三国志外伝『死神と呼ばれることになる名も無き一般兵のお話』 作:車馬超
「うぅぅ……何故だぁ……どうして黄巾党は負けてしまったんだぁぁ……」
「まあ反乱の真っただ中で教祖の張角が病死したんだからどうしようもないだろ……」
洛陽という大都市の場外に張られたテントの中で嘆く俺を友人が呆れたような目で見つめてくる。
「くそぉ、せっかく下働きとして扱き使われた上に戦場でも敵に追い回されながらも頑張ってたのに……最悪だ……」
「たく、たまたま義勇軍で活躍してた俺が見つけて保護しなかったらマジで殺されてたぞお前……少しは感謝しろよ?」
「へいへい、本当にありがたい限りですよ……優秀で優しい親友がいて俺は幸せ者ですよぉだ……」
ついついそんな言い方をしてしまうが、冗談抜きに命の恩人である友人には頭が上がらない。
残党狩りから逃げていた俺を、いつの間にか手柄を立てて部隊長になっていたこいつが上手いこと戦場ではぐれた自分の部下だと言い張って仲間に引き入れてくれたのだから。
「まあわかってんならいいけどよぉ……それでこれからどうするんだ?」
「どうするって言われてもなぁ……できればこのままお前と一緒に勝ち組の漢軍にでも所属したいところだけど……」
「……いや俺はこの義勇軍を率いている玄徳様と行動を共にする気なんだが……今はまだ無名だけれどすごく見所のあるお方だからきっと将来は大物になると思うんだよ」
「はぁ? マジで言ってんのかぁ?」
友人の言葉に思わずテントから顔を出し、周辺にいる義勇兵の顔ぶりを眺めなおしてしまう。
誰もかれも田舎村に引きこもっていた俺達と同じような……或いは戦場で酷使したせいかそれ以上にボロボロの格好であり、乞食軍といった方がよさそうな見た目である。
(……こんな乞食部隊の親玉が偉くなれるわけねぇだろうが……全くこいつは何考えてんだか?)
友人の所属する義勇軍はかなりの手柄を立てたという噂は聞こえてくるが、こんな乞食部隊にできる活躍などたかが知れている。
恐らくはどんなに手柄を認められたとしても、良いところ片田舎の警察署長とその部下辺りで終わるのがせいぜいだろう。
せっかく成り上りたい一心で戦場へと飛び出した身としては、そんな程度の地位で満足するわけにはいかない。
「……なあ友人、もしだけどよ……この義勇兵の総大将が解散しようって言いだしたらどうする気なんだ?」
「うぅん、まあ状況次第ではそうなる可能性もあるか……実際にこうして褒美の沙汰を待ってるのにずっと後回しにされてるのを見るに皆を養えないような立場に落ち着くかもしれないしなぁ……まあその時は戦場でめちゃくちゃ優秀だった上に偏見もなく俺たち義勇兵に接してくれた孟徳様のところへ顔を出してみようかなぁ?」
「孟徳……ってあの曹の旗を掲げた奴らのとこかよっ!?」
「おお、お前も知ってるのか? そうそう、あの方とは同じ戦場であったことがあるけど物凄く有能で玄徳様に負けず劣らず将来有望そうだったからなぁ……」
そう言って感心したように友人は頷いているが、俺は内心震え上がっていた。
(そ、曹軍ってあれだろっ!? 黄巾党の食糧庫を自分の仲間ごと焼き払ったって黄巾党内でめちゃくちゃ噂になってた奴っ!! そんな苛烈で冷酷で残虐な奴のところ言ったら命がいくつあっても足りねぇよっ!!)
