東方の女の子がいちゃいちゃしたりいろいろするシリーズ   作:石転法師

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蘇我屠自古:かわいい怨霊。何だかんだ言いつつ青娥が大事。
霍青娥:かわいいクソ仙人。あまり信じてもらえないが屠自古は大事に思っている。
アリス・マーガトロイドさん:かわいい被害者


怨霊が邪仙に勝負服を選んでもらう話(前編)

「勝負服。それはつまり、カチコミに行くための武装を整えてくれ、と?」

「違うわ! 私より日本語詳しいくせに何言ってんだ」

 これだからこの邪仙は。屠自古はぶつぶつと何万回も唱えた呪言を再び繰り返す。

 されど、これだからこそ、この邪仙に頼むのだ。

 

 蘇我屠自古は日本が飛鳥と呼ばれた時代に生じた怨霊だ。それから千と四百年近くもの気が遠くなる年月を、かつての主君が転生して目覚めるまでずっと待ち続けていた過去がある。

 そして、その時まで屠自古が怨みを拗らせすぎないようにとずっとケアし続けていた存在が居た。

 それが霍青娥。今、縁側でのんびりと緑茶をすすっているこの女だ。彼女こそ、主君が仙人を志し、その過程で命を落とす事になった元凶である。

 

「私はそのいつものお召し物でも可愛らしいと思ってるわよ?」

「かっ……そういう話じゃないんだよ、分かるだろ。分かれよ」

「さあ? 私は豊聡耳様とは違うので」

 あるいはその豊聡耳神子、人の欲を読める主君よりも腹の内を読めるくせにこのような事を言う。これは意地悪でもあり、楽しみの一つでもある。

「その……その太子様とかと今後、お出掛けするかもしれないだろ。その時にこんな札がベタベタ貼られた服じゃあホラ、アレじゃん」

「ドレですか。ソレ、貴方の制御に必要なのは重々承知よね?」

 青娥は屠自古が今着用しているワンピースのスカート部分と幽体の足を指差す。人でもあり、亡霊でもあり、その本質は怨霊。その絶妙な調整は死人の扱いに長けた邪仙の業の見せ所だった。

 ただ、制御していてもやっぱり幽霊は幽霊だ。ちゃんと生身の体がある他者と気軽に人里を歩けるものではないのだが──。

 

「……ま、実際そこは私に掛かればどうとでもなるけど。屠自古さんの精神もあの頃より成長してますし」

「だろ? だからさあ、良い服見繕ってくれよ。そういうのはお前が一番得意だろ」

 というのも、屠自古が他に頼める相手といえば当の神子に、自身を殺めた狂人の物部布都、キョンシーで脳が腐っている宮古芳香と錚々たるメンバーが揃っている。じゃあもう人形(死体)遊びが好きな奴に頼むしかない。

「でもねぇ、私が屠自古さんのおノロケに付き合うメリットは?」

「逆に聞くが、私と一緒に買い物行くのは嫌か?」

「ハイハイ、そのような事があろうはず御座いませんわ」

 重ねて言うがこの二人は千四百年の付き合いだ。かつて仙人になる夢の為に家族をも偽って捨てた青娥が、見捨てる事なくずっと見ていた存在なのだ。

 じゃあ何でちょっと渋ったかと言えば、屠自古の反応を引き出したかったから。青娥は良くも悪くも人が大好きなのである。

 

「お茶請けが無くなったら出発で宜しい? 義骸なら用意があるから」

 ここで言う義骸とは生前の屠自古を模して作った肉人形。今風に言うなら屠自古の遺髪からクローン培養した肉体で、実際の運用としてはほぼ着ぐるみに近い。

「そりゃ準備の良い邪仙で結構。時間はいつでもいいぞ。お化けの時間は無限大だ」

「貴方が良くてもね、普通の人は暗くなったらお家に帰ってご飯とお酒を嗜んで寝るだけなのよ」

「分かっとるわ。お前が常人の一日を語るようじゃお終いだぞ。私は人生が終わってるけど」

「はい、お後が宜しいようで。自分で言ってたら何の世話も無いわね」

 布都に騙されて死に、それを知って暴れ狂った時の屠自古も本当に遠い日の記憶となった。あまり過去を振り返らない青娥もこの時ばかり昔をしみじみと思い出しながら、残り少ない冷えかけのお茶を飲み干すのであった。

