その冬を超すため、秋の実りをしっかりと楽しみ
そして、蓄えるのが当たり前の風景だ。
スイートポテトドラゴンは、世界で最も肥沃な穀倉地帯の街に巣を構えている。いや、正確に言えば、巣というよりも、その巣の姿は大きな大きな領主のお屋敷だ。
「…うん、まぁ、今年の燃料の備蓄も順調。姉さんたちのお陰で穀物もよく育っているし、品質も良い」
帳簿を片手に、人の姿で頭を悩ませながらも、世界の貯蔵を管理するのが彼女の仕事。そのためか、他のドラゴンとは大きく違って、彼女は一年中起きて仕事を行っている。
「サツマイモも例年通り…の収穫量ね。これなら姉達も満足する、かな」
彼女の主な仕事は2つ。彼女が巣を構えるこの街は、スノードラゴンの巣穴に近い街である。世界の中でも特に厳しい冬を超えられるように街の備蓄の管理を、春先から細かく調整する事がまず一つ。
そして、穀倉地帯の恵みか、街では消費しきれないほどの食料が採れる。そのため、その余剰分を世界に向けて配分し、冬に向けて人々が無事に冬への備えを行えるように調整することが、彼女のもうひとつの大きな仕事だ。
「今年はそう…ね。報告からすると…さくら姉の都には100万、すいか姉の村には10万ぐらいは備蓄を送るとして…あの王国には50万…で、報告にあった川沿いの街…あそこは田畑が水害を受けてるからちょっと多めに…で、かわりに特産の炭をこっちに送ってもらって…あとは海の干物と…あ、弟からは干し肉を分けてもらって…。あ、そうだ。帝国には建築資材でお世話になったお礼に鱗を数枚…」
トントンと頭を叩きながら、眉間にしわを寄せる彼女。食料の備蓄はあるし、燃料関係も街は十二分に蓄えがある。だが、世界を見ればどうしてもバランスが悪いところがあるのだ。それを調整するのも、また、世界を回すドラゴンである彼女の役目。と、その時だ。部屋のドアが数度叩かれた。
「どうぞ」
「領主様、失礼致します」
ドアを開け、間髪入れずに見事な礼を見せたのは、この屋敷の執事である初老の男性。その手には、菓子と茶が携えられていた。
「そろそろ、ご休憩なさってください。根を詰めすぎでございます」
ちらりと窓の外を見る執事。つられるように窓の外を見ると、太陽が天高く上がっていた。確か、仕事を始めた時はまだ外は暗かったはずなのに。
「…もうこんな時間!?。うわぁ…仕事しすぎた。ありがとう、じいや」
「いいえ。とんでもございません」
ドラゴンはぐーっと背を伸ばして、椅子にもたれかかる。その間に、執事は手早く茶と茶請けを机の上に置いた。
「本日の茶は都の紅茶でございます。桜フレーバー入で非常に人気の高いものです」
「ん」
「そして、茶請けですが、こちらは今年のサツマイモでございます。石焼きでじっくりと仕上げておりますので、お楽しみいただければ」
「ありがと」
どこか、姉のような受け答えをしながら、ドラゴンは茶を口に含む。紅茶の苦味と甘味、そして、さくらの柔らかな香りが、眉間の皺を解していた。
「ふう…落ち着いた。ありがとう。それにしても」
コト、と茶を置いて、一息ため息を吐いた。
「今年の夏も暑かったわねぇ」
「ええ。左様にございますね。その分作物がよく育っております。領主様の姉君が頑張りすぎたのでしょうかね」
「ああー…そうね。まぁ、頑張りすぎたというか…どちらかというと」
今度は石焼き芋を皮ごと頬張る。ほっくりとした触感と、やさしい甘みに、その顔が綻んだ。
「きっと、スイカと海産物がとても美味しかった、と言ったほうが正しいかも」
と、その時だ。窓を、暖かな風が揺らしていた。それを感じ取ったドラゴンは、不意にため息を吐く。
「これは…姉さんの。ああ、そう。今日で完全に夏が終わったかぁ。じゃあ、私も少しだけ」
そう言いながら窓に近寄り、開け放つ。そして、大きく息を吸って、それを大気の風に載せた。
「お見事な爽籟でございます」
背中にかかるのは、執事の優しい声。ドラゴンは、外を見たままの姿で、言葉を続ける。
「ありがとう。さて、これからもっと忙しくなる。手初めに、今年のさつまいもの出来はどう?」
