さして怖くない怪異たち 作:あーうー
「ゔぁー……」
ベッドの上でゾンビみたいなうめき声を上げる私。
どうも自称最強の不幸マン…あいやウーマンだわ。最強の不幸ウーマンの
安心できるのはこの家の中だけ。外に出れば木材が落ち、マンホールにハマりかけ、近くの家の打ち水を被りかけ、スーパーの好きな惣菜が毎回売り切れ、上司に愚痴られて上司に怒鳴られて上司に嫌味言われて上司に…おっと後半偏ってたな。
まあともかく、今日は日曜。一度も外に出なくて済む日。あの準ブラック企業に勤めて早4年…辞めることも出来ずにズルズルと続けてると心身共にぼろぼろになるんだわ。怠惰にもなるよ、ウン。
スマホスマホ…あった、今何時…うわぁ8時だ早く起きすぎだ…せっかくの日曜早く起きすぎた…寝よ。
と、その時携帯が鳴った。
…何…まあこの着メロ仕事用の携帯だし掛けてくるのあのクソ上司しかいないけど…嫌だッ!日曜まであの
死ぬほど気乗りしないのを感じながら少し気だるげに電話に出る。意味ないだろうけどちょっと体調悪めに聞こえるように。
「はい…翡翠です…」
『ワタシ、メリーさん』
…は?
『今、〇〇駅にいるノ』
「は?」
なんか妙にイントネーションの外れたおどろおどろしい感じの声がそれだけ流れてブッ、と切れた。
…は?いや何、おばさんじゃないの?じゃあ何で仕事用の携帯に?いやそれより誰って?見知らぬ人に睡眠邪魔されたの私?〇〇駅って最寄り駅じゃん。だからどうした。
とかそんな訳のわからんことを考えてると、また携帯が鳴った。
取る。
『ワタシ、メリーさん』
またこいつだ。マジで誰こいつ。
『今貴女の家の前にいるノ』
は?家の前?さっきの電話から十何秒とかだよね?どんな速度よ。いたずらもいいかげんにしろよ…
「おーいあんた誰か知らないけど」ブッ
「切りやがったァ!!」
ボスッ、とベッドの横のクッションに眠気と一緒に携帯を叩きつけて叫ぶ。眠気は吹っ飛んで携帯はクッションから跳ねて戻ってきた。おかえり。
じゃなくて何なんだよメリーさんって!いたずらとかふざけんな!私の睡眠を邪魔すんな!日曜だぞ!数少ない心から休める日なんだぞ!
家の前っつったよね!?良いじゃない相手してやんよォ…!
ベッドから降りてゆらゆらと歩いて玄関への廊下を歩く。と、三度目の着信。
『ワタシ、メリーさん』
ふと後ろに気配。
『今、貴女の後ろに』
「お前かァァ!!」
「きゃぁぁぁぁ!?!?」
振り向きざまにアイアンクローをかまそうとすると手は空振って悲鳴が下の方から聞こえてきた。
「んぁ?」
見ると尻餅をついた深い若草色の髪をした前髪で目の隠れた女の子のような人形がいた。大体50センチくらい?人形にしては大きめなサイズ。
デフォルメされてて、見えづらい程度の縫い目しかなくて手足が短い。あと指らしきものはなくて手のが丸い。
「…誰あんた、メリーさん?」
と、彼女は自分の手を耳(と思わしき場所)に当てて電話をするような格好を取る。あーね?
「そういうの良いから」
むしっ、と指のない手を掴んで降ろさせる。
そういうの良いから事情を言え事情を。それよりまず不法侵入だぞおい。いや人形に不法侵入も何もないか。
「な、んな、な、なん、なんでお、驚かないのぉ!?」
「は?」
耳に入ってくるのは悲鳴にも似た叫び声。でも妙にきれいな声なおかげで別に耳がキンキンするようなこともない。
そんで何この子。ホントに電話の主?声ぜんぜん違うじゃん。きれいな声してる。
「なるほど?要するにあんたはメリーさんで、怪異として人を驚かせて回ってる。怪異は人の持つ霊力?ってやつを糧にしてて、驚かせばその人の霊力が何パーか入るから
「は、は、い…」
怪異のメリーさんだったらしいです、はい。じゃあその怪異と机挟んで対面してる私何なん。
…聞いてみたところ、私は霊力っていう人なら誰でも持ってる生命エネルギーみたいなのが人一倍多いらしくて、そういう人には怪異が寄ってきやすいらしい。で、有名な怪異とかならともかくマイナーな怪異とかだとそもそも力が弱いからいたずらとかで怖がらせたりストレスをかけたりするものもいるんだってさ。
要するに。格の高い、有名な怪異は元々の力が強くて糧にする必要のある霊力量もかなりの量がいる、だから大量の人を驚かせてそれでさらに噂が広まって強くなる。でもマイナーな怪異は力が弱いからその分相手の精神力を削ってから驚かせて霊力ってのを得る。で、私は生まれつきに霊力が人一倍濃い。
…もう分かるね?
