恋姫奇譚   作:乾燥海藻類

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第二話 張角死す

「頭領、ただいま戻りました」

「うむ、よく戻った」

 

そう言って部下を労う。彼女は王忠といって、比較的古参の一人だ。元々はどこぞで亭長をしていたらしいが、色々あってここに流れてきた。

なかなか優秀なので、最近話題になっていた黄巾賊について探らせていた。孔明と士元が来る前から放っていたのだ。

姓が王だから、あの王允の身内かと思ったが全然関係ないらしい。まあ同姓なんて珍しくもないからな。張なんて山ほどいるし。

 

「では成果を聞こうか」

「はい。実は……」

 

そうして、王忠は手に入れた情報を語りだした。

最初は各地で散発している賊が黄巾をつけていることから始まった。うん、これは予想通り。なにせ全国規模だからね。この広い中華で全国規模って大概だよ。伝達手段なんて書簡か人づてしかないのに。

続けて本題、張三姉妹の話に移った。やはり女か。まあこれにはもう慣れた。しかしその後、聞き流すわけにはいかない単語が聞こえてきた。

 

「……旅芸人?」

「はい。数え役満☆姉妹(しすたぁず)です」

 

数え役満は分かるが、シスターズはどっからきた? 完全に横文字じゃねぇか! ってそこじゃない! アイドルが賊になるなんてことある……あったんだから仕方ないか。しゃーない、切り替えていこう。

 

「旅芸人がどういう心境の変化で反乱を企てるようになったんだ?」

「それがどうも……彼女たちが「大陸、獲るわよー!」と言ったことで、支持者たちが暴徒化していったようです。彼女たちは大陸中に自分たちの歌を広めたいという意味で言ったのだと思いますが、どうも曲解されたようで。純粋に彼女たちの歌が好きな者は端に追いやられ、革命のために戦う者の声が大きくなり、そして賊徒がそれに目をつけ、便乗したのだと思われます」

「なるほど、言葉とは恐ろしいものだな。ちなみに、彼女たちの性質はどうなのだ?」

「そうですね。悪意の人ではないかと。迂闊なところはありますが」

 

そう言って、王忠は三枚の紙を差し出した。そこには彼女たちの姿絵が描かれており、本人たちのサインまで入っている。

 

「おまえが描いたのか?」

「はい。自信作です。快く揮毫(きごう)を頂きました」

「ファンになったのか」

「ふぁん?」

「ああ、いや。彼女たちを気に入ったのか?」

「……そうかもしれません。彼女たちの歌は、いいものです」

 

ふぅむ。ちょっと興味出てきたな。娯楽の少ないこの世界じゃ、歌に魅せられる人々も多いだろう。娯楽に溢れた時代であっても、アイドルにハマるやつは大勢いたからな。

だが、黄巾は滅びる。官軍も本気になってきた。いや、マズいのは官軍よりも各地の群雄たちだが。

確か張角は病死したはずだが、この姿絵を見る限り、かなり若い。まあこの時代の病は侮れないが、それでも病死しそうには見えないな。

 

「会いに行ってみるか」

「ならばお供致します。彼女たちとは面識がありますので」

「うむ。頼む」

「……お聞きしてよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

 

神妙な顔つきで、王忠は俺の瞳を覗き込んできた。

 

「彼女たちをお救いになっていただけるのでしょうか?」

「……状況次第としか言えんな。尤も、官軍の求める「張角の首」は、若い乙女ではなかろうよ」

 

俺の返答に、王忠は顔をほころばせた。こりゃそうとうヤラれてるな。

さて、戦いに行くわけでもないし、メンバーは厳選しよう。

そして、会議で話し合った結果、同行するのは関羽と士元になった。

武力の中心である関羽と張飛が二人とも抜けるのはマズいし、俺が抜けた穴を副長一人に任せるのも酷だ。ここは孔明の実務能力に期待するところであろう。

実際孔明って軍師より内政家の方が適性あるんだよね。

この二人に王忠を加えて、合計四人である。

では、いざ出発!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで俺たちは張三姉妹のいる黄巾の本拠地にやってきたのだ。

