三国志外伝『死神と呼ばれることになる名も無き一般兵のお話』   作:車馬超

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『俺は疫病神……?』

 何となく、いつかはこうなる予感はしていたんだ。

 だって俺は……『疫病神』だから。

 

「…………くそっ!!」

 

 近くの村に回診へ出かけた親友の帰りが余りにも遅かった。

 だから様子を見に行った俺は、立ち上がる黒煙を目の当たりにしてしまう。

 全速力で駆け出すけれど、到着した時には既に何もかも終わった後だった。

 

「…………っ」

 

 焼け落ちた住居、あちこちに散らばる家具、そして血に染まる大地と呻き声をあげる人々。

 ただ村に残っている人間は……犠牲者も含めて男と老人ばかりで、若い女は一人もいなかった。

 これが何を意味しているのか乱世で生き抜いてきた俺には嫌でもわかる……わかってしまう。

 

(あいつは……あいつも……くそっ!!)

 

 あいつがその辺の野盗にやられるはずがないが、無事ならば怪我人だらけの村人を治療して回っているはずだ。

 しかしだからと言ってあいつの死体はどこにもない……ならばそこから導かれる答えは一つだ。

 

「…………っっ!!」

 

 反射的に俺は村の跡地を飛び出した。

 

(俺の……せいだ……っ)

 

 いつだってそうだった。

 俺が長居した場所は必ずこうなるのだ。

 術を使える教祖が治める宗教組織も、大陸中を統べる国の中核であっても、何もかもを砕く暴虐の牙の中だろうと、天下一の武勇の下であろうとも……。

 

 一切合切何もかも関係なく滅んでいった……それこそ本来の保護者である両親だって例外ではなかったではないか。

 

(だから俺は、きっと一人でいなきゃいけなかったんだ……あいつの傍になんかいてはいけなかったのに……っ!!)

 

 どこかであいつだけは大丈夫だと思っていたのか……いや違う、俺は多分あいつに甘えていたのだ。

 いつもいつでもどんな時でも、俺が何をしようとどれだけ馬鹿な真似をしようと多くの不幸を招き入れようとも……最後には笑って受けいれてくれたあいつ。

 本当はあいつの傍にずっと居たかった……安心に包まれていたかった……

 

(俺は馬鹿だ……あいつだけは巻き込みたくなかったのに……っ!!)

 

 走る走る、ひたすらに走る。

 『歩兵』としての本分は足にあると、教えてくれたのは誰だっただろうか。

 とにかく体力の続く限り、俺は地面に残された痕跡を追って走り続ける。

 

(……居たっ!!)

 

 ダラダラと歩いている身体中を血痕と砂ぼこりで汚した盗賊の一団が見える。

 数は十名にも満たない……恐らくは馬を使えなくて後から付いてくるように言い含められた下っ端だろう。

 

「ーーーーー」

「だから、俺は……がっ!?」

「え……ぐっ!?」

 

 声は出さない、雄たけびも上げない……攻める相手よりこちらが少ないのならば叫んで威圧する効果は薄い。

 だから最速で向こうが気付く前に駆け寄り、振り返る間も与えずに一人、返す刀で二人、首を切り落とす。

 

「は……がぐっ!?」

「げっ!?」

 

 走り寄った勢いを利用して首の亡くなった胴体を別の二人の方へ飛ばしぶつけることで動きを拘束する。

 

「な、なんだおま……っ!?」

「て、てめぇ俺達をな……っ!?」

「ーーーーー」

 

 動けるのは残り三人、うち二人が剣を抜き去る前に剣を大薙ぎしてまとめて首を切り飛ばす。

 

「ふ、ふざけん……ひぃっ!?」

「ーーーーー」

 

 最後の一人は何とか剣を抜き去り俺を切りつけようとするが、腰が引けている。

 だから避けるまでもないと地面を蹴りつけ、巻き上げた砂を顔面に浴びせてやるだけで勝手に脅えて下がり尻もちをついた。

 その時点で俺はくるりと身体を反転させると、風の音だけを頼りに身体を傾けながら真後ろに突きを放つ。

 

「な、なんなんだお前はぁ…がっ!?」

「お、おいおいおい……じ、冗談だろっ!?」

「ひぃいいっ!!?」

 