しょせん噂話だから真実かどうかはわからないが火の無いところに煙は立たぬというし、孟徳という人物がヤバいということだけはわかる。
そんな奴を優秀だとのたまいその下で働きたいなどという友人……どうやら人を見る目はないらしい。
「……は、ははは……そ、そうか孟徳様のところかぁ……で、でももしそこもダメだったら……?」
「あぁ……確かに孟徳様は一応正規の官軍だから俺みたいな奴は門前払い食らう可能性もなくはないよなぁ……でもそれなら野盗みたいな連中すら率いていた器の大きそうな江東の虎こと文台様のところかなぁ?」
「江東……ってど田舎じゃねぇかっ!?」
「まあ確かに中原からは離れているけど、あの方たちの立ち振る舞いを見ていたら多分俺たちが想像するよりはずっと繁栄してると思うぞ? 何より文台様を始めとしてご子息の伯符様とその義兄弟である公瑾様と見所のある人が多いし、あれなら仮に黄巾党みたいに総大将が倒れても完全に潰れたりせずに立ち直りそうだし……」
友人は色々と理由を口にしているが、俺にはどう考えても中央から外れているところの輩が偉くなれるイメージが湧かなかった。
(どうせ田舎者だし、山賊や河賊に毛が生えたような行為しかできない輩の集まりだろ……冗談じゃないっ!!)
俺としてはやはり中華大陸全土を支配する漢軍……或いはせめてその三分の一ぐらいの領土を支配できるようなお方の下で働いて偉くなりたいのだ。
「はぁぁ……お前さぁ、どうせなら官軍を率いている何進大将軍様の下で働こうとかそういう夢は見ないのか?」
「はは、例の話か? そりゃあまあ確かにあのお方の地位は高いし、末席とはいえその護衛兵になれば大出世といえるだろうけどあの悪名高い十常時と睨み合ってるこの状況じゃ……」
「あん? 例の話ってなんだ?」
「ありゃ? 知ってて言ったんじゃないのか? いや実は何進様って妹が帝に嫁いだからこそ大将軍をしているが昔は田舎で肉屋をやっていたらしくて、それでたまたま俺が助けた民間人の中に幼いころの何進様達のお世話をした人がいてさ、そのお礼として個人的に勧誘されてるんだよ」
「ま、マジかぁっ!?」
驚く俺に友人は大したことがないとばかりに手を振るばかりだ。
しかし俺にしてみれば、予想外のところから蜘蛛の糸を垂らされたような心境だった。
(こ、これは間違いないっ!! 今度こそこれが成り上がるための第一歩だっ!!)
「あはは、本当だよ……ほらこの割符が証拠だ……その気になったらこれを持ってその人のところに行けばいつでも紹介してくれるって話……っておいっ!? 何してんだっ!!?」
「わ、悪い親友っ!! だけど俺は決めたんだっ!! 今度こそ時代の覇者となる何進大将軍のお傍に使えて成り上がってやるってさっ!! ほら代わりに行き倒れた黄巾党の偉そうな奴が持ってた薄汚い本やるからっ!! 交換ってことでっ!! じゃあなっ!!」
友人から割符を奪うと代わりにその辺で拾った本を無理やり押し付けるようにして交換という体を作ると、俺はそのまま勢いよくテントを飛び出していくのだった。
「だ、だから待てってのぉおおっ!! 何進様じゃ十常時に陰謀で勝てるわけねぇ……って大声で叫ぶわけにもいかねぇし……あぁ……行っちまったぁ……あのバカがぁ……はぁぁ……しかしこの本は……『済民要術』ってま、まさか……っ!?」
「うぉおおいっ!! 親友ぅううううっ!! 俺はこれ持ってどこの誰に会いに行けばいいんだぁああっ!?」
「だ、だからそんなことも知らないで駆け出していくな……って、てかお前そんなことよりこの本ちゃんと読んだのかっ!?」
「んあ? いや俺お前みたいに頭よくないからそもそも読み書き自体できねぇってのっ!! まあどうせ本なんか読んだって役に立つ特技が身につくわけもないからなっ!! んな無駄なことに時間を割いてられっかっ!!」
「あ、ああ……そうか、それじゃあ仕方ないか……けどお前……お前さぁぁ……はぁぁ……」
新たなる夢を抱いて宮中へと赴いた主人公。
果たして彼の前にはどんな素敵な未来が待ち受けるのか?
次回『守れなかったよ……さようなら何進様』お楽しみに。
主人公ステータス
統率:1(+2)=3
武力:5(+5)=10
知力:3(+3)=6
内政;5(-1)=4
外交:2(-1)=1
魅力:1(+1)=2
特技:なし
友人ステータス
統率:20(+10)=30
武力:20(+10)=30
知力:40(+5)[+10]=55
内政:30(+5)=35
外交:20(+10)=30
魅力:50(+5)=55
特技:耕作/商才/虚報/偵察/天文/+歩兵/+[医術&妖術]