いやぁ、結構かかったなぁ。王忠が予定表を貰ってきたからあっさり合流できるものと思っていたが、予定通りいかないのが予定というもの。

あっちに行ったり、こっちに行ったり、黄巾狩りが本格化してきたというのもあって、張三姉妹も焦りだしている。最近ではライブもあんまり開催していないみたいだし。

 

「ようやく着きましたね」

「うぅ、申し訳ありません頭領」

 

無意識に呟いた関羽の言葉が嫌味に聞こえたらしい。王忠は謝罪の言葉を口にした。

 

「いや、回り道したが、収穫はあった。予想以上に世は乱れているようだな。やはり政治の腐敗は、行きつくところまで行っているようだ」

 

賄賂を要求するのは個人の腐敗であるが、賄賂が公然と横行しているのが政治の腐敗だ。もはやこの後漢末期では、賄賂がなくては役人が動かないとまで言われている。その銭はどこから来ているのか。当然、民衆からである。

 

「過去、農民反乱は幾度となく行われた。にもかかわらず、為政者たちは学習しない。この黄巾の乱は、現王朝が滅びゆく兆しなのかもしれない」

「……はい。これより訪れるのは、血で血を洗う乱世なのかもしれましぇん」

 

士元が哀しそうにつぶやく。戦で一番被害を被るのは民なのだ。戦なんてない方がいい。いかん、気が滅入ってきたな。

 

「では参ろうか。王忠、先導を頼む」

「ハッ!」

 

王忠が門番に割符のようなものを見せる。それを確認した門番は、「おまえ箱推しかよぉ」と顔をほころばせた。

なんだろう、ファンの証みたいなものだろうか。まあ城内にはすんなり入ることができた。

中は黄巾をつけた者たちがごった返していた。

 

「……あまり堅固な城とは言い難いな」

「……はい。修繕もいまいちな感じがしましゅ」

 

関羽と士元が城についての意見を交わし合っている。ここはさすがに歴戦の将と言ったところだろう。そういえば、士元って実戦経験あるのか? うちに来てから大きな戦はないし、もしかしたら机上の戦場しかしらん可能性もあるぞ。うーむ、後で確認しておこう。

 

「王忠、しばらくはこの中に紛れて様子を見る」

「……え? すぐに会われないのですか?」

「ああ。別におまえは会っていいぞ。むしろ繋ぎをつけておいてくれ。俺は庶人、一兵士の目線で少し見ておきたい」

「なるほど、了解しました。では別行動の方がよろしいですね」

「ああ、頼む。士元は単独行動するなよ。必ず関羽か俺の傍にいろ。いいな」

「は、はい。分かりましゅた!」

 

こうして、王忠とは別行動することになった。

三日ほどかけて大雑把な軍容と城の構造を調べた。間者に間違われたくないので、王忠から三姉妹の情報を仕入れ、俺は天和推しということで同士たちから話を聞いている。

この砦にいるのは、純粋なファンと賊崩れが大体半々といったところか。もう少し調査を進めてから彼女たちと接触しようと思っていたのだが、事態は急変した。

官軍を中心とした各地の群雄たちが集結し始めたのだ。

 

「どう見る、士元?」

「……まだ情報が足りてませんので、断言はできませんが、勝つのは難しいと言わざるをえません」

 

兵たちは所詮寄せ集め。喧嘩もよく見かけたし、統率が取れているとは言い難い。兵数は、現段階ではこちらが勝っている。だが向こうがこれから増えないという保証はない。

何より、兵の数は多くとも将の数が不足している。そして食糧。話を聞くかぎりでは潤沢にあるらしいが、本当かどうかも分からん。

食糧が少ないと分かればパニックになるのは目に見えているからな。

 

「城を攻めるには三倍の兵が必要というが……」

「……援軍のない籠城に希望はありません」

 

援軍の有無は定かではないが、期待はできないだろう。来るかどうかも分からない援軍に期待して戦い続けるのは愚策だ。

 

