トロいわ、悟くん。 作:狐大総統
side直哉
さて、こっからが勝負やな。
傑くんには女王様はまだ来とらん的な伝え方をしたけど、実際は校舎の裏に隠れとるだけですぐ近くにおる。
ギリギリの緊張感が無いと意味ないしな。
「甚爾くん、この傷やと死ぬまであとどんくらい?」
「あー、内臓を綺麗に傷つけたからな。この出血量だと、術師ならあと7分ってとこだな。」
「了解や。なんかの理由で早まって2分以内になったら教えてな。女王様の治す時間も必要やし。」
女王様の治す時間が足りなくて死亡とかやと意味なくなるからな。
「ああ。まあ、さっき家入との顔合わせのときに聞いた反転術式で傷ごとにかかる時間の詳細をもとに傷つけたんだ。20秒もあれば充分な範囲だぜ。仮に出血で傷口が大きくなっちまっても、30秒もかからずに済むだろうな。」
甚爾くんの言葉に、俺は甚爾はほんま頼りになるわと思った。
「夏油の様子どう?」
後ろから女王様の声が聞こえてきた。
校舎裏でずっと待ってるのに飽きたようだった。
「女王様!傑くんでもさすがに苦戦しているようですね。こればっかりは自分で掴む以外に道はありませんし」
「前に言ってた裏ワザはやんないの?」
女王様の言葉に、正直悩んでいるところはある。
俺が考えとる裏ワザの詳細を知っているのは、現状だと俺以外に甚爾くんと女王様だけや。
ただ、この裏ワザが本当に反転術式を会得できるかも分からんし、ある意味俺の奥の手みたいなもんが関わっとる。
それに上の人らにバレたら、俺が罰則を受けるのは確実やし、そう簡単にベラベラ喋ってええもんでもない。
「様子を見つつってところですね。ホンマにあかんかったら試してみようと思います。」
「そ。」
俺の返事に女王様はそっけない返事をすると傑くんの観察に戻った。
「そういや、家入。お前、直哉のこの態度についてどう思ってんだ?」
唐突に甚爾くんが女王様に問いかけた。
「あー、この女王様とかのことですか?まあ、好きなようにさせとけばいいんじゃないですかね。なんか面白いですし」
酒も煙草も良いものが入ってきますしねとも続ける女王様。
そらぁ、女王様への貢ぎ物なんやから、品質からなになからなにまで最高級のものをご用意させていただいとるで!
「…お前、大物だな」
女王様の回答に甚爾くんが驚いとる。さすが女王様や!あの甚爾くんを驚かせるなんて!
「そういえば、禪院に聞きたいことあったんだけど」
「はい!なんでしょう?」
「歌姫先輩の盾になるって言ったんだって?」
…言った。たしかに言うたのを覚えとる。
え、けどなんか答え方次第で色々変わってこおへん?
ここで、「はい!言いました!」って返事してみ?
女王様がたくさんいる節操無しみたいにならへん?
いや!なるやろ!それだけはアカン!
女王様の目を見てみいや!あの目は女王様は私だけじゃなかったんじゃないかってことを疑っとる目やで!真のドMとかゆうてたんは嘘やったんかって思っとるんや!絶対そうや!
ここはなんて答えるんが最適解なんや!?
分からへん!!
分からなアカン!!
と、甚爾くんなら助けてくれるんちゃうかな?
…アカン!!ニヤついとる!アレは楽しんどる!甚爾くんが楽しんでくれとる!!最高や!!嬉しい!!!
…ちゃう!ちゃうで禪院直哉!今は女王様への返事をなんとかせな!
あ!傑くんならなんとかできるんちゃうか!?この場には、あの特級詐欺師の称号を持つ男がおる!そんな凄い傑くんならなんとかできるやろ!
…死にかけとる!!え!?なんで!?誰がこんな目に遭わしたんや!?
俺やん!せや!反転術式を身につけせるために九割殺しにしてもらったんや!
まずいわ、動揺しすぎで直近の記憶があやふやになりつつあるで!あんの記憶の特級呪霊、こんな後遺症を残しおって!最悪や!
てか、なにが「はよ治さな死んでまうから死ぬ前に掴んでな」やねん!俺が死にかけとるやんか!
てか、はよ傑くんもはよ反転術式くらい身に付けてや!はよ治さな(俺が)死んでまうから(俺が)死ぬ前に掴んでや!
てか、女王様をこれ以上待たせるわけにはいかん!
ここは一か八か、二つの理由で言い訳展開!!
