福田首相「うーん、とりあえずドイツと提携して邦人保護を実行しつつ、大東亜会議では友好的接触を試みるって言っておくか」
共栄圏各国「俺たちも万が一のために軍を派遣しますぜ」
↓
鷹野姉妹「あの未確認飛行物体について何か知ってるでしょ」
飛鳥真「いや何も…親も帰ってこないし…」
↓
ジオン技術本部「さてはこれ並行世界の地球と入れ替わってるな!?やべえよやべえよ、報告書大至急書かなきゃ…」
↓
日本艦隊「一体何が起こってるんだ…」
↓
ドズル「並行世界とか聞いてねえよ…一旦兄貴達に相談しよう」
キシリア「(困惑)」
ギレン「並行世界の弱体な地球なら統治の役に立ちそうだな」
デギン「…」
↓
絹江「議員に粘着してスクープゲット!あれ、何この写真?なんで私の弟がこんな娘と一緒に!?」
↓
ガルマ「うちの国分裂しすぎやろ」
シャア「まあ大丈夫じゃね」
シャア「そういややけに敵兵力が少ないけどどうなってんだよ」
ガルマ「並行世界の地球になってしまってる可能性があるんよ」
シャア「えぇ…()」
↓
賀屋前首相「青色船団(連邦)とアメリカが接触したから、そいつらと戦争中らしいもう片方の船団と接触するで」
キシリア傘下の諜報機関「ナニコレ…とりあえず上司に送っておこう」
〜前回のあらすじ終わり〜
今回はTNOソ連出身の様々な人物がメインのお話です。
よろしければ高評価・お気に入り登録・感想お願いします。
コロニー衝突36時間後 ソビエト社会主義共和国連邦 中央シベリア ノヴォシビルスク基地
ソ連空軍によって保有・運用されている戦闘機・輸送機が多数配備されている、シベリアでも有数の大型軍事基地たるノヴォシビルスク軍事基地。
いつもならば忙しなく様々な航空機が発進しているが、今日に限ってはそれもなく厳重な警戒体制が敷かれていた。
いつもの三倍近くの数の衛兵達が基地内外をパトロールしており、物々しい雰囲気が基地周辺を覆っていた。
この基地にある空き兵舎の一つ。
今回のこの警備体制が敷かれた原因たる宇宙からの訪問者達は、その中で現在待機させられていた。
ソ連の軍人達によってこの基地に護送された彼らだったが、事情聴取が終わったのがつい2時間前のことで、それ以降は仮の寝場所としてこの空き兵舎を与えられ、以降は暇を持て余していた。
「それにしてもロシ…ソビエトの方々ももう少しマシな寝場所を与えてくれればなあ」
ヘンケンの部下の一人がそう呟くと、他の面々も少なからず頷く。
彼はタイムスリップが起きていると一番最初に気づいてヘンケンに進言した最若手の男性隊員であり、どうやらもう少し良い待遇を期待していたようだ。
無理もない。
一度も地球の土を踏むことなく生涯を終える可能性の高い彼ら宇宙生まれにとって、地球というのは人類の起源である以上に憧れの地である。
そのため、地球のあらゆるものを自ずと脳内で実態以上に美化してしまうのは彼らの悪い癖であった。
「ここは仮にも軍事基地だ、そういうわけにもいかなかったんだろうよ」
ヘンケンがそう言い、兵舎内はしばしの沈黙に包まれる。
その沈黙は、兵舎の外からソ連軍の兵士が二人入ってくるまで続いた。
「”ヘンケン・ベッケナー”はいますか?」
「それは私です、どうしました?」
「あなたとの会談を要請している方がいます、ついて来て下さい」
二人の兵士はそう言ってヘンケンについてくるように促す。
ヘンケンはとりあえずその二人の言う通りにして兵舎を出る。
しばらく滑走路の上などを歩き、基地の中央にある一際大きな建物にたどり着く。
兵士二人に促され中に入り、しばらく廊下を歩く。
たどり着いた部屋には、二つのソファと一つの低めの机が置いてあった。
ソファの一つに座ったヘンケンは、その後ろに立つ二人のソ連兵に質問する。
「一つ伺ってもいいでしょうか」
「どうしました」
「その、私との会談を要請している方がいると言いましたが、それは一体どなたの事でしょうか」
「それは僕だ」
最後の声が二人の兵士のものでないと気づいたヘンケンは前を向き、そして驚愕した。
無理もない、かつて士官学校に通っていた頃、座学の時間に読んでいた宇宙科学の教科書で何度も見た偉人、ニコライ・カルダシェフが目の前にいたのだから。
しかし彼はこの後のカルダシェフの発言にさらに驚くこととなる。
「僕はニコライ・カルダシェフ、このソビエト社会主義共和国連邦の
この時同席していたカルダシェフの秘書は、後にこの時のヘンケンの様子についてこう語っている。
「”開いた口が塞がらない”とは、正にあの時のような人の状態を指すのだろう」と。
コロニー衝突37時間後 ソビエト社会主義共和国連邦 中央シベリア ノヴォシビルスク基地
「それにしても…」
しばらくして落ち着きを取り戻したヘンケンが、飲みかけのコーヒーを机に置く。
「驚きました、まさか我々の世界で宇宙科学の教科書に乗る程の偉大な学者であった貴方が、この世界ではソ連の最高指導者になっているとは」
「もしあの時ジダーノフの”超先見的社会主義”運動に参加していなかったら、一介の学者だった僕がこんな政治の舞台に躍り出ることなどなかっただろうからね、まあ正直君の驚きはわかるよ。それに、」
カルダシェフもまた、自分の飲み干したコーヒーカップを机に置く。
「僕ら地球の住人からしてみても、君たちの未来、いや世界の話は驚くことばかりだ。ブハーリンではなくその…”スターリン”とやらが権力を握った旧ソ連が連合国と共にドイツに勝利し、その後長年にわたってアメリカとの二極対立の冷戦を繰り広げたとはね…」
「私としても、あの”ナチスドイツ”をはじめとした枢軸国が第二次世界大戦で勝利したと聞いて、心底驚きました」
しばらく基本的な歴史知識や、今回の異常事態についての情報の交換に努めたカルダシェフとヘンケンは、今回のこの事態について、『コロニー落としの影響によって