 最初に首を切り飛ばした奴の身体をぶつけてよろめかしていた二人が戻ってくるのはわかっていた。

 そして後ろから奇襲をかけようとするのも……だからこそ正面に残る一人は砂をぶつけるだけに収めておき、背後の音に神経を集中しておいたのだ。

 お陰で何の問題もなく後ろから振り下ろされた相手の剣は俺の横を通り過ぎて、代わりに俺が突き出した剣が相手の喉を貫いていた。

 

 この時点で残る二人は目の前の状況が受け入れられないかのように戦意を喪失していた。

 

「ーーーーー」

「あぁ……ま、待てっ!! わかった降参だっ!! だか……がぁっ!?」

「ひぃぃぃっ!!?」

 

 一人の脳天に剣の柄を叩き落し強引に気絶させ、残る一人へ向き直る。

 

「……お前らの隠れ家はどこだ?」

「ひぃぃっ!! ゆ、ゆるし……ゆるして……がぁああっ!!」

 

 まさかこんな形で董軍仕込みの『拷問』技術が役立つとは思わなかった。

 お陰であっさりと隠れ家を知ることができたが、念のために先ほど気絶させた奴も強引に起こして同じことを尋ねて確証を得る。

 

(あの廃城か……よしっ!!)

 

 二人が動けないように四肢を破損させた俺は、荷物を漁り刃物を中心に役に立ちそうな物だけ回収して再び走る。

 そうして隠れ家へ向かう最中に追いついた連中を片っ端から切り捨てては、情報と物資を仕入れていく。

 

(意外と数が多い……でもまあ流石にこの程度の連中なら束になっても負けないぜっ!!)

 

 お陰で廃城に到着する頃には日が暮れてしまったが、情報が正しければ既に相手の総兵力の半分は倒したはずだ。

 

(……仮にも城に籠っているところを急襲するには弱いところ、は確実に守られているだろうから予想外のところから……ですよね高順様?)

 

 こちらの兵力が勝っているならともかく、少数で多数派が籠る陣を崩すのならば予想外のところから奇襲をかけてこちらの人数を含めて混乱させるのが最善だ。

 そのための『攻城』技術も含めて色々と教わっている俺は、早速一番しっかりしている城壁のある場所へ向かう。

 そして煉瓦と煉瓦の間に隙間を探し、そこに道中で回収してきた刃物を差し込み足場代わりにして少しずつ這い上がっていく。

 

(落ちたらまずいけど、大丈夫だ……今までもっとヤバい場面を乗り越えてきたじゃないか……この程度余裕だってのっ!!)

 

 闇夜に紛れる形でゆっくりと時間をかけて城壁を登りきると、まず見張りの存在を確認する。

 果たして左右にある一番高くなっている見張り台の部分に篝火が炊かれており、そこに欠伸をしている番人を見つけた。

 

(この距離か……弓矢の技術も習っておけばよかったなぁ)

 

 尤も変に悔やんで時間を使っても仕方がないので、別の作戦で行くことにする。

 背負っていた荷物を下ろし、そこから敵の死体から回収した装備を着込む。

 その上で面倒くさそうにしながら、見張り台に向かっていき声をかける。

 

「おぉい……そろそろ交代の時間だぞぉ~」

「ん? なんか早くないか?」

「あぁん? そうかならいいや、もう少し後で来るわ」

「あっ!? い、いや待てっ!! やっぱり交代しようっ!! 今そっちに行くからっ!!」

 

 向こうが信じたい情報を口にすることで『虚報』を巻き『混乱』させる……孔明君と仲達君ならばこの程度簡単に見抜いただろう稚拙なものだが、野盗には効果抜群だったようだ。

 

「ま、待たせたな……じゃあ後はまか……んぐっ!?」

「おう、後は俺に任せて……ゆっくり眠れ」

「っ!!?」

 

 すれ違いざまに口元を抑え込んで声を出せなくしてから喉を切り裂くことで何も言わせずに一人目の見張りを処理する。

 ついでもう一つの見張り台に行き、似たようなやり方でこちらの見張りも処理してやってから篝火を見張り台の上から燃え移りそうな荷物があるところへ落としてやった。

 

