トロいわ、悟くん。 作:狐大総統
no side
悟が意識を失うと、傑と夜蛾はあり得ないものをみたような顔をした。
「まさか、悟が負けるなんて…」
「ああ、俺も思ってもみなかったが、思っていた以上に直哉は今回の特級との死闘で強くなったようだ。」
それは当然のことだった。五条悟という男は、世界の均衡を変えたとさえされる存在。産まれてすぐに懸賞金がかけられ、呪詛師たちも幼少期の五条悟を見た瞬間に暗殺を諦めたのだ。その存在が現在は成長し、更に強くなっているにも関わらず、完敗してしまったのだから。
直哉は倒れている悟を担ぐと、付近にあったベンチへと寝かせた。
「悟くんのこと、任せといてええ?会いたい人おるから、その人んこと探しに行きたいねん」
「あ、ああ。それはいいが、会いたい人というのは誰のことだ?」
「家入硝子先輩や。その先輩、反転術式が使えるんやろ?反転術式若葉マークの俺としては、色々と質問したいことがあんねん」
「硝子なら、おそらく今は保健室で医療関連の履修中だろう。行けばすぐに会えるはずだ。」
「そら、おおきに」
直哉の発言に対し、夜蛾は了承を得ると探しているという家入硝子の場所について伝えた。
side傑
直哉が硝子へ会うべく去って暫く経つと、悟が起きた。
「体調はどうだい?」
「気分最悪だよ。身体に問題は無いが、プライドが複雑骨折を起こしてる」
悟のその物言いに、傑は笑いを耐えることに全力を注いだ。
そんなくだらないことに全力を注いでいる傑に気づかずに、悟はキョロキョロと周りを見渡すと、直哉がいないことに気がついた。
「傑、さっきの禪院家の新入生は?」
「硝子に会いにいったよ。反転術式について知りたいとかで」
悟の質問に傑がそう答えると、悟はうげーっとした顔をした。どうしたのかと聞くと、悟は答えた。
「禪院家はな、男尊女卑の巣窟なんだよ。いくら新入生が強いっつっても、性格には関係ねぇ。そもそも、術師にまともなやつはそういないけどな。さっさと硝子のとこに行かねーと、面倒なことになってるかもしれねーぞ」
それを聞いて、悟と共に保健室へと向かうことにした。
2人が到着し、そこで目にしたものは直哉が片膝をついて、硝子にライターの火を差し出している光景だった。
なぜ、このようなことになってるのか皆目検討もつかない。
「マジか、禪院家当主の息子が硝子のそば付きみたいになってやがるぜ」
「えっと、この状況はいったいどうしたんだい?」
あまりにさきほどの傲岸不遜な直哉とは違う様子に、硝子へと聞いたつもりだったが、先に直哉が答えた。
「どうもこうもあらへんよ。俺の女王様が見つかったから仕えとるだけや。」
「「なんて???」」
聞き間違いだろうか。この新入生、硝子のことを女王様と言ったか?
「ええか?俺の家では女っちゅうのは、男よりも下の立場にあんねん。俺もその家の人間やから、女を見下しとった。やけど!特級との戦闘中、俺は掴んだんや!性癖の核心を!」
(いや、さっきは掴んだのは呪力の核心と言ってなかったか?)
夏油のそんな疑問を問う間もなく、直哉は続けた。
「俺は女を見下すときに自分の中に違和感があったことは気づいとったけど、全部問題無いと思っとった。せやけど、死の間際!そんな違和感の正体が判明したんや!その正体とは…!