後々二人は、この仮説が正しいことを確かめるに至るのだが、今はまだその時ではなかった。
「ヘンケンさん、様々な情報提供ありがとうございます。とりあえずこの事態が落ち着くまでソ連国内にあなた方が不自由なく滞在できるよう、担当部署にも掛け合ってみますよ」
「本当にありがとうございます、カルダシェフ閣下」
「いやいや、あなた方は実質国賓同然ですから、このくらいは当然のことですよ、ではまたいつか」
そう言ってカルダシェフは立ち上がってヘンケンと握手をした後、兵士たちに目配せをしてヘンケンを護送させた。
ヘンケンが部屋を去って暫く経ち、今度はカルダシェフの秘書とヴァシレフスキーが入室する。
「どうだったカルダシェフ、あの未来人…いや、別世界人と話してみた感想は」
「なるほど、これは確かに値千金の情報ばかりだ。だけど、」
カルダシェフはそこで深呼吸をする。
その顔は、どことなく悩ましげだった。
「一つ扱いを間違えれば、この新ソ連内外で大惨事を招きうる、爆弾のような情報も多すぎる……これら別世界由来の情報を扱うにあたっては、細心の注意を払わなければならないね…」
この発言の意図を説明する前に、まずは現在のカルダシェフ政権がどのような地盤の上で成り立っているかについて語らなければならない。
かつてカルダシェフは老いて先の短いジダーノフの後継者争いにおいて、様々な部署へ役に立つ技術の提供と引き換えに協力してもらうことで、ライバルのウラジミール・チェロメイの党内における影響力をほぼ皆無にして勝利を手にした。
しかし、それらの部署とはあくまで一時的な協力しか取り付けることができておらず、カルダシェフ政権の持続にはもっと強力な地盤の確保が不可避であった。
そこでカルダシェフは、ジダーノフ時代には遠ざけられていた様々な派閥たち、その中でも特に協力体制の築けそうなものに目をつけた。
共産党内ではかつて極東の統一を成し遂げた”サブリン派”、かつてジダーノフ派と一時的な共同戦線を張っていた”極左派”。
赤軍内ではかつて中央シベリアを武力で統合した”ヴァシレフスキー派”、ジダーノフ政権との統合を承諾した”ジューコフ派”。
これら四つの派閥を彼は中央に呼び戻し、共産党や赤軍の中枢に彼らを再び登用するのと引き換えに、彼らとの同盟関係を構築することに成功したのだ。
彼らとの協力体制あってこそ、カルダシェフは旧ジダーノフ派を左遷させることができ、彼らの推し進めていた倫理規範や常識の欠けた様々な人体実験・社会実験を中止させ、それにより人民からもかなりの支持を得られるようになったのだ。
しかし、今回ヘンケンから聞き出すことのできた、彼らの世界のソ連の実情は、一歩間違えればそのカルダシェフ政権の基盤を根底から揺るがしかねないものであった。
チェロメイなどの所属していた旧来のジダーノフ派とは別に、カルダシェフがさまざまな理由のために手を組まなかった派閥というのももちろん存在する。
かつて失脚した党内の”正統派”、赤軍内でも随一のタカ派であり、世界革命達成のためにソ連の軍事政権化も問わない”軍国派”など。
しかしそれら以上に厄介な非主流派閥が一つだけ存在する。
西シベリアに根付く修正主義者たち、すなわち”スターリン主義者”である。
彼らは脆弱なブハーリンではなく、1920年代に謎の死を遂げたスターリンがソ連の最高指導者になっていれば、急速な工業化によってナチスドイツを返り討ちの目に遭わせていただろうと常々主張していた。
…そして彼らの主張の中には、こんなものもあった。
”まだ手遅れではない、スターリンの言葉に立ち返ってソ連の経済・政治機構を変革すれば、我々はドイツ人の帝国をも消し飛ばすほどの力を得ることができる”、と。
彼らの世界のソ連はブハーリンではなくスターリンに率いられ、独ソ戦に勝利した。
もしこの情報が公になれば、先ほどの主張はこの別世界情報によって裏付けを得たことになり、間違いなくスターリン主義者はとんでもないほどの支持と勢いを党内・赤軍内・人民問わず手に入れ、カルダシェフ政権を転覆し得るほどの影響力を行使できるようになるだろう。
それ程までに、今もたらされた別世界の情報は危険なのだ。
カルダシェフは根は真っ当な科学者だったが、かつてジダーノフの後釜をめぐってチェロメイと権力闘争を繰り広げた時以来培われている政治家としての面も持ち合わせていた。
それゆえに、旧ジダーノフ派同様、反遺伝学などの似非科学に染まっており、また政治的にも自分を脅かしうるスターリン主義者の存在は、その両方に警鐘を鳴らせるには十分なものであった。
「…ヴァシレフスキーさん、一つ頼みがあります。軍部内でのスターリン派を…」
「監視しとけという話だろう、了解した。ジューコフにも伝えておく」
「助かります」
二人の間で合意が交わされ、夜は明けていく。
カルダシェフと彼のソ連を待ち受ける困難は、まだまだこれからだった。
コロニー衝突41時間後 ソビエト社会主義共和国連邦 西シベリア ヴォルクタ
普段は誰も訪れないような西シベリアの辺境の雪原。
見渡す限りのその雪景色の中に、壁で囲まれた異質な建造物が立っていた。
ヴォルクタ・グラーグ。
かつてソ連国内で最大規模の強制労働収容所として有名だったその建物は、カルダシェフ政権が発布した『グラーグ囚人待遇改善法』によって囚人の過酷な労働が禁止され、以降単なる政治犯収容所として機能している。
その囚人棟の中の薄暗い独房の一つに、寝込んでいる老年の男がいた。
かつてブハーリン時代の旧ソ連がドイツの侵略を受けて崩壊した際に、ロシア中から集まった知識人が建国した、自由民主主義の中央シベリア共和国。
その議会で台頭した、四つの擬似政党のうち一角、”ヒューマニスト協会”。