(これで放っておいても騒ぎになるだろ……後はこの火勢に反応して飛び出した奴らを適当に始末しつつ親玉が居そうな中央の庁舎を調べに行けばいい……)

 

 再び闇夜に紛れるように移動を開始すると、果たして燃え上がる火勢に気づいたらしい野盗共が慌てた様子でそれぞれのねぐらから飛び出してくる。

 

「な、何だなん……っ!?」

「か、火事だぁああ……っ!?」

「だ、誰かお頭に知らせ……っ!?」

 

(思ったより飛び出してくる奴が少ない……大多数が中央の庁舎で『お楽しみ』の最中てことか……それとも侵入者を待ち構えて……どちらにしても、行くしかないけどな……)

 

 一通り飛び出してきた連中を仕留めた俺は、そのまま中央にあり一番大きな建物である庁舎へと向かう。

 階段を登っていき、身を低くして物陰に隠れるようにしてそっと内部の様子をうかがうと何やら騒ぎになっているらしく叫び声がこだましていた。

 

「まだ女たちは見つからねぇのかっ!?」

「外の騒ぎは何だっ!?」

「まさか外に逃げられたわけじゃねよなっ!?」

「いや入り口には鍵が掛けてあるから流石に逃げられねはずだっ!!」

「じゃあさっきの騒ぎは何なんだっ!? 見張りも何も言ってこねぇし……誰か様子を見てこいっ!!」

 

 最後の言葉を聞いた俺は、すかさず正面入口へ移動して扉が開くのを待った。

 

「くそっ!! いったい何がどうなって……っ!!?」

「ーーーーー」

 

 顔を出した奴を一撃で切り捨てると、すかさずその身体を押し込むように内部へ侵入し、灯りがともっている方向に飛ばしてやる。

 

「なっ!? なんだお前……はっ!?」

「あ、明かりが消え……ぎゃぁああっ!!」

「ちぃっ!! 誰か武器を持ってこ……ぐはぁっ!?」

「ーーーーー」

 

 灯りが消えて見通しが悪くなった深夜の室内を無言で移動し、声だけを頼りに敵を片っ端から切り捨てていく。

 流石に向こうも馬鹿じゃないのか、少しすると声を発するものはいなくなる。

こうなるとお互いに姿が見えづらいこともあり膠着状態に陥りかけるが、そこであえて俺は自ら口を開いた。

 

「はは、なんだなんだ……お前ら雑魚の集まりじゃねぇか……これじゃあ相手にもならねぇから武器無しで相手してやるよ」

 

 思いっきり馬鹿にするように叫びながら俺は手に持っていた剣をあえて天井に突き刺さる様に投げ捨ててやる。

 

「ほらほらどうしたっ!? おまけにこうやって叫んで居場所を教えてやってるのにお前ら襲い掛かってくる勇気も「黙……っ!?」「死ね……ぐっ!?」「舐めやがっ……がぁっ!?」はは、本当に弱っちいなぁおいっ!!」

 

 俺の『挑発』に乗って三人がかりで襲ってきた奴らの攻撃を寸前のところで回避し、また手のひらに隠した小刀でもって受け止めると返す刀でその首の血管を切り裂いてやる。

 

(完全に連携をとってきたらヤバかったが、『挑発』に乗る様な輩にそんな高度な真似できるわけねぇよな……これで道中で聞き出した情報が正しければ残りは二人だな……)

 

 少しずつ慣れてきた目で建物の中を軽く見回せば、実際に立っているのは俺を除いて二人だけだった。

 どちらも今の状況が信じられないのか背中合わせで震えており、もはや敵ではなさそうであった。

 

(……いや孔明君と仲達君の本に色々書いてあったっけな『策士策に溺れる』『勝ちを確信した瞬間こそ一番脆い』……確かに人質も見つかってないこの状況で安心するのは早すぎるな……)

 

 どちらにしてもあの二人は始末しておいた方がいいだろうと陰に隠れて近づいたところで、不意にその姿がぶれて見えた。

 

(これは……湖の女神様が現れたときの……っ!?)

