対に後で怒られるけど、しっかりシワ伸ばしはするので許してほしい。

 

「だっ、だめだよ!ふふふっ、制服シワ、あはっ、ひふっ!ついちゃうってぇ!!あっはははっは!」

 

 ごめんなさい、すごく楽しいかもしれない。

 

 

─────

 

 

 窓から差し込む陽の光で目を覚ました、久しくよい目覚めだった。

 

 酷使し続けて痛む身体をソファから起こし、向きを変えてそのまま腰掛けた。

 

「夢か」

 

 そう、夢だ。あまりにも都合が良くて、故に途方もなく残酷で幸せな夢。

 

「ニーナはもういないのに……」

 

 今までこんな夢を見たことはなかった、見るとしてもそのどれもが私の望む幸せを否定するものだった。

 

 もしかしたら、今日だからかもしれない。

 

 眼の前のテーブルに置かれた書類を手に取り、今日向かう場所を改めて確認する。

 

「ここで最後だ」

 

 施設の場所とそこで行われる研究の概要が記された書類、そこに書かれた施設一覧の名前はその殆どが塗りつぶされ、ついに残すは一箇所のみとなった。

 

 ここにいる奴らで私の復讐が終る、ニーナを喪ったあの日から七年、待ち望んだ日だ。

 

 

 そうだ、今日で復讐は終わりだ。

 

 そうすれば変わるはずだ、この苦痛も、怒りも、憎悪も……虚しさも。

 

 

 変わるはずだ。

 

 

─────

 

 

 無数の銃弾が私に向けて放たれている。その全ては例外無く遮断された空間に阻まれて、私に届くことはない。

 

「くそっ!マジで領域支配者(テリトリーオーダー)なのかよっ!?化け物がっ!」

 

 施設に乗り込んで五分ほど、私の領域が施設全体を完全に把握するのに掛かった時間だ。

 

 もう施設内の人員と囚われた子供たちの区別もはっきりとつく、だからもう終わりにしてしまおう。

 

「殺せっ、撃てっ!何もさせるな!!」

 

 私は子供を除いた全ての人間の首を切り落とした。

 

 何時もと同じ、慣れた作業のように、それは一秒もかからなくて。

 

 

 私の復讐はあまりにあっけなく終わった。

 

 

 私は血で真っ赤になった廊下を進む、まだ首から弱々しく吹き出している血も、床を満たすように広がっていく血も、私の纏う遮断によって身体に触れることはない。

 

「……子供たちを外に出さないと」

 

 何かを誤魔化すようにそう声に出して、私は囚われている子供の元に向かった。

 

 

─────

 

 

 この施設が小規模だったのか、私への対応で新たに連れてくることが出来なかったのか、幸いなことに囚われていた子供は十人と、他の施設と比べて少なかった。

 

 動けない子はそのまま運び出して、動ける子には自力で外に出てもらった。

 

 既に警察への通報はいれたから、暫くすればあの子たちは保護されるだろう、その後の事を決めるのはあの子たち自身だ。

 

 

 この施設内に残っているのはあと一人だけだ、でもその子はもう外に連れ出すことはできない。

 

 もう死んでしまうから。

 

 領域に捉えた時点でわかったことだ、その子の身体は既に生きていられるような状態にはなかった。

 

 今までもこういった事が無かったわけじゃない、ましてやこの施設は外部からの供給や指示が断たれてそれなりの時間が経っている。

 

 それでも奴らが逃げることもせず最後までここに居たのは、自分の罪から目を逸らすためだ。

 

 自分はただ従っているだけだから、どんな非人道的なことも、犯した罪も自分のものではないと目を逸らして、従い続ける限りそれから逃げ続けられるから。

 

 だからこそ、一度でも自身の意志で逃げ出してしまえば、それと向き合うことになる、積み上げてきた罪と。

 

 反吐が出る、気持ちが悪い、傷つけられる者を、奪われる側の者はどうでもいいとでも言うようなその思考に、その弱さに。

 

 

 この子はそんな奴らのせいで死ぬ。

 

 

 部屋の前に辿り着き、扉を切り崩して中に入る。

 

 ベッドとトイレしかない真っ白な部屋。

 

 よく見覚えのあるその部屋のベッドの上で、その子は身を倒していた。

 

 

 彼女は真っ白だった、虚ろなまま薄っすらと開かれた瞳は真紅で……でも、それだけだ。

 

 顔立ちも、体躯も何もかも似つかない筈なのに……。

 

 彼女の痩せ細った身体を抱き上げる、呼吸は浅く弱々しくて、骨の浮いた薄い身体から手に伝わる鼓動は今にも止まってしまいそうで、伝わる体温は既に冷たくなり始めていた。

 

 抱きかかえたまま部屋の隅に背を預けて腰を下ろした。

 

