第五話でちょっとだけ出た
時系列は連合結成前です。
ああ、嬢ちゃんか。どうした、現場に来るなんて珍しいじゃないか。
うん? 大将のことを聞きたい? まあ、構わないぜ。
呼び方か? みんな好きに呼んでいるな。村長、
おっと、会頭はもう緑飛に譲ったんだったか。
俺たちは昔から"大将"さ。
さて、じゃあ詰所にでも行くか。
おまえら、俺は外すけど予定通りにやれよ!
安全第一、いのち大事に、忘れんじゃねぇぞ!
何かあったら呼びに来い!
んじゃ行こうか、嬢ちゃん。
さて、酒でも出してやりたいところだが、ここには水と塩飴しかねぇからな。
そういや緑飛から聞いたが、デカい取引が決まったんだろ。南の、天才ちゃんとこの。
「私は天才だぁ~」が口癖の天才ちゃん。まあその割には、武でも碁でも緑飛にやられたらしいが。まあ緑飛も大将に鍛えられてるからな。そこらの腕自慢には負けんよ。
でも大将は気に入ってるみたいなんだよな。蜂蜜とか馬とか農具とか、まとめて買ってくれるお得意さまだからかな。
徐州の豪族の娘だって話だから、金持ちなんだろうな。
おっと、大将のことだっけか。何が聞きたいんだ?
ふむ。大将がどこで学んだか……か。
仙人に教わったんじゃねぇかな。
ああ、別にはぐらかしてるわけじゃないぜ。ほら、張良だって黄石公って仙人から色々学んだっていうじゃねぇか。
ははっ、意外かい? 俺なんかが張良を知ってるのが。まあ具体的に何をしたかってのはよく知らねぇがよ。昔の偉い人だってことくらいは知ってるぜ。
まあ普通に都で学んだんじゃねぇかな。出会った時も良い身なりだったし。元貴族で、没落したか追放されたかってとこじゃねぇかな。ま、これは俺の予想だけどな。
うん? 大将の知識は既存のものとは隔絶している、か。水鏡って偉い人のとこで学んだ嬢ちゃんがそう思うのか。
ああ、なんて言ったかな。全ては思考の延長にある、だっけか。
わからないか? そうだな、水を温めればお湯になる。もっと温めれば沸騰して湯気が出るだろう? 湯気は空に昇っていく。なぜだと思う?
そういうものだから、か。まあ俺もそう思ったよ。そんなこと真面目に考えねぇよな。これは熱の力っていうらしい。水を温めれば空に昇る。空気も同じだ。温めれば空に昇る。その温めた空気を集めれば、人も空に昇ることができる。
まあそんな顔にもなるよな。俺たちも最初は同じ顔してたと思うよ。でもさ、大将はいつだって俺たちの理解できないものを作ってきた。
まあ、うんことにらめっこを始めた時は、気でも狂ったのかと思ったが。
いや、よく分からん。今でもよく分からん。一般人がしょうせきの作り方なんて知ってるわけねぇだろ! って叫んでそれきりだ。
しょうせきって何なんだろうな。
おっと話が逸れたな。
このくらいの、小さい模型だったな。ちゃんと飛んだんだよ。空に昇って行った。大将の言ったことは間違ってなかったんだ!
ああ、すまんな。ちょっと興奮しちまった。あれが空飛ぶ船の原型だったんだろうなぁ。
あっ、これ言っちゃだめなやつだったのかも。まあ嬢ちゃんならいいか。大将の張良だしな。
ははっ、そんな照れなくてもいいって。でも誰にも言わないでくれよ。まあ空飛ぶ船なんて誰も信じないだろうけどな。
大事なのは、そんなモンだで思考を止めないことらしいぞ。思考を……なんだっけな、思考を……そう、ふらっとさせるって言ってたな。
頭を柔らかくしろってことだと思うぜ。常識だとか、先入観とか固定観念とか、そういうのは思考を狭めるって。
まあ偉そうに言ったところで、全部大将の受け売りだけどな。
そういや、嬢ちゃんも大将から気を習ってるんだろ? 武人に向いてるとは思えねぇが、気の巡りは重要だぜ。俺には武才はなかったが、気を意識しだしてから、病気とか罹りにくくなったし。
大将は、嬢ちゃんたちなら気功波が撃てるって期待してるみたいだぜ。
ははっ、気功波が撃てるやつなんて、うちでも片手で足りるくらいだからな。できなくても気を落とすことなんてねぇって。
まあそいつらでも関羽の嬢ちゃんや張飛の嬢ちゃんに敵わねぇんだから、上には上がいるもんだな。
噂の飛将軍ってのは、一人で黄巾の三万をぶっ倒しちまったんだろ。想像もできねぇな。
大将とどっちが強えかな? 飛将軍も強いんだろうけど、大将が負けるところも想像できねぇな。
ん? ああ、大将は強いぜ。一番の激闘っつったら、
あいつらには色々と掟があってな。そのひとつに、年下から挑まれた場合、逃げてはいけないってのがあるんだよ。
戦いは一刻(二時間)は続いたかな。お互いボロボロになってさ、最後に大将の大技が決まったんだ。
あの巨体がものすげぇ高さまでふっ飛んでた。ああ、こりゃ死んだなって思ったもんだ。
これは後から知ったんだが、あの技は気の爆発以上に、生きようとする力を極限まで高めることが必要なんだと。まだ未熟だから窮地になるまで使えなかったって大将は言ってたな。
まあ未熟だろうと未完成だろうと、威力は凄まじいモンだったよ。
でもな、羌渠は耐えきったんだ。フラフラになりながらも立ち上がったんだ。
けど戦いが続けられる状態じゃなかった。そのまま
――見事な武であった
そう言って、羌渠を抱きしめたんだ。
それからだな。匈奴との交易が本格的に始まったのは。今じゃあ二人は刎頚の友ってやつさ。
男女の仲だったのかは……と、嬢ちゃんにはちょっと早かったか。
まあ、これでめでたしめでたしとはならなかったんだがな。匈奴も一枚岩じゃない。羌渠が負けたって噂はすぐに広まって、結構大変だったらしい。
鮮卑や烏桓もいるしな。まあ烏桓は公孫賛様のおかげで、かなりおとなしくなったみたいだが。
おっと、呼ばれちまった。悪いな、嬢ちゃん。俺は仕事に戻るわ。空飛ぶ船のことは黙っといてくれよな。そんじゃ。
(あわわっ、すごいこと聞いちゃった。誰にも言っちゃいけないって言われたけど、朱里ちゃんだけにならいいよね。もし本当に空飛ぶ船が完成したら、戦の常識がひっくり返っちゃう!)
さすがに硝石の作り方は知らなかったもよう。