【未完】機動戦士ガンダム:新秩序の終焉   作:うねる蛇

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〜前回のあらすじ〜

ヘンケン「俺と面談したい方って誰だ?」
カルダシェフ「それは僕だ」
ヘンケン「!?!?!?」

ヴァシレフスキー「カルダシェフ、どうだった?未来人の話は」
カルダシェフ「爆弾みてえな情報が多すぎる、とりまスターリン主義者達を監視しといて」
ヴァシレフスキー「了解した」

ショスタコーヴィチ「ゲホッゲホッ」
看守「今日を持ってこのグラーグから釈放ですよ〜」
トゥハチェフスキー「迎えにきたぞ、友よ」

赤軍「ジオンなどの未来人対策の防衛計画を策定するぞ〜」
コーネフ「…だ、そうです、同志フルシチョフ」
フルシチョフ「なるほど、じゃあ俺たちスターリン主義者もそろそろ動くか」

セルゲイ・スミルノフ「私はなんと哀れなんだ…自分ぐらいしか生き残れなかった…」
アンドレイ・スミルノフ「そんなことないよ!!!」

反共レジスタンス「有名な人物が仲間に入ってくれるってよ!やったぜ。」

ソ連改革派「俺たちもそろそろ動くぞ」

フルシチョフ「俺たちの仲間になれ!」
スースロフ「…ok」

〜前回のあらすじ終わり〜

今回は日本とジオンがメインのお話です!
よければ高評価・感想・お気に入り登録お願いします…!


第7話 極東と極星

大日本帝国 本土 小笠原ロケット打上所

 

「月まで飛ぶロケットを作りたかった。」

 

ロケットの標本が並ぶ展示室で、両頬に縫合痕のある男が三輪丞の取材に答えていた。

 

「月の裏側を見てみたかった。三田光一の予言が本物か、確かめてみたかった。今から、三十年くらい前だっただろうか、そう思うようになったのは。」

「ほうほう」

「だが、ドイツに先を越されてしまった。あの時は実に悔しかった。だが直ぐに、俺はその先を見てみたくなった。」

男は一呼吸置いた。

 

「火星だ。」

「なるほど。そうして開発されたのが、夏日一五号という訳ですか?」

「ああ。俺は10年の歳月をかけてこの機体を作り上げた。」

男は展示された夏日一五号の模型を見つめながら話を続けた。

 

「常に新たな技術を取り入れ、困難に立ち向かい、開発を続けた。だがついに、それも叶う事は無かった。今度はアメリカに先を越されたんだ。」

男はショーケースの硝子に額を預け、顔と硝子を曇らせた。

 

「それは…」

丞は何か言おうとしたが、男が遮った。

 

「それでも諦めることは無かった。だが帝国は、夏日一五号の開発を打ち切りにした。」

「心中お察しします、野上大佐。」

 

丞は男の言葉に対して、尊敬の口調で返した。

 

野上靖大佐。

帝国海軍のロケット技術者で、月面着陸に成功した宇宙飛行士でもあり、共栄圏内の宇宙進出推進派の幹部でもある。

普段は穏やかだが使命感が強く、熱が入ると誰も止められないそうだ。

情報を聞き出したいなら、今はこちらから探るより下手に出た方が良い。

 

「もはや、あの日の夢は叶わないと思った。この夏日でさえ、俺の絵空事に思えてきた。」

「そのようなことはござい…」

「だが、その途端にこれだ!」

 

野上は顔を上げ、ショーケースを平手で叩き付けた。

 

「わっ」

 

その音に丞は驚き、手帳を床に落としてしまった。

 

「俺が静かの海に刺した旗は消えていた。」

丞が手帳を拾ってる間にも、野上は話すのを止めなかった。

「だがそれはどうでも良い。夏日が、再び日の目を見れるのだ。」

 

それを聞いた途端、丞の動きが止まった。

 

「夏日を打ち上げるのですか?」

「船団のことを調べるなら、これ以上ない有効な手だ。」

「議会に…」

「議会には事後承認して頂くし、軍令部には申請している。最も、それが通らずとも俺一人で行くつもりだ。」

「それって、無茶…」

「俺は死なない!必ず生きて帰るさ。」

 

丞は口を噤んだ。

話をしようとすれば直ぐに遮られる。

事前情報にあった『穏やかな』の面影はすっかり無くなり、今の野上大佐は自分の夢を追う必死さだけが前面に出ていた。

丞はどうしたものか、と内心悩んでいた。

その時、外から琴の音が聞こえてきた。

 

