恋姫奇譚   作:乾燥海藻類

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第六話 決着

夜が明けたら連合軍が消えていた。

夜陰に紛れて撤退したのだろう。まあ、孫策からの連絡で知ってはいたが。

いよいよ冀州が危なくなってきたからな。無念の撤退といったところだろう。

 

食糧の問題もあるだろう。適当に削った後は、兵を殺さないようにしていたからな。こういうのが地味に効いてくるんだ。

今のところ逆賊と公布しているのは袁紹のみ。他の諸侯は袁紹と距離を取りたがっているはずだ。

いやぁ、終わってみれば楽勝だったなガハハ。

 

「……おはよう」

「おはようですぞ!」

「おはよう、恋、音々音。ちゃんと朝飯は食ったか?」

「ん、お腹いっぱい」

「準備も万端整ってますぞ!」

 

恋はかわいらしい仕草でお腹をポンポンと叩き、音々音は元気一杯に両手を突き上げた。

 

「そうか。では手筈通りに」

「ん」

「お任せあれ、ですぞ!」

 

恋と音々音が追撃の準備に入る。

二人には袁術と、ついでに劉表を追撃してもらう。劉表は宗室の一人であるのだが、皇族の末裔でありながら反逆者の味方をしたのだ。討たれても仕方ないだろ。

だが最後にチャンスは与えるらしい。洛陽に来て頭を下げるなら、命だけは助けるのだとか。身内には甘いな。まあ皇帝もまだ子供だしな。

そういう甘さ、嫌いじゃあないぜ。俺は劉表に思うところなんてないし、別に嫌な思いもしてないからな。

 

このタイミングで孫策が袁術に対して反旗を翻し、揚州を平定する手筈となっている。

まだ公布はされていないが、袁術も逆賊として処分する手筈が整っている。当然この情報は孫策にも知らせてある。

 

「では華雄、後を頼む。期日までに何もなければ帰還してくれ。副官として愛紗と青龍隊の半分を置いていく。何かあれば相談してくれ」

「うむ。任せておけ。だが本当にいいのか? これ(・・)を貰っても」

「ああ、これからは精鋭部隊だけではなく、好きに使ってくれて構わない」

 

(あぶみ)は里でも秘中の秘だったが、北郷一刀という存在が現れたからには、これ以上隠しておく理由はない。

恋から孫策にも伝わるはずだから、少しは楽に戦えるだろう。

ほかの秘匿技術も売れるうちに売っておいた方がいいかもしれないな。

 

「では遠慮なく貰っておこう。しかしこうなると、袁術の兵に同情するよ。鐙を得た恋は、虎が翼を得たようなものだからな」

 

華雄は南方の空に向かって呟いた。

虎は孫策だろ。それに、虎に翼は悪い意味で使う言葉だから、そこは鬼に金棒とか獅子に(ひれ)とかの方がいいんじゃないかな。

 

さて、話に出てきた袁術は無類の蜂蜜好きだったため、かなり稼がせてもらった。当たり前の話だが、商品というのは中間業者を挟めば挟むほど最終価格が上がる。

希望小売価格とか独占禁止法なんてものはないが、他の商会から恨みを買うのは避けた方が良い。儲けは分け合うものだ。

 

最終的にどのくらいの値段で袁術が買ったのかは分からないが、買い付け業者は頻繁に来ていたので、莫大な利益を生んだ。

うちの蜂蜜は他商会の扱う蜂蜜とは品質がダンチだからな。一度うちの蜂蜜を味わえば、他の蜂蜜では満足できなくなるのだ。

ありがとう。まだ見ぬ袁術よ。キミのことは忘れるまで忘れない。安らかに眠ってくれ。

 

「では、先に戻らせてもらう」

 

汜水関を華雄に任せ、俺たちは涼州勢と共に洛陽へと向かった。

さて、今後の策としてはこうだ。

まず連合軍を討伐する一助となった孫策と曹操に褒賞を与える。

孫策には袁術討伐の恩賞も含めて荊州も与えるつもりだ。

 

いきなり揚州と荊州の運営は、さすがにパンクするかもしれんが、張昭とか周瑜がいるなら大丈夫だろ。魯粛もいるしな。なんで魯粛はあんなキャラになったんだろうな。まあ見てる分には面白いけど。

