【未完】機動戦士ガンダム:新秩序の終焉   作:うねる蛇

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〜前回のあらすじ〜

ジオン「コロニー地球に落としたったでwww」
地球連邦「もうダメだあ、おしまいだあ…!」
ガンダム地球「ウワーッ!(コロニー落とし着弾と同時に怪光に包まれる)」
宇宙世紀地球が消失しました
TNO地球が宇宙世紀世界入りしました
TNOアメリカ「ファッ!?誰だお前ら!?」
TNOドイツ「コイツラまさかボリシェヴィキの新兵器か!?」
TNO日本「やべえよやべえよ…どうすっぺ」
TNOソ連「エイリアンキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!さっそくコンタクトしてみるで!!」

〜前回のあらすじ終わり〜

今回は地球連邦とジオン、そしてカルダシェフ政権のソ連が中心の話ととなっています。
よろしければ高評価・お気に入り登録等よろしくお願いします。


第1話 非科学的な出会い

コロニー衝突約半日後 ソビエト社会主義共和国連邦 極東地域 マガダンのラジオ局 

 

広大なシベリアに巨大なアンテナ群が立ち並び、その近くに建っている三階建てのラジオ局。

この小さなラジオ局から、今まさに世界の運命を決定しかねない電波が発信されようとしていた。

 

「準備はできたか?」

「ああ…。放映用のものはすでに全て送られてきた。あとは少し準備をして実際にあの極東船団に向けて電波を放つだけだ。」

 

ラジオ局で話をする二人の約50歳の男性。

前者はこのラジオ局に配属された共産党からの派遣党員で、後者はこのラジオ局の局長である。

共産党員の方は一応政治的な監視役兼連絡役として派遣されているのだが、彼は職権濫用などをしない清廉潔白な人間だった上に、積極的にこのラジオ局内での手伝いをしていたこともあって、こう見えてここの職員との関係は局長も含めて比較的良好であった。

 

「そうか…にしてもなあ…」

「どうした?」

「いや、中央から派遣されてきた俺がいうのもなんだが、まさか中央の馬鹿どもが作らせたこの巨大なアンテナどもが役に立つ日がくるとは、と思ってな」

「…あんたもそう思ってたんだな…」

「当たり前だ、ジダーノフのやつが指導者だった時は、俺たちの生活環境はろくに改善せず、代わりによくわからん技術開発とか設備建築ばっかやってたからな」

「確かにな、こんな馬鹿でかいアンテナを俺たちの困窮する生活そっちのけで『エイリアンを探すために』建てるなんて、なんてやつだと思ったのがつい昨日のことみたいだ…」

 

二人はため息をついた。

ジダーノフが国の指導者だった、短くしかし暗い時代のことを思い出していたのだ。

彼は確かに、巧みな外交手腕を持って最小限の流血でこの国を再統一したが、彼は自分が作り出したイデオロギー『超先見的社会主義』の重要な部分であった宇宙開発を重視するあまり、人々の生活についてはどうでもいいと思っていた節が見られたのも事実だった。

そのイデオロギーについても、あの権力欲の塊のジダーノフ自身が本気で信じていたかどうかも怪しいものだったが。

なにしろ彼の命令で行われた実験の数々は、そもそも科学的根拠の乏しい仮説に基づいたものも多かったからだ。

彼が統一後一年程で病死し、その後を継いだカルダシェフがテクノクラシー的な『超先見的社会主義』を掲げ続けながらも、ジダーノフ時代に比べれば人々に配慮した統治を行なっているのは、幸運だと思わざるを得ないと、二人とも思っていた。

 

「はあ…サブリン書記長のいた頃が懐かしい…」

「そのサブリンってのは、確かここら極東を統一したやつだったよな?極東に来てからよくそいつの名前を聞くが、どんなやつだったんだ?」

「…長い話になるが、いいのか?」

「構わん、放映の準備が完了するまでまだ時間かかるんだろう?」

 

そうして局長が語り出したのは、以下のような内容だった。

極東地域一帯をソ連崩壊以降統治していたのは、旧ソ連政権の残党で、NKVDの長のゲンリフ・ヤゴーダと言う男だった。

彼はNKVDを使って一緒に逃げてきた幹部の大半を粛清して人々を抑圧する一方、ソ連の再興を目指し資源の多い中央シベリアに侵攻するなど、典型的な暴君であった。

しかし彼は中央シベリアに軍の殆どを割いてる間に、満洲国からやってきた白系ロシア人の連合軍に侵攻され、極東の政権は崩壊した。

マガダンの次の支配者は、白系ロシア人の連合軍のリーダーでロシアファシスト党の首領を務めるコンスタンチン・ロジャエフスキーであった。

しかし、彼の連合軍は内ゲバで崩壊し、マガダンにはファシスト党内の改革派が逃げ込み、マガダン自由国を建国した。

このマガダン自由国の建国者:ミハイル・マトコフスキーもまたヤゴーダやロジャエフスキーほどではないものの暴政を敷いた。

 

マガダンに住む人々にとって事態が変わったのは、マガダン自由国が打ち倒されたあとだった。

マガダンの人々は最初は驚いた。

マトコフスキーを打ち倒したのはなんと赤旗を掲げる、かつてヤゴーダ政権と共に消えたと思われた赤軍だったからだ。

実のところ、ヤゴーダ政権は極東の白軍の侵攻を受け、極東の中でも奥地に撤退したが、そこで政治将校の一人だったヴァレリー・サブリンがあまりの暴政に耐えかねた人民を連れて反旗を翻し、ヤゴーダを打倒し新たな共産政権を築いたのだ。