「ちゃ、ちゃちゃちゃうんです。庵先輩を女王様にしようとしたんちゃうくてですね、、」
…終わったわ。一か八かの賭けに俺は負けた。俺は言い訳展開の段階には至ってなかったんやな。言い訳を二つ展開するための口がまわらんかった。
自分を守るために、いつもの自分(女王様至上主義)を曲げてしもうた。
その時点で負けとった。…詰みやな。
そんなことを俺が考えとると、女王様は口を開いた。
「おかげで歌姫先輩は傷つかずに済んだよ。ありがとね。」
女王様はニヒルな笑みを浮かべながらそう言った。
…全部、分かっとったんか。分かったうえで俺のこと揶揄っとったんか。
揶揄いっちゅう俺みたいな真のドMにとってのご褒美に加えて、感謝っちゅう勿体ないお言葉まで頂けるとは、なんて魔性の女の人や!俺は一生女王様に着いて行くで!!
「…お前、とんでもない女だな。本当に16そこらのガキか?」
「ははは、なんのことですか?」
side傑
直哉の冷たい目や台詞、甚爾さんの不意打ちは私にかなりの切迫感を与えた。
ただ余裕を持った甘々な環境よりも切迫感のある環境の方が集中しやすいからこそ、2人は実行したのだろう。
そこまでしても反転術式を得るための壁が高いことに私は心が折れそうだった。
だが、挫けるわけにはいかない。
これだけの綱渡りだ。
今も直哉は、私の状態を見極めるべく集中して行ってくれているのだろう。
他にも、甚爾さんや保険として後から来ると行っていた硝子にも手伝ってもらっているんだ。
そんな3人に報いるためにも、私は必ず反転術式を習得する!
そんな私の覚悟とは裏腹に、反転術式を得るきっかけすら掴めそうにないまま、時間は刻一刻と過ぎていった。
死を彷徨っているからか、とんでも無い時間が経ったようにも感じられるし、まだ1秒も経っていないようにも感じられた。
気のせいだろうか。直哉から反転術式程度程度早く身につけろと催促された気がする。
くそ!なんで掴めないんだ!やはり私の器では、その程度でしかなかったのか!?
そんな思考に落ち始めた頃、突如として反転術式が施される感覚とともに「反転術式を扱う感覚」が私の中に入ってきた。まるで、出産を経験しない男性に対して、無理矢理出産の痛みなどの感覚のみ理解させるようなものだった。
痛みは無いが、呪力が反転する感覚を無理矢理理解させられた結果、私はこれまでに経験したことの無いほどの不快感を得た。
どうやったのかは分からないが、直哉の感覚が直接流れ込んできたのだろうことは分かった。
死の間際で集中力が上昇しているなかで、反転術式の感覚というゴールが見えたんだ。
あとはただ走る!その頂まで到達するために!
side直哉
ふぅ〜。いやー、やばかったで。普通に途中で傑くんのことなんてどうでも良くなったせいで、傑くんがかなり危ないことになっとった。
具体的には、治すタイミングを黒閃出すタイミングと同レベルで合わさんかったら、そのズレで遅れて傑くんは死んどった。
女王様にはほんま申し訳ないことしたで。
けど、そんな難易度のことを達成した女王様はやっぱ凄いねんな!
てことは、傑くんは更に死の間際を感じられたってことやし、感謝してくれてもええんなないか?
「んで、結局ソレ(裏技)使ったわけだな。これで反転術式を掴む可能性はかなり高まったわけか」
「おん、やらんよりも上昇率は高くなったはずやで。まあ、宇宙人とかの臓器が身体ん中にある感覚を詰め込んだようなもんやから、とんでもない不快感やろうけどね。場合によっては、不快感すぎて死ぬかもしれへんわ」
正直、そのあたりは読み切れない。外傷として負荷がかかるわけではないが、脳がパンクしたり精神が持たん可能性は充分ありえる。
そこらへんは傑くん次第やろうね。
「まあ、そいつの術式的に不快感への耐性はあるんじゃねーか?」
「ん?甚爾くんソレどうゆうこと?」
「呪霊操術って呪霊を取り込む必要があんだろ?それも口から。呪霊ってクソまずいんだよ。例えるなら、吐瀉物を拭いた雑巾の味みてーな感じ」
身体でおっえーみたいな表現をする甚爾くん。
これを聞いて、俺はかなり驚いた。
「そんなん、甚爾くん言ってくれんかったやん!なんで、言ってくれんかってん!?」
「聞かれなかったからな」
甚爾くんは興味なさげに答えた。
はあ、甚爾くんのそういうとこが天性のヒモとまでいわれる所以なんやろうな。自分が付いてなきゃアカンってなるとこが。正直、俺が着いとらなアカン!!!って超なっとるわ。
だって、こんなん誰でもひっかかるわ!必中必殺効果のある領域みたいなモンやろ!
そんなことを考えていると、女王様が口を開いた。
「じゃあ、夏油にも聞いてみよっか。呪霊ってまずいの?って」
「そうですね。傑くんまで天性のヒモに覚醒させるわけにはいきません。特級詐欺師だけで満足してもらわな…!」
「ん?何の話?」
「いえ、なんでもありません!気にせんといてください!」
さーて、色々確認せなあかんことができたんやから、はよ起きてや傑くん…!
シリアスじゃなくてシリアルの誤字でした。
ごめんちゃい♡
裏技についてはまた別の話で出します!