 

 

 

「セクシー系かしら、それともキュート系。いや、クール系も……」

 あんまり乗り気じゃないけど行ってあげる、みたいな雰囲気はなんだったのか。

 青娥は本当に真剣な表情で洋服のカーテンと睨めっこしていた。

 現世からは隔絶された幻想郷の人里にも、流れ着いた近代のファッション誌から情報を得て洋服を仕立てている店はあった。

 ただ、ここの住民は基本的に和服を好むので在庫は余りがちで、ほとんどアンティークショップと化している。すなわち勝負服探しにはまさに宝の山というわけだ。

 

「なあ青娥、あんまり露出が多いのはちょっと……」

「何を言ってるの! せっかくの綺麗な体をお見せしないなんて歴史的損失よ。それをご理解してらっしゃらない⁉」

「太子様を差し置いて私が歴史に載れるか!」

 まあ蘇我の一族もしっかり家系図が伝わっているのだが、問題はそこではない。全身ブルーでクールビューティな印象の青娥がとにかくヒートアップしているから大変なのだ。

「屠自古さんねえ、器量良し、スタイル良しの自覚あります? 持っている武器は有効活用するべきよ」

「あのな、太子様が並大抵の女じゃピクリともしない理由分かるか? お前が年がら年中ゆっさゆっさ歩き回って目が肥えてるからだぞ」

 青娥もかつては妻であり、子供がいた。その母性の象徴は今も全く萎まず暴力的なボディラインを作り上げている。

「私が魅力的なのはその通りですけど、だからって貴方の魅力が下がるわけじゃないでしょ。人の価値は相対じゃなく絶対評価であるべきよ」

「……私にその価値があると?」

「だからそう言っているでしょうに。私だって全世界の人間を見てきた上で褒めてます」

「ふ、ふーん……」

 要約すればお前も顔良くておっぱいもケツもデカいんだから自信持て、であり完全なセクハラなのだが、屠自古もすっかりのぼせ上がっていた。邪仙のトークにはそういうおかしな力がある。

「だからね、もっとこういう攻めたデザインの服とか……」

「うわわ、これじゃほとんどはみ出ちゃうんじゃんか。でも、これで盛り上がるんなら……」

 もはや服の体を成してない布切れの前で二人が熱くなっていた、そんな時である。

 

「……煩いと思ったら。貴方たちって、こんな所に居て良いの?」

 互いに熱々となってしまえば外からじゃないと冷ませない。自浄作用というべきか、神的な視点からのバランス感覚が働くのか、もっと言うならこの話は全年齢向けだ。

 とにかく、冷や水を差せる人物もこの洋服屋に訪れていたのだった。

「あん? アンタは……初めてだよな?」

「アリス・マーガトロイドさんね。魔法の森に棲んでる人形師の」

「なるほど、魔女か。そりゃ私の雰囲気も感じ取るわな」

 本人も西洋人形のようなふわふわな金髪とドレスに身を包んだ少女、アリスの魔法人形は当然だがハンドメイドだ。人形が手製ならそれに合った服も手製になる。だから参考の為にちょくちょく里の服屋を見に来ており、そのタイミングでの不幸な遭遇だった。

 