俺が超がつくほどのドMやってことや!!!」
直哉は誇らしげな顔をして叫んだ。
正直、もう帰りたい。悟なんて、死んだ目をしている。同じ御三家の当主の息子という立場もあって、余計に直視したくないのだろう。(なんなら、さっき悟はこのド変態に負けたのだ)
「この違和感に気づきさえすれば、あとは簡単や!ハッピーバースデーってやつやな!俺の本当の剥き出しの魂を理解したら黒閃、反転術式、甚爾くんの言ってた空を面として捉えること、概念系術式による防壁持ちの特級呪霊に攻撃を当てるために術式対象を世界へと変更すること、これらを扱うことに成功したんや!」
恍惚な顔をしながら、やっぱり自分の性癖を押し殺すんはあかんなという直哉。
もう帰ろうかな。これから頼ってくれと言いはしたが、正直過去の自分を責めたい。なんてことをしてくれたんだと。
せめて硝子に全て押し付けられないかと思い、情報収集を始める傑。
「なら、硝子に叩かれたり暴言を吐かれたいということかい?」
傑が聞くと、直哉はドン引きした顔をしながら返事をした。
「何をいうてるん、傑くん。真のドMは女の3歩前に出て、敵から守るんやで。それで負った痛みなんかを自身の誇りとするんや。ようするに、全ての行動が1人の女王様のためになることが生きがいってことやな。ただのMは社会に干されて死んだらええ」
俺は家入先輩の犬になるで!っとも発言しており、正直返答に困った。
とはいえ、特にこちらに害があるようなものでは無さそうだし、ある意味憧れの先輩に懐いている後輩?といったかたちにみえなくもない。
これは放置でいいだろう。硝子も特に困っている様子は無さそうだし、なんなら直哉にとても高額な日本酒を禪院家から持ってくるよう伝えており、直哉も硝子からの頼みに喜んでいる。
最強はやはり硝子だったのかもしれない。御三家の一つ、五条家の400年ぶりの六眼と無下限の抱き合わせに対してセンスが無いと発言し、禪院家当主の息子を犬として飼うこと?が決まり、自身は反転術式のアウトプット可能という存在。なかなかやばいな。
「そういえばクズども。このボンボン、センスないお前らより先に反転術式に目覚めたってことは最強の称号は返上か?」
ニヤつきながら言う硝子に、私は悟をからかうように返した。
「そうだね、悟は返上したほうがいいかもしれないね」
「あー?傑も反転術式つかえねーじゃん」
「悟くん、俺にさっき負けたやん。」
直哉の言葉に、悟は言い返すことができないようで、悔しそうにしている。
「まあ、最強は俺でも悟くんでも傑くんでもなくて、甚爾くんやけどな」
「甚爾って?」
先ほど私は硝子が最強だと思っていたが、直哉のなかでは別に最強がいたようだ。
「禪院家にいる天与呪縛によってフィジカルギフテッドになった人でな。めっちゃカッコいいんやで。呪力が0なのに、五感が強化されすぎて逆に呪霊が見えるし、呪具を持ったら特級なんて簡単に祓えるんやで!甚爾くんがやる気になったら、禪院家なんて一瞬で壊滅するやろなぁ」
悟に勝った直哉がここまで評するとは、甚爾というのはかなりの手だれのようだ。
「ということは、次期当主はその甚爾という人なのかな?」
「いや、ちゃうやろね。うちは呪力の無い甚爾くんを馬鹿にしとるから、ならんと思う。ほんと、どっちが馬鹿なんやろねぇ」
私の疑問に対し、直哉は否定した。
禪院家は実力主義のイメージがあったが、色々と差別的なものが多いらしい。
「ちなみに、俺の戦い方は甚爾くんの戦い方と悟くんの盾を参考にしてできあがったモノやねん。どっちも俺のなかで最強やったから、最強+最強は超最強やと思ったんやけど、実際に特級を簡単に払えたから俺の考えは正しかったみたいやね。」
「そういや、あの止める盾とか無下限を無視した攻撃とか空中移動とかどうなってたんだよ?早く説明しろよ」
「あ、説明するの忘れとったね。先に空中移動から言うわ。さっきも言った甚爾くんって人に教えてもらったんやけど、空気にも密度とか温度の違いで面があんねんな。その面を蹴るようにして移動してん」
理解できたやろか?と言われるが、そもそも見ることができないからやはり理解が難しい。
「次に無下限を無視できたのは、術式対象を悟くんに向けてたのを世界に変えただけやね。世界ごと攻撃するから、無下限を無視できてん」
次のこれはワケがわからないが、ようするに解釈によって突破できたということだろうか。
「もう、アレだな。言ったもん勝ちゲーみたいになってんな。」
「悟くんがそれ言う?無下限とか、その最たるものやろ」
悟の発言に対し、直哉が反論するが確かにその通りだ。無限の距離を発生させるというのは、ズルに感じるレベルのものだろう。
「で、最後に盾やね。あれは本来は直接相手に触らないと止められないんやけど、拡張術式を組んで俺の手が触れてる半径1メートルの世界に攻撃が入ったら自動で世界ごと止まるようにしたってだけやで。」
なるほど、だから私の呪霊の棘も悟の蒼による吸引力も世界ごと止まり、直哉に届かなかったということか。
「この盾は常に張れるようにしたいから、脳に反転術式を回し続けるって手があったんやけど、俺は六眼を持ってないから自己補完の範囲でまわせないんよね」
甚爾くんの隣に立つまでの道のりは長いわ〜と言いながら、更に強くなる方法を模索し続ける直哉を見て、私たちは少し焦りを感じた。
今のままではいけない。更に強くならなければならない。
「傑、このあと時間あるよな。少し戦闘訓練しようぜ」
「奇遇だね。私も同じことを考えていた」
なに、私達は最強なんだ。すぐにその甚爾という人など追い抜いて、誰もが最強と認めざるを得なくするさ。
当然、直哉もその過程で追い抜かせてもらうよ。
そのようなことを私は心に誓った。
超一級のドSは超一級のドMでもあるらしいですね。
ということは、実は原作の直哉も…?
まだ、夏油は闇落ちせずに少年ジャンプっぽさがありますね。
この後、どうしよう…