 

また、サブリン自身は共産主義者でありながら『労働者による民主制なき国は社会主義国家とはとてもいえない』と考えており、彼が極東の他の軍閥を打ち負かし築き上げた極東ソビエト共和国はとても民主的かつ進歩的な国となった。

一党制ではあったものの党内の様々な異論を許し、文字のわかる者を教師として基礎的な学制を敷き、信教の自由は許され、複数候補制の男女普通選挙制度を敷いていた。

 

隣接する中央シベリアもアレクサンダー・ヴァシレフスキー将軍率いる赤軍の残党によって統一されたため、サブリンはイデオロギーの似通う彼らとは交渉の余地があると考え、自身の側近何人かと共にそこに交渉に赴いた。

幸いにもヴァシレフスキーは生粋の職業軍人で政治には疎く、一刻も早く民政移管して軍務に集中したいと思っていたため、サブリンの国家統合の提案に乗ってくれた。

こうしてサブリンはロシア地域の東半分を統治することとなった。

 

サブリンは後に西ロシアと西シベリアを制したジダーノフのソ連とも国家統合を成し遂げたが、それはジダーノフ主導のものとなっていた。

このため、極東や中央シベリアではロシア再統一後のジダーノフの権威的な統治には不満を持つものが多く、党の中央に行ったサブリンが共産党内の権力闘争の勝者となることを望む者も多い。

 

ラジオ局長は以上の事を語り、ため息をついた。

 

「サブリンの政権の下で暮らしたことがないあんたにはわからんかもしれんがね、あの頃はみんな生き生きとしていたんだよ…いい時代だったなあ」

「なるほど、道理でここら辺では党内の改革派の支持者が多いのか。まあ、なんとなく気持ちはわかるが…」

 

派遣党員はかつて西ロシアで起きた出来事を思い浮かべた。

西ロシアの統一後、政権の座を巡って党内で起きた権力闘争。

正統派のミハイル・スースロフと、改革派のジダーノフ、そして改革派の中でもジダーノフとは異なる方針を支持したスヴェトラーナ・ブハーリナ。

ブハーリナに投票したはずが、選挙結果が弄られジダーノフ派が勝利したこと。

そしてその後に続いた、民衆の改革派への期待を裏切る権威主義的な統治。

彼はこれらの苦い記憶を思い出し、ラジオ局長と同じようにため息を吐いた。

 

彼らがこのような気まずい雰囲気の中沈黙していると、突如としてドアが開いて局員の一人が入ってきた。

「局長、通信準備終わりました!いつでもトーキョー直上の宇宙船団に発信できます!」

「ん?おお、よくやった。あんたも通信室に来るか?人類と異星人の初接触だ、見逃すのはあまりに勿体無いぞ?」

「…ああ、お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

これから起きることに一抹の不安と微かばかりの期待を抱えつつ、三人は部屋を出ていった。

 


 

同時間帯 東京上空宙域 ジオン公国軍所属コンスコン艦隊

 

「一体何がどうなっているのだ…?」

 

今現在、この艦隊にいる全員に共通する心情を、ここまでうまく表現した言葉も早々なかった。

言葉を発したのはこの艦隊の司令を任されている男:コンスコン。

彼はドズル中将指揮下の宇宙攻撃軍に所属しており、階級は彼に次ぐ少将。

その小太りで足の短いという見た目に反し指揮官としてはとても優秀であるがゆえに、現場主義で実力主義者のドズルの腹心にまでなった男である。

しかしそのような彼でも、さすがに今眼前に現れているような事態は理解の範疇を超えていた。

 

前日にダニガン中将から艦隊の一部を索敵のために任され、ティアンム艦隊の逃げ出した残党を探すべく地球近郊宙域を探索していた彼の艦隊。

しかし、アイランド・イフィッシュがオーストラリアに衝突したところから、全てがおかしくなり始めた。

 

最初に地球が光り輝くと同時に、大きな揺れが艦隊を襲った。

次に地球からの光が止まったと思えば、目の前に現れたのはつい先ほどまで見ていた広大な太平洋ではなく、極東地域の一大都市たる()()()()()()()()()()だった。

トーキョーらしき都市とここで表現した理由としては、それがコンスコンの知るトーキョーと比べて、あまりに未開発…というか時代遅れな建築物が多数見受けられたからだ。

そうして艦隊を一旦現在位置で止め、何がどうしてこうなったか考えていた彼だったが、突如ブリッジの通信員からの報告を受ける。

 

「何?地球のロシア方面から我々に向けて放送が飛んできた?」

「はい。画面に映しますか?」

「そうしてくれ。停戦交渉の呼びかけかもしれんしな…」

 

コンスコンとブリッジにいた皆は、そうして画面の方に目を向け、そして困惑した。

 

まず映像で流れてきたのは、幾つもの地球のものと思しき自然の風景、およびその環境音であり、それらの後は人々の日常風景の画像が映り、その後にどこかで聞いたことがあるようなクラシック音楽がいくつか流れた。

クラシック音楽が過ぎた後は、いくつかの複雑な数式─ブリッジにいた技術士官の一人は、それがミノフスキー粒子発見以前の物理学で使われている数式だと気づいた─が映し出された。