「例年通り。ああ、ただ、昨年頂きました姉君の赤い鱗により、土壌が改善されたためか、糖度が高く仕上がっております」
「そ。じゃあ、いつもの通り広場に集めるように」
「承知しております。今年も、行うのですね」
窓から目を離した彼女は、くるりと体を回して、執事と面と向き合った。
「ええ、もちろんよ。秋の収穫祭。備蓄ももちろん大切だけど、せっかくだもん。面白おかしく秋を楽しまなくっちゃ」
笑顔を浮かべて、ウインクを飛ばす。この街では毎年おこなわれてきた秋の収穫祭。領主がドラゴンの姿で現れ、この街特産の芋を喰らう様を見ながら宴会をするという、大層盛り上がるお祭りなのだ。
そう、この街の、この領主こそは、秋の季節を司る「スイートポテトドラゴン」
秋だけではなく、豊穣を司ると言われている彼女の姿を収穫祭で拝むことが出来さえすれば、一年、食うに困ることはないという話である。ただ、毎年、別のドラゴンが乱入してそれはもう、収集のつかないお祭りになったりもしている。
「ところで、姉君は…」
「…うーん、流石に来ないと思うよ?去年、あれだけ言い聞かせたんだから」
肩をすくめたドラゴン。だが、そんなドラゴンに聞こえぬよう、執事は小さくため息を吐いていた。
「確か、今まで一度も効果がなかったように思いますが」
「何か言った?じいや」
「いえ、何も。では、私めは失礼いたします」
■
亜麻色の髪の毛を靡かせながら、スイートポテトドラゴンは街を闊歩する。彼女は長年、人の姿をとっているため、角も尻尾もうまい具合に隠されている。ただ、亜麻色の髪の乙女という存在がこの街には一人しか居ないので、その正体は誰しもが知るところとなっている。
「ドラゴン様。ご機嫌麗しゅう」
「や、呉服屋の主人。調子はどうだい?」
「お陰様で。農夫向けの服が飛ぶように」
「それは良かった」
「よろしければ一着、仕立てましょうか?ドラゴン様」
街の人に声をかけられながらも、自らが収めるこの街を視察していくドラゴン。この声をかけている呉服屋の親父も、数世代前からこのドラゴンの領主の元で暮らす、民の一人だ。
「そうだな。また今度時間を取って来るよ」
「ええ。ぜひぜひ!しっかりと頑丈な服を仕立てさせて頂きますとも!」
「領主様!こちらへこちらへ!」
「どうしたんだい、女将さん」
「新作のお菓子が出来たんですよ!栗とサツマイモを使った甘いお菓子です」
女将さんがささっとドラゴンに近寄り、お盆を差し出す。そのお盆の上には、小さなつやっとしたお菓子が置かれていた。それを、ドラゴンはひょいと口に含む。
「お、これはおいしい」
それは、ある世界では羊羹と呼ばれるもの。栗とサツマイモが練り込まれ、あまーく作られたそれは、ドラゴンの頬を緩ませる。
「女将さん。これ、収穫祭には出すのかな?」
「ええ、もちろんですよ!新作で出させて頂く予定です!」
「あはは、そりゃよかった。私だけが楽しんでちゃあ悪いぐらい美味しいもん。きっと、姉さん達も喜ぶよ」
ドラゴンの言葉に、女将さんは首を傾げた。
「領主様。確か、昨年の収穫祭で『姉さんたちは早く寝てください!もう来ないで!』と仰ってませんでしたか?」
「あー…。まぁ、言ったんだけど」
ぽりぽりと、バツが悪そうな顔をするドラゴン。そして、苦笑を浮かべると。
「私の言葉なんて関係なく、食い意地張ってきっと今年も来るからさ。それと、これって結構長持ちする?」
「ははぁ。確かに、あのご姉妹でしたら…。ええと、常温であれば冬までは持つかと思います」
冬まで。それを聞いてドラゴンは嬉しそうに頷いて、数枚のお金を女将に手渡していた。
「そっか、じゃあさ、何個かとっといて」
「これは…」
女将は目をパチクリとする。受け取ったお金は、お菓子の対価としては多すぎるものだった。
「いや、そのさ。さくら姉さんは冬になると絶対、弟にも会いに行くから、お土産にね」
「ああ、なるほど。承知致しました」
「それと、女将さんのところは冬の支度はどう?順調?」
