三国志外伝『死神と呼ばれることになる名も無き一般兵のお話』 作:車馬超
「……ふぅん、陶謙殿は病死するもその後を玄徳様がねぇ……あの方なら偏見なく人を見抜く目があるから今のあいつならきっと……って思った傍からなんか見えてきたなぁ?」
「し、親友ぅ……はぁはぁ……か、匿ってくれぇぇ……」
「おお、また久しぶりにボロボロになってまぁ……いや相変わらずの生存力と言ってやるべきか……ほら茶でも飲んで落ち着け……」
何とか親友のいる私塾まで逃げてきた俺は差し出された茶を一気に飲み干した。
「ゴクゴク……ぷはぁっ!! い、生き返るぅううっ!!」
「やれやれ……それで、どうしてここに戻ってきたんだ?」
「い、いやだって髭に追われてたから……くそっ!! マジでイかれてやがるあの玄徳の耳長野郎っ!!」
「あん? 玄徳殿ぉ……いやお前、孟徳殿と言い間違えてないか?」
「間違えてねぇよっ!! いや孟徳の野郎も頭おかしかったけどさっ!! 元董軍の俺もドン引きの大虐殺だったよっ!!」
友人に言われて鬼のような勢いで攻め寄せてきた曹軍を思い出してしまう。
「ああ、まあ実の父親を殺されたっていうし……弔いの意味もあったのかもなぁ……」
「いやいやいやっ!! 絶対あれ素だってっ!! 黄巾党の食糧庫を仲間ごと火にかけるような奴だぞっ!! お前は評価してたけどやっぱり滅茶苦茶危険人物だってばぁっ!!」
「うぅん、まあ俺も彼が陳宮殿と起こしたっていう呂伯奢事件と合わせて聞いてドン引きしたけど……でも孟徳殿が収める領土は平和で物凄く発展してるって聞くしなぁ……」
「確かに軍隊も凄まじい強さだったけどよぉっ!! いったい何度蹴散らされたことかっ!! ああもう、いっそのこと玄徳の野郎と相打ちになってくれりゃぁよかったのにいきなり引き返すんだもんなぁっ!!」
「お前の元上司だった呂布将軍が留守を狙って曹軍の本拠地に攻め込んだって聞くし、流石に引き返すしかなかったんだろ……だけどなんだってそんなにあの玄徳様を…そっちの方が気になるんだが?」
元々の上司だったからか、友人は玄徳の野郎に思い入れでもあるのか俺の様子を見て困惑したように首をかしげるばかりだ。
「何でもクソもあるかよっ!! 同じ城に入ってよぉっ!! お前に色々聞いてたからこれも何かの縁だと思って挨拶でもしようと会いに行ったら、一目見た途端に『近づくなぁああっ!!』って叫ばれて……訳が分からんから理由を聞こうとしたら髭の野郎をけしかけてまで追い払いやがったんだぞっ!!」
「はぁっ? んな馬鹿な……人徳を旨としていて、天下にあまねく賢人を偏見なく見定める眼力の持ち主である玄徳殿がそんな真似するとは……お前何かしたんじゃないのか?」
「何もしてねぇってっ!! マジで初対面でいきなりだよっ!! 『俺の生存本能が告げてんだよっ!!』だとか『一緒に居たら俺たちまで引きずり込まれるっ!!』だとか散々喚き散らしてさぁっ!! 挙句の果てにそれ聞いた義兄弟っぽい二人も『この手の兄者の感は絶対に外れないから』とか頷いて襲い掛かってきやがったし……ああもぅ、マジで死ぬかと思ったわっ!!」
どっちもヤバい腕前だったが、特に髭の奴は前に俺の尊敬する華雄将軍を一刀のもとに叩き切ってる奴だ。
あの頃よりは強くなっている自負があるが、だからと言って俺なんかが敵う相手ではない……よくぞまあ死なずに済んだものだ。
(たまたまあの二人を上回る呂布将軍の動きを間近で見ていたからギリギリで致命傷だけは躱せたけど……本当に何なんだよあいつらはぁああっ!!)
「うぅん……何というか……いや何も言えないなこれ……流石にお前、可哀そうだな……」
「本当だよ……まあその時は陶謙殿が生きてたから仲間同士で争ってる場合じゃないって一喝してくれたんだけど……人望のある玄徳がそんな態度だから他の奴らも余所余所しくなって居心地も最悪だったよ」
「……でそんな状態で先日ついに陶謙殿が病死して玄徳殿が後を引き継いだと……最悪じゃん」
「そんな言葉で言い表せねぇレベルでヤバかったよっ!! 馬を分捕って逃げ出すのが一日……いや数刻でも遅れてたら死んでたわっ!!」
今思い出しても恐ろしい限りだ……後ろから別の馬に跨った髭が武器をぶん回しながら追いかけてくる姿は振り切った後も夢に出てきたほどだ。
(あの髭が乗ってる馬がもしも名馬だったら……それこそ呂布将軍が乗ってた真っ赤な奴だったら間違いなく追いつかれて殺されてただろうなぁ……うぅ、恐ろしや恐ろしやっ!!)