放送の内容を何かしらの交渉の呼びかけだと予想していたコンスコンたちは、あまりに不可解な映像の内容に呆然とした。

しかし、映像の中で最後に映された部分を見て、彼らはますます混乱した。

 

その最後の部分はまずある旗が掲げられているところから始まった。

しかし、その旗は見慣れた憎き()()()()()()()()()()()()()

代わりに掲げられていたのは、どこかで見たことがあるような赤い旗だった。

 

【挿絵表示】

 

そして場面は移り変わり、ある部屋の中の演説台の上に立つ、一人のスーツを着用した男が映し出された。

彼は一旦咳をした後、こう語り始めた。

「親愛なる外星人の皆様方。私はソビエト社会主義共和国連邦最高指導者のニコライ・カルダシェフと申します。私は、この惑星『地球』に住む25億の我々『人類』のうち、7000万の人々が所属する共同体の代表を務めております」

ここで一旦言葉は区切られ、『ニコライ・カルダシェフ』と名乗る男は目を閉じた。

 

「至極残念ながら、我々人類は未だ何十個もの『国家』と呼ばれる共同体の間で分裂しております」

そう語った彼の顔は、コンスコンにはどこか悲しそうなものに見えた。

 

「ですので、今からあなた方に送るメッセージはあくまで『ソビエト社会主義共和国連邦』という国家の代表者としてのものであり、未だ存在しない全人類の代表としてのものではないことを、どうかご了承ください。その上で、このメッセージを貴方方に送りたいと思います」

彼はそう言って一旦言葉を区切り、深呼吸をしたように見えた。

そして、こう語り出した。

 

「我々ソビエト社会主義共和国連邦の人々は、この地球に来訪して下さった皆様方を心より歓迎すると共に、これが地球人類とあなた方外星人にとって素晴らしい初接触となる事と願っています」

「我々としては、是非皆様方の事を理解し、友情を深め、そして共に手を取り合って明るい未来を築いていけると信じております」

「もし、このメッセージをご覧に、若しくはお聞きになられましたら何卒ご返信を頂ければ幸いです」

「…皆様のお返事を、心よりお待ちしております」

 

その言葉を最後に、映像は途切れた。

 

「…一体なんだ?今のは…」

「さ、さあ…私にもさっぱり…」

 

ほぼ全員が沈黙したブリッジにおいて、コンスコンと彼の副官の言葉だけが、虚しく響いた。

 


 

コロニー衝突約一日後 ソビエト社会主義共和国連邦 中央シベリア地域 ノヴォシビルスク基地 レーダーサイト

 

レーダーサイトは、航空基地や周辺の空域に他国や未確認の航空機が存在するかどうか、さらに友軍の航空機を誘導するために非常に重要な存在である。

だが、ここノヴォシビルスクのレーダーサイトでは、そういった緊張感や有意義さはかけらも感じることができない。

 

「あ、レーダーに映った機体…これ友軍のやつですね」

「飛行情報はっと…あるな。異常なし」

 

それもそのはず。

確かにこの周辺にはシベリアの一大都市であり、ブハーリン時代の頃からシベリア開発計画の中心ともなってきたノヴォシビルスクが存在しているが、ここを通行しようとする機体は全て民間機か友軍機で、緊急性の高い国籍不明機は滅多にここを通行しなかった。

せいぜいあったとしても、どこかの金持ちが無許可で飛行機を飛ばしたとか、その程度のことしか存在しなかった。

要約すればこの基地はよく言えば平和、悪く言えば怠惰を職員に与えてしまうほど弛緩しているのである。

 

「はぁ〜。ったく来る日も来る日もレーダーと睨めっこ…頭おかしくなりそうですよ」

「そうぼやくな。西ロシアや極東の連中と比べれば俺たちの仕事ははるかにマシだぜ?あいつらは忙しなく警告だの、スクランブルだので忙しいからな。座ってるだけで給料もらえる最高な仕事だと思えよ。」

「そうは言いますけど…やっぱり何か事件は起きてほしいですよ〜」

 

愚痴を呟いているのは20代の若手士官。軍隊にいるとはいえまだまだ精神が成熟しているとは言えず、刺激を求めてしまう節があった。

一方で上官の方は30代半ばといったところで、すっかり落ち着いた風になっていた。

余談だがもうすぐ子供が生まれるらしい。

 

「そういえば、トーキョーのUFO騒動がありましたよね?あれどうなったんでしたっけ?」

「お前ニュース見てないのか?どうもメッセージを受け取った後で撤退しちまったらしいぞ?朝のニュースでやってたじゃねえか。」

「朝のニュースって、あのタチアナアナウンサーが出てくる?うわ、見とけばよかった〜。」

「おいおい、お前もしかしてあんな感じの女がタイプなのか?やめとけやめとけ、ああいう女はな、小さい頃から美人だなんだと褒められて育ってるからプライドは高いんだぞ?結婚なんかしてみろ、苦労するぞ〜?」

「いいじゃないですか夢を言うぐらい…ん?」

 

急に下士官がレーダーを覗き込んで黙ってしまった。

 

「おいどうした?そんなに怒るなって。あとでビデオ見せてやるから。」

「…北東の方角、高度30kmに反応あり!数20!しかも高度を下げています!」

 

下士官からレーダーに出現した物体の報告が上がった。最初は自分がからかったから怒ったのだと考えていた上官も、どうやらこれは緊急事態らしいと気づいた。

 