「ええ、それはそれはつつがなく。食料、燃料。一冬をゆうに超える量を確保できています。これも全て、領主様…ドラゴン様のお陰です」
■
この街の成り立ちも、都や村と同じ。ドラゴンが人と交流して出来た街である。ただ、他の街と違うことと言えば、そのドラゴンが街を治めているという点に尽きる。普通は自らの季節が終わると巣に戻る、というのが定説であるのだが、この土地独特の風土がそれを変えさせた歴史がある。
その大きな要因として、あまりにも、スノードラゴンの巣穴に近すぎたのだ。
肥沃で豊かな土地と言われている都よりも、多くの穀物が育つこの土地は、出稼ぎ労働者が春から秋まで穀物を育てて大変賑わっていた。のだが、冬になると大雪が降り、大寒が襲いかかり、冬の季節は人間が一人として生きていけない、そんな厳しい土地であった。
そして、厳しい冬が終わり、春になると数多くの人間がやってきて、そして秋になるとともにドラゴンがやってきて、ドラゴンと人間は実りを祝い、秋の祭りを最後に誰もいなくなる。それが、太古から続くこの街の伝統であった。ただ、それに否を呈したのがスイートポテトドラゴンだ。
このスイートポテトドラゴン。現在、領主を務めて、そして世界の人々のために働いているわけで、人間の事は「さくらどらごん」以上に大好きであり、愛着を持っている。
ただ、この土地は人が定住しない土地。毎年人は集まるし、賑わいを見せるが、数年でその人間たちは入れ替わり、昔からの顔見知り、親友とでもいうべき人間が出来ることはなかった。
あまつさえ、土地を去る時期を誤ると、死人すらでた年もあるのだから、必要な金を稼ぎ終わった人間は、二度とこの大地を踏まなかったのだ。
ただ、姉弟達はみな顔見知りの人間がいるらしく、毎年毎年楽しそうにそれをスイートポテトドラゴンに話すものだから、彼女の理性が、ある時ついに我慢の限界を迎えていた。
「私だって人間ともっと仲良くなってもっともっとお祭りとかお話とかしたいんだ!」
そこからの行動は早かった。春、人が来ると同時にドラゴンも目覚め、そこから人間のために様々な知識を与えたのだ。厳冬のこの土地での作物の保存方法、暖かな家の作り方、燃料の確保の仕方などなど。最初は苦労もした。死人も出た。ただ、ドラゴンの熱意と、彼女の気持ちに寄り添いたいという人間の熱意。その2つが合わさった結果、長い年月を経て、その努力が結晶化し、生まれ出来た街である。
そして今ではドラゴンは一年中ずっと眠らず、ずっと人間と共に春夏秋冬を過ごす唯一の街に発展している。そして、一年中ドラゴンがいる街ということは、世界が知るところとなり、今では多数の国、街、村との取引が行われ、世界有数の農業、商業の街となっている。
■
秋雲が高く高く空を彩り、吹き渡る風も涼しさから寒さを感じ、山の木々が彩られた頃。この街の収穫祭が始まる。街には数本の大通りがあり、街の中央には、それらの起点である大広場が作られている。
そして、その大広場には、大量の秋の恵みが集められていた。無論、備蓄とは別の、この収穫祭のために準備された、いわば余剰の作物や、山の恵達である。
加えて、広場から伸びる大通りには軒並み露店が並び、呉服屋の親父や、菓子屋の女将の姿もあった。
「皆、収穫祭の準備ご苦労。今年も一年、この街はどこの都よりも、豊かな暮らしが出来たと、私は信じている」
その広場の中央には、領主であるスイートポテトドラゴンが胸を張り、そして、高らかに声を張り上げていた。
「冬に向けての準備も十二分に出来た。コレも全て、皆のお陰だ。改めて感謝の意を表したい!」
ドラゴンがそう言い切ると、街中から歓声と、拍手が大きく湧き立った。その人々の顔には、皆、笑顔が浮かんでいる。
「それでは、今年もこの豊かな土地と、そして皆の努力に感謝して!」
ぐ、とドラゴンは右手で拳を作り、掲げながらひときわ大きく、声を張り上げた。
「収穫祭を、始めよう!呑めや、歌えや!金は私持ちだ!好きに大いに!騒いでくれ!」
そして、そう言うと同時に、領主はドラゴンへと姿を変えた。大きく開かれた翼からは、秋のさわやかな風が巻き起こり、世界の季節を塗り替えていく。