「頭領、三姉妹の方たちがお会いになりたいそうです」

「分かった。行こう」

 

王忠には、逃げると判断した場合のみに会うと告げてある。つまり三姉妹は逃げることを選択した。まあ所詮は一般人の彼女たちだ。城を枕に討ち死にとはいかないだろうな。

幹部たちも三姉妹だけは逃がしたかったようだし。

 

部屋にいた三姉妹たちは怯えていた。瞳はどんよりと曇っている。張角だけは努めて明るく笑いかけてくれたが、少しぎこちない感じがした。

 

「あなたが私たちを逃がしてくれる人ですか?」

「将兵たちは戦うつもりでいる。なのにキミたちだけが逃げるのか?」

 

と、あえて厳しい言葉を投げてみる。

 

「だって仕方ないじゃない! 官軍に捕まったら殺されちゃうもの! ちーたちは悪くない!」

「そういう言い方は良くないわ、地和姉さん。私たちにも原因はある。大陸を獲れる、なんて言ったのは、失敗だった」

 

次女の張宝がヒステリックに叫び、それを末妹の張梁が諫める。

 

「波才さんも曼成さんも死んじゃった。私たちに戦う力はないの。でもあなたの言うことは分かります。だから、私は残ります。ちーちゃんとれんほーちゃんをお願いします」

 

そう言って、張角は深々と頭を下げた。

 

「ダ、ダメよ! 姉さん一人を犠牲になんてできっこない!」

「そうよ。天和姉さんを犠牲にしてまで生きたいなんて思わないわ! 死ぬ時は一緒よ!」

 

三人は抱き合ってわんわんと泣き始めた。

なんだこれ。

いい話だなー?

隣にいる王忠から刺すような視線を感じる。

 

「試すようなことを言って悪かった。キミたちの脱出は、将兵たちの望むところでもある。脱出を引き受けよう」

「ほ、ほんとう?」

 

潤んだ瞳で張角が見つめてくる。角度的に目のやり場に困るな。

 

「今夜脱出する。悪いが手荷物は認められん。その身一つにしてくれ。王忠、後は手筈通りに」

 

王忠はコクンと頷いた。

俺は部屋を出て、幹部たちの集う大部屋へと向かった。

中には十二人の男女がいた。黄巾党の武将たちだ。

 

「王忠から話は聞いている。あんたが天和ちゃんを逃がしてくれるそうだな」

 

リーダーらしきスカーフェイスの大女が訊いてくる。

 

「正確には、俺の部下が逃がす。明日は俺も「張角の一人」として出陣する。兵を貸してほしい」

「……いいのか? 死ぬぞ」

「それは分からんさ。誰がハズレくじを引くのかはな。全員が死ぬ必要はない。張角の首はひとつあればいい。脱出の機を逃すなよ」

「ふっ、悪いが、私は死ぬまで戦うよ。逃げるつもりはない」

「俺もそのつもりだ。あの歌に出会わなければ、俺は人生に絶望したまま朽ち果てていただろう。義理は果たす」

 

大女に続き、髭面(ひげづら)の大男が呵々と笑った。こいつが一番人相書きの張角に近いんだよな。

明日の一番人気になりそうだ。

 

「ふっ、まあ一杯やろうや。一言頼むぜ、大将」

 

隣の男が俺に酒の入った木杯を渡してきた。

 

「……滅びゆく者のために」

 

木杯のぶつかり合う音が、小さく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜明けと共に軍は展開された。

三姉妹は昨夜のうちに脱出させた。関羽は残りたかったようだが、負け戦に付き合わせるわけにもいかんし、道中のことを考えると関羽は護衛として必要だろう。王忠もそれなりに戦えるが、やはり関羽に比べれば一段劣る。

 

さて、勢い勇んで出陣したものの、どうもハズレくじを引いたようだ。

目の前には「張」の旗と「呂」の旗。

張なんてよくある姓だから断定はできんが、呂は一人しか思い当たらん。この予想は外れて欲しいが、呂と張が並んでいるならば、その期待はできなさそうだ。まあ他にないわけじゃあないんだけどな、この組み合わせも。呂蒙と張昭とか。