 

 次の瞬間、目の前にあった人影が消えたかと思うと後ろから風を切る音が聞こえてきた。

 

「……悪くなかった、良い奇襲だった……ただ遅すぎだ……音より早く振り下ろさなければ当たるものも当たらない」

「がぁ……ば、馬鹿な……」

 

 だから余裕で間に合った……音よりも遅い刃など身をひねるだけで躱せる。

 むしろ振り返り様に小刀で逆に首を貫いてやれるほどで、奇襲を仕掛けてきた男もまたあっさりと倒れた。

 

「なっ!? な、な、な……何でっ!? げ、幻術にかかってたはずなのにっ!? ど、どうして今のがよけられるんだっ!?」

「……はは、あの髭やその義兄弟……それに呂布将軍の一撃を知ってる俺をこんな鈍間な攻撃で倒せると思ったのかよ?」

「はぁっ!? な、何言ってやがるっ!? な、ナニモンなんだよお前はっ!?」

 

 最後の一人は露骨に脅えた様子で腰を抜かしながら、必死に刀をこちらに突きつけながら叫ぶ。

 そいつの前で俺はわざと大きく飛びあがり、天井に刺さった剣を引き抜くと横なぎに振り払い向こうの剣を打ち割ってやった。

 

「何者でもねぇよ……ただの名も無き一般兵さ」

「あ……あぁああああ……がぁああっ!!?」

 

 抵抗する手段を失った男が這いずる様に背を向けて逃げ出すところを大股で追いかけて、その背中から心臓を一息で貫いて……それでお仕舞だった。

 外からは炎の勢いが増す音が聞こえていて、実際に入り口から外を眺めれば驚くほど赤く明るく世界が照らし出されていた。

 

「……ふぅ……ん?」

 

 軽く息を整えた俺が男から剣を引き抜こうとしたところ、懐から血にまみれた一冊の本が転がり落ちてきた。

 ボロボロでどこか見覚えのあるその本は間違いなく俺が渡した……そしてあいつがいつも肌身離さず持っていたあの本だった。

 

(これをこいつが持っているってことはつまり……ああ、そうか……やっぱり間に合わなかったのか……は、ははは……)

 

 改めて周囲を見回せば、そこにあるのは死体の山だ。

 そして外には既に滅んでいる廃城が広がる……いや廃墟だったところを曲がりなりにも利用していた組織をたった今俺が叩き潰したのだ。

 

(何もかも滅んじまった……守りたいものだけじゃなくてついには敵までも……やっぱり俺は疫病神、だったんだなぁ……)

 

 何だか物凄く疲れてしまった……正直もう立ち上がる気力もない。

 俺は建物の入り口に腰かけると、どこまでも明るく燃え上がる炎を呆然と眺め続けた。

 

(綺麗だなぁ……このまま何もかも焼き尽くしてほしいもんだ……多分どこかにあるあいつの死体ごと……そうしたら俺も一緒に……痛っ!?)

 

「な、な、な、何してんだお前はぁあああっ!? お、俺たちごと焼き尽くす気かぁあああっ!?」

「はぇっ!? そ、その声……ま、まさかっ!?」

 

 頭に痛みを感じて振り返った俺は、何度となく見てきた……焦った様子を見せながらも呆れたような目を向けてくる、何故か女物の着物を着た親友の五体満足な姿を目の当たりにした。

 

「あ、あああ……し、親友ぅうううっ!! い、生きてたの……い、痛ぇええっ!?」

「馬鹿かお前はっ!? ほら急いで雨乞いのための祭壇を組み立てろっ!! このままじゃ焼け死ぬわっ!!」

「えっ!? えぇっ!?」

 

 感動の再会ぐらいのつもりでいたのだが、向こうはそれどころではないとばかりに慌ただしく動いている。

 しかも見れば村から攫われてきたと思わしき女性陣もバタバタ駆け回っていて……時折俺にヤバい奴を見るような目を向けてくる。

 

(えっ? な、何がどうなって……と、というか俺頑張ってみんなをさらった敵を助けたはずなのに何でこんな目を向けられて……い、痛っ!?)

