トロいわ、悟くん。 作:狐大総統
no side
直哉達新入生の出会いは入学して初めての顔合わせだった。
その時は灰原が話を切り出し、スムーズに会話が始まった。
「僕は灰原雄っていうんだ!よろしくね!」
「よろしくお願いします。私は七海建人といいます。」
「俺は禪院直哉や。よろしゅう」
全員が名前を言い終わると、灰原が話題を出した。
「ねぇ、2人の術式ってどういうの?僕の術式はね、『灰塵呪法』っていって、攻撃をしたところに燃やした結果を作り出す術式なんだ!」
「いや、軽率に自分の術式を話すのはあまり進まないのですが」
七海が灰原に対して拒否をしようとすると直哉が待ったをかけた。
「ええやんか。これから一緒に戦う仲間なんやし、連携するうえでも知っといた方がええと思うで。ちなみに、俺の術式は『投射呪法』や。1秒に24個の動きを作ってトレースする。まあ、ようは超速く動ける術式ってワケやな。」
「…はぁ、私の術式は『十割呪法』です。対象を十分割に線分し、七対三の箇所に強制的に弱点を作れます」
直哉の言葉に観念したように七海も自身の術式について説明する。
「みんな近接系の術式なんだね!てことは、連携も取りやすいのかな?」
「逆やな。近接系同士の連携はお互いに深く理解できてへんと、かなりシビアなとこあるで。せやから、直近でもし3人で組むことがあったとしたら、灰原と七海の動きに俺が合わせるかたちになるやろうね。」
「なるほど!スピード型だから、僕らよりも動きに合わせやすいってことだね!」
直哉の言葉に灰原は納得する。
「あとは、禪院が私達よりも強いってこともあるでしょうね。たしか、先生の話では準一級とのことでしたし」
七海が灰原に補足を入れると、直哉も反応する。
「せやで!せやから、頼ってくれてかまへんよ。俺もアドバイスとか色々できるやろうし!」
「本当!?なら、ちょっと聞いてみたいんだけど、禪院が強くなった秘訣ってなに?」
灰原の質問には、七海も興味があった。この厳しい世界で同い年で準一級まで登りつめた秘訣があるのであれば、是非聞いてみたい。
「せやねー。幼少期から呪いに関わってたってのも大きいとは思うけど、やっぱり1番はアレやね」
直哉は少しもったいぶるようにためると、自信満々に言い切った。
「己の性癖を解放することやね!」
七海の目は死んだ。
「え、性癖を解放したら強くなるの?」
「灰原、真面目に聞くな。そんなわけないだろう」
灰原が素直すぎることに対して、若干の心配を覚える七海。
「いやいや、ホンマやで。実際、俺は性癖を解放したことによって特級呪霊を倒せたんやから」
直哉から衝撃の言葉が発せられる。
「貴方、特級を倒したことがあるんですか?」
「凄いね!特級ってとんでもなく強いんでしょ!?」
七海と灰原は驚きのあまり、直哉に詰め寄った。
「近い近い。少し離れてくれへん?」
直哉の言葉に2人は謝るとすぐに離れた。
「俺も特級と戦ったときは死んだと思ったけどな。なんせ、いくらスピードがあっても対抗できひん概念系の術式を持った呪霊やったし。」
「どんな術式だったんですか?」
「記憶を扱う術式やったで。認知症とかから生まれた呪霊やったみたいで、脳みそん中イジくられまくったわ。」
七海の質問に直哉が答えると2人は動揺したようで身体が強張っている。
「流石に特級やし、逃げようとしたら死角から打ち込まれた弾丸で逃げ方忘れさせられてん。せやから、亜音速で攻撃を仕掛けたったんやけど、当たったはずの攻撃が当たってへんねん」
戦っている最中に気づいたことだが、その呪霊の術式の解釈が「現在行われている行動」=「既に行われた過去の記憶」となっており、ほんの少し先の呪霊に攻撃が当たらなかった未来へ処理されたのだろうということを説明した。
この説明を聞いた2人は、なんでもありな特級の強さに身震いした。
「亜音速で攻撃されても呪霊が術式が発動できたんは、自分に攻撃してきた対象に術式が自動で発動するタイプやったんやろうね。そのあとは、領域展開まで使って俺に干渉してきよって、自死を仕向けてきたんよ。そんとき、あの呪霊は俺のこと嬲って楽しんどったみたいで、めちゃめちゃニヤついとったわ」
