トロいわ、悟くん。 作:狐大総統
no side
入学して一ヶ月ほどたつと、直哉は割と馴染んでいた。
悟と傑との初対面こそ、特級との戦闘によって反転術式に目覚めたことから多少ハイになっていたが、その後は女王様を見つけたことである程度落ち着いた。
その後は七海や灰原という同級生とも親交を深め、女王様に酒を貢ぎ、悟と傑には術式の解釈について相談を受けたりなど、それなりに楽しんでいた。
だが、いくら楽しんでいても甚爾の隣に立つという目的は忘れていない。自己研鑽は欠かせないのだ。
その過程でつい先日、悟を殺しかけてしまったとしても、結果的に反転術式に目覚めたということでチャラだろう。
「それで?私が呼ばれた理由って何なの?」
直哉に校庭に呼ばれた硝子が聞いた。
「女王様には、僕の身体が反転術式を使えない状態になってしまったら、すぐに反転術式をかけてほしいんです。今からやる実験、そこそこ危険ですし、失敗したらどうなるか分からないので」
直哉が答えていると、少し離れたところから野次が飛ばされた。
「やるなら、早くやれよ。待ちくたびれたぜ。」
「というか、直哉の硝子に対する呼び方はもうそれで固定なんだね。」
「いや、2人のことは呼んでないんやけど」
そこには何故か悟と傑がおり、いまかいまかと待っていた。
「俺のこと殺しかけても危険とは言わなかったやつが警戒する実験だぜ。興味でるだろ」
「それはホンマごめんやで、悟くん。けど、そのあとに悟くんの虚式茈で俺の腕がサヨナラしたことは忘れんといてな。女王様がおらんかったら、まだ未熟な反転術式しか使えん俺は隻腕になるとこやったで」
「いいじゃないか、隻腕の直哉って異名。直哉らしくて良い異名だと思うよ」
「遠回しに厨二病って言っとる?てか、傑くんはなんで来たん?俺も悟くんも死にかけて反転術式を身につけたから、今回の実験台になって身につけようと思ったん?」
遠回しに死にかけたいのかと傑に問う。
「私は術式を伸ばす参考にしたくてね。何をしようとしているんだい?」
あと、実験台は結構だという傑。
傑の質問に対し、直哉は答えた。
「この前の悟くんの虚式を参考に、投射呪法版の虚式をやってみようと思うねん。実際には始めに踏み出す右足は反転、次の左足は順転って具合やな。」
直哉の返答に対し、3人は真面目に聞きはじめる。
「投射呪法の強みは速さに上限がないことや。これまでは反転によって初速を速くした後、順転で更に加速してたやん?けど、これやとまだ甚爾くんには見切れる速度やったみたいで、この前会ったときにコテンパンにされてん。
せやから俺は考えた!そんなら、最初の踏み出す右足を反転にして、次の左足は順転、次の右足は反転ってな具合に続ければ、そのときに右足で出せる速度は踏み出した足より速いんちゃうかということを!」
もともと、術式反転した効果は初速は速いがだんだんと遅くなる。
だが、順転を併用し続けられれば、反転したことによって徐々に遅くなっていく効果が生じたとしても、一歩前の順転によって上昇する速度の可能性と連動させることで、遅くなるはずの効果が加速するという矛盾を発生させられるのではないかということだ。
(ようするに、最初の踏み出す足は順転のMAXの速度が1秒を24fpで動ける最大距離が10mとすると、術式反転によって「24個目の動きの速度」を出力する。
2歩目は更に順転で加速。3歩目は「23個目の動きの速度」なわけだから、本来は初速より遅くなるが、2歩目の加速によって伸びた最大移動距離を20mだとすると、最初に踏み出した足の「24個目の動きの速度」よりも「23個目の動きの速度」の方が速いっつーことが起こるのか。少し俺の無下限呪術の解釈と似てるところがあるか…?)