 

「早く動け早く早く早くぅうううっ!!」

「お、おうっ!! わ、わかったっ!! わかったから叩くなってばぁああぁああっ!!」

 

*****

 

 ザーザーと激しく雨が打ち付ける音が室内にまで響き渡っている。

 

(凄まじい雨だなぁ……うぅ、呂布将軍のところで水攻めを食らった時を思い出してしまいそうだ……あれは冷たかったなぁ……)

 

 何とか雨ごいが成功して家事を鎮火できたのは良いのだが、ここまで雨の勢いが強いと流石に歩いて帰るわけにもいかない。

 だから雨が止むまでこの盗賊の隠れ家で過ごす羽目になったのだが……離れたところからジロジロと見つめてくる女性陣の目がやっぱり痛い気がする。

 

「……はぁぁ」

「何ため息ついてんだよ?」

「うぅ……し、親友ぅ……お、俺今回頑張ったよなぁ……なのに誰もお礼の一つも言ってくれないのどうなってんだよぉぉぉ?」

「だってお前、やりすぎだよ……皆殺しだぞ皆殺し……しかも最後の一人なんていたぶる様に武器を壊して抵抗手段を奪った上で止めを刺すし……近くで見てたけどよぉ、みんな悲鳴を抑えるの大変だったんだぞ?」

「そ、そんなこと言われてもぉ……というか近くで見てたって……どういうことだ?」

 

 思わず疑問に思って尋ねるが、考えてみたら確かにこれだけの女性が残っていたのに気配を全く感じられなかったのは不思議だ。

 そんな俺の質問に友人は少しだけ黙っていたが、諦めたように説明を始めた。

 

「……あぁ、それはだな……いわゆる幻術って奴だ……お前が倒した奴も姿を隠す変な技を使ってたろ?」

「あ、ああ……あれがそうなのかぁ……へぇ……いつの間にそんな技覚えてたんだお前?」

「いやだからお前がくれたあの本に書いてあったんだよ……あれは張角殿が仙人様から譲り受けたっていう本だからな」

「えっ!? そ、そうだったのかっ!?」

 

 初めて知った事実に驚愕しつつ、慌てて血まみれになっていたその本を回収する。

 しかしもはや血液のせいで頁と頁がくっついている上に、中の文字も滲んでいてとても読める代物ではなくなっていた。

 

「あぁぁぁ……お、俺も幻術覚えたかったのにぃぃぃ……も、もっと早く読んでおけばよかったぁぁぁ……」

「だからあの時言ったのによぉ……まあでも俺もう覚えてるから、どうしてもっていうなら後で教えてやるよ……」

「うぅぅぅ……あ、ありがとう親友……し、しかしその幻術でお前らはずっと隠れてたってわけか? てかそんな便利な技を使えるならそもそも誘拐されるなよお前……」

「仕方ないだろ、あいつら他の村でも人を攫ってやがったんだからさ……そりゃあ俺一人なら幾らでも逃げれたけど、そうしたら攫われた人達を誰も守れないだろ……」

 

 当たり前のように言う友人だが、俺としては自分の身を第一に考えてほしかった。

 だからついつい言い返してしまう。

 

「お、お前がそこまでする必要は……そ、それにその本を奪われてたら世話ないだろぉっ!!」

「あれを奪われたのは誤算だったよ……というかまさか野盗崩れに文字を詠める奴がいるとは思わなかったしな……けどあいつは表面的なところしか理解できなくて俺の術を見抜いたり破ったりできなかったから助かったよ」

「だ、だからそんな危険な橋を渡ってまであの女性陣を守る必要があったのかよ?」

「いやいや普通に放ってはおけないだろ……大体お前だってたった一人でこんな危険な真似をしてまで助けに来ただろ? お互い様だよ」

「ち、違うってのっ!! 俺はお前を……お前が……お前まで俺のせいで失ったらと思ったら……いてもたってもいられなかっただけだ……」

 

 自分で言ってて思い知らされる……俺は本当にどうしようもないガキなのだと。

 

(はぁ……俺は自分のことしか考えてなかったなぁ……こいつは周りを見て人のことを考えてるのに……)

 

 あれだけ村が荒らされていて攫われた女性が多くいるとわかっていたにも関わらず、俺はこいつを助けることしか頭になかった。

 自分にとって大切な……たった一人の親友を失うことだけを恐れて暴れまわっていただけだった。

 