「この音は…」

「妻の八重だ。」

 

野上は入り口の方を向いた。

 

「あれは、昔から琴が好きでな。夜になると、いつも引いているんだ。」

 

丞は目を疑った。

先程まで周りが見えてなかった野上大佐が、今では静かに琴の音に聴き入っている。

こんなことがあるんだな、と内心思った。

 

「あの琴の音に、思い入れがあるのですね。」

「昔からずっと聴いていたものだ。出征前にも、家族になってからも、月に行く前にもな…」

「家族…ですか?」

 

丞は首を傾げた。

 

「それに、愛する人が、弾いてくれたものだ。無下にはできまい。」

「愛…?」

「そうだ。」

「愛…とは…えぇと…」

 

丞は戸惑って、言葉を返せなかった。

 

「これも、あとどれくらい聴けるか…」

 

しどろもどろする丞には目もくれず野上は夢中で聴き入っていた。

 


 

取材が終わり、丞は帰りの船で内容をまとめていた。

「海軍士官の独断によるロケットの打ち上げ。これは明日のトップニュースになるぞ!タイトルは…」

 

丞は海を眺めて数秒悩んだ。

そして、直ぐに答えを出した。

「『ある海軍士官、三十年の宇宙への夢』よし、これで行こう!」

 

丞は満足気だった。自分の取材が実を結んだことが単純に嬉しいんだ。

でも一つだけ引っかかる。

愛ってなんだろう?辞書、持ってきてないな…

結局、丞は「まあ、お気に入りってことで、あとは原文通りでいっか。」ということで納得した。

 


 

大日本帝国 帝都東京 某マンション 蔵道宅

 

「ハレヴィ財団って、あのイベリアの…?」

「そう、あのイベリアのでーす!」

蔵道絹江は当惑していた。

宇宙人を追いかけ回す正義感と情熱あるジャーナリストが、弟が自宅に連れてきた客人に対してで当惑していたのだ。

ルイス・ハレヴィ。

イベリアのハレヴィ財団のお嬢様で私たちからは遠い存在だと思っていたが、まさか弟と付き合ってたとは…

「宇宙人に気を取られてたら、まさかこんな事になっていたとはね…」

「あはは…黙っててごめん、姉さん…」

 

そう言いつつ、沙慈は目を逸らした。

 

「沙慈、あんたは1人じゃ何も出来ないんだから」

その言葉を遮るように、ルイスが喋りだした。

「それなら安心してください、お姉さま。沙慈君のことは私がし~っかり面倒見ますから!」

 

絹江は咄嗟に沙慈を引っ張り、耳打ちをした。

 

「ぶっちゃけ、この子はあんたに合わないと思うんだけど…」

が、すぐさまルイスが割って入り、「聞こえてますよ。お姉さま?」と囁いた。

 

流石に絹江もたじろいだ。

 

「ま、まぁ貴女がいいのなら構わないけど…」

「だってさ、やったね沙慈!!」

「あ、ありがとう、姉さん!」

「え、えぇ…」

 

…正直言って面倒事を増やしたくないだけだった。

 

「それで、今は何をしてるのかしら?」

「学校の課題だよ。最近のニュースに関してのレポート。」

「ニュース?」

 

先程からずっと、テレビでワイドショーが流れていたのはそのためか。

 

「とは言っても、テレビ宇宙人の考察で持ちきりだから」

「何か、大きなニュースとかが欲しいんです、お姉さま?」と言いつつ、ルイスが絹江に迫って来た。

「貴女も大袈裟ね…」と絹江もそれを押しのけながら返した。

「いえいえ、それほどでも?」

「まあ、大きなニュースなんて、すぐに降ってくるわよ。」

「降ってくるって、どんな風に…」

 

すると、ワイドショーが途切れ、ニュース画面に切り替わった。

 

『臨時ニュースをお伝え致します。東京湾上空に宇宙人のものと思われる飛行物体が出現いたしました。』

「うそ…!?」

「宇宙人が…!?」

『繰り返します、東京湾上空に…』

「こんな風にね。」

 

そう言いながら絹江は、再び荷物をまとめ始めた。

 

「もう行くの、姉さん?」

「今行くしか無いでしょ?」

「そう…」

 

答えを聞いて沙慈は、残念そうに俯いた。

すると今度も、ルイスが首を突っ込んできた。

 

「でも上空にいるんでしょ?だったら取材のしようがないんじゃないですか、お姉さま?」

「何時までも飛び回ってる訳無いでしょ。空港で待ち構えに行くわ。」

「どうやってです?」

「…確かにどうしましょう。」

 