村長として(・・・・・)色々教えてやったから、農業についてはかなり詳しくなったんじゃないかな。

やっぱ生産力上げるのが一番なんだよ。

 

そして曹操だが、まずは適当な将軍職を与える。そして霞、公孫賛と合流して袁紹を叩いてもらう。

この汜水関の戦いで曹操軍はほとんど損害を受けていないから、糧食をこちらが用意してやれば、軍を動かすのは容易のはずだ。

必要なら兵を貸してもいいし。

 

そして袁紹討伐の恩賞として、九卿あたりの席を用意する。史実の曹操は最後まで皇帝にはならなかったから、漢帝国への忠誠心はある程度あったはずなんだ。

個人的には丞相にして縛り付ける方がいいと思っているが、さすがに実績が足りない。

 

……うん、いや感覚が麻痺してるな。ついこの間まで地方の一官吏だった董卓が相国で、賈駆が太尉で、官職でもなかった俺が征南将軍だもんな。

通常じゃあありえない人事だ。洛陽の混乱っぷりが如実に現れている。

 

一応言っておくと、皇帝に官職を与えられると、官人は断れない。皇帝様のお言葉はすべてに優先するのだ。これを辞退すれば、曹操も反逆の意志ありと判断される。

この策の要諦は最初から最後まで、曹操に「選択肢を与えない」ことだった。

 

曹操が連合に潰される可能性もあったが、曹操って地味に生存能力高いんだよな。代表的なのは赤壁と涼州討伐か。関羽と馬超に殺されかかっている。どちらも九死に一生レベルだったが、ちゃんと生き延びた。

まあ潰されたら潰されたで、次善策に切り替えるだけだが。

 

曹操の感情は複雑だろうが、部下は諸手を上げて歓迎するんじゃないかな。間違いなく大出世だし。

というかたぶん、曹操は気づいていたと思う。後半の攻め方がそんな感じだった。立ち合いは強く当たってあとは流れで……みたいな。特に夏侯惇は迫真の演技だった。恋との一騎打ちは、俺との一騎打ちが埋もれるくらいの名勝負だった。

恋もかなり頑張ったと思う。演技的な意味で。

 

洛陽に帰還した俺は、すぐに賈駆と打ち合わせを行った。

 

「あ、ごめん。のっくをするべきだったかしら?」

「いいさ。俺とキミの仲だ」

「もう。一体どんな仲よ」

 

賈駆は呆れたようにため息を零した。

 

「でもいいわね、これ。来訪の合図。習慣がないから、忘れることもあるけど」

 

近くの壁をコンコンと叩きながら、賈駆は小さく笑った。

 

「勅は用意してあるわ。あとは、誰が曹操のところに行くか、ね」

「やはり三将軍の皇甫嵩殿か朱儁殿だろうな。曹操も従いやすいはずだ」

 

噂通りなら曹操軍の幹部は女でまとめられているらしい。例外は北郷一刀だけだとか。これはこの世界だとそれほど珍しくもないのだが、曹操の場合はより顕著というか、特に軍師の荀彧の男嫌いは有名だ。

感情を見せないのが軍師の鉄則だろうに、男嫌いを公言しているらしい。問題なのは、それを曹操が矯正させてないってところだな。

 

将は女が多いが、兵士は大多数が男だ。荀彧は男を使い捨てるつもりだ、などの噂を流せば、相当マズいことになるんじゃないかな?

まあ今のところは曹操のカリスマでもっているみたいだが。

 

史実の荀彧は割と好きなキャラだったんだけどな。曹操の臣下でありながら、漢の忠臣でもあり、漢王朝を助けて国家を安定させることで、曹操は忠誠を誓うべきだと主張していた。最期の空箱のくだりとか、色々と考えさせられて、涙を流したのを覚えている。

ぶっちゃけた話、曹操は頭の回転が早すぎるためか、衝動的なやらかしを犯すことが多いイメージだ。呂伯奢の件とか、鶏肋の件とか。

……いかんな。史実に引っ張られすぎてはいけないと思いつつも、こうしたことを考えてしまう。

 