『領主様!こちらこそ一年ありがとうございます!』
『スイートポテトドラゴン!我らが英雄!我らが守護神!』
『領主様!ドラゴン様!スイートポテトドラゴン様!恵みに感謝致します!』
秋風を浴びながら、人々は大いに声を張り上げた。これが、ドラゴンと人が目指し、作り上げたこの街の伝統的な光景である。
■
ドラゴンの姿になった領主、スイートポテトドラゴン。もちろん、その姿で祭りを盛り上げるという道化師の役割もある。だが、それ以上に大きな役割として、人々から恵みを献上されるという役目を負っている。
「ドラゴン様!今年の、山の恵み、ぶどうにございます!」
広場には長蛇の列。この街の住民の住民だけではなく、遠方から訪れたであろう、異国の顔すら見える。
彼女は秋と豊穣を司ると言われているドラゴン。彼女に自らの作った作物、自らが狩った獲物、料理、そういったものを食べていただければ、一族だけではなく、その村、街、都、それどころか国が栄えると言われているものだから、様々なところから、彼女を尋ねる人が絶えないのだ。
ぐお、と彼女は呻きを上げながら、そのぶどうを喰らう。すると、祈るように感謝をしながら、人々は感謝の頭を垂れる。その光景はこの収穫祭の間ずっと見ることが出来、この献上品の列が無くなると、この祭りも終わりを迎えるのが毎年の風景である。
と、その時だ。遠くから、大きな風切り音が響いてきた。人々がそれに気づき、風切り音がする方向に視線を向けると、2人の大きなドラゴンの姿が見える。そして、片方のドラゴンは町外れに静かに降り立ち。
ズドォン!
と、片方のドラゴンは、その隣にズボラに落ちた。それを見たスイートポテトドラゴンは、やれやれと首を横に振る。
もちろん、静かに降り立ったのは青いウォーターメロンドラゴン、そして、落下したのは、紅葉する山々のように鱗を赤く染め上げている「さくらどらごん」だ。
『おお、夏のドラゴンは今年もいらしたのか!』
『春、夏、秋のドラゴンが今年はお揃いになった!』
『これはおめでたい!』
人々が爆発するような歓声を上げた。何せ、「さくらどらごん」は縁起物、ウォーターメロンドラゴンは無病息災、そして、豊穣のスイートポテトドラゴン。これが揃うことは、一年のうちでこの時期しか無い奇跡の時間。そして。
「にぎやか」
「ええ、楽しそうですね、姉様」
自然と人の姿になったドラゴン達は、大通りを堂々と歩き、大広場へと姿を見せた。
『グルル』
「きたよ」
「そんな邪険にせずとも。スイートポテト」
来るなって言ったよね?寝ろっていったよね?そう言わんばかりに秋風を姉妹に吹きかけるスイートポテトドラゴン。だが、全くそれを意に介さずに、2人のドラゴン達は大きなドラゴンの横にちょこんと人の姿で座っていた。そして、おもむろに、ドラゴンに献上されていた石焼き芋を掴み、ぱくりと行く。
「おいもおいしい」
「やはり、秋の味覚はこれですね」
『グルル…』
不機嫌そうなスイートポテトドラゴンであるが、その目はどこか優しく2人を見つめていた。なんだかんだで姉妹の再会を喜んでいるようだ。
■
ドラゴンが3人揃ったことによって、いよいよ収穫祭は盛り上がりを見せる。昼間はもちろんだが、夜になれば火が焚かれて、皆が思い思いに騒ぎ立てる。酒を飲み、歌い、ドラゴンの姉妹を微笑ましく見守りながら。
「いやぁ、やはり、あの姉妹は美しいですなぁ」
「ええ。領主様も、さくら様も、すいか様も。皆、人間のお姿は芸術品のように美しく、ドラゴンの姿は雄々しく美しい」
「本当だよなぁ。ああ、我らは幸運だ。この場に、居れるのだからな」
ちらりと酒を飲みながら、皆はドラゴンの姉妹の笑顔を見守る。姉を甲斐甲斐しく世話をするすいかのどらごん。仕方ないなと呆れながらも、雄大な翼を広げて彼女らを守るかのように動かない領主。そして、そんな2人に見守られながらもぐもぐと食べ続けている「さくらどらごん」。
今食べているのは、新作のお菓子だ。女将が丹精込めて作った羊羹。痛く気に入ったようで、ちまちまと、大切そうに食べている。
