東方の女の子がいちゃいちゃしたりいろいろするシリーズ   作:石転法師

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邪仙ちゃんと一緒に勝負服を買いに行く事にした蘇我屠自古。
そこで偶然出くわしたアリス・マーガトロイドさんを巻き込むことに成功したのであった。


怨霊が邪仙に勝負服を選んでもらう話(後編)

「まずね、魔法使いっていうのは善意でやってるわけじゃないの。それは理解してる?」

「でもアリスさん、里でよく人形劇を披露してますよね?」

「あれは、私が、子供の喜ぶ顔を見たくてやってるの。自分のためよ」

「素直に子供が好きだからで良いじゃんよ。面倒なヤツだな」

「うるさい」

 入り口には衛兵代わりの等身大人形、棚には人形、テーブルにも人形。とにかく人形だらけのマーガトロイド邸。ただ可愛いだけでなく、これが全部アリスの制御で糸も無く動くのだから驚きだ。

 そのテーブルの空きスペースに、メイド服の上海人形が紅茶を運んでくる。何だかんだ言っても来客を持て成さずにはいられない、それが淑女たるアリスなのだった。

 

「……私が言いたいのはね、タダ働きはしないって事よ」

「それは勿論。その道のプロには然るべき報酬を用意致しますわ」

「強引だったのは謝る。そして引き受けてくれるようで感謝するよ」

 屠自古も元は貴い身分である。口調に反して品のある礼に、アリスの表情も少し柔らかくなった。

「そうね、貴女も仙人なら素材は集めているかしら?」

 青娥は体をずいと前に乗り出した。

「丹砂に薬草に爪、羽、牙……いろいろ有りますよ。アリスさんなら石膏とか綿とか染料の方が嬉しいかしら?」

「……死体弄りが趣味だからそっちも揃えてるわけね。丹砂と、人形作りに使えそうな物が欲しいわ。もちろん死体じゃない方の人形よ」

 仙人と魔法使い。道は違えど目指す所の一つに不老不死があるのは共通だ。

 術の為、実験の為、使う物が被る事も多く、その辺りは互いに奪い合いとなっている。ましてやアリスの場合、近所に強欲な白黒の魔法使いが住んでいるので尚更困っていた。

「じゃあ服代プラス手間賃として、これとこれを……」

 青娥が脚に結んでいる白紙の札を一枚、メモ帳代わりに達筆で書き込んでいく。

「もう一声。あれも追加で……」

 アリスも覗き込んであれこれ言っていく。魔女にとって契約とは呪いにも等しい。だから納得できるまでしっかりきっちりと。

 

「……では交渉成立と。じゃあ屠自古さん、後はごゆっくり」

「貴女が言う事じゃないでしょ。それで怨霊さん、どんな服がいいの?」

「ああ、その、それなんだが……」

 屠自古が目を逸らした、その先に居るのは青娥だ。しきりに何度も目を合わせて無言で何かを訴える。

「えー、ここまで来て私が邪魔とかありますぅ?」

「あるんだよ。お前にごちゃごちゃ言われると私の本当に欲しい服がブレる」

「服を見繕えって頼んだのは貴方じゃないのー」

 口を尖らせて上目遣いに体を寄せる。美貌と甘い香りで幾人をも落とした青娥の十八番だ。

「ぐ、そうなんだけど、それはそれとして……」

「……仙人さんにも楽しみにしてもらいたい?」

 あまりにもじれったいので、見るに見かねたアリスが助け船を出した。

「そうそう、それ! だからお前は素材取りに帰ってろよ。その間に打ち合わせしとくから!」

「んもう、そうならそうと素直に言えば私も楽しみにしたのに。屠自古さん、言葉はもっと丁寧に」

「はいはい分かりましたよセンセー。じゃあ後はやっとくからそっちも宜しく」

 青娥は若干納得いかない表情を浮かべながらもアリスの家を出ていった。

 