この世界の曹操がどうかは分からない。付き合ってみれば意外といいやつなのかもしれないし、荀彧も単なる風評被害なのかもしれない。

ふむ、機会があれば話してみてもいいかもしれんな。

 

袁紹と袁術を打倒すれば、おおよその問題は解決したと言える。内部の問題は多少残るが、宦官を一掃したことで風通しは良くなった。

もう宦官制度は廃止した方が良い。悪い文明だろアレ。そもそも女が皇帝になれるって時点でなぁ。いや、皇帝が女だから、周りに男がいると姦通の可能性が生まれるのか。

だから女の宦官がいたんだな。

うん? じゃあ男の宦官は何のためにいるんだ?

なんかこんがらがってきたぞ。

……もうこの話はやめよう。ハイ、やめやめ。

 

益州はしばらく様子見だな。

劉焉は張魯を利用して独立する野心を持っていたとされているが、張魯の提唱した五斗米道が気功医療だったからな。元々の五斗米道も病気治療を基本としているが、その時代らしく、祈祷がメインの治療だった。宇宙の神がどうたら的な。

 

医療とはいえ、気功が使える者を大勢抱えているってのは、確かに危険視されてもおかしくない。だがあいつら、なんというか変人の集まりなんだよなぁ。

里にも来たんだよ。そんでいきなり「あなたが神か!?」ときたもんだ。

 

なんか知らん間に及時雨とかいう噂が流れていたらしい。

……俺は宋江だった?

つーか神は張魯じゃねぇのかよ。教義はどうなってんだ、教義は!

 

そんな気功医療が得意なフレンズたちだが、あいつらは人を治療することに喜びを感じる良い変人だったので、反乱を起こすとも思えなかった。

劉焉も今のところ怪しげな動きはしていないし、あまり史実を当てにしすぎるのも良くないな。董卓がアレだったし。

 

涼州は問題ないだろう。そもそも涼州と中央の関係が微妙だったのは、物資の問題が大きい。要するに中抜きと賄賂だ。

これは董卓が相国になったことで解消された。

 

「そうね。いやまあ、実際よく勝てたものだと思うわ。アンタたちが来るまでは、月を逃がすことも視野に入れていたもの。かなり悲観的だったわね」

「ふっ、これが結束の力だ」

「……随分とクサいこと言うのね」

 

賈駆のまなじりが少しだけ下がった。だが連合軍に纏まりがなかったのは事実だ。袁紹は冀州が攻められてストレスが溜まっていただろうし、曹操は内通を疑われてストレスが溜まっていただろうし、他の諸侯は損害が増えるだけで事態が進展しないものだから、かなりストレスが溜まっていただろう。

 

というか、孫策からの情報では、かなりの緊張状態だったらしい。袁紹がおよび腰の諸侯の頸を刎ねる寸前までいったとか。

追い詰められた人間は何をするか分からんな。

 

そんなやつらがそんな状態で会議して、建設的な意見が生まれると思うか? 出たとしても疑心暗鬼で、誰も従おうとしないだろう。

つまり、みんな早く帰りたがってたんだ。

攻めの最中も、何が何でも落としてやろうという気概はなく、損害を抑えようとしている攻め方だった。

 

「……それと、アンタこのまま洛陽に残るつもりはない?」

「いや、それは最初に言った通りだ。この騒動が落ち着いたら、将軍職を返上して幽州に帰るさ」

 

ぶっちゃけ洛陽ってそんなに魅力的でもないんだよな。住めば都っていうけど、やっぱ実家が一番だよな。

 

「じゃ、じゃあさ。青龍隊だけでも置いていってくれない? 全員じゃなくていいから! 半分……四分の一でもいいから!」

「あれは一時的な処置だと言っただろう。代わりは見つからないのか?」

 

俺がそう言うと、賈駆はガクンと肩を落とした。

 

「ボクたちって結局涼州の田舎者だからさ。名家に伝手とかないし。それに宦官を一掃したのもね。あんまり評判良くないのよ。いえ、後悔はしてないわ。あいつらは本当に害悪だったし。でもさ、党錮の禁の再来とか、田舎者が本性を現したとか、色々言われてさ……ははっ、まあ田舎者なのは間違いないんだけどね」

 