「そんな呪霊、よく倒せましたね」
「ほんとだよ禪院!とんでもない呪霊じゃん!」
七海と灰原は思わず声が出てしまう。
「せやろ?持っとった短刀で自分のこと刺しまくっとったし、あのままやと俺は死んどったやろうな。」
やけど!と直哉は続けた。
「あんとき、俺は自分の後悔について考えとったんや。ネガティブな感情を呪力に変換して、少しでも戦えるようにしとったんもあるけど、1番はやっぱ自分に嘘ついて生きとったことに死ぬ間際に気づいてしもうたことやな」
七海と灰原はどういうことかと問う。
「禪院家っちゅうんは、禪院家に非ずんば呪術師に非ず。呪術師に非ずんば人に非ずって家訓があるくらいカスみたいな家やねん。そんな家に産まれた俺も当然カスやったんやけど、なんか引っかかりがあってんな。」
直哉は悲しそうな顔で話を続ける。
「最初は俺の憧れの甚爾くんいうめちゃ強くてカッコええ人を呪力が無いからって冷遇しとることやと思っとった。やけど、ちゃうんかったんや。俺が死ぬ間際の後悔は、男尊女卑を少しは無くすよう努力できたんちゃうかいう後悔やった。」
七海と灰原は直哉の告白を聞いて、直哉という男を心底尊敬した。
産まれた頃から最悪の感性が育つような環境にいながら、直哉の本質とは死ぬ間際は人を助けられなかったことを後悔するという本物の善人として成長していたのだから。
「…直哉さん、貴方は」
七海が言葉をかけようとしたそのとき、直哉は叫んだ。
「だって、考えてみーや!全ての女性は誰かの女王様になる可能性があるねんで!?男尊女卑なんかやっとったら、誰も女王様になれんやん!やるなら、女尊男卑にせいっちゅうねん!そしたら、俺も自分を押し殺してまで自分の性癖をドSのフリなんてせんくても良かったんに!」
七海の目は2回目の目の死を迎えた。
直哉は自分の魂の叫びを続けた。
「このとき、性癖が裏返る音がしたわ。
俺の性癖やと思っとったドSゆうんは、自分を押し殺した結果できた紛い物やっちゅうことに気づいたからやな。知覚した俺の本当の性癖の輪郭はドMやっ!」
直哉はドヤ顔で言い放った。
相変わらず七海の目は死んでおり、灰原の目は何故かキラキラしている。
「性癖が裏返ったら、勢いで呪力も裏返って反転術式に目覚めたモンやから、自分のこと治したったんや。したら、特級呪霊が次は自分で俺のことを仕留めようとしてきよった。」
ワケのわからない理由で反転術式に目覚めた直哉に七海は頭の中がパンクしそうだった。
「回避したくても逃げ方を忘れてるなら、回避する方法って無いんじゃないの?」
灰原が直哉に質問を行った。
「そーやったんやけど、反転術式に目覚めるほど呪力の核心を掴んだことで、術式の解釈も広がった俺はある方法をとったんや。」
それはやなと続けながら、直哉は頭を指差しながら言った。
「体内に対してのみ投射呪法を発動する拡張術式を組み立てたんよ。投射呪法はコマ打ちしてからトレースするんやけど、『トレース結果』=喰らった攻撃、『コマ打ち』=発動される前の攻撃として解釈した拡張術式を作ってん。それを術式反転したら、トレース結果からコマ打ちまで戻る効果を得たから、それで記憶の改竄を無かったことにしたんや」
直哉のとんでもない方法に、2人は驚愕する。
そんなのアリなのかと。アリだからこうして直哉は存在しているのだが、やはり信じられない。
「ていうことは、直哉に対する攻撃って効くものが無くなったってこと?」
灰原の疑問は七海も気になったことだ。
「うーん、無敵ってワケじゃないと思うで。反転術式だと治せない毒とか術式効果だとかは無かったことにできると思うけど、そもそも首を切断されたら死ぬし、上半身と下半身を泣き別れにされても死ぬやろうね。」
ようするに、反転術式が使えない状態にされたら、術式反転が使えないため意味が無いということだ。
「まあ、てなわけで記憶消すんは無効化したったんやけど、次は式神で物理的に攻撃してきよってん。しかも、記憶の術式らしく俺の動きのパターンを学習して対策するタイプや」