 では改めてとお茶を淹れ直し、屠自古とアリスは向かい合う。

「さて、あの悪いお友達にも知られたくない服って、どんなのをご希望なのかしら」

「いや、友達ってわけじゃなくて腐れ縁と言うか……まあ一応師であって恩人ではあるんだけど……」

「はいはい仲良しで結構ね。それで、可愛い系かしら? 仙人さんもそれ推しだったものね」

「うん、可愛い系というか清楚というか……いや、ごめんちょっと待ってくれ」

 屠自古は突如として立ち上がった。

 まさか、お茶の飲みすぎで生理現象を催した、いや幽霊でそんな事はあるまい。アリスが思索している間に屠自古は怒り肩で窓に寄り、バンと開け放った。

「聞き耳立てんな!」

 怨霊お得意の雷をバリバリと鳴らして怒鳴り散らす。

「あら~、屠自古さんも随分と勘が鋭くなって娘々嬉しい……」

「いいから行かんかい!」

「はいは~い」

 壁抜けと盗みも得意な邪仙らしくしっかり盗み聞こうとしていた。それではサプライズも台無しだろうに、興味本位が上回っていたらしい。だが、僅かな間でも照れる屠自古の声が聞けたので青娥的にはそれで良しであった。

 

「……すまんな、話の途中で」

 気を取り直して、お茶を一口。叫ぶと喉が渇くのは幽霊でもそうらしい。

「あの仙人さんの事、よく理解してるのね」

「やめて。とにかくだな、私が欲しい服の話だよ。まず色は薄い緑で……」

「貴方のイメージカラーね。それから?」

「それから……こう、フリルのスカートになってて、上下一緒で……」

 屠自古は奥歯に物が挟まったような言い方だった。本当はもっと、一言で言い表せる単純な服ではないのか。論理派のアリスもこの時ばかりは乙女の直感が働いていた。

「ねえ、怨霊さん。今更恥ずかしがるのは止めにしましょう? 笑わないから、貴方が求めている物をはっきり聞かせてちょうだい」

「……分かった、分かったよ。だけど、絶対に他には漏らすんじゃないぞ」

「心配ご無用よ。貴方の事を話すような相手なんて居ないも、の……」

 自分で言っておいて、自分の社交相手の少なさにちょっぴりダメージを受けるアリスであったが、それは屠自古には全く関係無い話である。

 屠自古はまだ邪仙を警戒しているのか、アリスの近くまで顔を寄せてひそひそと、とても分かりやすい注文を付けるのだった。

 

「……あらぁ、それはそれは」

「おい、笑わないって言ったよな?」

 血も涙も無さそうな幽霊の顔が熟したリンゴのように真っ赤になっていた。

「もちろんよ。ただ意外だっただけ」

 空気が物理的にピリピリしているのを感じるので、アリスもギリギリ笑っているとは判定されない笑顔を屠自古に向ける。

「なるほどねえ……実物は知っているし難しい物じゃないから、数日で完成すると思う。それでいいかしら?」

「十分すぎるよ。頃合いになったらこっちから取りに来るから宜しく頼む」

 実質無職の暇人ゆえか、自信満々に豪語するアリスからは確かな頼もしさを感じた。人形ばっかりで等身大の服を繕うのは久々、しかもそれが業の深い一品ともあれば、アリスと言えどおかしなやる気が湧いてくるのであった。

 

「じゃあ採寸ね。あっちの部屋に行きましょうか」

「お、おう。それは良いんだけど、えっとな……」

「文字とお札だらけなんでしょ。だいたい察しが付くから安心なさいな」

 魔女の呪いも似たようなものである。だからそれぐらいで動じたりはしない。

「それなら良いけど……目を焼かれたくなかったらあんまりジロジロ見るなよ」

 烏帽子を外し、衣服の帯を緩める。これが死者だと誰が信じるであろう艶やかな身体をさらけ出す。

 身体ならば青娥にだってメンテナンスでいくらでも見られているが、サイズを測られるのはやはり一定の恥ずかしさがある。もう実体の無い幽霊なのにと言われようと、屠自古は変なところで人間臭く、死者には成りきれないのであった。

 

 

「ただいま戻りましたよ~。どうです、服は出来てますか?」

 青娥は両手にパンパンの手さげ袋姿で戻ってきた。これだけなら買い物帰りのおばちゃん、もとい若奥様である。

「……出来るわけないでしょ。貴女が出ていってからまだほんの数刻よ」

 針と糸を置き、アリスが出迎える。荷物の量から考えれば早すぎるくらいだ。どうせ邪仙らしくワープ染みた抜け穴でも使っているのだろうが。

「でも、シンデレラの魔女とかは杖の一振りで服が出たりしてましたよ?」

「あれはお話よ。現実と一緒にしないでちょうだい」

 ただ、出来ない事はない。それでも他人にジャストフィットした服を着せるのは神業の域で、現実的な魔法ではない。

「ダメよ、幻想郷暮らしで現実とか言っちゃ。貴方も不思議の国のアリスよね?」

「貴女だって確か、中国の昔話か何かの人でしょ」

「はい、はい、はい。そこら辺にしとけ」

 聖徳太子の4人いた妻の1人に名前だけ似てる人な屠自古が窘める。魔女も仙人も、昼間から見える亡霊も、どうせ全員ファンタジーだ。こういうグレーゾーンには触れないのが無難、白黒付けるのが仕事の幻想郷の閻魔だってそうする。