絹江は頭を抱えた。

この混乱で交通インフラは死に体、歩いても5時間はかかる距離だった。

 


 

1日前 月面基地 グラナダ

 

「ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!ジーク・ジオン!!」

『鷲が舞い降りる!これは我々スペースノイドにとっての飛躍である!!』

 

堂々たる演説を行うキシリアを、マ・クベは舞台袖から見つめていた。

 

『彼らは勇敢にも、我らの目として未知なる地球へと踏み込まんとしている!!』

 

背後のモニターには、コムサイに乗り込んでいくクルーをバックに、一人の若き将官—ギニアス・サハリン—が映っていた。

 


 

2日前 グラナダ博物館

 

「…つまりこれはモールス信号で『friendship』と読み取れる。」

 

突撃機動軍のマ・クベ中将とギニアス・サハリン少将は月面の博物館で展示品を横目に昨日の信号の話をしていた。

 

「そんなことは分かっているとも、ギニアス。問題は『何故日本から送られて来たか』だ。」

「鉤十字やカルダシェフ、そしてアメリカ合衆国と敵対的な勢力が日本を拠点にしている、だろうか?」

「私としても全く同じ考えだよ。」

 

この会話は少し遠い位置にいたアイナ・サハリン太尉とノリス・パッカード大佐にも聞こえていた。

 

「お兄様達は何しに来たのかしら。ちっとも展示品を見ようとはしないわ。」

「ギニアス様は、夢を見ておられるのです。没落したサハリン家の復興という夢を。」

「だとしても、ここは地球世紀の過去を見る場所よ。」

 

アイナはおもむろに1つのショーケースに近づいて指をさす。

 

「ほら、この人形。筆で字を書くことができるのですよ。」

 

升目のような柄の台座の上に座る男がすらすらと書く様は、まるで人間のようだった。

 

「ほう、これは見事な…」

 

この小さな人形に、電力を用いず、このようにまできめ細やかな動きができるとは驚いた。

 

「地球世紀にも、これほど精巧な技術があろうとは…」

「それは模造品だぞ、ノリス大佐。」

 

マ・クベが口を挟んだ。

 

「本物は『侍』だの『忍』だの俗な言葉は書かんよ。」

「まぁ。」

「模造品…ですがこれは1920年代の作品と書いてあります。戦前の日本に、このような技術が」

「戦前に始まったことでは無い。本物はその更に100年前、田中儀右衛門と言う20代の技師によって造られたのだよ。」

「なんと…!」

 

マ・クベの口から出た一言にノリスは驚きを隠せなかった。

 

「1820年代は、まだ江戸時代でしてよ?」

とアイナは答えたが、

「国が開かれる前から、あの国にはそれほどの技術があったのですよ、アイナ嬢。」

と直ぐに返された。

 

「江戸時代…未だ産業革命が起きておらん頃ですな。」

「是非本物も見てみたいですわ…」

 

生粋の軍人であるノリスや箱入り娘のアイナにもその高度さは理解出来た。

それ故に、ノリスにはひとつの疑問が浮かんだ。

 

「それだけの技術があるならば、メッセージには映像も使えましょう。」

 

その疑問にマ・クベが答えた。

 

「そうだ。だが彼らは現にそうしていない。おそらく彼らは、ジオンに的を絞ってメッセージを送っている」

「つまり、日本は我々との接触を望んでいるのだな、マ・クベ?」とギニアス。

「ああ。今頃、連邦が敵側に降下して焦っているだろうな。ノリス大佐、君はどう見る?」

「チャンスとも言えましょう。上手く行けば、部下を傷付けることなく地球へ降下できますな」

 

多くの部下から慕われているノリスにとっては、これは願ってもない事だった。

 

「だが危険が伴うのも確かだ」

とマ・クベは返した。

「普通ならば、今地球への降下をしたがる人間など居るまい。」

「その分、見返りは大きいだろう。我々サハリン家の再興も夢では無い!」

 

願ってもないチャンスに、ギニアスは興奮を抑えられていなかった。

 

「兄様…」

 

いつも鬱屈していた兄が目を輝かせていることに、アイナはわずかな救いを見出した。

 

「頼む!力を貸してくれ、アイナ!!ノリス!!」

 

マ・クベは内心、二人にとって迷いどころだろうな、と思っていた。

だが予想外にも、二人の心の内は、既に決まっていた。

 

「行きましょう、お兄様!!」

「この身は、サハリン家のために!!」

 


 

