赤の短剣使い   作:鉄分不足

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赤の短剣使い2

 35層に降り立つ。

 何処か当てがあるわけでもなく、無闇に町をうろつくのは逆に警戒心を与えてしまいか

ねない。

 少し過剰であるきもするけれど、用心に越した事はないだろう。

 そういえば、珪子曰く宿屋一階、風見鶏亭のチーズケーキは絶品だとか。

 情報収集も兼ねて頭に過ぎった風見鶏亭に足を向けるべくMAPを広げて場所を確認し、

足を運ぶ。

 風見鶏亭の前。音楽と共に笑い声が聞こえる。随分と賑わっているみたいだ。

 このアインクラッドでは主に3グループに分かれている。一つは俺達攻略組み。二つ目

は、中層でトレジャーハントなどを生業にして資金を得ているグループ。もちろんその中

にも、自分達の安全マージンを十分に取った状態でこのファンタジーな世界を楽しむ、と

言うのは少し盛っているかもしれないけど、そこそこの刺激を求めてモンスターと戦って

日銭稼ぐ人達。職人プレイヤーも重要な人たちだ。

 最後に、モンスターとは戦えず、かといって一層を根城にしている解放隊にも属さずに

一層で腐っている人たち。食料は最低限至急されるから、餓えて苦しむ事も無い人たち。

 扉を押して中に入り、見回す。

「やっぱり込んでるな」

 ぼそりと呟いた所で気持ちを引き締める。おっと、今の俺は女。仕草はどうしようも無

いだろうけど、せめて口調だけでもね。

 時間も夕食時のいい時間だ、混んでいて当たり前なわけで。

 こんな事なら、何か作ってもらえばよかったかも。

「レル」

 呼び声に反応して声のしたほうへ顔を向けると、2階から極楽鳥が女の子の方へ飛んで

いく。どうやら、あの極楽鳥の名前らしい。

「あぁ、あの子が」

 珪子が話していたビーストテイマーか。

 これはモンスターをテイムした人をうらやましいという意味も込めて呼ぶ敬称だ。

 ぼんやりとそんな事を考えていると極楽鳥を連れている彼女に声をかけられる。

「えっと、見ない人ですけど、この層は始めてですか?」

「は、はい」

 思わず声が裏返る。

「女性プレイヤーって少ないですし、折角なんで食事、一緒にいましょう?私は、ユミっ

ていいます」

「ぼ、いや、私は、ユウって呼んでくれると嬉しいです。ゲーム名はシュウなんですけど

ね。男性キャラで作成したらって感じで」

 しまった……咄嗟に嘘を……

「そういうの、男性プレイヤーに多いですよね」

 鈴が鳴るような声で笑うと彼女にきずいたプレイヤーが声をかける。

「ねぇー、ユミちゃん。今からご飯なら僕らと一緒に食べようよ。よかったらPTも一緒に

どう?」

 声をかけてきたのは、痩せ型のプレイヤーと一緒にいた横幅の広いプレイヤー。

「隣にいるのはシリカちゃんじゃないんだね」

「期待させていたらすみません」

「いやいや、そんな事ないよ。君も十分にかわいい」

 とりあえず、笑みを返す。

 が、帰ってくる笑みが怖い。うぅ、軽く寒気がする。

 出来るなら係わりたくないな……

「ごめんなさい。今日は彼女と二人だけで食事なんです。初めてこの層に来たみたいなん

で女性同士の方が居心地もいいと思いますし、また今度誘ってください」

 ユミさんがそう答えると、男二人はつまらなそうか顔になるが―――

「そこまでいうなら」

 渋々といった感じだけど承をしてもらえたみたいだ。

「じゃ、また今度機会があればよろしくお願いします」

 軽く会釈して俺達は角の席へ腰を落ち着かせる。

「人気なんですね。移動の際にも声かけてもらっていましたし。フォルトゥナのユミでし

たっけ?」