「……ふふ、そうかそうか……俺のためにここまで頑張ってくれたのか……それはお礼を言わないとな……ありがとうよ親友、お陰で助かったよ……」

「……いやお前なら自力で何とかしただろ……実際にみんなで隠れていられたんだし、俺みたいな奴が居なくても……むしろいない方が……」

 

 考えてみれば俺が余計なことをしたせいで、あと一歩で皆して炎に巻かれて死んでしまうところだった。

 それこそこいつの助けがなければ……そう思えばやっぱり俺はただ迷惑をかけただけのような気がしてくる。

 

「そんなことないっての……全く、いつものすぐ元気になるお前はどこ行った?」

「だってなぁ……俺のせいでさ……俺に関わる奴はみんな不幸になってる気がしてさ……今回だって一歩間違えたら……痛っ!?」

「だから気にすんなっての……実際には俺達の側に犠牲者は零……もっと言えば俺とお前が頑張ったから女性陣が恥辱を受けることもなく済んだわけだし、万々歳じゃないか?」

「だ、だから痛いから殴るなよぉ……昔っからお前力強いんだからさぁ……」

 

 そういう俺の言葉に親友は、何故か寂しそうな……それでいてどこか嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「はは……やっぱりお前気づいてないんだなぁ……」

「あん? 何がだよ?」

「……もうとっくにお前の方が力強くなってるってこと……それに身長もさ」

 

 親友に手を引かれるまま立ち上がってみれば、前は見上げていたはずの顔が下の方にあるではないか。

 

「ほ、本当だ……いやでもついこの前までは……な、なんでだ?」

「……まあ別にいいじゃないかそんなことは……あははは」

「……あっ!? そうかお前幻術使えるから……ず、ずっとごまかしてやがったんだなぁああっ!?」

「ははは、何のことかさっぱりわかりませんなぁ~」

「お、お前ぇええっ!! ず、ずるいぞぉっ!!」

「あ……っ!?」

 

 笑い飛ばそうとする親友の手を引いてやると、何故かその身体はあっさりとこちらに引き寄せられた。

 普通に抵抗されると思ったのだが、向こうの顔的にもわざとというわけではなさそうだ。

 

「えっ? えぇっ?」

「……うん、本当に力強くなったなぁお前……もう敵わないや……昔は俺が守ってやらないとすぐ泣きべそかいてたのになぁ……いつの間にかこんな逞しくなって……」

「い、いや……そ、そりゃあ俺はいつでも戦場に出てるし……お、お前だってあんな風に隠居してないで外で活躍してれば……」

「無理だよ、もちろんお前の言う通り現役で活動してればもう少しはマシになっただろうけど……ううん、違うな……やっぱり俺はもうこれが限界なんだよ……もっと言えば本当は最初に義勇軍に参加した時点でさ、いっぱいいっぱいだったよ……」

「えっ!? そ、そんなことはないだろっ!?」

 

 俺の言葉に親友はまたしてもはかなげに微笑みながら首を横に振るばかりだった。

 

「本当だよ……ぶっちゃけあの時も滅茶苦茶怖かった……戦場なんか出たくもなかった……だけどお前に置いて行かれると思ったら……何よりお前が俺の知らないところで命を落とすかもって思ったらいてもたってもいられなくて……はは、でもそれが限界だったよ……」

「そ、そんなこと……それならそうと言ってくれれば……」

「……何度か遠回しに言ったんだけどなぁ……俺が何回、お前に私塾に残るよう言ったことか……いや最初の黄巾党の時点で行くなって叫んだつもりだったんだけど聞こえてなかったのかなぁ?」

「あぅっ!? そ、それはその……あ、あははははっ!! そ、それよりさぁ、いい加減着替えてもいいんじゃないかそれっ!?」

 

 数時間ぶりに親友がいつもの呆れた眼差しを向けてきて、俺は妙に嬉しくも申し訳ない気持になり話をそらそうとした。

 