ふむ。これは相当参ってるな。前は前で相当なストレスがあったと思うが、それが改善されて、今度はそれが失われるかもしれないという不安を抱えているのか。

朱里と雛里からは改善策が提示されているはずだし、二袁が倒れれば人も集まると思うのだが、先のことは誰にも分からんからな。

 

いっそのこと支店でも置くか? 前は腐敗が酷くて近寄る気にもならなかったが、今なら大丈夫だろうし。

……いや、やっぱダメだな。近すぎるのは、嫌な予感がする。人間ってのは、大体欲を出して失敗するのだ。"金"は必要だが、過ぎたる欲は破滅へと繋がる。

 

富は海水のようなものだ。飲めば飲むほど渇きを覚える。

至言である。幸せの青い鳥は実家にいるものだ。

そもそも洛陽に行きたがるやつ……いるか? 出張じゃなくて常駐だぞ。劉岱は絶対嫌がるだろうし、うちに染まってなくて、上昇志向のあるやつ。まあ探せばいるだろうけど。

 

霊帝が崩御したのは、タイミングとしては良かったと思う。濁った水の中に綺麗な水を入れても、濁りが薄くなるだけで綺麗な水になるわけじゃない。

一度濁った水を全て捨てる必要があるのだ。

漢王朝を延命させるつもりなら、大改革が必要だ。新帝はまだ幼いが、それ故にきちんと教育すれば、まともな王にはなるだろう。

 

それはキミらでやってくれ。俺は面倒だからクールに去るぜ。

自分で言うのもなんだが、有能な臣って割と敬遠されやすいんだよね。李牧は処刑されたし、楽毅も新王に謀反を疑われて亡命することになった。まあ敵の計略ではあったんだけどさ。やっぱ離間の計って怖いなー。

 

上手いこと立ち回ったのは……王翦とか? 俺に王翦と同じことができるとは思えんし、俺は独自の勢力を持っているからな。

面倒になるのは目に見えている。朝廷とは距離を取っておいた方がいい。

神様ってのは、お供え物して遠くで崇めておくくらいがちょうどいいのだ。

 

「なんだかんだ、武人気質のやつらが多いからな。ほら、霞も華雄も書類仕事はできるけど、そればっかりやらせてたら癇癪起こすだろ?」

「……まあ、そうね」

 

恋は全然書類仕事やってないんだよな。大体音々音が引き受けて、たまに高順や臧覇が手伝っている。

呂布って主簿(会計みたいな役職)やってたはずなんだけど、やっぱ史実に引っ張られすぎるのは良くないな。

ただ強さは史実の呂布以上な気がする。まあ史実の呂布なんて知らんし、気なんてものがある時点でお察しだけど。

 

「希望者がいれば残してもいい。それでも足りなければ、里から文官に向いているやつを回してもいい」

 

その言葉を聞いて、賈駆は花が咲いたような笑みを浮かべた。

 

「ホントね! 約束よ! 言質取ったからね!」

「お、おう」

 

必死すぎだろ。そんなに切羽詰まってたのか。

 

「ひとつ胸のつかえが取れたわ。この乱が終わったら、そうね。中庭に花を植えるわ。希望の花を」

「それもいいかもな」

「ふふっ、じゃあ曹操への使者を手配してくるわ。それじゃあね」

「ああ」

「あっ、それとさ」

 

何かを思い出したように、賈駆はこちらに振り返った。

 

「色々あったから、時期を外しちゃったけど、ボクのことは詠って呼んでいいから」

「そいつは光栄だな。だが前にも言ったと思うが、俺に真名を交換する習慣はない」

「うん。分かってる。呼んでくれるだけでいいから」

「そうか。ならそうしよう。詠」

「う、うん。じゃ、じゃあ後でね」

 

そう言って、詠は駆けて行った。

やれやれ、これでひと段落といったところか。さすがの曹操も勅命を無視してまで袁紹を助けようとはしないだろう。

 

ふと思い、空を見上げる。

抜けるような青空が広がっていた。この歪な世界でも、空の青さは変わらない。

そう、歪なのだ、この世界は。

 