「それは恥ずかしい通り名です……レル、あ、この子の名前なんですけど、この子をテイ

ムしてから、レアアイテムのドロップ率が上がった?ようなきがするんです」

 そういってレルの頭を撫でると気持ちよさそうに、レルは目を細めている。

「それは不思議ですね。この世界では運のステータスは無いはずなんですけどね」

「ですね。でも、私はPTにいるとレアが出るって云う噂は尾ひれが付いて、中層ではち

ょっとした有名人だったりするんです。私」

「確かに運がいい人って必ずいるですよね。苦労して出したレアアイテムをポロっと出し

ちゃう人」

「それが、私です」

 ふふっと笑うと、舌を出す。  

「あっ料理が来ましたね」

 NPCが料理をテーブルに置くとユミさんは水を一口。

「35層が始めてって事は以前は何処に居たのかって聞いても?」

 この辺は結構人によってはタブーの場合がある。

 人が本当に死んでしまうであろうこのゲームでは自分だけ生き残ってしまったという事

も、間々ある。

「38層にいました。私の場合はギルドの内情が悪くなって、新たな場所を求めてって感

じです」

「ずばり、男の子関係ですか?」

 女の子って言うのはこういう話に繋げるのが好きなのだろう。

 珪子たちを見ていてそう感じる。

「あっははは。そんな感じです」

 またしても嘘をついてしまった…… 

「分かる。女性プレイヤーが圧倒的に少ないから男同士で取り合いを始めるんですよね。

私がギルドに入っていないのもそういう関係です。シリカみたいに大きな所に居れれば周

りの男も近づかないのかなぁ」

 そもそも、恋沙汰でどうこうじたいが嘘なので、この会話の流れを変えるべくシリカを

使わしてもらおう。

「あの竜使いシリカさんとお知り合いなんですね。閃光のアスナさんとギルドではペアを

組んでいるっていう」

「たまたまね。同じビーストテーマー仲間ってところです」

 さらに、NPCがケーキと紅茶を運んでくる。

「あれ?こんなの頼みましたっけ?」

「これは、お近づきのしるしです」

 話に聞いていたチーズケーキだ。フォークで切り分け一口。

「これは」

「ね?美味しいでしょ?」 

「ですね」

 思わず頬がゆるむ。

「うん。反応を見て私も満足」 

 笑顔で返してくれる。この子なら中層のアイドルと言うのは納得だ。

「ねぇねぇユウさん」

「なんでしょう?」

「もし良かったらなんだけど、しばらく私とPT組まないですか?」

 うーん。参ったな。そもそもが、イエローギルドを見つけるためにここに来ている。

 必然と戦闘になる可能性も高い。それに巻き込むのは気が引ける……

「あの―――」

 言葉を出そうとしていたところで、違う女性プレイヤーが俺達に話かける。

「あら、ユミじゃない。隣の子は?」

「ロザリアさん」

 アイツがロザリアか。街に入れるって事はもちろんグリーンカーソル。

 多少冒険だけど、会話をしてみよう。こちらの正体は分からないはずだ。

「こんばんわ。ユウっていいます。しばらくこの層でご厄介になろうと思うのでよろしく

お願いしますね」

「可愛い顔してるじゃない。今度ユミを誘ってレアアイテムでも出しに行きましょ?」

「私はへっぽこなので、足を引っ張っちゃいますよ」

 とりあえず手を振って謙遜をしてみる。

「あらあら、そんなのは平気よ。みたところ」

 俺の装備を見て品定めをしているのだろう。武器は最前線で使っている物、防具も、一

ランク下がる程度の物で十分にこの層ならばかなりの代物はずだからだ。

「いい装備しているじゃない、貴方。レベルは?」

「えっと50って所です」

 現在のレベルは77。当時のレベルを思い出て言ったけど高すぎたかも? 

「ユウさん私より3もレベルが高いんですね」

 マズったか?