かつてその代表者だった男にして作曲家、ドミトリー・ショスタコーヴィチである。
中央シベリア共和国にて貴重な知識人として重宝された彼は、その完全消滅以降その建国に関わった反乱分子として、赤軍の手によって中央シベリアの別のグラーグに収容された。
最初の数年間は病気を煩った上極寒の中の強制労働もあって死にかけることも幾多あったものの、極東からやってきたヴァレリー・サブリンが中央シベリアを掌握して以降は、強制労働こそ無くならなかったもののいくらか待遇も改善した。
囚人向けの食料はそれ以前の3倍の量が支給され、ようやく飢えに苦しみネズミなどを食す必要がなくなった。
寝る時に被る毛布も、凍え死ぬ心配がない程度の厚さの物が支給されるようになった。
何より、グラーグ外の知人と手紙のやり取りもできるようになった。
サブリン政権がジダーノフ政権に吸収された時は待遇は変わらなかったが、ショスタコーヴィチのように政治犯の中でも比較的大物だと見なされた人物は全員このヴォルクタ・グラーグに集められ、逆にそれ以外の大多数の政治犯は恩赦を受け釈放された。
ジダーノフが病死しカルダシェフが新生ソ連を継いで以降は、前述のように強制労働もストップされた。
しかしショスタコーヴィチが、自身の釈放以外に唯一望んでも受けられなかったのが、病気の治療である。
グラーグに入れられて以降、酒に溺れることは(酒が物理的に入手不可能になったため)なくなり、健康状態の悪化はある程度食い止められたものの、それでも病は確実に彼の身体を蝕んでいた。
すでに右手はあまり動かなくなり、ピアノを弾くことはもう叶わない。
時折出る咳は、時間が経つにしたがってその激しさを増している。
そうして彼は休養も兼ねて寝込んでいた、その時だった。
独房の外から誰かが歩いてくる音がした。
それはやがてショスタコーヴィチの独房の前で止まった。
ショスタコーヴィチが少し目を開けると、顔馴染みの若い看守が独房の鍵を開けているところだった。
「ショスタコーヴィチさん、起きてください。」
「こんな時間にどうしたんだい、誰か面会にでも来たのかな?」
「とりあえず、ついてきてください」
ショスタコーヴィチは起き上がり、彼のいう通りにした。
独房から出て、長い廊下を歩く。
他の囚人たちも未だ寝ている最中であり、二人がその独房の前を通っても起き上がるものは誰もいなかった。
看守に促され囚人棟を出て、吹きさらしの通路を歩いた先の部屋には、分厚いコートやブーツなどの服が机の上に畳んでおいてあった。
「それらを着てください」
これから一体何が起きるのか訝しみつつ、ショスタコーヴィチはひとまず看守のいう通りにした。
この看守はかねてよりかなり囚人に対して人道的に配慮してくれるのはこのグラーグではよく知れ渡っていたが、それにしてもこんな外行きの少し贅沢な服装に着替えさせる意味がわからなかった。
やがて着替え終えた彼は、再度看守に促されついていく。
その先はなんとこのグラーグの滅多に開かない正門だったことに、ショスタコーヴィチは驚いた。
さらに衝撃的なことに、その正門は今まさに開こうとしていた。
「ドミトリー・ショスタコーヴィチさん、あなたは最高指導者閣下の恩赦によって釈放されることになりました。」
「あの扉の向こうで、あなたを待ってくれている人がいますよ。」
看守がそれを言い終えるより先に、ショスタコーヴィチは歩き出していた。
正門を抜けて少ししたあたりで、彼は早歩きしすぎたのか転びそうになった。
しかし床に落ちる直前で、彼を何者かが受け止め、立ち上がらせた。
「大丈夫か、ショスタコーヴィチ」
ショスタコーヴィチはその声を聞くや否や顔をあげ、そして長らく会えなかった友の顔を目にした。
彼は自分同様老いていた、しかしその声は絶対に間違えようがなかった。
共にヴァイオリンを弾いたり、双方の家で談笑した日々の記憶、それらが唐突に脳内に蘇る。
「君なのか、トゥハチェフスキー…?」
「ああ、そうだ…迎えるのが遅くなったな、申し訳ない」
こうして二人の旧友は、何十年もの時を経て再会した。
かつて誰も衣食住に困ることなく、人々が調和する”本当の共和国”を打ち立てようとした理想主義者じみた音楽家。
旧ソ連において”赤いナポレオン”と呼び名のつくほどの軍事の天才であり、幾多の戦場を駆け抜け世界革命の遂行を未だ諦めていない軍国派の首領。
一見この水と油のように見える親友二人の再会が、世界に何をもたらすか、この時はまだ誰もわかっていなかった。
コロニー衝突45時間後 ソビエト社会主義共和国連邦 某所 スタフカ
ドミトリー・ウスチノフ、ゲオルギー・ジューコフ、アレクサンドル・ヴァシレフスキー、イワン・コーネフ、ミハイル・トゥハチェフスキー。
ソ連赤軍の重鎮が彼らの総司令部であるスタフカに集結した。
諸将の前にはスタフカの指揮を託されたゲオルギー・ジューコフ元帥が立っている。
「さて、諸君らを集めたのは他でもない。」
ジューコフは厳かな声で話し始めた。
「最近発生した宇宙的な異変、これに関する我々が手に入れた情報が不穏な兆候を見せている。これに対応すべく、カルダシェフ同志は新たな軍事計画を立案すべきであると考えている」
「成程、それで我々が呼ばれたわけですか……」
コーネフ元帥が話を合わせるように相槌をうつ。
「それで、具体的にはどんな軍事計画なんです?」
「ああ、地球外に存在する国家の軍隊に対抗するのが第一の目的だ。だが第二の目的は他にある……」
「ほう、それは……?」
皆が固唾を飲みながらジューコフ元帥の言葉に耳を傾ける。
「……全ての敵をぶっ潰してやる、というものだ。共産主義をさらに外へ、地球の外へと拡大する。」
「成程……悪くない」とコーネフ元帥。
「ふふふ……戦争ですか……」とウスチノフ元帥。
「ふむ……」と呟きながら考え込むのは数年前の引退後に呼び出されたトゥハチェフスキー元帥。
