トロいわ、悟くん。 作:狐大総統
side直哉
俺は常々思っとることがある。
雑魚の罪は性癖を理解しとらんこと。
誰も真のドMを理解してへんかった。
多分、悟くんを除いて。
「せやから、俺は傑くんに言ったったねん。そもそも、性癖の方向性が違うんやから、悟くんの強さの方向を見てもしゃあないやろって」
「何言ってんだ、お前?」
甚爾くんは俺の話があまり理解できないようだ。
まあ、しゃあないわな。甚爾くんは最強やけど、傑くんと同じ純粋なドSや。しかも、天与(天からの授かりモンである赤ん坊がおる)呪縛(奥さんが普通の人やからSMプレイは無理やし、他の女の人のヒモにもなれんから発散できない)によって、戦闘訓練でもドSが底上げされとる。
「けどまあ、反転術式は使えて損は無いんじゃねーか?治癒できるってだけで戦い方の選択肢も増えるだろ」
「うん、傑くんもそう思って特訓しとるみたいやね。俺もできる限りの協力はする言うたから、俺なりの感覚とかを伝えてはいるねんけど、なかなか難しいわ」
俺の場合、死の淵で性癖が覚醒したことで反転術式にも目覚められた。
せやから、とりあえず1番重要やろう要素である性癖の覚醒から始めようとしたんや。けど、悟くんは性癖に覚醒しとらん言うてたことを挙げられて、傑くんに強制的な反転術式の覚醒とは死の淵に立つことが重要なんじゃないかって諭されてしもうたわ。
…ドMに目覚めたから反転術式に目覚めたってことを悟くんが隠しとるんちゃうやろな?
「一度、死ぬ直前まで物理的に追い込もうかとも思ったんやけど、コレが失敗するとホンマに死ぬからそう簡単にできひんねん。死ぬギリギリの見極めとか俺にはできひんし」
ホンマ大変やでと伝えると、甚爾くんは驚くことを提案してきた。
「俺がギリギリまで追い込んでやろうか?」
「え、ええの?甚爾くん」
たしかに、甚爾くんなら死なないくらいに傷つけることから死ぬ手前まで傷つけることも可能だろう。なぜなら、甚爾くんやから!
「ああ、いいぜ。お前にはアイツを助けられた恩があるからな。」
まあ、それなりに謝礼は貰うがなとも付け加える甚爾くん。
ちなみにアイツゆうんは、甚爾くんの奥さんのことや。
ちょっと呪詛師に殺されかけたときがあって、呪詛師自体は奥さんの後に帰宅した甚爾くんが潰したんやけど、奥さんは刺されてお腹から血が出まくっとったねん。
その後、たまたま俺がお家に伺って異常に気付いたから、咄嗟に術式使って止めてたっちゅうだけの話や。
まあ、あんときは拡張術式とか全然できんかったから、ずっと1秒フリーズになるよう触り続けてて呪力もスッカラカンなったけど、そんなたいしたことはしてへんねん。
そもそも、あんときは自分の本当の性癖も理解しとらんくて、甚爾くんが困っとったから助けたってだけの不純な動機やし。
もし、甚爾くんがおらんかったらあんときの俺は見捨ててたやろうね。
けど、成長した今やったら女性は誰もが女王様の素質を持っとることを理解しとるし、ちゃんと純粋な気持ちで助けられるで!!
「ありがとう!そんなら頼むわ!謝礼は一月何十億がええ!?百でもええで!!」
「そんなにいらねーよ。…そうだな、二億でどうだ?反転術式の有用性ならそれくらいでちょうどいいだろ。本当に目覚めるかも不明だしな」
返ってきた甚爾くんの言葉に、俺は待ったをかける。
「いや、傑くんは術式が呪霊操術や。基礎能力も悟くんと同等やし、将来的には特級になっとると俺は見てんねん。せやから、最低でも十億スタートってとこやろうね」
俺の説明に甚爾くんは少し考える素振りを見せると言葉を発した。
「分かった。それなら、十でいい。それに加えて、ソイツが特級に至ったとき、俺を優先的なビジネスパートナーにすることを縛らせろ。」
甚爾くんの提案に、なかなか良い落とし所を考えたものやと俺は思った。
要求してきた金額は最低価格やけど、特級との優先的なパイプが手に入るっちゅうんは目に見える金額よりも大きい価値を持っとる。
「いいん?本当に傑くんが特級に到達する根拠なんて今んとこ出せへんで?」
「何言ってやがる。あの五条の坊と同等の基礎能力持ちで、お前の後押しもあるんだぜ?ここまで勝利が目に見える賭けなんざねーよ」
甚爾くんはぶっきらぼうにそう言った。
…ちゅき♡
甚爾くん大ちゅき♡
俺んこと信頼してくれる甚爾くん大大大大大好きやで!!♡
もっと貢ぎたい♡
なんでそないカッコええんやろ?
何を渡したら喜んでくれるやろ?
帰ったらしっかり吟味しなアカンな!!!