はい、今まで私が体感してた「不幸」的なのほとんど全部力の弱い怪異のせいでした。ふざけんな。
「それどーにかなんないの?」
「霊、力とか、は…じゅ、寿命が…縮まる、と…少な、く、なる…よ」
で、本題のメリーさん。有名であるがゆえにかなり格の高い怪異らしいけど、電話越しじゃないとうまく喋れないらしくてめっちゃしどろもどろになりながら説明してくれる。良い子じゃん。
「ふーん…流石に早死するのは嫌だしなぁ…」
クソ会社に勤めてはいるけど自分から寿命を縮めるほど追い詰められてもない。
まあここまでの反応を見てわかると思うけどかなり根が図太いからね。でなきゃ怪異とかいうのと真っ向から話し合えるわけ無い。っていうか、
「でも今まで怪異…というかメリーさんみたいなのは見たことないんだけど」
「え、っと…」
かなり時間かけて説明してくれたけど、要するに。
怪異は普段姿を隠して生活してて、ターゲットとする人を見つけるとその人にだけ見えるようになるらしい。
で、メリーさんは私をターゲットにしてて、失敗したけどまだ見えるようにしてるだけらしい。普通は失敗したらすぐ姿を消して逃げるんだそう。…少なくとも不幸はあっても驚かされた記憶はないから多分単純に気づいてないんだと思う。となると、普通通りすっと消えて逃げるのも出来たろうにやっぱ親切っちゃ親切なんよね、この子。…この子?この人形?…この子でいっか。
「ち、ちなみに…この、部屋にも…怪異、いっぱい、いる。私、に怯えてか…今は、出てき…てない、けど」
「えー…」
いんのかい。
街灯に群がる虫じゃないんだからどっか行ってくれ。つか怪異も怪異に怯えるのね。
あれか。人間で言うところの普通の人がいる中に明らかにカタギじゃない見るからにゴリゴリのヤクザな人が出歩いてる感じか。そりゃ避けるわ。
…ん?
「あれ、でも弱い怪異って人の精神力削って脅かすんだよね、私家の中じゃ妙なこと起こったこと無いけど」
「多、分……えっと、お姉さん、の…霊力が、あまり、に、強いから…そばに、長時間…いる、だけで、満足…なんだと、思う」
現に全然驚かしてないはずなのに既に人5、6人分驚かしたときぐらい霊力もらってるし、と付け足すメリーさん。
へー…そういう原理。
つかそれただの居候のニートでは。姿見えないし認識できないニート…なんか怖いなそれ。
と、急にメリーさんが手を打つような仕草をしてあ、と声を上げた。
「じゃ、あ、私もここ、住む」
「はい?」
どうやらメリーさんクラスの怪異ともなると一日に数十人ぐらい驚かせないと生活に必要な霊力が足らないないらしく。それはそれは大変な作業のようで、正直疲れるのだという。
怪異の世界も世知辛いんだなぁ…ってそうじゃなくて。
で、どうせ別に危害を加えるわけでもないのであれば同じように居候しても良いのでは、ということらしい。
自分からそれ言うとはさてはメリーさん、人慣れしてないだけで中々図太いな?
「まー私としては別に構わないけど、ちょこちょこ手伝いとかしてくれるなら。ただで、って言うと虫がよすぎるからね」
「は、はいっ、!」
明らかに声量間違えてる。かわいいから良いけど。
力の弱い怪異たちには申し訳ないけど出ていってもらうか怯え続けるかの二択を迫ろう。まあ良いでしょ、もう十分引きニート生活満喫したろ、はよ外に行って怪異として生活してきなさい。
心做しか背後から恨むような視線を感じたのは多分気のせいだと思う。