「素晴らしい案だ、同志ジューコフ」とヴァシレフスキー元帥。
「賛同を得られてなによりだ。さて具体的な話だが……」
「同志ジューコフ、私と君は知っているが地球外の国家についての説明をするべきではないか?」
ヴァシレフスキーがジューコフに問いかける。
「うむ、現在我々は地球外の情勢について知っている。しかしアメリカも我が国も敵ではないような強大な国家がそこにはいる。」とジューコフは説明を始める。
イワン・コーネフが口を開いた。
「……成程。それが攻めてくるかもしれないから警戒を強めよ、という事でしょうか」
「ああ、その通りだ同志コーネフ。そして地球外の国家との衝突において、我が軍には大きな優位がある」と話すジューコフに対し、
「ほう、それは?」と諸将が聞く。
「歴戦の野戦軍だ。我々は1940年代の対ドイツ戦以来戦いを続けてきた。」
その言葉に部屋が静まり返った。
「……」
「……野戦ですか」とウスチノフ。
「そうだ」
「……成程。同志ジューコフ、では敵の戦力は?どのくらいの規模だ?」と聞くのはミハイル・トゥハチェフスキー元帥。
「まず敵は未知の兵器を使用してくる可能性がある。未知、つまり我々が知る兵器ではないという事だ。」
そう続けるのはヴァシレフスキー。
「同志トゥハチェフスキー。奴らの兵器には通常では考えられないほどの破壊力があると推測される」
「ふむ……通常では考えられない、か」
トゥハチェフスキーは腕を組む。
「しかし我が国の兵器も効果がないとは言い切れません。」とイワン・コーネフが口を挟む。
「……うむ。確かにそうだが、奴らは多くの強大な兵器を持っている可能性が高い。これは重要な要素だ、同志コーネフ」
ジューコフ元帥が説明する。
「その兵器とやらはどんなものなんだ?」とトゥハチェフスキー。
「……我々も調査中だ。だがこれは米国のものをさらに強化したものに近いと科学者は言っている。つまり、宇宙の奴らは地球人に起源を持つ未来の人間だと考えられている。」
「つまり、人類が宇宙に進出した未来の世界が転移してきたという事か?」
トゥハチェフスキーの言葉にジューコフが頷く。
「そうだ。恐らくな……」
「興味深い……しかし何故……?」とコーネフが疑問を口にする。
「それはまだわからん。しかし、いずれ分かる時が来るかもしれないな」
とジューコフ。
「成程……」とイワン・コーネフ。
「いずれにせよ、警戒するに越したことはないな。そして我々は敵を撃滅しなくてはならない!そのためには新しい戦争を計画する必要がある!宇宙の連中に対抗するための攻撃作戦も必要だ!」
そうトゥハチェフスキーが主張し、ウスチノフも同調する。
「トゥハチェフスキー同志、我々はそれについても提案がある。」とジューコフ。
「……ふむ?」
「かつて我が国は核開発を成功させ、現在は核ミサイルによる戦争を可能としている。」
「その通りだジューコフ……しかしどういう事だ?」
トゥハチェフスキーが尋ねる。
「つまり、核ミサイルを中心に防衛能力を更に強力にすればよい。攻撃作戦はその後だ。」
「ふむ……具体的には?」
トゥハチェフスキーが疑問を口にする。
「ノヴォシビルスクに降りてきた宇宙船の技術を使う。この技術は素晴らしく、さらに強力な兵器を作ることができるだろう」
ジューコフの言葉に、諸将は困惑する。政府に通知されたジューコフとヴァシレフスキー以外には宇宙船の降下についての詳細がまだ伝わっていないからだ。
「……?どういう意味だ?」とトゥハチェフスキー元帥が聞く。
「ああ同志諸君、君たちはまだ聞いたことがないのか?ノヴォシビルスクに降りてきた例の飛翔体は高度な宇宙船だったんだ。ここにその技術資料がある」
そういうとジューコフはテーブルの上に資料を広げた。
「おお、これが未来の技術か……素晴らしいな」
トゥハチェフスキーが感嘆の声を上げる。
「そうだな。同志コーネフもそう思うだろう?」とヴァシレフスキー。
「ふむ……」と頷くコーネフ元帥。
「……それで、これを基に我が軍を強化できるのか?」とトゥハチェフスキー。
「ああ同志トゥハチェフスキー、その通りだ。この計画は我が軍を大幅に強化する事ができるだろう」とジューコフ。
「おお素晴らしい……ではこれを実行しましょう!」とコーネフ元帥。
「……そうだな。これは重要な計画だ」とトゥハチェフスキー元帥が賛成する。
ヴァシレフスキーも頷く。
「よし、ではこの計画を実行に移す。同志諸君、これからもよろしく頼むぞ」
ジューコフがそう締めくくった。
「はい、同志ジューコフ」と諸将は返答した。そして元帥たちの協議で
・好戦的な未来人国家「ジオン」に対する防衛計画の策定
・ジオンと敵対する「地球連邦」との協力
が決定され、作戦会議は解散となった。
…数時間後、ソ連某所のとある会議室にて、ある会談が行われていた。参加するのはイワン・コーネフ元帥を始めとする政府のスターリン主義者たちだ。彼らも最近、宇宙での異変の調査を独自に行っていたのである。そして新たに判明した情報を会議の場で共有していた。
「同志諸君、軍内での会議で、ある情報を得た」
とコーネフ元帥が報告する。
「それは一体……?」とニキータ・フルシチョフ。スターリン主義グループの指導者だ。
かつてジダーノフ政権との統合以前の西シベリア人民共和国時代、スターリン主義の解釈をめぐって対立した師匠のカガノーヴィチを逮捕して自身が西シベリアの指導者にとって変わったことは記憶に新しい。
「うむ……どうやら現在地球外には多数の国家が出現している可能性がある」
そのコーネフの言葉を聞いて多くのスターリン主義者たちが驚く。
「それはどういう……?」とフルシチョフ。
「つまり、宇宙には未知の国家があるということだ」
コーネフ元帥はそう答えた。