「…IFFは?」

「反応していません。国籍不明機(アンノウン)です。」

「大きさは?」

「待ってください…なんだこれ!?レーダーの故障でなければ不明物体はいずれも全長が200m以上に達しています!!」

「なんてこった…!」

 

上司はそう悪態をつくと、すぐさま無線を接続した。

 

「こちらノヴォシビルスク第三レーダーサイト。高度30kmに未確認飛行物体出現!至急対応願う!」

 

しばらく上司は無線に何かを話しかけていたが、相手側も大混乱であり、状況をうまくつかめていないようだった。

 

「おい、坊主…こりゃ俺たち、しばらく帰れなさそうだぞ。」

「はい、そうみたいですね…やっぱり朝のニュースを見ておくべきだった。」

 

彼らは自ら入手した情報をより精密にするため、そしてそれをソビエト連邦軍全軍に通達するという国家の存亡がかかった業務のために全力で動き出した。

 


 

コロニー衝突約27時間後 ソビエト社会主義共和国連邦 スィクティフィカル 最高指導者官邸

 

「あぁ…楽しみだなぁ…」

 

カルダシェフはクリスマスプレゼントを貰う前の子供の様にうきうきとしながら部下からの報告を待っていた。

異星人に対する大出力の電波を発射してからはまだ返信が帰ってきていない。

最も、返信が来たところで彼らの言語体系・文明レベルを把握してからの発表になるからであるので、そう簡単に報告が来るわけがないのは彼が一番分かっていた事ではあったのだが。

 

「いやぁ…それにしても長かった…ここまで長かった…私は予てより異星人が存在する場合の文明のモデルケースを考えてはいたが…まさか彼らの側から会いに来てくれるとは…!攻撃をしてこないと言う事は、恐らく戦争が目的ではない。何らかの資源を補給する為に地球に立ち寄ったのか、それとも我々との友好を求めてやって来たのか…!?あぁ、だとしたら人生最高の日だ!」

 

そうして彼は思索(と言う名の幸せな妄想)に耽っていると、勢いよく扉が開かれた。

「最高指導者閣下、状況が分かりましたので報告いたします。ただし、緊急事態ですので要点のみに致します。」

「そうか!で、何かわかったのか!彼らの文明レベルは!?母星は何処だ!!」

「…閣下、落ち着いてください。椅子に座って。…取り敢えず、順を追って説明しますので落ち着いて聞いてください。まず、我々は彼らに世界各地の言語や地球の環境音、人類の姿や数式などを説明する電波をトーキョー上空の未確認飛行物体群に発射しましたが、彼らからの返事はなく、そのまま東京上空から引き揚げていきました。」

 

因みに、この事を告げた際のカルダシェフの様子は当時の秘書官からの手記によると、『まるでおもちゃを取り上げられた子供の様に心底絶望し切った顔をしていた』という。

 

「う…ん…。そうか…分かった…つまりファーストコンタクトは失敗…したのだな…」

「はい。残念ながら。」

「は…はは…まぁまだ未確認飛行物体は地球にいるし、まだチャンスは…」

「その事で閣下の支持が必要になりました。トーキョー方面の艦隊が撤退した直後、未確認飛行物体の一群が突如シベリア上空に出現し、さらにそれらの物体の中から小型の物体が多数現れ降下中。現在、ソビエト赤軍が対応に当たっておりますが是非指示をお願いしたく…」

 

すると、先程までは地の底の様な空気を醸し出していたはずのカルダシェフは、「な、なにぃ~!!!!」と興奮のあまり立ち上がった。

「はい。現在未確認飛行物体はソ連領内に着陸しつつあります。是非対応を…」

「あぁ…」

 

そう声にもならない言葉を発した後、カルダシェフは椅子から崩れ落ち転倒した。

そして、その際に傍に置いていた天体望遠鏡も倒れ、カルダシェフの頭を直撃した。

彼はそのまま気を失った。

 

「か、閣下…!?…おい誰か!医療班を呼んでくれ!それとあそこに望遠鏡を置いた馬鹿を連行しろ!!」

補足すると、望遠鏡はカルダシェフの私物である。

言うまでもなく、カルダシェフの体調不良によってシベリアへの未確認飛行物体が着陸した事への対応が遅れたことは、歴史の闇に葬られている。

 


 

同時間帯 ソビエト社会主義共和国連邦 中央シベリア北東部上空 地球連邦宇宙軍所属臨時編成降下隊

 

「一体何がどうなっているんだ…?」

 

大気圏突入用カプセル内でこう呟いたのは、この臨時編成降下隊の司令官を務めるヘンケン・ベッケナー少佐。

彼は元はティアンム艦隊に付随する輸送艦隊の中で輸送艦スルガの艦長を務めていたが、ティアンム艦隊が核弾頭を装備したジオン軍の新兵器『モビルスーツ』の大群に襲われ大混乱に陥る中、ブレックス・フォーラ准将が必死にかき集めた生き残りの艦達と共に独断で戦闘宙域より離脱、地球近郊宙域にまで避難した。

そこまではよかったのだが、オーストラリアへのコロニー着弾が観測されたと同時に地球が光り艦隊の全艦は揺れ、その二つがおさまったかと思えば、自分達の眼前にあったのは先ほどまで見えていた太平洋ではなく、広大な白いシベリアの大地であった。