「里を騒がせる不良仙人と、そちらは見せかけの体こそ有るけど亡霊……いや怨霊の類かしら? 昼間から出てきて良い場所じゃないわよ」

「蘇我屠自古だ、よろしくな。夜じゃ営業してないし、こいつが盗んでいきそうだから仕方ないだろ」

「ぬーすーみーまーせーんー。私でも盗む対象は選びますぅ~」

 邪仙なので絶対に盗まないとは言わない。彼女が使える壁抜けの力はまさに泥棒向けだ。青娥に言わせれば盗まれるのは対価を支払う価値が無いから悪いのである。

「……はあ、魔理沙以上に話が通じそうにないわね。ここのお店は贔屓にしてるから、変な事したら巫女にでもお祓いしてもらうわよ」

「それは安心しろ。私は悪い怨霊じゃないから」

「そうですよ。この青娥娘々が保証しますわ」

「そうね、何も安心できないけど」

 邪仙の善人保証など誰が信用するものか。もっとも、幻想郷基準では何かちょっと融和的な発言をするだけで善人判定だったりするのだが。ちょっと諍いの生まれた相手と弾の撃ち合いをするような者でもだ。

 

「……それで、そのほとんど下着みたいな服はそっちの邪仙さんが着るのかしら?」

「いや、あの……私だけど」

 改めてこれを着た自分の姿を思い浮かべてしまった屠自古はしどろもどろに答えた。

「嫌々なの? 親でも人質に取られてる?」

「とっくに死んだわ。千四百年ぐらい前に」

「ご、ごめんなさい。失言だったわ」

 天然でこれが出たのなら逆に大したものである。言われた怨霊本人も苦笑するしかなかった。

「……ええと、でもね、貴方はもっと落ち着いた服が似合うと思うわよ」

「違うのよ、屠自古さんったら勝負服を選んでほしいなんて言い出してね。イメージ通りの服じゃダメなの」

「勝負服って言うと、意中の相手を一撃で仕留める為の、アレ?」

「そうですね。狙った相手を誘惑して発情させてにゃんにゃんうっふんなアレです」

「確認しなくていい!」

 確かにそういう服が欲しいとは言ったが、自分がそういう女だとは思われたくない、複雑な乙女心である。

「まあ、お相手が誰だか知らないけど、引かれないように気を付けなさい」

「今更ですよ、私なんて年中引かれてますし」

「自覚してるのなら死体を連れ回すのやめなさい!」

 今は亡霊の人形だが、青娥が普段連れているのは脳が腐った死体だ。これでいつもよりマシなのだが、もちろんどちらも止める気はない。

 

 それからも、店内をうろうろ。

 青娥が推した背中の開いたゴスロリ服で顔を真っ赤にしての一悶着。いろいろあって、ようやく一着に定まってきたのだが。

「……うーん、やっぱりちょっとしっくり来ない。これはこれで一応買うけど、痒い所に手が届かないというか」

「流通が限られてるものねえ。本当に探すのなら幻想郷から出ないと」

 やはり隔絶された里の服屋では品揃えもたかが知れている。本気で求めるならば結界の外だ。壁抜けの邪仙にかかれば博麗大結界を出入りするのもそう難しくはない。

 ただ、問題は幻想郷の管理者に睨まれる事にあって、そこにメリットなんて何も無いのだ。

「でもなあ、そこまで遠出してピンと来る物がある保障も無しと」

「じゃあ特注する? ここの店主にお願いして」

「いや、こんな札だらけの義骸を見られるのはな。事情が分かってる奴が良いんだけど……」

「事情が分かってる、お裁縫が得意な人ねえ……」

 屠自古と青娥の顔がゆっくり、ゆっくりと同じ方を向こうとしていた。

 非常に良くない流れだ。その視線の先に居た相手は、何か口にされる前に物色を切り上げて素早く立ち去ろうとした、のだが──。

 

「アリスさぁん、ちょーっとお願いがあるんですぅ」

「何も言わずに逃げようなんて、魔女だからってちょっと薄情じゃんよお?」

「分かったから、ほっぺたを擦りつけないで!」

 

 白羽の矢が立ったのは言うまでもなくアリス・マーガトロイド。不審者だからって話しかけてしまったのが運の尽きだった。両サイドから肩を組まれ、顔は真横に、もう逃げられない。

 時折魔法の森に迷い込んだ遭難者ぐらいしか招待されないらしいアリスの家に、この日は二名の珍客が押し入る事になるのだった。




にゃんとじ流行れ
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