さして怖くない怪異たち 作:あーうー
あーイライラする。
アンタ言ったじゃん今月末でも問題ないって!
まあこんなのよくあるから早めに終わらしてたんだけども!
「あーもうマジで」
「翡翠ちゃん大丈夫?」
5分くらいグチグチ言われてデスクに戻ったところ、隣の薫が声をかけてくれた。
「イライラはしてるけど。ありがと、薫」
『ありがとー』
「うん……うん?」
「ん?」
うん?
なんか聞き覚えあるね、と思って声のする方…正確に言うと私の後ろの方を見ると見覚えのある人形が1つ…1人か。
「えっ、?」
「メリーさん。起きたの」
『さっきねー』
「待っ、て待って待って翡翠ちゃん」
…あそうか。普通じゃわけがわからない状況だもんね。
【怪異説明中】
「へーそうなんだー…とはならないよ!?」
え、なんで普通にそんな軽く同棲みたいなことになってるの!?え!?と動揺してる薫。
まあ別に命取られるわけじゃないし?ご飯とかもいらないなら実害殆ど無いし、むしろちょっと観察してると意思疎通の図れるお転婆な猫みたいなイメージついてくるし…別に断る要素なくない?
あ、ちなみにメリーさん、今は私と薫にしか見えないようにしてるんだってさ。確かになんかそんなのできるって言ってたね。
「ま、まあ翡翠ちゃん神経図太い所あるからね…」
「あーそれと不幸体質もこういう怪異のせいだったんだってさ。霊力のお零れでも預かろうって感じだったらしいよ」
「えぇ…街頭に群がる虫みたい」
いや私も思ったけど…本人の前でその言い方はオッケーなの?あ、まあ本人が別に気にしてないならオッケーなのね。
あとメリーさん薫にも懐いてない?怪異よね、あーた。
「で…メリーさんは何しに来たの?」
『お姉さんのおしごと見学だよー。暇だから』
薫の質問に答えたメリーさん。
薫からもえ?みたいな顔されてる。
うん…まあ怪異がするようなことじゃないよね…
「そ、そうなんだ…でも別に面白いようなことないよ?」
『…ううん、面白いこと、もう二個見つけたよ』
「「…?」」
今度は私と薫で顔を見合わせる。
…いつ来たかは定かじゃないけど面白い要素あった…?あ、薫のことか。いやそれでも1個…あと1個何だ…?
「…まぁ、その話はお昼休みにでもしよっか。とりあえず仕事進めないと」
「それはそう」
メリーさんごめんねー、昼休みまで2時間くらいあるんだけど…あ、社内見学?分かった、いってらー。迷子にならないようにねー。
■
さてさて今日の業務終了っとー。
あ、今日は1時間オーバーね、ちょっと早めだ。
…そういやメリーさん帰ってきてないな。どこいったんだr
プルルルルル
ん?
『もしもし、私メリーさん』
あ、メリーさんだ。どしたー?
『…迷子になったから電話かけたの。今からそっち戻るの』
え、と言う前に切れた電話の音。
同時に後ろに現れた気配。
「迷子にならないようにねって言ったじゃん…」
『…ごめんなさい』
振り向くとそこにいるのはしゅん、としたメリーさん。なんか垂れ下がってる耳と尻尾を幻視した気がする…
「ま、ちゃちゃっと帰ろっか。薫ー、また明日ー」
「はいはーい。メリーさんもまたね」
『はーい』
普段は終わってなかったら手伝い合ったりするけど、薫からはもう仕事終わるから先帰れ(意訳)って言われたからお言葉に甘えて。お先しまーす。
★
お姉さんのおしごとが終わって、一緒に帰ってきた。
そこからはあんまり昨日と変わらない。とはいっても昨日私眠っちゃってたけど。
お姉さんが晩ごはんを食べるのを見て、あとお風呂に入った。
大丈夫なのかーって聞かれたけど、問題ない。なぜなら人形ではあるけど霊力を持った怪異そのものだから、ドライヤーとかで乾燥すればすぐに元通り。
で、ちょっと早めにお布団に入る。わざわざスペースを作ってくれたけど、今日は眠る
お布団に入って、お姉さんとおやすみーって言って、そこからだいたい10分くらい。
そろそろかな。
お姉さんを起こさないようにそろーっと起き上がって一度外に転移する。
……さて。もうお昼に
右手を耳に当てて、頭に思い浮かべる。
…まずは、縁を繋ぐ。
ブッ、と音がして電話がつながったのを確認、もしもし、という声を聞いて安堵する。
…良かった、
『ワタシ、メリーさん。今───』
やることはいつもと変わらない。現在進行系で縁が繋がってる状態なら、今相手のいる場所のへのルートが分かる。
そのルート上で、おおよそ3から4回。今回は距離的に3回にしよう。
転移して、再度電話をかける。
『ワタシ、メリーさん。今──』
昼間にも確認したけれど、お姉さんは良い人だ。それはそれは、とても。
…私を作ってくれた、あの人みたいな。私を大切にしてくれてた、あの子みたいな。
だから、重ねてるところもあるんだろう。
…怪異として、あるまじき私情。ヒトに情を移すなんて、そうそうすることじゃない。
でも。
『ワタシ、メリーさん。今─』
移ったのだからしょうがないじゃない。
そして、大切に思えちゃったんだから、仕方がないじゃない。
それに、人を驚かすのは怪異の本分でしょう?