 彼女の命は後数分で喪われてしまうから、最後くらいは独りにしたくなかった。

 

 その間にもその命が刻一刻と失われていることを、手のひらから体感する。 

 

 

 ……虚しい。

 

 一度、そう思ってしまえば耐えられなかった。

 

 復讐は遂げたはずだ、私達を苦しめた奴らを、ニーナを、私の家族を殺した奴らを、私は殺し尽くした。

 

 それだけじゃない、少しでも関わりがあれば私はそれを許せなかった。

 

 首を落として殺した。

 

 身体を端から切り刻んでに殺した。

 

 縦に割って、横に割って、人と判別できなくなるほどバラバラに刻んだ。

 

 泣き叫ぶ声を聞きながら。

 

 憎悪の叫びを、許しを請う断末魔を。

 

 殺して、殺して……今日まで気が遠くなるほど繰り返してきた。

 

 何も感じなかった。

 

  

 何も変わらなかった……。

 

 あの日からずっと、苦しいままだ。

 

 怒りと憎悪ではその苦しみを、孤独を埋められなかった。

 

 

 それでも復讐が終われば、この胸の穴を埋められると、今まで誤魔化してきた。

 

 結局、何も変わらない。

 

 私は変わらず孤独で、どこまでも独りだと突きつけられただけだった。

 

 

「どうすればよかったんだろう」

 

 

 無意識に漏れた言葉が頭を満たした。

 

 どうすればよかったの?何がしたかったの?どうして……。

 

 

 ふと、手に伝わっていた鼓動が喪われたことに気づいた。

 

 腕に抱えている彼女の身体が僅かに軽くなったように感じられて。

 

 さっきよりもずっと冷たくなった彼女の身体が私の体温さえ奪っていくようで……その感触に、悍ましさを覚え(懐かしさを覚え)、顔を下げた。

 

 

 そして、私を見つめるその虚ろな赤い瞳と目があって……。

 

 

 ……そうだ、そうだった、なんで今まで気が付かなかったんだろう?忘れていたんだろう?こんなに簡単なことを。

 

 

 初めからこうすればよかったんだ。

 

 

 

 視界がブレる。

 

 

 

 頭が床に打ちつけられて。

 

 

 

 ぐるぐると世界が回って。

 

 

 

 一瞬、頭のない(それ)を見た。

 

 

 

 暗闇に沈む意識の中で、はじめて虚しさが、あの日から埋まることのなかった心の穴が、満たされた気がした。

 

 

 

 

 

 

 あぁ、これでやっとニーナに会える……。

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

「ハッ、ハッ……ハッ……ヒュッ……」

 

 頭が割れるような激痛と息苦しさで目を覚ます。

 

 心臓は今までにないほど早鐘を打っていて、それは胸を裂くような苦痛をともなっていた。

 

 

 ……夢?

 

 

「……レーナ?どうしたの?」

 

 胸の内からしたニーナの声を聞いて、やっと現実に引き戻されたように感じた。

 

「……ゆめ……夢を見たの、ニーナがいなくて、……苦しくて……それで」

 

「……レーナ、わたしを見て」

 

 ニーナが私の頭に手を添えて目を合わせてくれる、いつもと同じ綺麗な瞳……生きている瞳だ。

 

「わたしはここにいる、約束したでしょ、もう独りになんてしないよ」

 

 

 そうだ、あれは夢だ、ニーナは生きてる、今ここにいるんだ。

 

 ニーナはそのままいつもと同じ様に優しく頭を撫でてくれた。

 

 それでも私は不安は消えてくれなくて、私はニーナの存在を確かめるように抱きしめる。

 

 ニーナは暖かくて、腕に残っていた夢の冷たい感覚が薄れていくのを感じた。

 

 暗い部屋、雨の音が耳を打つ中で強く、強く、不安をかき消すように抱きしめた。

 

 

 大丈夫、ニーナは生きてる……よかった、生きてるんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────本当に?

 

 

 




【三宮澪奈/レーナ】
 暫く疑心暗鬼になってニーナ依存症が再発した。その完治には専属名医ニーナの腕を持ってしても一ヶ月を要した。

【三宮仁奈/ニーナ】
 急にレーナが病んで内心かなりビビってる。因みに入学から一週間でファンクラブが出来た。


─────


【三宮澪奈/レーナ】
 ずっと虚しかった。
ニーナと再会出来たかは……。


─────

 今際の自分を夢に見たのか、それとも此処が今際に見ている夢の内なのか……。

 感想欄の皆さんが読みたいと仰って下さったものを詰め込みました。

(IF after)+(本編after)+(夢をみるレーナ)=これです。

 情緒ジェットコースターみたいになれば良いなと考えながら書きました、そうなっていたら嬉しいですが、如何でしたか?


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