「さくら様が食ってるありゃあ…お菓子屋の新作か?」
「ああ、異国のお菓子を参考にしたらしい」
「ほお。ならば、俺も食ってみるかな」
「お前何いってんだ。甘いもん苦手だろ?」
「苦手だがな。あんだけ美味そうに食われたら気になるだろ。それに、肖っておきたいしな」
「違いねぇ」
はははと笑い合いながら、酒を酌み交わす街の人々。
「良い街ですね。スイートポテト」
「ほんと。よいところ」
『グルル』
それらをツマミに、ドラゴンたちも、美味しく秋の味覚を楽しんでいる。
■
収穫祭もいよいよ最終日。スイートポテトドラゴンは大きく息をすって、今年最後の秋風を世界に届ける。すると、それに答えるように、木枯らしの冷たい風が山から吹き下ろし始めた。
「さて、皆々様。いよいよ今日で収穫祭も終わります。いよいよ、厳しい冬がやってきます」
ドラゴンから人に戻ったスイートポテトドラゴンは、姉達を両脇に置いて、再び広場で声を張り上げていた。
「ですが、大丈夫。収穫祭が大いに賑わいを以って終えられたように、きっと、ことしの厳しい冬も、喜びとともに乗り越える事が出来るでしょう」
それを人々は静かに聞いていた。「さくらどらごん」も、ウォーターメロンドラゴンも、静かにその言葉を受け入れている。
「街の皆様、いえ、この祭りに来てくださった、この祭りに来れなかった、全ての人間の皆様に感謝を。―今年も、ありがとう」
街を見渡すスイートポテトドラゴン。人々の顔をよく見れば、もう、何世代にも渡ってこの街に住み着いている人間や、何世代にも渡ってこの街に来てくれている人間の顔が見える。まさに、理想の街だ。ドラゴンは、少しだけ目を瞑り、思いを馳せる。
そして、再び目を開くと、両手を天に掲げながら告げる。
「また来年。楽しいお祭を共に過ごせると、そう信じています」
三姉妹は腰を曲げ、頭を下げ、深々と気持ちを表した。人々は、それを、暖かな拍手で迎えるのであった。
■
収穫祭の後片付けが行われている街を離れ、三姉妹は街の入口へと集まっていた。お互いの街の人々の話に花が咲きつつ、談笑をしていた彼女らであるけれど、傾き始めた太陽を見て、スイートポテトドラゴンは佇まいを直していた。
「じゃあ、姉さんたち。私は館に戻るよ。すいか姉さん、今年も来てくれてありがと。さくら姉さんも」
「うん」
「ふふ、ええ」
「でもさ、来年こそはしっかり巣に戻って、季節で寝るんだよ?」
「やだ」
「来年も、また来ますから。安心してくださいな」
「いやー、そういうわけじゃなくてさー。…ま、いいか」
諦めたようにスイートポテトドラゴンは肩を竦める。
「で、すいか姉さんはいつも通り?」
「ええ、私は巣に戻るわ。寒いのは苦手だから」
ふふふ、と笑うウォーターメロンドラゴン。
「そっか、じゃ、また来年だね」
「ええ。ああ、でも、おいもの一つでも持っていきたいわねぇ。美味しいから」
「あはは、あれだけ食べたのに?で、さくら姉さんはどうするの?」
スイートポテトドラゴンがそう言いながら目配せをすると、「さくらどらごん」は、遠くに見える、夏でも雪が溶けない、高い高い雪山を指さした。
「あいに、いく」
ピンク色を髪を靡かせ、赤く染まった角と尻尾を靡かせながら、「さくらどらごん」はそう言い切った。
「そっか、やっぱりね」
「ひとりだけあわないの、さみしい」
「うんうん、判ってる。じゃあ、これ、持って行って。弟へのお土産なんだ。あ、すいか姉さんの村の干物と、さくら姉さんの都のお茶も入れてあるよ」
「さくらどらごん」にスイートポテトドラゴンは丈夫そうな袋を渡していた。
「ん、わかった。おみやげ、わたす」
「よろしくね。じゃ、そろそろ」
「ええ。ではさくら姉様。またいずれお会いしましょう。スイートポテト、また来年にね」
「またね」
「うん。じゃ、また来年」
そして、3姉妹は、各々の行き先へと歩みを進めた。夏のドラゴンは、海の村の近くの巣穴へ。秋のドラゴンは、自らの街へ。そして、「さくらどらごん」は。
「おなべ、たべたい」
雪山に待つ、冬を楽しみに。