 

「黄巾党の首魁、大賢良師張角とは俺のことよ! この首が欲しくばかかって参れ!」

 

名乗りを上げながら斬馬刀を構える。俺の本来の得物じゃあないが、張角を演じるためにこんな目立つ武器を選んだのだ。

 

「おまえが張角かい! 人相書きとはちょいと違うが、まああんなモン当てにならんしなぁ! ウチが相手したるで! 張文遠、その首もらい受ける!」

 

反応はすぐにあった。張来来! この関西弁のエロ衣装が泣く子も黙る張遼かよ!

 

「おらっしゃー!」

 

裂帛の気合で張遼が攻めかかってくる。張遼の青龍刀と、俺の斬馬刀が火花を散らした。

 

「やるやんけ! これを防ぐとはなぁ!」

「并州からわざわざご苦労なことだな」

「ウチらのこと知っとるみたいやな。ほなら――」

 

身体が泳ぐ。刀を引いたか。

 

「遠慮はせんで! もう一丁!」

「――チッ!」

 

二撃、三撃、張遼は巧みに馬を操りながら、連撃を繰り出す。馬の扱いは向こうが上か。ならば!

 

「――なっ!? 正気か!?」

 

馬を捨て、地を駆ける俺を、張遼は驚愕の表情を浮かべた。

 

「ここからが本番だ!」

 

小回り、瞬間加速、その他諸々を考えれば、地に足つけた方が戦いやすい。

 

「ちぃ! ウチの愛馬を殺らせるかいな!」

 

どうやら馬狙いはバレたようだ。張遼はギリギリで俺の攻撃を防ぎ、後退した。

 

「ふふっ、それほどの名馬、そうそう手に入るまい。さすがに惜しいとみえるな」

「くっ、調子に乗んなや! 馬なしでも――」

(しあ)、交代」

(れん)! あんたの出番は――」

「交代」

「……珍しくやる気やん。ほな、任せたで」

「ん」

 

深紅の髪を揺らしながら、スラリとした女性が歩いてくる。

一目見て分かった。こいつは、張遼よりも強い。

間違いなく、呂布奉先。言わずと知れた三国志において最強の男。いや、目の前にいるのは女だけど、それは些細なことだ。

知力一○○を許されたのが孔明ならば、武力一〇〇を許されたのが呂布なのだ。三国志演義でも劉備、関羽、張飛の三人を相手取って一歩も引かなかったと描写されたほどの武人。

……勝てるか? この俺が。

 

額に冷たい汗が流れる。いや、落ち着け。勝つ必要はないのだ。負けなければいい。まあそれも難題だが。

人には気孔(きこう)というものがある。読んで字のごとく、気の(あな)だ。汗腺のようなもので、この穴から気が溢れてくる。しかしほとんどの人間は、この気孔が眠っている。一生眠っているのが普通なのだ。

これを目覚めさせるには、気の一撃を喰らうのが手っ取り早い。つまり、気の使える武将に鍛えられた兵は、才能にも左右されるが、おのずと気に目覚めることになる。こういった兵は強い。

 

実はこれ意外と知られてないんだよな。気が使えるようなクラスが一兵士と手合わせなんてしないだろうし、戦場で気の使えない兵士が気の一撃を喰らうと大体死ぬし。

気というのは見えるものではないが、感じることはできる。呂布の気は、ほとんど揺らぎがない。波一つない湖面のように静かだ。逆にそれが不気味でもある。

その呂布が、動いた。

速――!