以上の異常事態を受けて、ブレックスの暫定艦隊内ではコロニー落としの被害を調査し、可能であれば連邦軍の他の部隊と連絡を取るために臨時降下隊を編成することが決定、そのメンバーとして地球での勤務経験も比較的多いヘンケンとその指揮下の輸送艦乗員に白羽の矢が立ったのだった。

 

彼率いる臨時降下隊は各艦に搭載されていた多数の大気圏突入用カプセルに搭乗したのだが、その大気圏突入に成功し、中央シベリアの風景を窓越しに見たときの呟きが冒頭のものであった。

 

『確かにおかしいですね…ここら辺にはもう少し大きな都市があったのですが…』

『オイオイ、じゃあなんでこんな何もないだだっ広い雪原になってるんだよ…!』

『温度もこの地域にしては異常です、前回私がここにきた時は温度計はこんなに低い数値を示してませんでしたよ!』

『ここ、本当に俺たちの知ってる地球か…?』

 

多数のカプセル間で繋いである無線でさまざまな驚嘆の言葉が飛び交う。

しかし無理もない、本来彼らの知るこの場所は地球温暖化の進行により人がなんとか住める並の温度があり、そこに目をつけた連邦のロシア地域に住む富裕層がかなりの規模の大都市を作って住んでいたはずだからだ。

だが窓を覗いた彼らの眼前にあったのは、ただ果てしなく続く広い雪原だけであった。

 

「隊長、着陸後どうします?」

「…とりあえず皆、感じている疑問はおいておけ、着陸後はもっと温暖で人が住んでいる可能性の高い南に進むぞ、途中で凍え死にしないように防寒着を忘れずに着ておけ」

 

ヘンケンと同じカプセルに乗っている若い隊員が質問し、ヘンケンが無線にも自分のカプセル内の他の隊員にも呼びかける。

彼は本来このような任務につくような軍人ではなかったが、それでも有能であることに変わりはなかった。

しかし、着陸した瞬間、想定外の事態が彼らを襲う。

 

「た、隊長、あれは?」

「ん?どうした…あれは機甲師団か?」

『友軍ですか!』

『陸軍の連中だ!助かった…』

 

地平線の向こうから多数の戦車の車列が見え始め、それを連邦軍陸軍の機甲師団のものと考えた多くの者が歓喜した。

着陸に真っ先に成功したヘンケンの乗るカプセルから、先ほど質問した若い隊員が出て行こうとするのを、違和感に気づいたヘンケンが止めた。

 

「おい待て皆」

「どうしたんですか?友軍が来てくれたんですよ!」

「いや…あんな戦車、うちの陸軍が採用していたか?」

『…た、確かに…微妙に見た目が違うような気もします…』

『しかもあいつら…どことなく俺らを包囲するように動いているような…』

 


 

同時間 同位置 ソビエト連邦陸軍第三戦車師団

 

『急げ!急いでこいつらを取り囲むんだ!』

 

車内無線から師団長の声が響き、その指示に必死に従う各戦車。

彼らからすれば、そうそう戦場になることはないと思っていた中央シベリアで、いきなり未知の物体が多数宇宙から降下してきたのだから、ここまで焦るのも無理はなかった。

戦車師団がその物体群を取り囲むことに成功し、T-62の群れの砲口は余すところなくカプセルに向けられており、さながら大日本帝国の怪獣映画のような光景が広がっていた。

そんな中で、一台の戦車のハッチから政治将校が顔を出して双眼鏡を覗いた。

 

「未知の物体の数はおよそ10個…どれも画一された見た目と大きさだ…」

「それに、どの物体もハッチらしきものがついている、あの中から何かが出て来るのは間違いなさそうだ…」

 

政治将校がそう分析し、自身の車両の通信手に以上のことを基地に伝えるよう命令する。

 

『な、なぁ…宇宙人ってどんな見た目だと思う?』

『そりゃお前…宇宙から来た奴らなんだろ?もしかして、怪物みたいな見た目してるんじゃないか?』

『ヒエ…おっかねえ…』

『そもそも地球に何しに来たんだろうな?』

『地球侵略…とか?』

『嘘だろ!?折角ナチの野郎共から自由になれたのに、今度は宇宙人の奴隷になるのかよ!』

「お前ら静かにしろ、何かが出てきたぞ!」

 

各戦車の間でつながっている無線でさまざまな憶測が飛び交う中、物体のうち一つから何かが出てくることに師団長が気づき全員に知らせる。

出てきたものは宇宙服らしきものを被っており、その形はなんと人間のそれとほぼ変わらなかった。

 

「…なんか見た目が人間と変わらないな。」

「ほんとだ、二本の足と手がある。」

「まだ油断できねぇぞ、頭がトカゲだったりするかもな。」

 

しかし、その何かが頭部からヘルメットを外し、その場にいたソ連兵全員が衝撃を受けた。

 

「オイ噓だろ!?」

「あれは…人間!?」

「変な格好はしてるが、あんなの人間その物じゃないか!」

 

彼らが見たのは、どこからどう見ても人間そのものだった。

 

「我々は地球連邦軍宇宙軍所属の輸送艦『スルガ』の乗組員である。何故我々に対してこのような包囲を行っているのか?貴軍の所属と目的を尋ねたい。」

「信じられん…若干なまっているが、彼らが喋っているのは英語だ!」

「えぇ!?宇宙人が地球の言葉をしゃべってんのか!?」

 

