赤の短剣使い   作:鉄分不足

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赤の短剣使い1

 最前線58層の主街区転移門前

「お願いだ。このお金でこの写真の奴を回廊結晶で監獄へ送ってほしい、お願いだ、誰

か――」

 話をそばで聞いていると、イエローギルドに仲間を殺されたらしい。

 道行く戦前のプレイヤーを見つけては土下座までして頼みこんでいる。見ている此方の

心が痛くなってくる程に。

 この世界アインクラッドでは、殺しを殺しだと思わない連中が少なくない。

 理由は簡単にお金や、レアアイテムを狙えるからだろう。

 だが、殺しは、殺しだけはご法度だ。人の命が懸かっているこのデスゲームで、いや、

そうじゃなくても、殺しなどと言う事を許して言い訳がない。

 HPが0になったらプログラムがナーヴギアに伝わり、それが高出力のマイクロウェーブ

となって脳を焼き切る。そんな世界に居るからこそ。

「悠くん」

 隣を歩いている珪子、ゲームネームシリカが俺の袖を引く。

「助けてあげたい、だろ?」

 そう、珪子の意図を汲み取り答えると、にっこりと笑い、クルリと一回転する。

「分かってるじゃないですか。さすが悠くん。それに、キリトさんはもう声をかけていま

すよ」

 黒猫団の一連があってからキリトは下層の手助けをよくするようになっている。

 運よく助けられたサチを除いて3人も死んでしまった。半ば放心状態で帰る俺達、でも

サチはケイタに警告を無視してあの部屋に入ったのが原因なのだと、心身共に疲れている

はずなのに、1時間にも及ぶ説得をしてくれた。

 説明の甲斐もあり、納得をしてくれたケイタも運が悪かったんだよ。サチだけでも助け

出してくれてありがとう。

 と、言っては貰っている。今も関係は良好だ。だが、トラップ部屋の事件は今でもキリ

トの心の中に深く残ってるのだろう。

「それで、キリト。依頼、受けるんだろ?」

 キリトの肩を叩く。

「あぁ、シュウか。シリカ、こんばんわ」

「こんばんわ、キリトさん」 

「それで、事件が起きたのは何層なんですか?」

 藁にも縋る思いなのだろう。目が悲観に満ちている。

 こんな人も少なくは無い……

「35層です。あのフィールドダンジョンはご存知の通り、地図がないと進むのは不可能

、それを上手く使われて、あるポイントで奇襲を受け……」

 そこまで語った所で、彼は涙を流す。

「すみません。少し落ち着きましょうか?」

 シリカが気を利かせ、アイテムストレージから水をだして渡す。

「す、すみません」

 そうは答えたものの、涙を流した位じゃ、心の整理をするのは難しいだろう。

「この辺の酒場に移動でもしよう」

 キリトの提案に頷く。

「この層だとグローリアか」

 依頼主が落ち着くまで待ち、俺達は酒場へ足を運ぶ。

 

 