悟は直哉のやろうといしていることを自分なりに整理すると、気に掛かった点について聞いた。
「けどよ、そのままだと投射呪法のフリーズが起こるんじゃねーか?動きを作るときに過度な軌道無視は無理ってのは直哉が言ってたことだろ。投射呪法の原則にのっとれば、別のパラパラ漫画を1ページごとに挟み込んでるようなもんだ。それって軌道無視と違うって言えるのかよ?」
「せやね。ただ、今回は問題がどんくらい生まれるのかの検証も込みやから、一度試してから考えようと思っとる。あと、術式の順転と反転によって視点が2つできるぶん、どんな感じになるか分からんしね」
直哉がそう答えると、悟は納得したようだった。
2人の会話が終わると、硝子がさきほどの直哉の話で出た人物について切り出した。
「というか、その甚爾って人どんだけヤバいわけ?禪院のスピードって、今の禪院家当主より速いんでしょ?怪物じゃん」
「それに加えて、直哉より速いとのことらしいね。まったく、一度会ってみたいものだ」
「直哉、その甚爾ってやつに会うことってできねーのかよ」
悟が聞くと、直哉は答えた。
「分からんなぁ。今は子育てで忙しいやろうし、禪院家におるわけやないから、俺も気軽に会えへんねん」
「へぇ、子持ちなんだ。化け物じみた話ばかり聞いてきたから、なんだか意外だね」
「甚爾くんは超イケメンで天性のヒモやから、モテモテやで!」
「それって、もしかして褒めてるつもりなのかい?」
直哉の言葉で、甚爾の株価は急落した。
話が終わり、ついに実験を行うことになった。
「いつでもいいよ」
「ほな、行くで」
直哉は硝子の言葉に返事すると、術式を発動する。
すると、
校舎が半壊した
「「「「・・・」」」」
「…まずない?」
「あーあ、やっちゃった」
「俺、知ーらね」
「私達は犯行現場を見ていただけだからね」
「いや、こんなんなるなんて思わんやん!明らかに投射呪法の効果とは別もんやったで!視点も一つやったし、思っとった問題点が一切なかったし!というか、なんで思った以上の距離を進んでるのにフリーズが起こらんかったんや!?超加速はできたから良かったけど、障害物が紙切れみたいに切り裂けたうえ、余波で周囲がふっ飛ぶのは問題やろ!」
直哉は動揺しながら自分の言い分を伝える。
「まあ、いいじゃないか。フリーズしないってことはデメリットが無くなったようなものだし」
「それはそうやけど…」
傑と直哉の会話を聞きながら、悟は考えていた。
(ある意味、問題が無かったのは当たり前だったのかもしれねーな。無下限呪術の奥義である虚式茈と同じことしてんだ。発散と吸引をぶつけたら質量に変化するように、直哉の場合は二つの視点は視点は一つにまとまって、別々のパラパラ漫画も新しいパラパラ漫画…いや、CG満載のヌルヌルアニメに変化したってとこか。)
悟は六眼で見たものから予測を立てた。
直哉は直哉で、実験ということもあって軽く行ったにも関わらず、おそらく遷音速はあるだろうという予測から、次は本気で加速したら極超音速に達するのではないかと考えていた。
(まあ、そんときは上に向かって走らなアカンな。それと周囲に影響を与えない工夫と移動時のコマ打ちの勝手が違うぶん慣れが必要やな。それより問題は…)
直哉が校舎の方を向くと、夜蛾が仁王立ちで待っていた。
(この修羅場をどう潜り抜けるかやな。とりあえず、悟くんと傑くんは道連れにさせてもらうで)
一般に主流のマッハ数0.8以下を亜音速流,0.8~1.2を遷音速流,1.2以上を超音速流といい,とくに5以上を極超音速流というらしいです。
細かいことは良く分からないので、頭はメロンパン入れにして読んで欲しいです。