「……まさか地球の外に別の文明があると?」とヴャチェスラフ・モロトフが聞く。
「ああ、そうだ。最も、ジューコフは未来人と表現しているがな」
コーネフ元帥は肯定した。
「ふむ……それは興味深い」とモロトフが呟く。
「それで同志諸君、我々は彼らをどうすべきか?」とコーネフ元帥が問う。
フルシチョフの唇が動き、新たな指令を口にする。
スターリン主義者の策動、そして赤軍全体の動きによって情勢は少しずつ動いていく…
コロニー衝突から48時間後 ソビエト社会主義共和国連邦 西ロシア地域 アルハンゲリスク基地
アルハンゲリスク航空基地。第二次西ロシア戦争以降、ロシア側最大の航空戦力を格納できるこのアルハンゲリスク基地はロシアがソビエト連邦として再統一されたこともあり、より巨大で、大型の空軍基地となっていた。
整備士、パイロット、警備隊員を含めれば数千人に達し、また航空機も数十機が集まる大規模な物である。この中には当然、ベテラン・ルーキー織り交ぜた編成がなされていた。
そんなある基地の中で、ある男が写真を眺めていた。それは、写真を眺めている男を二回り若くしたような男とその他に屈託のない笑顔を浮かべた男たちが映っていた。
実は男は写真を二枚持っていて、もう一枚をめくった。そこには一枚目の写真に比べてかなり年を取ったが、顔の節々から若さと闘志が衰えていない男と、それを取り囲むように一枚目の写真と似た笑顔を浮かべる若者たちが映っていた。
「あれからもう、何年経ったのやら…」
壮年の男はそうつぶやいた。男の目には辛酸をなめた過去を追憶する感情と、それと同時に過去への懐古への念が含まれていた。彼の名は、”セルゲイ・スミルノフ”。大祖国戦争、第一次西ロシア戦争、そしてその後のロシア内戦を戦い抜いた歴戦のパイロットで、生きた軍神とも言っていい存在である。
「何をご覧になっているのですか、中佐殿。」
一人の若いパイロットがセルゲイに声をかける。
「アンドレイ少尉。帰って来たのか。」
「はい、中佐。未確認飛行物体の偵察任務の交代の時間の為、一時的に帰還しておりました。私が参ったのはその報告の為です。」
「ありがとう…少尉。」
「それとこれは未確認情報ですが、奴らはエイリアンではなく未来人だという情報もあります。」
「分かった。どれもこれも非現実的過ぎて受け入れがたいが…後々に精査することにしよう。報告御苦労…アンドレイ」
「…困りますよ父さん。ここでは『アンドレイ少尉』と呼んでくれと何度も仰っているではありませんか。まだ勤務中ですよ。」
先程「アンドレイ少尉」と呼ばれた男はそう言って肩をすくめる。
そう、彼、「アンドレイ・スミルノフ」はセルゲイの息子だったのだ。
だが、彼は公私混同せず親子の関係でも任務中は父親を「中佐」と呼んでいたのに対して、セルゲイはお構いなしに呼び捨てにしていた為にほとほと困り果てていたのである。
「そう言うな、アンドレイ。これを見てて少し感傷的になってしまっていてな…暫くは親子でいさせてくれ。これは命令だ。」
「はぁ…分かりましたよ。父さん。」
最終的に観念したと言わんばかりにアンドレイはセルゲイを「父さん」と呼ぶことにした。
「で、何見ていたんですか?そんなに神妙な顔をして。これは…昔の写真ですか?」
アンドレイはセルゲイの持っていた写真を見てそうつぶやく。
「あぁ…これは私が大祖国戦争時代に戦った時の物。そしてこれが…西ロシア戦争時代に戦った時のものだ。…もうここに写っているものは、私ともう一人別の者しかいなくなってしまったがね…」
そういう彼の表情には憐れみと悲しさが如実に表れている。
「どの戦いも酷いものだった。大祖国戦争の時は質でも量でも勝るルフトバッフェに圧倒され続け、私の戦友たちは皆、櫛の歯が欠けたように死んでいった。一人、また一人とね…それでも最後は勝てると信じていた。大義の為に戦えば勝てると。なのに結果は…お前が良く知る通りだ。」
アンドレイは、父に掛ける言葉が無かった。一体どんな言葉を掛ければいいというのか。
数えきれない喪失と、敗北と、悲哀を抱えた人間に対して。
あるのならば今すぐここに引きずり出して目の前の父に言わせてやりたい。
「私達は屈辱を忘れなかった。『東方生存圏』だか何だか知らんが、奴らの吹聴するくだらない理想の為に何千万の同胞が殺され、奴隷にされ、故郷が破壊される無力感と怒りを、消えることない怒りと憎しみ、そして祖国を解放するという使命感に変えて…。教え子や私の部下たちには『我々はいつの日か必ず勝利する。我々が勝利し、ロシアを再び蘇らせる礎となるのだ。』と教えてきたよ。それで奴らへの逆襲の時が来た。今度はこちらが準備を万全に整えていた。彼らが我々にしたように奇襲で混乱させ、練度で圧倒し、勝ち進んでいた。
あと少しでモスクワを奪い返し、高らかにロシアの復活を世界に宣言する…筈だった。」
そう言うと彼は少し目を伏せ、こう続ける。
「だが敵は我々の想像を超えていた。我々が成長したように、奴らも腐敗したとはいえ確実に強大になっていたのだ。最初の快進撃は嘘のように停滞し、敵は強力になる一方…その頃には私の教え子たちも大祖国戦争の様にみるみる命を落としていった。そして…私達は再び敗北したのだ。しかも今度は身内の裏切りという最悪の形でな。」
セルゲイはそう話すと、少し目を閉じる。
部屋には沈黙しか残されていなかった。
唯一の光源である屋根の電灯は、長い長い暗い影を落とす。
「私は普段お前に対して、『軍人とはどうあるべきか』だの、『国を守るとはなんぞや』とか偉そうなことを言っていたが…何ということは無い。…私は敗れた敗残兵に過ぎない。こんな年まで生き永らえ、日々生き残ってしまった悲しみと孤独を味わい続ける罪を背負った、哀れな男なのだ。…こんな男で失望しただろう?アンドレイ?」