 おおまかな情報と、正式に依頼を受ける事にする俺達。

「ありがとうございます。皆さん……これは、わずかなのですが……」

 テーブルの上に置かれたのはコル(お金)の入ってる袋だ。

 それをクリック。わずか、と言っても1万コル。彼にしてみれば大金だろう。

 それにキリトが手を押し出す。

「貴方にしてみれば、大金でしょう。受け取れません」

「ですね。これだけあれば贅沢さえしなければ1ヶ月は何もせずに街にいれますし、気持

ちの整理にも」

 キリトに続いて珪子もそう言葉を続ける。

 また泣きそうになるのを堪えて、シルバーフラグスのリーダーは、テーブルに深々と頭

を下る。

「ありがとうございます」

 テーブルから頭を放そうとする気配が見えない。それだけ真摯に返事をしているのだろ

うけどね。

「本当にそこまでしていただかなくても大丈夫ですよ。彼も、彼女も善意の固まりみたい

なものですから」

 そう答えると、やっと、顔を上げてくれる。少しではあるけれど頬が緩んだのが見え

た。

「それじゃ、皆でご飯にしましょうか。ここの代金は僕らが持つので」

 俺の提案に、シルバーフラグスのリーダーは、それこそ受け取れないと両手を前に出し

手を振る。

「そうですか」

「すみません。何故か、安心したのといろいろで張り詰めていた糸が切れたみたいで、食

事のお誘いはありがたいのですけれど、今は部屋で休ましてください」

 席を立ち上がり俺達に頭を下げる。

「そういうことなら。それじゃおやすみなさい」

 と返事を返すシリカに続いて――

「結果は成果が上がってから知らせます」

「おつかれさまです」

 キリト、俺と依頼人に挨拶をする。

「でわ、皆さん。俺はこれで」

 シルバーフラグスのリーダーが再度頭を下げて、店を出て軽くまとめていると見慣れた

顔が姿を見せる。

 アスナにリズだ。

「アスナさん、リズさんこっちでーす」 

 シリカが手を振って俺達が座っている場所をアピールをする。

「なんで二人が?」

 まさかの来客、席に座るアスナに問いかける。

「私は、今回の件に関する情報を提供しにかな。こんばんわ、キリトくん、シリカちゃ

ん、悠さん」

 アスナがここに来た理由は分かった。でも、リズが居る理由は? 目線をリズに移す。

「ん? あたしは、ご飯をたかりに? アスナが奢ってくれるって言うし、最前線のご飯

は少し値がはるのよね」

「それは分かる」

 俺の会話が一段落すると、アスナが右手を振り、メニューリストを操作している。 

「それで、シリカちゃん。イエローギルドのリストだっけ?」

「はい」

「随分と根回しがいいな」

「えっへへ」

 アスナは一枚の紙をアイテム化させる。

 メモリストにはあの、ラフィンコフィンを筆頭にざっと20ギルド。

 大小の違いはあれど、犯罪に手を染めたギルドのリストが乗っている。

「多いんだな、こうして見ると」

 手を顎にあてふむふむと唸るキリト。それにアスナが答える。

「だね。それでも、私達血盟騎士団が把握している数だけ。実際もっといてもおかしくは

ないよ」

「やっぱり網を張るなら、35層が濃厚かな?」

 俺の言葉に頷くキリト。

「だろうな。身包みを剥ぐのにはこれくらいのレベル層が最適なんだろう」

「手口を見ると、手の内を見るのに約1週間。その間は行動を共にする女性プレイヤーが

一人か……」

 シルバーフラグスのリーダーから貰った情報をまとめた紙をテーブルに置いて二人で見

ている。

「名前はロザリア。槍使いみたいだな。手っ取り早いのはこの、ロザリアのターゲットに

なる事だけど、いい案あるかな?」

 キリトはそう答えると皆を見回す。それにリズが食事の手を止め口を開く。

「アスナとシリカは血盟騎士団、団員で顔も知名度もある。となれば、必然とキリトかシ

ュウになるんじゃない?」

「と、なるとだ。キリトもありえなくないか?」

「なんでよ?」

「あれでも悪名高いビーター様だよ?」

「それは、あんたもでしょうが」

 実の所、俺は擁護されてたりする。

「ところがね、キリトに比べたら俺の方はそうでもない」

「ディアベルさんに保護してもらってますからねー」

「ちょ、珪子」

「あんた、まだ、男だって言ってなかったの?」

「言ったよ。でもね、やっこさん、性別なんて―――とか言い始めたんだぜ?」

 ウケを狙ったわけじゃないがリズに続いて、キリト、珪子、アスナが笑いをこらえきれ

ずに笑い始める。

「マジ、酷いわ!」

「悪かったって。5回分はタダで剣研いであげるから」

 買収された感じはするが、とりあえずは水に流そう。

「そうね。となると、もうアンタしかいないじゃない。シュウちゃん。違うか。ユウちゃ

ん」

「え?」

 突然の展開に間抜けな声がでる。

 暫くの沈黙。皆の顔を見渡す。

「何この流れ?」

 あんたら、打ち合わせしただろ?と言いたくなるほどのコンビネーション。

 目を合わせようとするとそらされるとか!?

「どうしろと?」

「うーん。シリカ、アンタ以前使っていた防具一式まだ持ってる?」

「あの紅い服ですか?」

「そうそう、それ」

「不穏な空気を感じるから、今日は帰って寝るよ。お休み」

 シュタ、と手を上げて身を翻すとリズに手をつかまれる。

「ちょいと、お待ち。ユウちゃん?」

「悠ちゃん。ちょっと両手も危ないんで縛っちゃいますね」

 珪子も何でそんなにノリノリなの!?

「ご、ごめんね?悠さん」

「すまん、シュウ」

 アスナにキリト、謝罪をするなら助けてくれ!だが、既に布で口を封じられていて、出

る言葉は……

「もご、ふごもごもよ」

 マジで助けて!