三国志に似た世界。三国志を模して創られた世界。

作為的な世界。何者かの意思を感じる世界。

なぜ俺がこの世界に来たのかは分からない。だが、いきなり来た以上、いきなり戻る可能性も考えておくべきだ。

だから俺に依存したシステムはあるべきじゃない。

 

商会もほとんど俺の手を離れている。いま俺がやっていることといえば、新商品の開発くらいだ。里の運営も朱里たちがいれば大丈夫だろう。

……大仕事が片付いたせいか、妙なことを考えてしまうな。

腹が減ってきた。何か食べるか。

俺は食堂に向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェック。いや、チェックメイトですね、これは」

 

道士服を着た青年が、眼鏡をクイと押し上げながら薄く笑った。

ゲームは終局へと向かいつつあった。外史、疑似世界ともいうべき世界で、于吉の用意した"駒"は、相手の"駒"をほぼ完封している状態である。

 

「く、くやしぃ~! でもまだよぉ~! ご主人様ならここからでも挽回してみせるわぁ~!」

「いや、無理でしょう。あの曹操が袁紹と組むとは思えませんし、勅命を無視するとも思えません。というか、曹操はすでに察していますよ。ここから北郷がどうあがこうと覆すことは不可能です。漢王朝は滅びず、天下は治まった。漢帝国の一部に組み込まれた曹操が、逆賊というリスクを背負ってまで天下を目指すとは思えません。三国は生まれず、曹操の天下もなくなりました」

 

于吉は盤上を見下ろしながら、傍にあったティーカップに手を伸ばした。

 

「先手を渡したのは失策でしたね。天の御遣いなどという怪しげな称号より、やはり時間の方が有意義でした」

「言葉もないわねぇん」

 

于吉の正面に座る漢女(おとめ)、貂蝉は胸筋をピクピクと震わせながら項垂れた。とはいえ、貂蝉にとって天の御遣いに相応しいのはただ一人であって、最初から譲る気はなかった。

 

「彼は面白い駒でしたよ。あなたも、北郷一刀にこだわらなければ、もっと良い勝負ができたかもしれませんね」

「ご主人様の侮辱は許さないわよ。私がご主人様以外を選ぶなんてぇ、それこそありえねぇんだよ! ぶるぁぁぁ!」

「……そうムキにならないでください。冗談ですよ」

 

于吉は呆れたように肩をすくめた。

増え続ける外史。無数の可能性の世界。それは正史と枝分かれしたパラレルワールド。

于吉と貂蝉は、両名とも外史の管理者であった。ゲームマスターともいえる存在だが、ゲームを支配できるわけではない。

管理者権限でできることといえば、能力を制限された上での介入と、ゲーム盤に"駒"を招き入れることくらいであった。

そして二人の関係は複雑である。同じ管理者で同族的な間柄ではあるが、仲間というわけではない。

 

「共闘ルートもあり得ましたが、まさか張角になるとは予想外でした。あそこで流れが変わりましたね。まあ、たまにはこんな遊戯も悪くありませんね。なかなか楽しめましたよ」

「この後、彼はどうするつもりなのぉん。ご主人様には及ばないまでも、彼もなかなかイ・イ・オ・ト・コだったわぁ。使い捨てるというのなら……」

 

貂蝉は眼光を鋭くして于吉を睨みつけた。

 

「そこまで不義理ではありません。帰るか残るかくらいは選ばせてあげますよ。尤も、彼はこの外史で(えにし)を作りすぎました。おそらくは、残るでしょうね」

「非情に見えても、優しさがにじみ出ているものねぇ。そこも彼のイ・イ・ト・コ・ロ」

 

貂蝉はその逞しい肉体をくねらせながら、三つ編みを揺らした。

 

「あなたこそ、北郷をどうするつもりです?」

「そうねぇん。なんだかんだ幸せそうだし。このまま見守り続けるわ。手出しはしないんでしょ?」

「ルールを破るつもりはありませんよ。この外史の北郷には、手は出しません。まあ、馴れ合いは今回限りです。他の外史では容赦しませんよ?」

「うふっ、望むところよん。どの外史であろうと、ご主人様は守り通してみせるわん」

 

その返答に、于吉は笑みをこぼして闇の中に消えていった。

 

 

 




于吉の口調をちょっと修正しました。
次が最終回です。
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