大日本帝国 帝都東京 陸軍幼年学校

 

「…で、野辺山からトンツー信号が送られたわけ」

「なるほどな。もうメッセージはすでに送信済みか」

生徒集会所で週に2度開かれる酒保。その端の飲食席で飛鳥真と上総広蕪が密かに話していた。

 


 

4日前 上総邸

 

「おやっさんじゃねぇ。だが…」

上総はニヤリとした。

「してるぜ。独自の研究ってやつをな。」

「えっ?」「え?」「は?」

3人の動きが止まった。

「真。おめーにも手伝って貰いたいんだ。研究室に自由に出入りできる人間として、な」

 


 

「でもさ おやっさん、なんで琉那達も巻き込んだの?」

「おやっさんじゃねぇ。あの姉妹は素質があるからな」

サーグ飯カレーライスを口に運びながらも、2人は軍の機密を堂々と喋っている。

「素質?」真は首を傾げた。

「あの姉妹とは何度も会ってるが、俺たち以上に知識を持ってやがる。それでいてまだ経歴もねぇ。諜報員にはうってつけだ」匙をくるくると回しながら、上総は上機嫌に語った。

「ふぅん。そういうもんなんだ?」

「もしかしたら、お前よりも強いかもな?」

「琉那が?まさか…」と言いながらも、真は目を逸らしていた。

「おいおい、やっぱりあの姉妹に」

 

その時、集会所に警報が鳴り響いた。

 

「何だ!?」「警報!?」

 

間髪入れずに2人は立ち上がった。

 

『全軍、第1戦闘配備!東京湾上空に飛行物体!例の宇宙人と思われる!繰り返す、全軍…』

「本当に来やがった…どうするつもりだよ、あの爺さん賀屋…!」

「ボサっとすんな!行くぞ、真!」上総はこの僅かな時間で飯を平らげていた。

「りょ、了解!」と返しながらも、真は自身の飯が半分残っていることを内心苦悶に感じていた。

 


 

同時刻 大日本帝国 帝都東京 市ヶ谷大本営

 

「第一・第二艦隊、東京湾に配備完了!」

「東京都民、及び周辺地域の避難、あと12時間以内で完了するとのことです!」

「早期警戒管制機をもっと増やせ!オセアニア方面やハワイ方面から引き抜いても構わん!」

 

大本営では多くの官僚・武官・将校がせわしなく動き回り、アナウンスとデジタル情報によって情報が瞬時に飛び回る。正面には巨大なモニターが存在し、カメラと文字、記号が刻一刻と変化している。

大日本帝国という、世界で最大クラスの軍事力と技術力を持つ国だからこそこれほどまでのデジタル化と情報共有が可能であるのだ。

最も、これらが全力稼働するのは本来ならばアメリカや大ゲルマン帝国という巨大な仮想敵国であると想定されていたのであるが、今回彼らがターゲットとしているのは全く想像もしえない敵であった。

それは、正面の巨大なモニターに映っている巨大な宇宙船であり、未来人とも異星人とも噂されている正体不明の勢力であった。

 

「ソビエトに降下していたことは特務機関の情報によって把握していたが、まさか我が国にもやってくるとは…」

 

大本営の中央に位置する司令官席に座る福田首相は、そう呟いていた。彼はどうしても自身の恐怖心と緊張から生じる身体的反応を抑えられずにいた。

冷汗が滝のように流れ、貧乏ゆすりを起こし、手は小刻みに振動している。

無理も無い事だ。彼はあらゆる困難を乗り越え、時には味方の協力を借りつつも魑魅魍魎が蠢く大日本帝国の政治中枢で生き延び、改革を達成してきたがこれほどの難敵に遭遇したのは初めてであったからだ。

何しろ相手は―未来人か宇宙人かははっきりしないが―恒星間を航行するほどの技術レベルを持つ勢力なのだ。恐らく彼らが本気を出せば、我々など抵抗する暇もなく狩りつくされるに違いない。それを考えれば、彼は震えを抑えることなどできなかった。

そして震えているのは彼だけではない。この帝都が、いやこの国そのものが震えていた。

突如彼らが出現した東京湾では、大和・武蔵を中核とした世界最大規模の海軍を持つ大日本帝国海軍が集結しつつあり、陸上では戦車砲、対空ミサイル、対戦車ヘリ、対空機銃、はたまたどこから発掘したのか第二次世界大戦時の高射砲とありとあらゆる火力を宇宙船に向けられていた。

また兵力が集中するのとは反比例する形で、東京からは猛烈な勢いでありとあらゆるものが逃げ出し始めている。

 