 

「……んで、その袋、明らかに食材も入ってるよな? ここで飯にする気か?」

「そうそう。良い時間だし、一食ご馳走するぐらいは感謝してるのよ」

 袋の中にはジャガイモ、ニンジン、タマネギ。そして恐らく豚だと思われる肉。これだけで大体メニューは予想できる。

「カレーかシチュー、もしくは肉じゃが? 邪仙にしては中華料理でもなく、随分と庶民的ね」

「魔女に鍋料理で挑むのも面白いでしょう。でもそういう事を言われると、この丹砂で水銀シチューとか作りたくなってきたんですけど」

「ちなみに、同じような事を言った布都って奴は一日中吐き気を訴えて寝込んだと言っておく」

「……失礼。じゃあ勝手知らない台所だろうし私も手伝うから」

 無論、異物が混入しないように見張る目的もある。アリスはエプロンを2着取り出して片方を青娥に手渡した。

 作る料理はもちろん水銀が入って……いない普通のシチュー。その味はアリスも遠い昔に離別した家族の記憶を思い起こす程、家庭的な母の味だったそうな。

 

 

 

「やあ屠自古さん、今日は私のお買い物に付き合ってもらえません?」

 それから数日、一通りの家事をやり終えた屠自古が、一生実行する気のない布都への復讐を妄想して畳の上でふよふよ漂っていた時であった。幽霊以上に地に足の付いていない邪仙がひょっこりと目の前に現れた。

「おう、一週間ぶりだな。また死神が襲ってきたか?」

「そうなのよ、本当にしつこかったわ~。逃げに逃げて、最終的には北海道! せっかくなのでお寿司屋さんとか回って来ちゃいました」

「ちゃっかり観光とは、流石は邪仙だな」

「たぶん向こうも牧場で美味しい物食べてたと思うわ。ちょっと乳製品の香りがしてたもの」

 仙人には長生きの代償として定期的に地獄から試練を課す者が訪れる。邪仙の悪名高い青娥はその命の狙われ方も半端ではなく、そして彼女はそれを全部くぐり抜けているのだ。

 

「それで、私を守ってくれてた芳香の服もボロボロになっちゃってね」

「なるほどな、だから服選びに付き合えと。まあこの前は私が付き合わせちゃったし構わんよ」

「ふふ、ありがと。今からでも大丈夫?」

「問題無い……いや、ちょっと時間が欲しいな。待てるか?」

「どうぞどうぞ、私は勝手にしてるから」

 そう言うと青娥は戸棚から煎餅と急須を引っ張り出した。勝手知ったる他人の家とは言うが本当に自由な仙人である。

 どうせ泣くのは煎餅を勝手に食われた布都だからどうでもいい、屠自古はそれ以上考えるのを止めて私室へと引っ込んだ。

 

 

「……長いわねえ」

 湯を沸かし、2杯目のお茶を飲み終わるくらいの時間が経った。それでも屠自古はまだ来ないのだった。

 待ち合わせをすると大体相手の方が先に来ている青娥にとっては、待ちぼうけさせられるのも久しぶりである。

 

(どうしよう。いざとなると恥ずかしい。変な風に思われたらどうしよう)

 それもそのはずで、本当は準備なんかとっくに出来ているのに葛藤が収まらず、部屋から出られなかったのだ。

 今更青娥にどう思われようが痛くも痒くもないはず、それどころか嫌われるような事は向こうの方が圧倒的にやらかしているのに、それでもだった。

(いいや、今の私は別の自分。その為にわざわざこんな物を選んだんだろうが)

 普段は見ても無駄な鏡に向かって自身を鼓舞する。いくら邪仙でもあんまり待たせたら悪いと、律儀な怨霊はやっと勇気を奮い立たせてドアの前に立ち──。

 

「屠自古さ~ん、もしかして成仏してないかと心配、に……」

 その前にとっくに痺れを切らしきっていた青娥が壁に穴を開ける方が早かった。だが、そこで動きがぴたりと止まる。あの流れで成仏なんてあり得ない事は分かっているが、それ以上に想定外の光景に青娥も絶句せざるを得なかったのだ。