その宇宙人(?)の呼びかけを政治将校が英語だと見抜き、他の将官や兵士たちも驚愕した。

 

「なぁそれより…地球連邦って何だ?そんな国あるか?」

「いや、そんな国聞いたことないぞ…あいつら一体何者なんだ…?」

「繰り返す。我々は地球連邦軍宇宙軍所属の輸送艦『スルガ』の乗組員である。何故我々に対してあたかも敵軍を相手するかのような包囲を行っているのか?貴軍の所属と目的を尋ねたい。」

 

一部のソ連兵たちは『地球連邦』という聞いたことのない言葉に疑問を抱く中、宇宙人(?)がもう一度言葉を発する。

 

「…我々はソビエト社会主義共和国連邦の陸軍、中央シベリア方面軍の第三戦車師団である。そちらこそ我が国の領土で何をしている?」

「…何?」

 

師団の中でも唯一英語のわかる者達の一人である政治将校が英語で返答し、それに対し宇宙人(?)は困惑したような声をあげた。

 


 

コロニー衝突約27時間後 ソビエト社会主義共和国連邦 中央シベリア北東部の雪原 地球連邦宇宙軍所属臨時編成降下隊

 

「…我々はソビエト社会主義共和国連邦の陸軍、中央シベリア方面軍所属の第三戦車師団である。そちらこそ我が国の領土で何をしている?」

「…何?」

 

予想外の答えと質問に、思わず怯みそれ以上言葉を発することができないヘンケン。

 

『ソビエト社会主義共和国連邦…?なんだそりゃ?』

『連邦の加盟国にそんな名前の国あったか?』

『いや、知らんな。それにここはまず間違いなく、連邦の加盟国であるロシア連邦の領土のはずだぞ…?』

 

カプセル内に留まりヘンケンと謎の機甲師団の間のやりとりを聞いていた他の隊員達も、聞きなれない国名に首を傾げる。

しかしそんな中で、一人だけいる年配の男性隊員が全く違う反応を示していた。

 

『ソビエト…だと…!?まさかその国名をワシが生きているうちにもう一度聞くことになるとはのう…!』

『ちょっと待て爺さん、あんたそのソビなんとかとかいう国について何か知っているのか?』

『ああ…ワシもワシ自身のロシア出身の祖父母からしか聞いたことがないが、かつて旧西暦時代、それもロシア連邦が建国される前にロシア・ウクライナ・ベラルーシ地域などを支配し、地球連邦の母体となったアメリカ合衆国と世界の覇権をめぐって競っていた国じゃ…』

『なんだって!?そんな大昔の国だったのか!?』

『道理で聞き覚えがないと思った…そんなの大学で旧西暦歴史学の講義を取ってようやく学ぶ内容だろ…』

 

彼はソビエト連邦についての概要を伝え、その遥か前の時代の話に驚く隊員達。

 

『おい、ちょっと待て爺さん、だとしたらどうしてあの機甲師団の連中はそんな大昔の国の軍隊を名乗っているんだ?』

『確かに…』

 

しかし、それでも彼らが対峙している謎の機甲師団がなぜそのような所属を自称するのか、その説明にはならなかった。

 

『あの…すみません…』

『ん?どうした若造?』

『今起きていることについて納得のいく仮説を思いついたんですけど…もしかして僕ら、過去に飛ばされたんじゃないんですか…?小説でよくあるようなタイムスリップものみたいに…』

『『!?!?』』

 

ある気弱そうな若い男性隊員が今起きていることの仮説を提示、その内容に他の隊員達が驚くもそれを否定するだけの証拠・材料もなく、反論できなかった。

 

「もう一度聞こう、お前達はこのソビエト連邦の領土にどのような目的を持って降下した?」

「そ、それは…」

『少佐殿、とりあえず今が何年か聞いてみてはどうでしょうか?そうすれば僕の仮説が正しいかどうかはっきりするはずです』

 

返答が得られないことに痺れを切らした政治将校が再度質問し、想定外の状況続きでそれに対しどう答えればいいかわからないヘンケンに、先ほど仮説を述べた若い隊員が提案する。

 

「ちょっと待ってくれ、今は何年だ?」

「…何を言っている?今は西暦1973年に決まっているだろう、そんなことよりこっちの質問に答えてくれ…」

『「!?!?」』

 

試しに今が何年かを訪ね、それに対しとんでもない答えが返ってきて衝撃を受け沈黙してしまう上陸隊一同。

 

『…お前ら、とりあえずこのソビエト連邦軍とやらに全員ついていこう、相手のところに行って事情を話した方が状況がうまく収まるかもしれんしな…』

『りょ、了解です…』

 

その衝撃からまず最初に立ち返り、沈黙も最初に破ったのはヘンケンであった。

彼は状況報告を艦隊に送り、その後状況をうまく収め、かつ地球の状況を確かめるためにソ連軍についていくと決めた。

 

「…あー、確かソビエト連邦軍といったか、我々は別に敵対するつもりはない、だからこんな寒い所ではなく、一旦落ち着ける場所に行ってから話をしないか?」

「…そのためにはそちらの持っている武装の解除が条件になるが、いいのか?」

「ああ、構わない。…お前ら聞いたな、武器を全員捨てて出てこい」

 


 

コロニー衝突約30時間後 同国 中央シベリア地域 ノヴォシビルスク基地

 