「陛下を今すぐに退避させろ!本土以外ならどこでもいい!」

「経済損失?そんなものより臣民の安全が最優先だ!」

「避難民の誘導なぞ憲兵隊と警察に任せておけばいい!」

「マスコミによる風評被害と流言飛言は避けたい…報道への対応を急いでくれ!」

 

大本営のすぐそばで電話対応に追われている官僚たちは、東京都民の脱出計画と天皇陛下の避難、そして暴落する国債・株価・通貨との格闘を繰り広げている。

ありとあらゆるインフラは脱出しようとする東京都民で完全にパンク状態になっており、軍用機が急いでピストン輸送をしようにも完全に間に合っていない状況だ。

おまけに東京に未知の超技術勢力が出現したことで投資家たちは皆悲観的になり、大日本帝国に関する物のありとあらゆる投げ売りが始まっている。もしこの流れを止められなければ安田危機を超える経済恐慌が発生するだろう。

だが…帝国の存亡が掛かっている状況ではそんなものは些末な物と言えた。

 

「改めて全軍に徹底…『こちらからは絶対に仕掛けるな』とな」

 

福田の発言に両隣にいた帝国陸海軍の将校が頷く。普段はやれ予算だの、人員だので争っていた彼らもアメリカをも超える、恐るべき敵の前では協力し、政府に従順になるしかない。

全てが動き、流転していく中で福田は少しだけ背中を丸くして呟いた。

 

「…今の私は、世界で一番不幸な男やもしれんな」

 

何が起きるか分からないこの状況で、何かあればその責任を全て押し付けられるであろう男の呟きは、周囲の喧騒によってかき消されていった。

 


 

同時刻 アメリカ合衆国 バージニア州 アメリカ国防総省 ペンタゴン

 

大日本帝国がジオン軍の艦艇効果で大混乱に陥っているその頃、太平洋の向こう側で正五角形の建造物ペンタゴンに集まっている男たちも忙しなく写真や映像を集めて何かを話し合っていた。

 

「U-2偵察機から新しい映像が送られました!」

 

一人の若い情報分析官がそう報告する。その声に各々の仕事をしていた士官たちが中央のモニターに目を向ける。

その映像の中には凡そ空中に浮かんでいるには似つかわしくない、巨大な飛行物体が映っていた。

場所はまごう事なき東京湾。

周囲には近すぎると思えるほど無数の艦艇が集結しているのが確認できる。

 

「やっぱり大日本帝国の東京湾に、ジオンの揚陸艇が降下しているという情報は本当だったようですね」

 

女性士官が報告結果を確認するようにそう呟く。

大日本帝国での無線内容を極秘で傍受していたCIAからの情報を最初は半信半疑で受け取っていたアメリカ軍であったが、今回のU-2からの情報でこれが紛れもない事実であると確信していた。

偵察相手の大日本帝国には「百聞は一見に如かず」という諺があるが、正にその通りであるとこの場にいる誰もがそう感じていた。

 

「今後も引き続き警戒・監視活動を頼む。人員・機材は必要があれば何でも揃える。頼むぞ」

 

男の掛け声に多くの職員が「イエッサ―!」と叫んで対応する。そして職員にハッパをかけた後、他の職員たちに男は尋ねる。

 

「さて、大日本帝国と”地球連邦”の言っていたあの”ジオン公国”との接触が発生したことは疑いようがないが…我々には今何ができる?君たちの意見を聞かせてくれ」

 

男は他の職員たちに助言を求める。

 

「我々には現在二つのオプションが用意されています。一つは現在行っている偵察。もう一つは妨害です」

「具体的には?」

 

男は提案した一人の士官に更なる説明を求める。

 

「具体的にはジオン公国が大日本帝国陸海軍と接触しようとした際に、ジャミングや通信施設の破壊などの通信手段の妨害、他には未来人勢力に偽情報を流布する、又は大日本帝国に扮した我が軍がジオン公国に攻撃を仕掛けるなどのアプローチによって関係を悪化させることも可能かと」

 

男は下士官からの情報を聞いて、ふむ、と考えた。だがしかし男は反論も繰り出した。

 

「だが現状…それらの手段を我々が行うのは難しいな」

「その通りです。…我が国は大日本帝国に対して複数人の工作員を送り込んでいますが、これらの破壊活動を行う程人数も規模も足りていません。実行するとすれば大日本帝国とジオン公国がより活発に往来をしてからでないと…」

 

男は、下士官からの意見を聞いて腕組みをした。

 