 

 

 手足、口を封じられ、黒猫団の宿舎まで来ている。いや、さらわれたと言うべきだ。

「ちょっと、どうしたの皆」

 入り口のフローリングで寛いでいたサチがこの現状を見て目を丸くしている。

「もご、ふごもごー」

「大丈夫ですよ。怖いのは最初だけ」 

 オブジェクト化された女性服一式。

 このゲームは同じ装備名でも、男女で見た目が違う物になる。

 だが、オブジェクト化された装備は例外。つまり女性がオブジェクト化をさせて、スカ

ートなどにすると、男性でもその女性装備時の見た目のまま装備可能になる。

「まて、そのスカートどうするつもりだ?」

 もがきにもがいて、なんとか口の布をはずして声を出す。

「どうするも、なにも、ね?シリカ」

「はい」

 ふふふ……とか呟きながら目を光らせている二人。

「これはマズイって。変な扉が開いたらどうするの!?」

「大丈夫です。悠くん。私は、全てを受け止めます」

「珪子さん?暴走しすぎです」

「さぁ、覚悟してください」

「さぁ、覚悟しなさい」

「いーーーやーーー」

 

 

「穢された……」

 ムーン・ブレザー、フェアリーブーツ、シルバースレッドアーマー。

 これらは、珪子が少し前まで使っていた装備だ。

 極めつけは髪。SAOではアイテムさえあれば多少髪型の自由が利く。

 今の俺は、ロングストレートの髪に後ろはコートのようになっていて前が開いている服

、下に穿いているのは勿論スカート。全体的に十字架をあしらった赤い色が特徴のスカー

トを必死に抑えている。女の子が穿けばふとともが眩しいのかもしれないが、俺が穿いて

も誰も得しない。むしろ恥ずかしいだけ。 

「や、やばいです。悠くんが目覚める前に私が目覚めそう……」

 何かスイッチの入ってる珪子。うっとりした眼差しで見つめられる。いや、視姦さてい

る。大袈裟じゃないよ?

「ちょっと、そんなに見なくてもいいでしょ!?」

「これは、確かに……アンタ私が店を持つ事になったら売り子やってよ。絶対ファン出来

るから」 

「絶対に嫌だ……」

 俺達のやり取りを見ていたサチも手を頬にあて―――

「どうしよう、アスナ。私もシュウの姿がありだと思ってきちゃった」

 などといい始める。それにアスナも。

「うん……あり、だよね」

「これで外を歩けとか、どんな罰ゲームだよ」

「諦めろシュウ」

 ガクリとうなだれる……もう、抗うのはやめよう、うん。

 

 

「とりあえず、シュウが35層で怪しまれずに紛れ込むのにはこれでいいとして、問題は

どうやってロザリアをおびき出すかだ」

 とりあえず俺は、ショックが強すぎたので傷心休憩中……ちなみに姿は戻っていない。

「それには、私に案があります。知り合いにビーストテイマーがいるんです」 

「テイマー仲間か」

「はい。その子がちょうど35層にいるんです。しかもテイムに成功したモンスターは、

極楽鳥です」

「また、凄いのをテイムしたな。あれってレアドロップアイテムにオートヒーリング能力

向上の指輪があったから一時期凄い量を狩られていたはずなのに」

「そうなんですよね。で、その子のPT一人前衛が抜けたって話をこの前したばかりなん

です」

「上手くすれば入り込めるって訳か。でも、それだと、協力してもらった人たちが危なく

ならないか?」

「あっ……」

 妙案だと思ったのだろうけど、キリトに欠点を指摘され迂闊だったという表情になる。

「ちょっといい?」

「なんだ?シュウ」

「俺なら、35層なんてソロで十分だし、一人でふらついてみるよ。早くもとの姿に戻り

たいし」

「悠くん勿体無いですよ」

 残念そうな顔をしているがここは引き下がれない。

 とりあえず、珪子は無視して、話を進める。

「まぁ妙案が思いついたら連絡してよ」

「シュウ」

 早々と部屋から出ようとしたところでリズに呼び止められる。

「なにさ?」

「一人称もそうだけど、もうちょっと女の子らしくしていた方がカモリやすいんじゃない

かな?」

「たしかに、そうかも……分かった」

 恥ずかしさしかないがここまで来たらどうにでもなれだ!

「うん、分かったよ。リズ」

 意識せずとも高い声。それを少し色を付けただけで自分でもかなり変わるものなのだと

自分でも関心する。

「やばいわ。アンタ素質ある」

 悟った顔でサムズアップ。

「それじゃ、いって来る」

 今度こそ35層へ……

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