そう言うと、セルゲイはアンドレイを少し見る。
アンドレイは俯き、何かを考えているようだった。
表情を察することは出来ない。
「そうですね…失望しましたよ。」
アンドレイはそう語り始める。あぁやはりか、予想通りの反応だと彼が考えていたが、
「貴方が自分をそんな風に考えていたなんて。」
セルゲイは驚いてアンドレイを見た。今度の彼は真っすぐ、セルゲイを見つめている。
「嘗て負けた?祖国を救えなかった?それも確かに、貴方にとっては重要でしょう。でもそれは貴方だけじゃない。今を生きる、全てのロシア人がそう思っている事です!あなたが敗残兵で、哀れな男だと言うのなら今のロシア人の全てがそうでしょう!それに…」
そうまくし立てた後、アンドレイは続ける。
「私にとって、貴方はいつも私の師匠であり、恩人であり、そして私のかけがえのない父親でした!忘れもしない14年前のあの日、まだ何の力も無かった私と母はドイツ軍の戦闘機に追われていました。奴らのしつこさときたら!何度も超低空で侵入しては機銃掃射を繰り返して私達の命を刈り取ろうと襲い掛かって来たんです!周囲にいた逃げ惑う人々はどんどん数を減らして、いよいよ私達の番だ…。そう思ったとき一機の空軍機が追い払ってくれた。…私達を助けたあの時の機体は、貴方のですよね、父さん?機首に『愛するホリーとアンドレイへ』。そう書かれてありましたから。」
それを言われて、彼はふと思い出す。窮地に立たされた、妻と子を救ったときのことを。
「だから父さん…貴方はあの時僕たちを救ってくれたその時から!僕たち家族にとっての、いや今を生きる全てのロシア人達にとっての希望でもあるんです!貴方は負け犬なんかじゃない!何も恥じる事なんかない!」
セルゲイは少し目頭が熱くなった。自分のやってきたことは少しは報われた、そしてその事を息子が、家族が覚えてくれている。これに勝る喜びはあるだろうか。…どうやら息子は彼の知らない内に成長していたようだった。
「そう言ってくれてありがとう、アンドレイ…いや、アンドレイ少尉」
きっと彼ならば自分や仲間たちの思いを継いでくれる人間に、軍人になるに違いない。そうセルゲイは思った。
コロニー衝突51時間後 ソビエト社会主義共和国連邦 某所
ソ連某所のある隠れ家で、ロシア人反共レジスタンスの幹部達が会議をしながら夕食を取っていた。
会食に参加していた一人であるイヴァン・スミルノフが反共義勇軍残党の抵抗活動についての報告を終えたところで、別の幹部が彼と彼の親友のアレクサンドル・メドヴェージェフを呼び出した。
「同志メドヴェージェフ。同志スミルノフ。私達の最高司令官のセルゲイ・ブニャチェンコからの通達だ。我々が今いる都市では、ゾーヤ・ヴァシレヴナ・フョードロヴナという女性が、我々のために戦う用意を整えている。私と君等で迎え入れろとのことだ」
と幹部が話す。
「彼女のことは知ってます。スティーブ・スミス氏のロシア旅行で雇われたガイドですね」
メドヴェージェフはうなずき、抵抗組織の同志が彼女を説得してくれたに違いないと確信する。
彼の記憶では、ゾーヤ・ヴァシレヴナ・フョードロブナは何年か前にロシアを旅行したアメリカ人がガイドとして雇った人物だったはずだ。
「そうだ。同志の1人がゾーヤ氏に接触したんだ」
と幹部もそれを肯定し、
「ゾーヤ氏がここにいるのなら、是非会いたいな」
とスミルノフが呟く。
ロシアが統一され、アメリカで出版されていたスティーブの旅行記「ツンドラを越えて」がソ連領内でも"検閲"された状態とはいえ手に入るようになってから、ゾーヤはちょっとした有名人になっていたからだ。
「では明日、ゾーヤに会いに行くことにしよう。同志も、よろしいですね?」
と組織幹部が聞き、
「私は構わない」
とメドヴェージェフ、
「明日が楽しみだ」
とスミルノフが答える。
かつてペルミが”アーリア同胞団”を名乗る親ナチカルトに占拠された時、彼らに対する抵抗組織を率いていたメドヴェージェフと、その親友でありかつてオネガにいたロシア人反共義勇軍の生き残りのスミルノフ。
反共レジスタンスたる彼らの闘争はまだまだ続く。
いつの日か、マルクスやレーニンの遺産から人々を解放することを夢見て。
コロニー衝突57時間後 ソビエト社会主義共和国連邦 中央シベリア カンスク
カンスク会議場。
かつて50年代に中央シベリア共和国が崩壊した際に武装蜂起を起こした無政府主義勢力”シベリア黒衛軍”が使っていたこの会議場。
彼らがロシア国内の再統一戦争中に壊滅した今は放棄され、朽ちるままに任されているとソ連の公式記録に載っているこの建物において、密かにある会議が開催されようとしていた。
「同志の皆さん、本日は急な招集にもかかわらず、ここにお集まり頂きありがとうございます」
議場の円卓に集まった面々が、今の発言の主にしてこの会議の招集者である男に目を向ける。
「今回は現在進行中の重大事態、すなわち”異星人事件”について重大な進展があったため、その情報共有を目的として同志の皆さんを招集するに至りました。」
今話しているこの男こそ、かつて極東においてヤゴーダの抑圧的な政権に反旗を翻し、ロシアファシスト党などの白軍系勢力の跋扈する極東を赤旗の元で統一し、ジダーノフ政権に合流して以降も共産党内の改革派の顔を務めている男、ヴァレリー・サブリンであった。
今このカンスク会議場で開かれているのは、彼をはじめとしたソ連の改革に肯定的な派閥に属する重要人物たちの緊急会合であった。
「ここに集まった同志の中でも一部の方は知っているかもしれませんが、二日ほど前に多数の物体が宇宙から中央シベリアの雪原に飛来しました。そしてその中から出てきた異星人方を、同志ヴァシレフスキー傘下の第三戦車師団がノヴォシビルスク基地まで護送したのです」