「なるほどなるほど…残念ながら現状、大日本帝国の行動に全てが掛かっているという事か…」

 

太平洋の遥か彼方の弓状の帝国に思いをはせながら、そう呟いた。

 


 

同時刻 広東国 広州市

 

その日も、いつもと変わらない日だと思っていた。

 

1950年代に生まれた人工国家、「広東国」。その高官たちは、意思決定機関「立法会」での会議に出席していた。彼らは宇宙での異変についての情報を得ており、それについての対応が今回の会議でも議論される予定だった。

 

いつものように。

 

会議が始まり、出席者たちはそれぞれの担当領域や部署での成果や進捗状況を報告し合った。

 

いつも通りだ。

 

最も注目を集めていたのは、最近始まった農村部での改革プロジェクトについての報告だった。これは、工業中心である広東国での食糧供給不足を解消するために、農業生産向上と自給自足体制の整備を進めるもので、その効果に注目が集まっている。

しかし、広東国の行政長官兼SONY現社長、盛田昭夫がこう発言した。

 

「確かに農民たちは頑張っていますが、彼らの努力だけでは足りません。もっと積極的な支援を行う必要があります」

 

他の高官たちも次々と賛成した。

広東国を牛耳る有力者である井深大、駒井健一郎、松下正治の賛成を得、政府による大規模な投資や技術支援が行われることが決定された。

 

会議はいつも通りに進んでいた、その直後のことだった。

日本から「飛翔体が東京湾に降下中」との緊急の連絡が入った。

 

盛田行政長官や政府関係者は迅速に行動し、必要な対応を協議した。しかし、結果的に情報の確認が遅れ、混乱を招き、事態の収拾に手間取った。

 


 

広州市の民家の一部屋で、親子が震えながらテレビ画面を見つめている。画面からはニュースが流れている。

 

「広東国では、東京湾への飛翔体の降下を受けて非常事態が宣言されており、海外からの入国制限や都市封鎖措置などが実施されています。

また、中国でも全土に警戒態勢が敷かれており、国民の外出自粛や必要な場合は自宅待機が求められています。

これらの措置により、共栄圏諸国での生活は厳しくなっていますが、各国政府は適切な対策を講じながら人々の命と安全を守り抜く姿勢を示しています。本当に可能なのでしょうか?」

 

「広東国は、東亜での混乱の拡大に伴い、非常事態を宣言しました。これにより、市民や企業は外出の制限や業務の停止などの措置がとられています。

一方で、政府は医療体制の強化に取り組んでおり、必要な物資や医薬品の供給の確保にも力を入れています。また、対策専門の機関が設置され、市民への支援も行われる予定です。今後も政府からの指示に従い、広州市はより安全な社会の実現に向けて尽力し続けます。」

 

親子はテレビを落とし、ため息をつく。そして、自分たちの未来を憂うのだった。

 


 

数時間後 大日本帝国 東京 某所

 

「飛行物体との平和的接触を試みることが決まりました」

 

大日本帝国の首相福田赳夫は、各政府機関からの報告書を読みながら緊張した面持ちで報告した。未確認飛行物体の東京への出現を受け、彼は電話を通じて各所に指示を出している。

 

「まあ、そうだろうな」

 

電話の相手であり、福田首相の意向で飛行物体への対策を指揮していた賀屋興宣議員前首相はそう答える。

 

「はい。今即興で大本営と軍部共同で飛行物体の戦力を見積もってみたところ、未知数な部分が多く明らかにこちらから仕掛けるのは無謀だという結論になりました。ですが…」

「例の飛行物体はそこにいるだけで今の所攻撃の兆しを何一つ見せてはいない、だからまだ平和的接触の余地はある…そういう結論に至ったのだな?」

「まあ、そういうことです」

「ではその使者役として、今から私が赴くのは可能か?」

 

その言葉を受け、福田は少しの間躊躇して黙り込む。

賀屋は安田財閥の崩壊による経済危機からこの帝国を共に救い出した、いわば福田にとっての戦友・同志のような存在だ。

彼をもし使者とした場合、万が一飛行物体が敵対的だった時に彼を真っ先に失うことになるのは確実だ。

だが彼の如く信頼でき、かつ実績のある大物にしか任せられない大役であるのも確か。

それにそもそも首相としての仕事に忙殺されていた自分の代わりに、彼に飛行船団などの地球外の事象への対処を任せていたのもそうだ。

そこまで考えて、福田はこう答えた。

 