「ははは、もう災難というしかないなそれは……んで必死に俺んとこまで逃げてきたわけだな?」
「あ、ああ……申し訳ないとは思ったけどここ以外に逃げ込める場所なかったんだよぉ……」
一応髭にも勝てるであろう元上司の呂布将軍のところに向かおうかとも思ったのだが、もう一人の危険人物である孟徳と大乱戦している最中に突っ込む勇気はなかったのだ。
「やれやれ……でもまあ流石に玄徳殿も今は引き継いだばかりの領土を維持するので精一杯だろうからここまで来ないと思うからな、特に気にしないでゆっくりしていけ」
「あ、ありがとうよ友よぉ……と、ところで何か閑散としてるけど塾生とかお客はどうしたんだ?」
「いや今日はちょっと考えたいことがあって休みにしたんだよ……まあお前のお気に入りだった孔明殿と仲達殿はもう学ぶことはないって言って羽ばたいていったけど……ただ追い出すような形になったお前のこと気にかけてたみたいで、戻ってきたら渡してほしいってこれを書き残していったよ……」
「べ、別に気に入ってたわけじゃ……こ、これはっ!?」
友人が差し出してきた二冊の本の内容を軽く確認すると、それぞれ知略と内政について事細かく解説されているではないか。
それもちょうど俺の頭の程度に合わせるような形で、とても分かりやすく記されている。
(うぐぐ……あ、ありがたいことはありがたいんだが……なんか俺、あの二人から出来の悪い末っ子……もとい年下の弟弟子ぐらいに思われてないか?)
これではもし次にどこぞで顔を合わせた際に、どう反応すればいいか分かったものではない。
尤も知力畑のあの子らと肉体労働しかできない俺がそうそう鉢合わせる場面はないだろうし気にしすぎかもしれない。
「せっかくの機会だし、また少しここで勉強していけよ……尤も俺は用事があるからあまり構ってやれないかもしれないが……」
「お、おう……あっ!? い、いやその用事とやらが俺でも手伝える内容なら行ってくれよっ!! 面倒かけっぱなしだし少しは役に立ちたいんだからさっ!!」
「いや、気持ちはありがたいが俺の頼まれた仕事だし一人で十分できるから……」
「そ、そんなこと言うなってっ!! 俺にも少しは恩返しさせてくれよっ!! それこそこの辺に散らばってる資料を片付けるぐらいなら俺にも……ん?」
「お、おいっ!! 勝手に触るなっ!!」
友人の私室の床にバラまかれていた書類を整理してやろうと手に取ったが、そこに書かれていた内容に少し首をかしげてしまう。
しかし詳しく確認する前に、慌てた様子の友人に取り上げられてしまった。
「……なあ、今のって縁談話か?」
「あぁ……くそ、だから勝手に触るなって言ったのに……そうだよ、もう俺も良い歳だからってあちこちの娘のいる親からこの手の話がひっきりなしに届いてな……返事を考えるのも一苦労だし、厄介なもんだよ」
「……そうか、考えてみたらお前も来年で二十は「言うなっ!!」お、おう……」
「ああもう……そうだ、ほらこれ……」
「えっ?」
軽く頭を掻きむしったかと思うと友人は幾つもの書類に埋もれていた一つを取り出し、俺に差し出してきた。
受け取って内容を確認すると、それは近くにある湖の調査依頼書のようであった。
「手伝ってくれんだろ? 縁談話は俺がやらんと不味いけど、これならお前でもできそうだし……余計な真似しないうちにさっさと行ってこい」
「えっ!? い、いやまあやれっていうならやるけど……な、何をどうすれば……う、うわっ!!」
「いいから行ってこいっ!! これ以上散らかされたらたまらんっ!!」
「そ、そんな別に俺は……わわっ!? そ、そんな力強く押すなよぉおおおっ!! 丸一日徹夜で走りづめだったんだからせめてひと眠りぐらい……い、いや服だけでも着替えさせ……あぁっ!?」
ようやく休める場所までたどり着いたと思ったのに、結局俺はお茶を一杯飲んだだけで追い出されてしまうのだった。
「……はぁぁ……全くあいつは勝手に人の私事を…………けど結婚、かぁ……あいつが落ち着くまではって思ってたけどあの調子じゃあなぁ…………どうしたもんかなぁ?」
「はぁぁ……全くあいつ追い出すこたぁねぇだろうに……けど結婚ねぇ、あいつが…………俺には全く縁がなさそうだし羨ましい限りだけど、それであいつが幸せになれるなら応援すべきだよなぁ…………だけどそうしたら流石に今までみたいに迷惑かけるわけには……寂しくなるなぁ……」
女神が宿ると噂される湖へと足を運んだ主人公。
不注意から物を堕としてしまった彼の身に何が起こるのか?
次回『真っ平』お楽しみに。
主人公ステータス
統率:37(-2)=35
武力:59(+11)=70
知力:33(+0)[+20]=53
内政;43(+0)[+20]=63
外交:35(+0)=35
魅力:7(-5)=2
特技:歩兵/騎兵/酒豪/拷問/挑発/治安/訓練/遁走/水軍/舌弁/混乱/虚報/眼力/不屈/商才/+[軍師]/+[仁政]
友人ステータス
統率:50(+0)=50
武力:30(+0)=30
知力:69(+3)[+10]=82
内政:58(+3)=61
外交:55(+5)=60
魅力:75(+5)=80
特技:耕作/商才/虚報/偵察/天文/歩兵/[医術&妖術]/舌弁/人望/名士/+鍛冶