 薄緑色の、ふんわりとしたフリル付きの半袖ワンピース。そして腰のベルトには桃の花。その服を着ているのはもちろん蘇我屠自古だ。

「あら、あらあらあら……」

 青娥も驚いた理由は単純で、色が水色でなく、羽衣が無い以外は自分とほぼ同じ服だったから。

「……ばかやろ。ノックぐらいしろ」

「え、ええ。ごめんなさい」

 屠自古は今にも化け物へと変貌しそうなほどぶるぶると震えていた。しかし見てしまったものは仕方ないので素早く部屋に入り、穴を閉じる。

 もっと別の恰好だったら面白がって他人にも広め回ったかもしれないが、今回ばかりは話が別だ。煮えたぎる溶岩のように真っ赤な屠自古を茶化そうなんて青娥だって思わない。

 

「……それを、アリスさんに頼んでたのね?」

「ああそうだよ。悪いか?」

「豊聡耳様用の勝負服だと思ってたけど、最初に見せるのは私でいいの?」

「……これは、話が別だ。お前みたいな恰好がしてみたくて作ってもらった」

 自分を想って、わざわざオーダーメイドでペアルックを。

 この事実だけで顔面が崩壊しそうな青娥であったが、これはまだまだ事情聴取せねばならぬと懸命に平常心を装った。

「とても素敵。屠自古さんがそう思ってくれてたなんて、本当に予想外だわ」

「いいだろ別に。成り行きだけど私だって一応は……仙人になろうとしてたわけだし」

 そう、屠自古も神子に付き合う形ではあるが仙道を学んだ関係だ。もし途中で様々な思惑が入り混じらなければ、青娥のように仙女の羽衣を纏って空を舞っていたかもしれないのだ。

 

「ほら、気持ちだけだよ気持ちだけ。今じゃ霊体の方が気に入ってるし、別に未練が有るとかそんなんじゃないから……」

「いいのよ、いいの。その恰好で一緒にお出かけ出来るなんて、素晴らしい日になるわ」

 もう我慢しきれず、青娥は屠自古の手を取ってぎゅっと握りしめた。誰かと同じ格好をして、それをその相手に見せたいだなんて、よほどの愛か憧れが無ければ考えない。

「う、うん……良かったよ、ドン引きしなくて安心した」

「可愛すぎて流石の私も心臓が止まるかと思ったわ」

「一回は止めたんだろ、自分で」

「そうですけど」

 尸解仙特有の冗談も飛び出し、部屋内も真夏の密室かと錯覚するくらいにはアツアツだ。こんな暑い日にはどうするのが正解であろうか。答えはさっさと外に出るべきである。

 

「行きましょ、お買い物に。待たされすぎてお店が閉まっちゃう」

「お、おう。でもやっぱり目立っちゃうかなこれ……」

「そんなの言うまでもないわ。今日のスターは貴方で決定よ」

 本性さえ知らなければ二人共に高貴で器量良しだ。きっと衆人の注目を総取りする事だろう。

「……まあ、お前も横に居れば大丈夫か。行くかね、いい加減」

 やっと決心の付いた屠自古が前進を始めた。

 まずは第一歩として部屋のドアという、心の最終防衛ラインを開け──。

 

「屠自古ー、今日の晩御飯だけ、と……じこ?」

 よりによって、いきなりラスボスとエンカウントしてしまうのだった。

 

「~~~~ッッッ‼」

 ラスボスはあまりの衝撃に倒れこんだ。

「太子様ァ⁉」

「豊聡耳様‼」

 神霊廟のラスボスこと、豊聡耳神子。邪仙の剛毛でふっさふさな心臓でかろうじて持ち堪えた可愛さである。なんか意外と打たれ弱いと評判の神子のハートでは到底耐えられなかった。

「とじこが……せいがと同じ、ふく……」

 どうも青娥とは違う理由でショックだったようだが、今はそこを気にしている場合ではない。とにかく神子の心を落ち着かせなければ二度目の死を迎えてしまうだろう。

 

「豊聡耳様も一発KOとは……どうやら一番とんでもない弟子は屠自古さんだったようね……」

「いいからお前は脚の方持たんかい!」

 屠自古は脇の下に手を回して神子を持ち上げている。そんな密着すればますます血圧が上がって危険なのだが、無自覚とはかくも恐ろしいものか。

 

 神子に向けての勝負服選びから始まった今回、屠自古は一撃必殺の威力を秘めた最強の装備を確かに手に入れてしまったのであった。




にゃんとじは良いんですよ…
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