「よし、基地に着いたぞ、お前ら外に出ろ」

 

APCの中から外に出された異星人(?)たち数十人が一列に並ばされて基地に収容される中、政治将校はAPCで同乗した異星人(?)の言っていたことを反芻していた。

 

『何?過去に飛ばされた?』

『ああ、少なくとも俺はそう考えている。現に、我々からすれば西暦はすでに使われていないものだ』

 

ヘンケン・ベッケナーと名乗ったその男は、『自分達の知る歴史』と称してAPC内で様々なことを話した。

人口の急上昇により地球での環境破壊が進み、解決のために地球上の人類の人口を減らす必要が生じたこと。

そのために人類の諸国家が一つの連邦『地球連邦』の下に統合され、増えすぎた人口を続々と宇宙開発のために宇宙に送り出したこと。

そういいた宇宙に送り出した人々が住む『スペースコロニー』とやらでは、日々重税が住民に課され、そのほとんどが地球に還元されていること。

そして、そのうち最も地球から遠い『サイド3』と呼ばれるコロニー群がついに我慢の限界に達し、連邦から独立を宣言したこと。

その『ジオン公国』と彼ら連邦は現在戦争状態にあり、彼らが地球にコロニーを落とすという暴挙に及んだことなどが語られた。

 

政治将校は彼らのいう話をAPCの中で興味深く聞いていたが、彼らの語る歴史の中にいくつか自分の知る歴史と矛盾があることに今になって気づいた。

レーニン死後のソ連を掌握したのは『スターリン』とやらではなくブハーリンで、彼は国内をまとめ上げるのに失敗したこと。

そのせいで連合国は彼らの語る歴史と違い第二次世界大戦で敗北を喫し、英仏はドイツの属国化、ソ連に至っては国内が無数の軍閥に占有され、完全な統一までに20年もかかった。

地球連邦の母体となった『国際連合』など彼は全くもって聞いたことがなかった。

 

「…まあ、詳しいことは最高指導者様お抱えの科学者集団が解析してくれるだろう。」

この二つの情報の矛盾を考えているうちに、やがて彼は頭が混乱するのを感じ、それ以上考えるのをやめ、全てを科学者達に任せると決めた。

せっかく科学アカデミーで日夜訳のわからない研究に労力を費やしているのだから、こういう時ぐらいは活躍して欲しいものだと、彼は皮肉混じりに思った。

 


 

コロニー衝突約33時間後 同基地 滑走路

 

この滑走路はつい数時間前まで、慌ただしく戦闘機が連続で緊急発進(スクランブル)していたが、今はそれどころではない基地の人員のかなりの数がその付近で慌ただしく動いていた。

やがて大型輸送機が一機着陸し、その動きが止まるとともに、人々が動きを止める。

その中から科学者の一団と共に、一人のスーツを着た若い男性が姿を現した。

 

「最高指導者閣下に、敬礼!」

 

人々が一斉に敬礼をする先にいたその男、ニコライ・カルダシェフは軽い敬礼でそれに返す。

彼が基地の中に入ると、待っていたのは中央シベリア方面軍の総司令官とその側近たちであった。

 

「久しぶりですね、ヴァシレフスキー陸軍元帥殿」

「そちらこそ久しぶりだな、確かお前と会ったのはこのノヴォシビルスク基地の完成式典以来だったか?」

 

その総司令官を務める人物こそ、かつて中央シベリアを統一した英雄:アレクサンドル・ヴァシレフスキー本人だった。

カルダシェフが彼に初めて会ったのは、病死寸前のジダーノフの代理として東西ロシアの国家統合の条約締結のためにサブリン政権の主要メンバーに会いにいった時であった。

その時にはすでにヴァシレフスキーはかつて統治していた中央シベリアごとサブリンの傘下に加わっていた。

ミハイル・トゥハチェフスキーをはじめとする西ロシアの一部の過激派将校と違い、政治にあまり口出しせずあくまでも軍務に徹する彼の様子に、カルダシェフは好印象を持っていた。

 

ヴァシレフスキーが部下たちに命じ、人払いを行って会議室の中が二人だけになる。

 

「で、星々の世界からの訪問者方の状況は?コミュニケーションができたということはあちらは我々の言語を解析したのだろうけれど、彼らは我々が送ったメッセージについてどう言っていたんだ?彼らの文明レベルは?地球への訪問目的はなんと言っていたんだ!?」

「全く相変わらずだな…とりあえずお前は少し落ち着け」

 

一瞬の沈黙の後、堰を切ったように質問の流れが止まらないカルダシェフ、そしてそれを諫める老将ヴァシレフスキー。

見る人によっては、あまりの二人の年齢差に情熱冷めやらぬ息子を抑える父親のようにも見えたことだろう。

 

「あと、こんなことを言うのもなんだが…異星人と言われてたその奴ら…どうやらまるっきりの異星人というわけでもないみたいだぞ」

「…え?」

 


 

コロニー衝突約35時間後 同基地 応接室

 

「こんな…こんなことが本当に起こるのか…」

 

カルダシェフはうわごとのように同じ言葉を繰り返すしかできなかった。

シベリアに降り立った彼らの話が正しければ彼らは宇宙人でも何でもなく、前代未聞の超常現象によって時空を超えて過去にやって来た未来人だったと言うのだ。

しかも未来では宇宙に進出した人類同士が熾烈な殺し合いを繰り広げ、タイムスリップの直前に「コロニー落とし」と呼ばれる想像を絶する人災を引き起こしていたというのだから、二重の意味でカルダシェフは衝撃を受けていた。