「…わかりました、迎えを用意させます。…どうかご無事で」

「ああ、そちらも気をつけてくれ。…万が一私に何かあった場合、よろしく頼むぞ」

「…了解、しました」

 

その言葉を聞いた後、賀屋は電話を切る。

そうして彼は振り返ると、同じ執務室にいた秘書に指示を出す。

 

「例の飛行物体に平和的接触を試みるそうだ。これまで彼らとの接触を担当してきた私が会談に先駆けて接触する。少ししたら迎えが到着するから、彼らが到着したら私についてきてくれ」

「はい、わかりました」

 

秘書は短く返事をすると、書類を片付け始めた。

賀屋は窓の方を向いた。

彼には直接見えはしなかったが、その方向の空に鎮座しているであろう飛行物体を、彼は心眼ではっきりと捉えていた。

 


 

1時間後 東京上空 コムサイ艦橋

 

ジオン軍の地球降下作戦を実行する着陸艇「コムサイ」。その艦橋では乗員達の通信が飛び交っていた。

 

「地上には部隊が配備されていますが、こちらを攻撃する兆候はなし」

「前方に施設を確認、東京の国会議事堂です。通信を入れますか?」

 

コムサイのオペレーターが指揮官のギニアス・サハリン少将に報告し、ギニアスは即座に返答する。

 

「平和的な接触と政府との会談を望むとメッセージを送れ。コムサイは飛行を継続せよ。速度を落とすな!」

 

コムサイは東京の主要政府施設に連絡を入れつつ、反応を待たずに戦闘速度のまま突き進む。

 

「日本政府から返答。『平和的な接触を望む。羽田空港に着陸せよ』と」

 

とオペレーター―本来は軍人ではないが、ギニアスが強引に作戦に参加させた実妹アイナ・サハリン―から報告が入る。

この着陸作戦は短期間で準備されたものだったため、ギニアスへの忠誠が厚いと判断されたアイナが選ばれたのだ。

 

「作戦の第一段階は完了。次に進みましょうか?」

 

とギニアスの副官ノリス・パッカード大佐が問いかけ、ギニアスもすぐに判断を下す。

 

「指示通り、空港に降りるとしよう」

「わかりました。ブリッジより乗員へ、本艦は羽田に着陸する。」

 

ギニアスの言葉を聞くと、すぐにノリスは部隊員に命令を出し始める。それを見ながらギニアスは呟く。

 

「鷲は舞い降りる…アースノイドの俗物共にも歓迎してもらおう」

 

コムサイからは眼下に東京市街が見える。ジオンの作戦はクライマックスに差しかかっていた…

 


 

同時刻 大日本帝国 帝都東京 市ヶ谷大本営

 

「飛翔体より政府施設各所への通信が来ています」

「何と言っているんだ?」

 

大本営に入った報告に対し福田首相が尋ねる。

 

「首相との面会を求めるものです。」

「奴らめ、そういう事はもっと早く言え」

「しかし、攻撃でない事が判明しただけ良しとするべきか?」

 

外務大臣がぼやく中、海軍軍令部総長は呟くように言った。

 

「…会ってやりましょう。野辺山からの観測情報が正しければ、あの連中の軍事力は日本以上です。」

 

福田首相が判断を下す。

 

「総理、大丈夫なのですか?」

「この場で攻撃されるより遥かにましです」

 

福田の身を案じる軍令部総長に対し、彼は吐き捨てる様に言う。

政府の指示で宇宙の監視を行っていた野辺山では今だに観測班が飛翔体を観測しており、政府の決定を固唾を呑んで待っていた。

 

「飛翔体は武装していると思われるか?」

「その様な形跡は見られませんが、武装が隠されている可能性は高いです」

 

陸軍大臣に対し通信員は返答する。

 

「だそうですが、どうしますか?」

「面会を許可する。しかし、相手が帝都に対する攻撃能力を持っている事は間違いない。ここにいる諸君にはそこのところをよく心得て行動してもらいたい」

 

外務大臣に促され、福田首相はそう判断を下した。

 

歴史の転換点の、その始まりであった。

 


 

宇宙人が降り立つ瞬間、空港内の全ての目と光はコムサイへ向けられていた。

そして、その様子は共栄圏内外の多くのメディアによって中継されていた。

 

「あれが、緑色船団の降下艇…?」

「随分大きいな…」

「中に例の人型がいるんじゃないか!?」

 

この歴史的な瞬間に居合わせた取材時は、各々未知なる存在に対しての予測を述べあっていた。

 

「お腹空いたな…」

 