マジで最悪やったでといいながら、直哉は話を続ける。
「俺がいくらスピードを上げてもどんどん予測されんねん。こっちがカウンター前提の動きを作ってても意味がないレベルで潰されるわ、反転術式が使えない状態まで持っていかれるわで」
実際、直哉はその呪霊に対して、書物で読んだ十種影法術の魔虎羅が持っている特性を連想したほどだった。
「そろそろ手詰まりになりかけたとき、急に自分の全て、世界の全てが感じとれるようになったんや。呪力とはちゃうねん。なんちゅーか、俺の見れる世界が広がった感じやな。まあ、1日に2度も死の直前まで行っとるから、身体が急激に作り変わってもおかしくはないんやろーけど。」
(たしかに普通は行くとしても運が良くて1度までで、2度目があったらそのまま死ぬ可能性の方が高いでしょうね)
七海は直哉に対して人とは別の生き物を見る目を向けつつあった。
ちなみに、後に五条が直哉に殺されかけて反転術式を会得したという話を聞いて、会得するには死にかける方法しかないのだろうかと恐怖を覚えたのは余談である。
「そんとき、甚爾くんの言ってた空気にも密度とか温度の違いで面があるってのを思いだしてな。すぐにコレがそうなんやって理解できたわ。そのあとは空中を蹴って移動することができるようになったおかげで、随分手札が増えよったで。」
「なんていうか、さっきから特級呪霊が直哉の手札を減らしてるはずなのに、逆にドンドン増えていってるね!」
「まあ、非術師でさえ死にかけたら呪霊が見えるように脳が変化する場合があるからなぁ。呪術師なら更に変化が大きいんやろね。」
「なるほどー!」
(いや、そんなサイ◯人みたいなことあります?)
「まあ、2度目の死にかけんときに理解したドMにも罵倒されるのが好きなのか叩かれるのが好きなのかで色んな顔があるってのと同じで、空気にも違いがあったってことやな」
「それはなにか違うと思います。」
七海は直哉の発言を否定することの義務を感じた。
そもそも、Mにも好みがあるというのは、理解したくはないが一般的に皆が知っていることである。わざわざ死にかけてまで悟るものではない。
「とはいえや。いくら手札が増えたとこで攻撃できないんやったら話にならん。撤退も考えたんやけど、2度の性癖の理解で覚醒できたんや。せやったら、まだ俺が分っとらん己の性癖を理解できれば、あの呪霊にも攻撃が届くんちゃうかって思ったわけや」
「凄いね!僕だとそんなこと思いつかないかも!」
(いや、あなた死にかけたからって先程仰っていませんでしたか?)
術師はイカれてる人が多いとは聞いていたが、ここまでイカれているとは想定していなかった。
「なかなか苦しい道のりではあったけど、俺は掴んだんや!俺の真のドMの世界とはなにかの構造を!掴んでしまえば、術式対象も世界ごと捉えることに成功しとった!やっぱ、性癖とは偉大やで。呪霊にはできひん人間の可能性の金脈や…!」
なにかを信仰するような顔をして述べる直哉。
(強くはなりたいが、私には理解できない…)
「あとはそんときできるようになった拡張術式の盾で式神から身を守りつつ、術式に守られとる呪霊本体を世界ごと亜音速でぶん殴ったら黒閃になって倒せたとかだけやね。」
「なるほどなぁ。性癖って凄いんだね。」
「せやせや。雄くんも自分の性癖を探究してみるとええと思うで。」
真面目に性癖に関する会話をする灰原と直哉。
「ちなみに納得してなさそうな建人くんのためにまとめたると、ようは一つの考えに固執したらアカンっちゅうことやね。術式は解釈次第でいくらでも伸びんねん。その解釈を広げるために頭は常に柔らこうしとけってことや」
「はじめからそう言ってくださいよ」
最終的な直哉の言葉を聞き、まともな説明もできたのかと七海は内心驚いた。
最後の方はいつの間にか七海と灰原のことを名前呼びする直哉でした。
直哉の名前呼びってどんな感じで決まってるんでしょうね?
乙骨のことは乙骨くん呼びだけど、他の人は割と下の名前なんですよね。
少しは面識がある人は名前呼びってことなんですかね?
ちなみに直哉の制服は書生スタイルに改造されています。