 

「タイムスリップ…と言っても一体何がどうしたらそんな事が起こるのだ…?その原理は?それだけの事象を発生するだけのエネルギーは…?彼らが現れるまでこっちの世界になにも異常がなかったとはどういう事だ…!?直ぐに原因を知りたい!」

 

カルダシェフは持ち前の科学的思考力と洞察力で今回の事態が異常かを混乱しながらも分析している。

だが、残念ながらそのような事を考える時間は現時点では無かった。

 

「落ち着いてください最高指導者閣下。今必要なのはタイムスリップ…え、何?…ええと、『恒星間局地的時空遡行現象』の解明よりも、今後の対応です。」

「お前の秘書の言う通りだぞカルダシェフ、少しは科学的なことから離れて物事を考えろ。」

 

カルダシェフの秘書とヴァシレフスキーの二人は暴走しかかっている最高指導者に対して、今回の―官僚制のソビエトらしく堅苦しい名称がいつの間にかついた―現象に対してではなく、国内外の政治を動かすための冷静な判断を促している。

 

「今回の事が国内外に露見すれば、各国のありとあらゆる勢力が未来人を狙ってくるであろうことは明白です。彼らが常識程度の知識であったとしても、我々の世界では値千金の未来情報なのですから。おまけに彼らが持っていた未来の技術もドイツや日本、米国が喉から手が出るほど欲しがるでしょう。未来人の保護の為にもまず出来る事として、この基地を今後72時間は厳戒態勢に置く必要があるでしょう。」

「未来の二つの勢力…確か『地球連邦』と『ジオン公国』にも注意を払う必要がある。技術力の優位が相手にあるかつての対日戦だって相当苦戦した、ましてやそれを遥かに超える技術で宇宙から一方的に攻撃を喰らうなど想定もしたくない…」

「あ、あぁ…そうだな。」

 

カルダシェフは秘書とヴァシレフスキーの提案に少し動揺しながらも受け入れる。

特にかつて制空権と技術的優位を持っていた日本軍相手にモンゴルの地で苦戦したヴァシレフスキーの発言には、かなりの説得力があった。

 

「今後の対応、か…。」

「どうしましたか?」

「どうした?」

 

秘書とヴァシレフスキーはカルダシェフの異変に気付いた。

どうやら若干だが、彼は悩ましげな表情をしていた。

 

「今後の対応、と言っても何をすればいいかがよく分からなくてね…未来人の出現、ひいてはそれによる社会・政治・経済は大混乱に陥るだろう。彼らが何をしようと、この世界に出来るだけ関わろうとしないでくれたとしても我々に甚大な影響が出ることは避けられない。」

「……」

カルダシェフの発言に秘書と老将は沈黙で返答した。

彼女らとて馬鹿ではない。

中央シベリアに降下した彼らが未来人だという報告を聞かされた時点でそれは覚悟していた。

だが、こうして聞いていると途轍もない大変動がすぐそこまでに来ていると容易に感じ取る事が出来た。

 

「それに、この宇宙にはジオン公国と地球連邦という巨大な未来勢力が君臨している。我々では原理すらも掴めないような数々の未来兵器を駆使して、壮大な絶滅戦争を繰り広げているというじゃないか。あの、恐るべき『コロニー落とし』の様な事を今度は我々に実行しないとどうして保証できる…?」

「閣下、ですが」

「分かってる。だからと言ってこの仕事から逃げるような真似はしないよ。すまないね、弱音を吐いてしまって。だが、それにしても、な…。」

 

カルダシェフは秘書にそう謝罪すると二、三回頭を掻いた。薄明かりは三人をぼんやりと映してはいるが、この部屋の大部分を覆う闇を晴らすことは出来ていない。

 

「人類の運命は、今の我々にかかっているかもしれないなぁ。」

 

彼は常に自分の研究は明日の人類を担うものだと信じ、それなりの重責を感じてはいた。が…彼の双肩にこれほどの重圧がかかったことも無かった。




あとがき:

〜今回の話まとめ〜

TNOソ連「同志カルダシェフが直々に作った宇宙人初接触用の映像飛ばすぞ〜!」
ジオン艦隊「ええ…ナニコレ…」
〜一方その頃〜
地球連邦艦隊「ロシア地域に降下して地上の友軍と連絡とるで〜」
TNOソ連「ファッ!?なんか降りてきたこいつら、よく見たら人間だぞ!?」
地球連邦降下部隊「こいつら連邦軍じゃねえ、ソビエトだ!?」
カルダシェフ「(報告を聞いて)ファッ!?宇宙人じゃなくて未来人だったの!?しかも戦争中!?やべえよやべえよ…」

〜今回のまとめ終わり〜

執筆陣紹介①:うねる蛇
今回のこの小説の投稿担当。
実は別に投稿している「Red Flood × 宇宙世紀(仮)」は、この小説を皆で書いている途中でうねる蛇が思いついた副産物。
実はRFの方がTNOより好きだし、そもそもhoi4よりステラリスの方が好きである
今作においては原稿のうち3〜4割を担当しており、投稿するにあたって他の人の原稿の校正・修正・加筆なども担当している。

第二話(ソビエト以外の全主要勢力の話)は11/24(金曜日)に投稿される予定です。
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