「あぁ……まあそうだよなぁ……俺にはあんま似合ってないし、確かにさっさと着替えた方がいいよな……」

「い、いや別に似合ってないってことはないけど……お前俺と違って顔立ちとか整ってるしさ……それでわざと女装して、女性陣に混ざって攫われるようにしたんだろ?」

「……まあそういうところだ……けど似合ってるとはよく言ったもんだなぁ、おっぱい大好き男がよぉ?」

「うぅ……ま、まだ女神様のことを言って……あっ!?」

 

 そこでふと思い出す……先ほど倒した敵が使った幻術が女神様の時の光景に非常に似通っていたことに。

 そしてもう一つ、あの時女神様が浮かべていた微笑みはかつて俺が幼い頃に見た……またつい先ほど目の前にいる親友が浮かべていた笑みにとても良く似ていたことにだ。

 果たしてそう意識してみると、親友は髪型などの差異はあれど女神様にそっくりな気さえしてくる。

 

「どうしたぁ? また女神様の胸にケチつける気かぁ? いい加減にしないと罰当たるぞお前?」

「い、いや多分バチならもう当たった……じ、じゃなくてっ!! な、なあ親友……あのさ、一つ聞くけどさ……お、お前ひょっとしてその……お、女だったりしないか?」

「……おいおい急に何を言い出すんだお前は?」

「ま、真面目に聞いてるんだよっ!? あの女神様といい、それに昔の……嫌なことばっかりで封印しちまった記憶の中にも朧気に……な、なあ……そうなんだろ?」

「…………」

 

 俺の言葉に親友は再び無言になると、今度は空を仰いだ。

 お陰で俺にはこいつがどんな顔をしているかは見えなくなったが、その状態のまま親友はゆっくりと問いかけてきた。

 

「……もし、そうだと言ったら……お前どうするんだ?」

「…………」

 

 今度は俺が黙る番だった。

 親友を真似て空を見上げると、一面に広がる天体が目に飛び込んでくる。

 

(……ああ、そうだ……かすかにだけど思い出した……幼い頃、暗い夜が怖くて泣いていた俺を……外に連れ出して夜空に輝く星を見せながら泣き止むまで説明してくれた人がいたなぁ……幼心にもすごく大切な人に思えて、俺はその人を泣かさないために……その人が泣いていたら涙を止めてあげれるような立派な人間になりたかったんだ……)

 

 それが親友かどうかははっきりしないけれど……いやきっとそうに違いない。

 だってあの時と同じで、隣でこいつが微笑むところを見ているとそれだけで安心して……なのに妙に胸がドキドキするのだから。

 

「……どう、なんだよ?」

「もし……いやお前が女だっていうなら俺は……傍に居たい……ずっと近くて……一番近いところでこうやって一緒に夜空を眺めたりできる関係でいたいよ……それこそ、結婚してもいいって思うぐらいに親しい仲で居続けたいよ……」

「……そうか」

 

 俺の返事を聞いて親友は小さく漏らしたかと思うと、軽くため息をつくようにして今度は顔を俯かせた。

 

「……親友?」

「……ぷっ!! はははははっ!! たく、冗談のつもりが変な空気になっちまったじゃねぇかっ!!」

「えっ!? えぇええっ!?」

「俺は正真正銘男だってぇの……何なら見るか裸?」

 

 しかし急に親友は耐えきれないとばかりに大声で笑いだしたかと思うと、チラリと服の内側を捲って見せた。

 果たしてそこには確かに男にしかない膨らみが付いているように見えて、俺は衝撃の余り固まってしまう。

 

「な、な……なななななぁぁぁああっ!?」

「くくくっ……やっぱりお前はどうしようもなく困った奴だなぁ……男の俺に告白してどうすんだか……そんなに女の肌が恋しいんなら普通に嫁さん捜せっての……俺もいい加減、縁談話受けようと思ってるしさ……まあそうやってお互い結婚して家庭を持っても今まで通り仲良くしていくつもりだから安心しろよ?」

「お、おおぅ……そ、そうか……は、ははは……はぁぁぁ……」

 

 何だか自分がとんでもない道化のような気がして、俺は一気に力が抜けてしまう。

 そうして地面に崩れ落ちそうになっている俺の肩を数回たたくと、親友はこちらに背を向けて女性陣の方へと戻っていくのだった。

 