ああ…来た…
はじけるボーナス(甚爾くんからの寵愛)で、トぶわ……
俺がトんでいると、後ろから人の気配を感じた。
「恵くんやん!」
「直哉さん、こんにちは」
「こんにちは。ごめんな、パパと長話してしもうてて。そろそろお暇させてもらうさかい、堪忍してな」
「いえ、大丈夫です。寧ろ、父の相手をしていただいてありがとうございます」
「恵くんはめっちゃ礼儀正しいんやなぁ。そんな偉い恵くんには俺が好きなもんなんでもあげるで?何が欲しい?」
あー、やっぱ甚爾くんの息子なだけあってホントかわええわぁ。めっちゃ貢ぎたくなるで。いや、寧ろ貢がせて下さいと低姿勢に行くべきやな。こんな子、国宝レベルやろ。特級呪具なんて目やないわ。
「いえ、特に欲しいものは無いので大丈夫です」
「そーなん?せやったら、お小遣いにしよか。とりあえず、手持ちの現金が無いから、このカード渡しとくな。パスワードを入れたらなんでも買える魔法のカードやで。」
そう言って、真っ黒なカードを渡した。
「ありがとうございます」
恵くんが大人しく受け取っとったことに満足すると、俺は高専へと戻った。
ちなみに後日、恵くんがこのカードの詳細を知って返却してくるのは余談や。
side傑
今日は、直哉から紹介したい人がいるとのことで呼び出された。
呼び出された校庭に行くと直哉の隣に大柄な男がおり、彼が私に会わせたい人なのだろうと理解した。
彼は直哉に顔立ちは似ているが、身体つきが全くの別物だった。仮に、全人類で身体つきの良さのランキングをつけたら、彼が堂々1位をとることが確信できるほどのものだ。
そのような思考をしながら近づいていくと、直哉が私に気づいたようだった。
「あ、傑くん!この人が今日傑くんに紹介しようと思っとった伏黒甚爾くんや!」
「お前が呪霊操術持ちのガキか。よろしくな。」
直哉の言葉に、彼が直哉がいつも言っている甚爾さんかと驚くも、すぐにある意味イメージ通りで随分と規格外の存在のようだなという感想を抱いた。
「ええ、夏油傑といいます。よろしくお願いします。」
お互い挨拶が終わると、直哉が私に甚爾さんを紹介した理由を説明し出した。
「これまでは感覚的なものを俺が傑くんに教えたりとか、実際に少し傷をつけて特訓しとったくらいやったやん?今日からは、甚爾くんに傑くんが死ぬ一歩手前まで半殺しを越えた九割殺しにしてもらうっちゅう実践的なもので反転術式の覚醒を促していくで!」
甚爾くんなら正確に死ぬ一歩手前まで傷つけられるから、安心して死の淵を彷徨ってきてくれという直哉に対して、私はしっかりと返事を返した。
「ああ、ありがとう。必ず掴んでみせるよ」
「…お前、よく初めて会う人間を信頼できるな。もしかしたら、死んじまうかも知れねーんだぞ?」
甚爾さんが私に妙な生き物を見る目を向けながら、そう問いかけてきた。
「あなたは私が信頼している直哉が1番信頼をしている人です。ならば、何も問題はありませんよ。」
甚爾さんは私の言葉を聞くと、そうかと言って会話を終わらせた。
「あ、あと傑くんには甚爾くんと『ある縛り』を結んでほしいねん」
「何を結べばいいんだい?」
「傑くんが将来特級になったとき、甚爾くんを優先的なビジネスパートナーにすることやで。これが甚爾くんの報酬やねん」
直哉の言葉に私は少々驚きはしたが、すぐに了承した。
「私は問題無いですが、甚爾さんは本当にそのような報酬で良いんですか?私が特級にならなかった場合、無報酬となってしまいますよ?」
私の問いかけに対し、甚爾さんは少し間を置くと返答した。
「…なんだ?自信ねーのか?」
「いえ、そういうわけではなくてですね。私が言いたいのは」
私が返答を終える前に甚爾さんが割り込んだ。
「まあ、安心しろ。その報酬とは別に、金銭的報酬は既に直哉から受け取ってるから特に問題ねーよ。仮に特級になれなくても気にすんな」
まあ、五条の坊が特級になることは確実だろうけどなと続けた甚爾さんの言葉に私はプライドがかなり刺激された。
私と甚爾さんが会話している間に、直哉は携帯で誰かにメールを送っていた。
「そんなら、いま女王様のことも呼んどいたから、もうちょいで来ると思うで。何度も死にかけるんやったら、女王様は必須やからな。」
直哉はそう言うと、甚爾さんの方を向いた。
次の瞬間、目の前から甚爾さんが消えて私の胸元からは刃が突き出していた。
その後、1秒もたたずに胴体に五箇所ほど新たに刺され、私は地面へと倒れた。
「傑くん、女王様が来てから始めるなんて誰も言ってへんで。はよ治さな死んでまうから死ぬ前に掴んでな。」
そう言って私のことを見下す直哉の目は、人はここまで冷たい目をできるのかと驚くほどのもので、彼が嫌悪している禪院家の闇が垣間見えた気がした。
サブタイトルは『ドブカス様は貢ぎたい』でもあります。