今回は、これからちょっと
『ワタシ、メリーさん。今…貴女の家の前にいるノ』
お姉さんの住んでるマンションより、よっぽどキレイな一軒家。
…ここ、か。
まどろっこしいのはヤメだ、畳みかける。
扉の向こうから、怯えた気配の霊力が見える。
…いい気味だ。
最後のひと押し。手を耳に当てて、自分の中で霊力を回す。
『ワタシ、メリー、さん。イマ…』
───あなたノ、後ろにいるノ
ザワ、と空気が変わった。
元々何もなかったはずのその空間に、一つの人形が舞い降りる。
人の形をデフォルメされた、単体で見ればそれはそれで可愛いと思えるような人形。
彼女の前には、今までと同じように怯える人間が一人。
…いつもならば。ここで霊力を少量奪って終わりになる。
だが、彼女は予定通り
瞬間、氷のように刺々しい空気が一転、生温い、不快な空気に変化した。
ぬるりとする空気は、明らかにそこにあってはならないモノの存在をその人間に伝えた。
が、遅い。
ひたり、ひたり、と。
体が硬直したように動かない人間の後ろに、不快感の大元が近寄る。
当の人間も、しっかりとそれを感知できているからこそ、体を強張らせているのだろう。
そして怪異もそれを分かっているからあえてゆっくりと進み、へたり込んでいる人間の耳元にゆっくりと顔を寄せる。
『 ミ イ ツ ケ タ 』
音は、聞こえない。
だが体で感じた、不快と恐怖の入り混じった凄まじい悪寒。
油の切れたブリキ人形のごとくぎこちない動きで振り向いた人間の目に映ったのは、小さな人の形の人形。
…だった、もの。
ソレが目の前で真ん中で引きちぎれた。
呆気にとられる人間の前で引きちぎれた布の奥から顔をのぞかせるのは、想像していた白い綿などではない。
皮を纏っていない肉というべきか、はたまた不格好な塊というべきか。黒く名状しがたいそれはさっきまでそこにあった人形に収まる体積を優に超えて肥大化する。
そして徐々に形を作っていき、少々不格好な人の形をとった。
下半身にあたる箇所はまだ人形に埋もれており、腕のような場所は明らかに動いてはいけない方向に動く。
そして、顔と思われる場所にはちょうど逆三角形の頂点の場所辺りに3つの虚空が生まれていた。
そのうち一番下の虚空が三日月型に歪み、上2つの虚空が金縛りにあったように動かないその人間の体に狙いを定めた。
ぐちゃり、と音を立てて三日月型の虚空がその顔らしき場所いっぱいに広がり、人間に詰め寄り─────
★
なんかあの日の次の日からおばさんが一週間休みを取ってた。
まさかサボりかとも思ったけど別にそういうわけじゃないみたいで、なんか戻ってきた後には仕事中もすっごい周りを気にするようになってた。
まあ面倒なことに絡まれる頻度減ったから私としては良いけど…デスクの片隅に座って船を漕ぎ始めてるメリーさんを見つつ、何だかなぁ、と思ってた。
Tips:メリーさん
どこかの誰かが手作りした人形。
持っている特性は転移であり、対象への道のりもわかる。
人形の形こそしているが、これでももうかなり長く存在している力の強い怪異。人形の中身はご愛嬌。
さして怖くないね、うん。かわいいね。