「じゃあ俺はあの人たちに今後の予定を伝えてくるから……お前はそのまま雨が止むのそこで観察しとけよぉ~」

「うぅぅ……わ、わかったよぉ…………はぁぁぁぁ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……全くあいつは……」

「……本当に良いんですか、あんなこと言って?」

「おや、村長さんのところの娘さん? 一体あんなことってなんだい?」

「決まってるでしょう……聞こえてましたけど、あんな幻術?とやらを使ってまで嘘ついていいんですか? あなたが本当は女性なのは診察の際に教えてもらいましたし、それにあの人のこと……」

「はい、そこまで……余計なこと言わなくていいから……」

「いやでも……」

「……はぁぁ……いいかいお嬢さん、俺もう三十になるんだぞ? それにずっと男の振りしてたからこの通り色気もないし、こんな良いところのない年増女の相手させられねぇっての……あいつには幸せになってほしいから、もっと良い女と一緒になってほしいんだよ……それこそ今回の大暴れを見ていた君たちの中にも見惚れてる子がいたぐらいだし、あいつ本当に立派な男になったから……きっと俺なんか比べものにならないぐらい良い相手を見つけるよ」

「で、でも……」

「いいのいいの……あいつが幸せなら俺は……あたしはそれを見ているだけで充分幸せなんだか「親友ぅううううっ!!」おっ!? どうした雨止んだかぁっ!?」

 

 何やら女性陣の一人と話していた親友の下へ駆け寄ると、俺はヤケクソとばかりに大声で叫ぶ。

 

「色々考えたっ!! だけどやっぱり駄目だっ!! お前の傍に居たいっ!! だから滅茶苦茶だけどいうぞっ!! 男とか女とかどうでもいいから一番傍に居させてくれっ!! それが結婚っていう形じゃなくてもいいからっ!! 女相手でもお前の一番を奪われたくないんだよっ!! 頼むから、いつもみたいにこんな俺の我儘も受け入れてくれぇええっ!!」

「な……な、ななな……何、お前何を……何を言って……っ!!?」

 

 我ながらとんでもないことを口にしている自覚はあった。

 だから正直、いつものように親友から呆れた目で睨みつけられるとばかり思っていた。

 ……だけどあいつは、顔を真っ赤に染めて困惑した様子で首を横に振りながら……だけど喜びを隠し切れないとばかりに頬を緩めているではないか。

 

 そして親友の後ろでは先ほどまで話していた女性が……いや他の女性陣も揃って今すぐ力いっぱい抱きしめろとばかりの仕草をしている。

 だから俺はもう一度親友の……世界で一番大切な相手の手を引き寄せて思いっきり抱きしめるのだった。

 

「……駄目か、親友?」

「ば、馬鹿……ず、ずるいんだよこんなやり方……もう力で敵わないこと知ってるくせにさ……そ、それに本気でそういうつもりなら……その、まず呼び方を変えろよ……」

「は、ははは……呼び方を変えたらいいのか……そ、そんなことでいいのならお安い御用だよ……相棒っ!!」

「そ、そうじゃねぇよっ!! わざとやってんのかこの……馬鹿ぁああっ!!」

 

 

 

 

 

様々な困難の果てに一番大切な物を手に入れた主人公。

果たして彼らはこの後でどのような人生を送ることになるのか。

次回最終話『いずれ死神と呼ばれることになる男』お楽しみに。




主人公ステータス

統率:65(+5)=70
武力:90(+1)[+10]=101
知力:48(+2)[+20]=70
内政;48(+2)[+20]=70
外交:45(+5)=50
魅力:32(+18)=50
特技:歩兵/騎兵/酒豪/拷問/挑発/治安/訓練/遁走/水軍/舌弁/混乱/虚報/眼力/不屈/商才/[軍師]/[仁政]/攻城/遊軍/+繁殖

友人ステータス

統率:55(+0)=55
武力:30(+0)=30
知力:75(+10)=85
内政:65(+0)=65
外交:65(+0)=65
魅力:80(+0)[+10]=90
特技:耕作/商才/虚報/偵察/天文/歩兵/医術/妖術/舌弁/人望/名士/鍛冶/+[愛嬌]/+繁殖
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