「それなら38そうでも十分につうじそうじゃない?」

「安全マージンっていくらあってもいいですからね」

「それもそうね」

 にっこりと笑うロザリア。疑って話すと全てがうそ臭く感じるな……

「機会があったらよろしくおねがいします」

「ええ、近いうちに一緒に何処か行きましょう。じゃ私はこのへんで」

 手をひらひらさせて身を翻し、今日PTを組んだであろうグループへ向かう。

 これは、いきなり本命が釣れたかもしれないな。

「す、凄いですね。ユウさん」

「なんで、です?」

 まさかの言葉にきょとんとしている俺に言う。

「あのロザリアさんって、雰囲気と勢いでいつもおされちゃうんです」

「確かに、そういう感じの人ですね」

 あれくらいヒースクリフとかに比べたら小者中の小者だし、考えてなかった……

「きっと慣れってやつだと思います」

 間違った事は言っていない。うん

「私が克服するのは、まだまだ先みたいですね」

 あっははと頬をかくユミさん。

「そうそうPTの件ですけど、どう、かな?」

「お受けします」

 丁重に言葉を返す。

 状況が変わった。彼女がターゲットになりえる人っていう事もあるし、多分俺もその一

人になれるはずだ。一緒にいた方が安全だろう。

「よかった。えっとユウさんの武器は短剣?」

「ですね。PTでは速度を生かしてダメージディーラーをしていました。大型のモンスタ

ーじゃなければ、フロントも出来ます。さすがに、タンクの様な活躍を期待されると困り

ますけど。ユミさんの武器は?」

「私の武器は片手用直剣に盾を使っているスタンダードのスタイルでスキルレベルは88

0かな。筋力優先の俊敏性もそこそこある形ですね」

 聞いてみたステータスもキリトに盾を持たせた感じだと思っていいだろう。

 もっとも、キリトの場合は盾を持たないのには理由があるらかね。

 その事実を知っているのは、本人を除けば俺だけだ。

「それじゃ後は、二人も居れば35層なら安全ですね」

「私は、根無し草ですから固定でPTを組まないんです。日替わりPTってやつですね。

ですから今から仲間を探しに、どうですか?」

「それはいいですけど」 

 そう答えると、ユミさんは手を取る。

「決まりです」

 と答え、取った手を引いて風見鶏亭の外へ。

「えっと。当てとかあるんですか?」

「ないですね」 

「そんなあっさり!?」

 思ってもみない返答だったので思わずツッコミを入れる。 

「思っていたよりもユウさん、ノリもいいですね」

「お褒めに与りまして光栄です」

 どこかで見たような、優雅な礼を見よう見まねで行う。

「大儀である。なんちゃって」

 ユミさんは舌をだして、笑う。

「うん。それじゃ今から広場に行きましょう」

「広場でなにするんですか?」

「人集めですよ。臨港って私達は呼んでます。ユウさんは使った事ないですか?」

「いつも固定PTだったので、足を運んだ事がないです」

「なるほど。それじゃ、少しびっくりするかもですね」

 中央の転移門近くにある掲示版に人が集まっているのが見える。

 臨港というのは、お互いにPTを組みましょうという人が集まっている広場の敬称だそ

うだ。

「た、確かに凄い人ですね。もう夜の7時回ってるのに」

「今いる人たちはこれから狩りに出かけようとしている人と、私達みたいに仲間探しをし

ている人たちが集まっています」

「夜の方が人がいない分いろいろと効率がいいのは認めますけどね」

「もしかして、ユウさんはそういうの気にする派ですか?」

「あー、大丈夫です。過去にどうしても夜にしかポップしないモンスターを倒さなくちゃ

いけないことがあって、やってみた事が一度あるんですけど、眠くて眠くて」

「そういうことなら、私も一度」

 そんな会話をしながら掲示板の前に着く。

 掲示板には自由に書き込めるようになっていて、そこには人探しやアイテム交換。

 もちろん、メインはPT募集だ。例えるなら、スタジオなんかでメンバー募集をしてい

るようなのを電子版にし感じになっている。

「ユウさん。欲しい人っていったらどういう構成になります?」

「うーん、そうですね。ユミさんが盾をもっていても、前衛でスイッチ出来る人がもう一

人いた方が安定するでしょうし、火力になりそうな人を一人、タンクを一人って感じでし

ょうか」

 掲示板をタップするとメニューが広がり項目と検索が出来るようになっている。

「4人PTって訳ね。該当しそうな募集は……」

「ありました?」

「ないですね。今日書き込んでおけば返答が明日にはあるでしょうし、やっておきましょ

うか」

「お願いします」

「それじゃ」

 空中投影キーボードが浮かび上がる。

「ユミちゃんの新しいお友達?」

「はい」

 豪華な装備に身を包んだ3人PTだ。

 見たところあれだけの装備があれば40層でも通用するだろう。

「シンさんに、ルードさんとタークさん」

 俺の声に反応してか、振り返って声をかけてきた男グループの名前を言う。

「こんばんわ、ユミちゃん」

 ディアベルとまではいかなくても、なかなかの顔だ。

「この方達は?」

 てか、女装してるせいか、野郎の視線が気になる……まぁいいや。この姿イコール攻略

組みのシュウが結びつかなければ、今だけ、今だけ……

 すみません。まだ2時間ちょいしか経ってないのに羞恥心で心が折れそう……

「どうかしましたか?ユウさん」

「いえ、なんでも」

 心で涙を流すしかないじゃない!

「気を取り直して、彼らは攻略組みを目指しているギルド、トゥレスって言うギルドの皆

さんです」

「それじゃ、改めてこんばんわ。ユミちゃん、隣の子紹介してよ」

 ただのナンパ野朗なのか?

「私の事はユウって呼んでください。ユミさんには話したんですけど、始めた時に男性ア

バターで作ってしまって、キャラクター名がシュウなんです」

「ユウちゃんは逆なんだ。でも、可愛い子ならありだ。ネカマっていうの?アレは理解で

きないけどね。キモイじゃん?」

 ギャグのつもりだったのだろうけど、笑えない……今、まさに、俺がしている行為その

ものじゃないですか!

