なんか妹の距離が近い気がする。   作:シマイノ=ユリスキー

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53. 再開する妹

〜妹視点〜

 

 お姉さまが着崩れを直しに行った。

 

 私はこの後、一時間もしないうちにお姉さまに告白するだろう。今のうちに自分の姿を鏡で確認しておく。

 

「……ふぅ。」

 

 やはり緊張はする。それもそのはず。今日が私の人生の分岐点なのだから。

 

「…大丈夫。シミュレーションは完璧のはず。」

 

 今日までに告白の脳内シミュレーションを何度も行ってきた。どんな状況でも問題ないだろう。

 

 緊張でいつも以上に指先が冷たくなっており、不安な気持ちが湧き出てくる。

 

「ふぅ…私は大丈夫…。お姉さまにも応援してもらったのだから。」

 

 数日前、お姉さまに私の人生最大の挑戦が成功するようにと応援してもらった。だから大丈夫。

 

 緊張をほぐすために、先ほどのお姉さまの様子を思い出す。

 

 私の手を引き、キラキラした目で出店を見渡すお姉さま。口いっぱいに食べ物を頬張り、リスみたいに頬が膨れ上がっているお姉さま。口の横についたソースを私に拭かれるお姉さま。全てが本当に愛おしい。

 

 今日は本当に楽しい一日だ。このまま笑顔で帰りたい。

 

 ふと、近くを通りかかった男女三人組の内の一人の女性と目が合った。

 

「あれ?お前、藤井じゃね?」

 

「………。」

 

 嘘だ。こんなところにいるはずが…。

 

 血の気が引くのを感じる。

 

「おい、無視すんなよ。」

 

「きゃっ。」

 

 肩を強く押され、倒れそうになってしまう。

 

「やっぱり藤井じゃん。こんなところで会うとはね。」

 

「ちょっと誰その女?」

 

 残りの二人も近づいてきた。

 

「覚えてない?ほら、高校の時ゆう君に色目使ってた尻軽女。」

 

「えっ?あ~、あの調子乗ってた奴か!」

 

「そうそう。ゆう君は覚えてる?」

 

「ああ、もちろん。俺をたぶらかそうとしてた女だろ?だが俺はキミ一筋なんでね。」

 

「もう、ゆう君ったら。」

 

 人様の前でいちゃつき始めた二人をよそに、私は非常に気分が悪くなっていた。吐き気と体が震えるのを必死に我慢する。

 

 私はこの三人と面識があった。忘れていた高校での記憶がよみがえる。

 

 男の方はどこかの部活のキャプテンで、私が最後に告白を断った人だ。そして女二人は告白を断った後に呼び出してきた女子グループのメンバーだ。

 

 あれ以降、友人だと思っていた人たちは私から離れてしまい、私は対人恐怖症になってしまった。

 

「てか何お前、浴衣なんか着ちゃって。しかも化粧してんじゃん。あれでしょ。また男に色目使ってるんでしょ。」

 

「え~まじ?やば~。引くわ~。」

 

「ほんとほんと、ありえないよね。どうせ体使って寄ってきた男が相手でしょ。股開いてあんあんって。」

 

「う~わ、やっぱ尻軽じゃん。キモッ。」

 

 大声で話す二人の後ろで男はニヤニヤしている。

 

 通りすがりの人に助けを求めようと目を合わせても、逸らされてしまう。誰も私達と関わりたくはないのだろう。

 

 助けを求めるのは諦め、こいつらと目が合わないように顔を俯かせる。そしてこぶしを強く握りしめ、涙がこぼれ落ちないように我慢する。

 

 落ち着け。私はもうこいつらと関わりは無い。こいつらが飽きるまでの辛抱だ。ここで泣いてもこいつらが増長するだけだ。

 

「ねぇ、黙ってないでなんか言ったらどうなのよ。」

 

「………。」

 

 大丈夫だ。このまま我慢を続けていれば、いずれ飽きがくる。

 

「聞こえてないの?耳までおかしくなった?」

 

「………。」

 

 そうすれば、私は再びお姉さまと楽しいお祭り巡りに―――

 

「…チッ。どうせお前みたいな尻軽女に寄ってくるのも、下品で頭のおかしいキモ豚なんでしょ―――」

 

「…!!お姉さまはそんな人じゃ!!…ぁ。」

 

 私は我慢できず、つい口を開いてしまった。

 

「…お姉さま?ちょっ、今のきいた?お姉さまだって!やっば!!」

 

「えっ、ウケる!今時、お姉さまなんて言わなくない!?てか相手女ってこと?ま~じ?」

 

「男漁りじゃ満足出来ずに女にまでってもうやばすぎ!気持ちわる!!」

 

「まさか私達まで性の対象で見てるってこと??きっっも!!こっち見ないで!孕んじゃう!!キャハハ!!」

 

 私が燃料を投下してしまったせいで、こいつらはさらにゲラゲラ笑いだす。

 

 我慢しきれず、涙がこぼれ落ちそうになる。

 

 

 

 その時、聞きなれた、けれども聞いたことがない底冷えするような怒りのこもった声が聞こえてきた。

 

「お前ら、私の可愛い妹に向かって何してるんだ?」

 

 三人が一斉に後ろを振り向く。私も地面から正面へと視線を動かす。

 

 見たことがない怒りの表情をしたお姉さまが立っていた。

 

「なぁ、何してるんだよ。私に教えてくれよ。」

 

 

 

 私のヒロインが救いに来てくれた。

 

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