ここで言葉を切ったサブリンは、円卓に座った面々の顔を見回す。
彼らの反応は明らかに驚愕に満ちた表情をしている者達もいれば、そこまで動揺していない者達もいた。
おそらく元からこの情報を知っていたか知らなかったかによって綺麗にその二つに別れたのだろう、そこまで考えたところでサブリンは再び話を再開する。
「…今から、彼ら”異星人”から聞き出すことができた諸々の情報をまとめた書類を配布したいと思います。これは本来NKVDのまとめた極秘資料ですが、ある特定のルートを通じて特別に入手することができました。そういった事情から、どうかこの会議場の外には持ち出さず、またこの会議の終了後は即時に返却をお願いします。」
そういってサブリンは自ら円卓の面々に資料を配り、彼らが読み始めたのを確認して席に着く。
彼らは最初怪訝な顔をしていたが、読み進めるうちにやがて再度驚愕の表情へと変わって行った。
無理もない、とサブリンは思った。
彼だってその書類の中身を最初は信じがたかったのだから。
「驚いたわ…異星人ではなく、枢軸国が敗北した別世界の未来人だなんて…」
書類を一通り読み終えたあとにその驚きの声を挙げたのは、”極左派”の代表であるブハーリナ。
かつてソ連を率いていたブハーリンの娘である彼女は、その知名度と優れた政治手腕を活かし、またたく間に自身の派閥を作り上げた。
一度ジダーノフ派に裏切られ失脚した彼女だが、カルダシェフ政権の手によって派閥ごと復権、再び彼女は権力の階段を登り始めていた。
「まさかこのようなことが……」
そうつぶやいたのは、サブリンが円卓に呼び集めた政治家の中でも特に大物であるソビエト連邦首相、ニコライ・ルイシコフ。ジダーノフとは結びつかない人物だったが、ジダーノフの死後党中央の采配によって出世し、現在の地位にまで上り詰めていた。
「同志ルイシコフ、あなたならこの事態をどう捉える?」
ブハーリナがニコライ・ルイシコフに問いを投げかける。
それに対し、彼はやや思案してから返答した。
「まず、この資料を判断することは容易ではないでしょう。異星人との遭遇、という事象自体は把握しておりましたが、さすがにここまで詳細な情報を報告したものはありませんでした。」
「……それはつまり、我々が新たな手がかりを得たという事でもあります。彼らの世界ではソ連でスターリンが権力を得てドイツに勝利したと資料にありますが、それはスターリン主義者がその世界では成功したということです。我が国のスターリン主義者からも学ぶべきものがあるのでは?同志諸君。」
ニコライ・ルイシコフはそうブハーリナに返答すると、「それは後で議論するとして」と言ってサブリンの方へ向き直った。
「問題は、彼らが宇宙人ではなく未来の地球からやってきた存在だということです。状況が我々の手に負えないものに変わってしまうという可能性は?同志サブリン、それについて何か情報はありますか?」
ニコライ・ルイシコフにそう問われたサブリンは、少し思案したあと口を開いた。
「その可能性は、現時点では限りなく低いと考えています。というのも、我々が持つ情報を見る限りでは、彼ら自身は我々から危害を加えられない限り積極的にこちらへ危害を加えるつもりはないようなのです。それどころか、彼らは我々のソビエト連邦にも興味を持っているようでした」
サブリンはニコライ・ルイシコフにそう答えたあと、続けてこう付け加えた。
「さらに言えば、もし情報が本当であるならば……彼らの世界ではスターリンの支配体制は1950年代に終わり、ソビエト連邦自体も2000年を迎えることなく滅亡しています。スターリン主義的システムの導入によるリスクも鑑みるべきでしょう。それに……」
そこで一度言葉を切って、サブリンは続けた。
「我々にできることがあるとすれば、それは彼らがこの世界に馴染めるよう環境を整えてやることだけでしょう。」
サブリンはそう言うと円卓の面々を見渡す。
やがてニコライ・ルイシコフが口を開いた。
「なるほど……わかりました。では同志サブリン、あなたの判断を信じましょう。同志ブハーリナもよろしいですね?」
「ええ、構いません。」
そう答えたブハーリナや、その他の会議参加者の顔からはもはや動揺の色は見られなかった。
サブリンは彼らの顔を一通り見つめた後、おもむろに口を開く。
「では今回の緊急会合はこれで終了とさせて頂きます。最後に結論を」
サブリンがそう宣言すると、円卓の参加者が1人ずつ挙手し、それぞれが似通った結論を導き出した。
「同志達の意見はまとまったようですね」
まるで図ったようだと苦笑しながらサブリンがそう言うと、ブハーリナは頷いて口を開いた。
「では私からですが……結論を申し上げますと、彼らはソ連という国家自体に興味を持っていました。つまり、今のところは彼らとの友好関係構築を優先するべきでしょう。そしてそのためにも、我々「改革派」による党と連邦の柔軟な改革の継続が必要となります。」
ブハーリナがそう発言すると、他の参加者達もそれぞれに賛同の意を示した。
ソ連邦のもう一つの派閥、改革を目指す有力者達も動き出していた…
コロニー衝突63時間後 ソビエト社会主義共和国連邦 スィクティフィカル
その日もミハイル・スースロフは仕事に没頭していた。
彼はずっと前に左遷された人物であり、重要でない仕事の処理に当てられていた。
彼はかつて共産党内の”正統派”のリーダーであり、赤い枢機卿と呼ばれていたほどの恐るべき政治手腕で有名な人物だったが、ジダーノフに権力争いで負け、以降ずっとこの閉職のままであった。
机に置かれた電話が鳴った。
「ミハイル・スースロフですね?」と受話器の向こう側から声がする。
「そうだが……」スースロフは慎重に答える。
「ソ連邦のために重要な話があります」と相手は言った。
スースロフは絶句した。何が起こるというんだ?