「あっはは……は」

 とりあえず出たのは、乾いた笑い声だけ。

「ほうほう。それじゃ、ユミちゃんとユウちゃんはしばらくPTを組む事になったから広

場に来たと」

 言葉にしたのはギルドのリーダーでもある、シンだ。

「そんな感じで組めそうな人を探していたんですけど……」

「こんな時に限って見当たらないって言う落ちなんです」

 と、俺の言葉に補足を入れてくれるユミさん。

「シンさんはなんで35層へ?」

 ユミさんは思いついたように、疑問を投げかける。

 確かに、最前線に行く事を目標にしている人たちがこの35層に来るのには俺のような

お使いがあるか、友達に会いに行くなどの理由が無ければ経験地がマズイ下層に降りてく

る理由が無い。ユミさんの対応から鑑みるに寝床がこの層にあるとも思えない。

「ちょっとお金儲けにね」

 とウィンクを一つ。

 くっ……かっこいい人間がやるとこうもかっこよく見えるのか。

「ユウさん。シンさんを見てボーっとしますけど、かっこいいとか思っちゃだめですよ?

 ?マークを浮かべる俺に言葉を加える。

「彼、たらしなんです。見た目に騙されちゃダメ、ですよ?」

「なるほど、注意しておきますね」

 まぁ、俺自体男なんでそんな事ありえないんだけどね。

「ひどいなぁ。両手で数えられる数しか女の子と付き合ってないよ」

「十分多いです」

 二人のやり取りをみて今度は俺が疑問を訊く。

「お二人の関係を聞いても?」

「あぁ、俺達は同じ学校の同級生。あいつらもね」

 親指でクイっと連れの二人を指差す。

「仲がいいならユミさんと行動……」

 人差し指を口に当てられる。これ以上言うなって意味だろう。

「どれだけ仲がよくても、踏み入っちゃいけない事もある、だろ?」

 行動こそキザだけど、そこには人を思いやる言葉がある。

 俺も、そういう奴を見てる訳だし、少なからず分かった。

 コクコクと首を縦に振ると、指をそっと離して口を開放してもらう。

「キミ、唇柔らかいね」

「ちょ、顔近いです」

 ディアベルだけで勘弁だっての。

 そう考えていた所でパシンとシンの頭を叩くユミさんの姿がある。

「そうやって、本気でもない娘をたぶらかさない」

「ごめん、ごめん。お詫びに、俺らとしばらくPT組んでみない?俺達レベルも高いし」

「シンさん、何か企んでません?」

「ないない。神に誓って!」

「本当に?」

「本当にだ。ポーションなんかの消耗品代をもらえればそれでOK」

 うーん、と唸りながらユミさんはシンの目を見る。

「信用してもいいです」

「よかった。それじゃ二人ともよろしく」

 ニカっと笑って見せるシンに。

「はい、よろしくおねがいします」

 俺は、笑みを返す。

「おー、ユウちゃんは笑顔も素敵だね」

 今度はパシンではなくゴーンと金を撞くような音がする。

 音の根源はユミさんの持っている直剣だ。

「ちょっと待て、今のはアインクラッドじゃなかったら100%死んでたぞ?」

「残念です」

 言葉のトーンが下がる。

「分かった、今度こそ変なマネはしない」

 ユミさんの顔を見て、冗談じゃないと肌で感じ取ったんだろうね。

 シンさんは二枚目なのか、三枚目なのか……

 でも、嫌じゃない。

「仏の顔も三度までっていいますし、2回目と言う事で許してあげます」

 ガヤガヤと騒ぎ始めるのを遠めに眺める。

 成り行きはいつも偶然と偶然の重ね合わせだと思う。

 黒猫団の時もたまたま助けたのが原因だったっけな。

 あの時のとは違う。俺が少し気を使い、頑張れば助けられるはずだ。

 目的が少し変わってきてるけど、これもめぐり合わせってやつか。

 俺も、引きずってたのかもな。あの時の事を。慈善事業に手を貸して自己万に浸るとか

ね……

 考えられる事を頭を使ってフル回転させる。俺が今、やろうとしている事を全て話して

少しでも危険があると言うことを告げる。

 そうすれば、ロザリアからの奇襲を意識できる。まぁ、手口からして現状はユミさんを

含めて俺らに手を加えるという事は無いとみていいだろう。

 だけど風見鶏亭の一件で、ターゲットになり得る事は恐らく確定。本人のレベルも、規

模も分からない、か……

 とりあえずは、今日の顛末の報告を珪子に後は、アルゴに協力を願わないと情報収集は

とりあえずお手上げ。

 思っている以上に長丁場になりそうだ……

 

  To Be Continued 

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