その中には、民放絵草の三輪丞の姿もあった。

 

「宇宙人来ちゃったし、絹江さん達来ないし、ここから離れられない…」

 

小笠原から帰った直後、休む間もなく空港で待機させられ、もう3時間になる。

民放絵草のジャーナリスト自体は集まっているのだが、その中で社会部は丞1人だけだった。

「この時が来たかね、丞。」

と、突然後ろから声をかけられた。

丞が振り向くと、そこには髭面の大男が仁王立ちしていた。

 

「山県専務!?」

丞は立ち上がろうとしたが、

「礼は省く。」

と制止された。

 

「どうしてこちらに…?」

「言うまでもないだろう、この瞬間に立ち会うためだ。」

 

そう言いながら山県は、丞に経木を差し出した。

 

「食っておけ、お前の仕事はこれからだ。」

「頂戴します!」

 

そう言うなり丞は経木を開き、握り飯を食べ始めた。

 

賀屋と宇宙人が歩み寄る場に、多くのメディアが押し寄せ、警護する陸軍と揉み合いになっていた。

 

「来たぞ!映せ映せ!」

「おい、押すんじゃねぇ!」

「もっと前行かないと映ん無いんだよ!」

「言っても聞かないよ、おやっさん!」

「はい、邪魔邪魔!」

「おやっさんじゃねぇ!」

 

半ば暴徒と化したメディアを盾で抑え込む。

たとえ放水や催涙弾でもこの場での発砲は許されない状況ではそれしか出来ることは無かった。

賀屋は、すぐ横に居た陸軍大臣に対して

「ここまで固めろとは言ってないぞ。ブン屋共も通してやれ」

と命を下した。

警備を解いた隙間から我先にと取材陣がかけて行く。

 

その中でも丞は一目散に賀屋と異星人の2人の元へと走って行き、誰よりも早く辿り着いた。

 

「まずはお写真、よろしいでしょうか!」

 

この時丞が撮影した写真が、教科書に載るのはまた別の話である。





〜今回の話まとめ〜

野上大佐「ロケット打ち上げて宇宙船団調査するぞ〜!」
丞「すげえ、実現したら大スクープだ!」

ルイス「沙慈くんと付き合って良いですか〜?」
絹江「い、良いわよ…」
ルイス・沙慈「やった〜!」
ニュース「宇宙人やってきました」
ルイス・沙慈「へっ!?」
絹江「どうやって宇宙人にスクープすれば良いのかしら…」

マ・クベ「日本が接触を試みている」
ギニアス「…これはサハリン家復興の千載一遇のチャンスだ!きてくれるか、二人とも!」
アイナ・ノリス「はい!!!」

上総「あの姉妹、良い諜報員候補だなあ」
真「そんなもんなのかなあ」
警報「宇宙人が来たぞー!!!」
上総・真「ファッ!?」

福田首相「今の私は、この世で最も不幸な男やもしれないな…」

ペンタゴン「ジオンが日本に来たぞ…どうする…どうする?」

広東国の面々「ファ!?本土に異星人!?やべえよやべえよ…」

福田「友好的接触することに決めました」
賀屋「俺が全権大使としていって良いか?」
福田「…了解しました、どうかご無事で」

ギニアス「平和的に接触してみるか」

福田「そういうことは早く言えよ…とりあえず羽田に案内するか」

ギニアスと賀屋の初接触

〜今回の話まとめ終わり〜

後書きキャラ解説:

・蔵道 沙慈:cv.入野自由
・ルイス・ハレヴィ:cv.斎藤千和
ガンダム00より今作に参戦。
大日本帝国の学生。
入れ替わり時点で2人とも16歳。
ルイスは明朗活発で、沙慈は引っ込み思案な対照的な性格。
帝国内の宇宙進出推進派によって創設された宇宙航空技術高等学校に通っており、2人とも宇宙工学に明るい。
ルイスの方から声を掛けたのがきっかけで付き合い始めている。
なおこの事は互いの家族は全く把握していなかった。

・三輪 丞:
民放絵草の操觚記者。オリキャラ。
入れ替わり時点で19歳。
少年のような小さい背丈に深紅の瞳、青いキャスケット帽が特徴。
常に飄々としつつも明るく朗らかで、誰に対しても敬語で話し、休日には自宅近くの神社へ参拝する模範的な人物。
その一方で、情報の為に手段を選ばない一面を持つ。
そのせいか憲兵隊などから目をつけられている。

ジオンとドイツが中心になる第八話は1月5日に投稿予定です!
どうかお楽しみに!
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