 

「ぐっ!」

 

辛うじて防御が間に合った。速い上に重い。負けじと反撃するが、その攻撃が肌を裂くことはなかった。

数合打ち合って分かったが、呂布は本能型の武将だ。理合ではなく、感覚で戦っている。つまりフェイントが意味をなさない。危険な一撃とそうでない一撃を、直感で見抜いているのだ。厄介な相手だよ。

 

関羽相手に優勢を取れたからといって、ちょっと調子に乗りすぎたか。本能型は相性が悪いんだ。関羽はああ見えて理合型だからな。

俺も一緒に逃げておけばよかった。って今さら言っても仕方ないよな。

 

「……死を恐れない奴は、怖くない」

「ぬ?」

「そういう奴は、大抵死ぬ。あるいは、虚勢」

 

なに言ってんだこいつ。

 

「……でも、おまえは違う。死ぬことも覚悟している。そういう奴は、手強い」

「それは当然の覚悟だと思うがな」

 

撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだと、どこぞの皇子も言っていた。尤も、俺がその覚悟を持ったのはこっちに来てからだけど。

ごく普通のサラリーマンが、今じゃあ立派な大量殺人者だ。慣れたくはなかったが、慣れるしかなかった。

 

「……やっぱり、おまえは強い。だから、本気で行く」

「――ッ!?」

 

呂布の気が爆発的に膨れ上がった。周囲の温度が五度くらい上昇したような錯覚を覚える。

まさか、これまで本気ですらなかったとは。

攻撃に意識を割きすぎては一瞬で殺られる。防御に比重を置いて、なんとか凌ぎきるしかない……か。

 

気を落ち着ける。焦るな。気を乱せば、それこそ命取りだ。

一撃を狙うな。一瞬の隙を見逃してくれるほど相手は甘くない。

落ちたら終わりの綱渡りのような感覚。

これが呂布……呂布奉先か。

 

対峙の時間は、一瞬のようで永遠のようにも感じられた。

だが、終わりの時は突然訪れた。

 

――敵将張角! この夏侯元譲が討ち取った!

 

遠くから勝鬨と歓声が聞こえてきた。

張遼がギョっとしてそちらに視線を向ける。

 

「な、なんやて!? どーいうこっちゃねん! おまえが張角ちゃうんか!?」

「張角はどこにでもいるし、どこにだっている」

「そーいう問答はええねん! 影か? いや、こない腕の立つ奴を影にはせんやろ。つまりおまえがホンモンの張角や!」

「それはどうかな。腕が立つからこそ影を任される場合もある」

 

ま、実際のところ、この戦場にいる張角全員が影だけどな。

 

――敵将張角! この孫伯符が本物を討ち取ったわ!

 

「今度はこっちかい!」

 

またしても張遼がギョっとして歓声の上がった方向に視線を向ける。

そろそろ潮時かな。

 

「勝敗は決したようだな。俺は引かせてもらおう」

「アホ抜かすな! 逃がすわけないやろ!」

「これ以上「張角の首」が増えても、面倒事が増えるだけのような気もするがね。危険を冒してまで追う理由はなかろう」

「減らず口を……」

 

諸侯たちは武功を求めて集まっている。民のため、というお題目はあるが、結局のところは出世を求めているのだ。

何人の張角が討たれたかは分からないが、確認できただけでも二つ。これからどちらが本物かの議論が交わされるだろう。

そこに張遼が新たに首を持ってきて、これが本物だと言い張ったところで、諸侯たちの反感を買うだけだ。

 

「では、失礼させてもらおう」

 

手早く騎乗し、馬を走らせる。

 

「くっ、逃がすかいっ!」

 

むっ、丸め込めなかったか。ならば――

 

「こんなモン喰らうかい! ってなんやこれ!? ゲホッ! ゲホッ!」

 

俺の投げつけた玉から溢れ出た粉で張遼が咳き込む。と同時に、馬も暴れ出した。

 

「斬り捨てるより、払うべきだったな」

 

去り際に呂布へと視線を向ける。追ってくる気配はなさそうだ。しかし、アレが裏切りの将とは信じられんな。むしろ忠誠心は高そうに見えたが。

まあいいか。やれやれ、なんとか乗り切ったぜ。

 

 

 




天和の一人称って"おねえちゃん"だったと思うんですが、場合が場合なので私としています。
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