「今から君のオフィスに人を派遣します。」
電話が切れてすぐ、ドアが開いたと思うと男が入ってきた。
「ミハイル・スースロフですね?」男は尋ねる。
「そうだ」とスースロフは答えた。
男は何かが書かれた紙切れを差し出す。
「君は……誰だ?」とスースロフは尋ね、紙切れをちらっと見た。
そしてすぐに内容を理解した。
ここから近い小さな飲食店の名前と住所だ。
「これはどういうことだ?」と彼は尋ねた。
一体何が起こっているんだ?こいつは何だ?
男は既に部屋から立ち去っていた。
スースロフはためらったが、その日の務めが終わると、紙切れに書かれている店を訪れていた。
彼は周囲を見回した。
その店の中は混み合っており、店員たちは忙しそうに働いている。
「お一人様ですか?」と店員が尋ねられ、スースロフは頷いた。
彼はテーブルに案内され、座るよう促された。
彼はネクタイを緩め、椅子にもたれかかった。
「さて……」と深呼吸し、彼は呟く。
何が起こっているんだ?
誰がここに呼んだんだ?
店員の一人が彼の前にグラスを置いた。
「何になさいますか?」と彼女が尋ねる。
それに答え、しばらくして、料理が運ばれてくる。
スースロフは考え込んだまま、それを口に運んだ。
普通の食事に誘ったってわけじゃないだろう……だが何のために?
彼は必死に頭を働かす。
その時、誰かが目の前に現れた。
スースロフは驚いて顔を上げた。
「失礼……」と相手は言う。「遅れてしまった」
その男はきちんとした身なりをしており、口元に笑みを浮かべている。
その特徴的な体型と顔は、明らかにニキータ・フルシチョフ。
ソ連政府内のいわゆる「スターリン主義者」のリーダー格だ。
その男が何か危険なことをしようとしているのか?一体なぜここに呼ばれた?
スースロフは混乱していた。
「一体これは何なんだ?」スースロフは尋ねた。
「何か重要な話でもあるのか?それとも単なる偶然の一致か?」
彼は勇気を振り絞って尋ねた。
「いいや、ミハイル・スースロフ同志。私はあなた個人に興味を持っています。」とフルシチョフは笑顔で答える。
「どういう意味だ?」と彼は尋ねる。
「私はあなたに個人的な提案をしたいのです」とフルシチョフは続ける。
スースロフは戸惑い、グラスをテーブルに置き、相手をじっと凝視する。
「提案?」と彼は尋ねる。
「あなたに提案があります」とフルシチョフは繰り返した。
スースロフはしばらく沈黙していた。
フルシチョフはゆっくりと話し始めた。
「もちろん、あなたが不安になるのは当然です。しかし、同志よ、私はあなたを高く評価しているのです」
「私を評価しているだって?」とスースロフは尋ねる。
フルシチョフの顔は真剣だった。
「そうです」と彼は答えた。
「ミハイル・スースロフ同志、あなたにお願いしたい仕事は特別なものです」
スースロフは黙っていた。彼の心臓の鼓動が速くなっていた。
フルシチョフは彼に微笑みかけた。
「同志よ、あなたが今置かれている状況をよく理解しています。もしあなたが私の提案に従えば、この国にとって非常に重要な存在として生き残ることができるのです」
「重要な存在?」
「そうです」
「我々はあなたの能力に非常に興味を持っているのです。あなたはこの国にとって極めて重要です、同志」
「我々の計画に参加していただければ、あなたはこの国の未来において重要な役割を果たすことができるでしょう」
スースロフはしばらくの間考え込んでいた。
フルシチョフが言っているのは政府に対する謀略を共に行い、その見返りに重要ポストに就けてやるという提案だ。多くの危険と機会を含むこの提案を前にスースロフは悩み…
…そしてゆっくりと口を開いた。
「わかりました、いいでしょう……」
フルシチョフは頷きながら微笑んだ。
「ありがとうございます、同志よ」
〜今回の話まとめ〜
ヘンケン「俺と面談したい方って誰だ?」
カルダシェフ「それは僕だ」
ヘンケン「!?!?!?」
↓
ヴァシレフスキー「カルダシェフ、どうだった?未来人の話は」
カルダシェフ「爆弾みてえな情報が多すぎる、とりまスターリン主義者達を監視しといて」
ヴァシレフスキー「了解した」
↓
ショスタコーヴィチ「ゲホッゲホッ」
看守「今日を持ってこのグラーグから釈放ですよ〜」
トゥハチェフスキー「迎えにきたぞ、友よ」
↓
赤軍「ジオンなどの未来人対策の防衛計画を策定するぞ〜」
コーネフ「…だ、そうです、同志フルシチョフ」
フルシチョフ「なるほど、じゃあ俺たちスターリン主義者もそろそろ動くか」
↓
セルゲイ・スミルノフ「私はなんと哀れなんだ…自分ぐらいしか生き残れなかった…」
アンドレイ・スミルノフ「そんなことないよ!!!」
↓
反共レジスタンス「有名な人物が仲間に入ってくれるってよ!やったぜ。」
↓
ソ連改革派「俺たちもそろそろ動くぞ」
↓
フルシチョフ「俺たちの仲間になれ!」
スースロフ「…ok」
〜今回の話まとめ終わり〜
あとがきキャラ解説
スミルノフ親子(セルゲイ・スミルノフ、アンドレイ・スミルノフ):
TNO世界においてソ連空軍の戦闘機パイロットを務めている親子。
元ネタはガンダム00の同名パイロット親子。
セルゲイの方は第二次世界大戦の東部戦線、西ロシア戦争、およびロシア全体の群雄割拠だった頃を戦い抜いた大ベテランで、生きた軍神とすら呼ばれることもある。
アンドレイの方は新米パイロット。
この世界においては、西ロシア戦争においてホリーとアンドレイ両名がセルゲイに命を救われているため、親子仲は原作と違いかなり良好。
次回の第七話では日本とジオンが中心の話で、ついにこの二つの国が接触を果たします!
どうかお楽しみに!