なんか妹の距離が近い気がする。   作:シマイノ=ユリスキー

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6. めざめた妹

〜妹視点〜

 

 あの事故から1週間経った。あの人はまだ目を覚まさない。お母さんもお父さんも私に大きな怪我が無くて良かったと言ってくれる。けれども、私に大きな怪我がないのはあの人が文字通りの命がけで守ってくれたお陰だ。

 

 今日もあの人の病室を訪れる。姉が寝ているベッドの横にある椅子に座り、ぼんやりと顔を見つめる。

 

「………あなたは何故私を助けたのですか?」

 

 返事は返ってこない。

 

「………いつ目を覚ますのですか?」

 

 目を覚ましてまたあのニヤけた顔を見せてほしい。

 

「………お母さんもお父さんもあなたが目を覚ますのを待っていますよ。」

 

 お母さんもお父さんも表面上は気にしていない素振りを見せているが、それは私のためだろう。深夜、泣いているお母さんとお父さんを見てしまった私はとても心苦しかった。

 

「………今日は帰ります。早く目を覚ましてくださいね。」

 

 そして私に教えてほしい。何故命を張ってまで私を助けたのかを。

 

 

 

 数日後、姉が目を覚ましたという連絡を受けた。

 

 急いで病室へ駆けつけると、そこには泣いているお母さんとお父さん、そしてそれを見つめる困り顔のあの人がいた。

 

 あの人は扉の前に立つ私に気づくと、 ツーっと涙を流し始めた。掠れた声で私の名前を呼んでいる。

 

「おはようございます。やっと目を覚ましましたね。」

 

「みゆだぁ…。けがなかったぁ…?」

 

「ええ、あなたのお陰で大きな怪我はありませんでした。」

 

「よかったぁ…。」

 

 この人は何故この状況で自分ではなく、私の心配をするのだろうか。

 

 この日は久しぶりに家族全員が1つの場所に集まった。

 

 

―――――

 

 あの人が目覚めてから数週間経った。私は毎日病室を訪れているが、一向に助けられた理由を聞きだせなかった。そんな折、あの人が車いすを利用した移動を許可されたらしい。押す人が必要とのことなので、私が車いすを押すことにした。

 

 この人が車いすで移動している間、以前のように色々なことを話しかけてくるようになった。あの看護師さんが可愛いだの病院食は味が薄いだのといった具合に病院内での出来事を伝えられる。

 

「それでね、間違えて入ってきちゃった子の反応が可愛いのなんのって。ぽかんと口を開けて綺麗な人がいる…だってさ。いや~、もう照れちゃうよね。私の溢れ出る魅力が子供にまで―――」

 

「1つ、聞いてもいいですか?」

 

 私は意を決して聞くことにした。

 

「ん~?どしたの?私が魅力的である秘密は教えられな―――」

 

「あなたは…何故私を助けたのですか?」

 

「お姉ちゃんだからだけど。」

 

 即答された。…たったそれだけの理由で?

 

「…たったそれだけの理由でですか?そんな訳ないでしょう。そもそも私は散々あなたに暴言を吐いてきました。妹らしい振る舞いなんて一度もしていませんが。」

 

「いやいやその理由だけで十分なんだよ。お姉ちゃんという生き物はね、妹の為ならどんな時でも身体を張れるものだよ。」

 

 まっすぐな姉の瞳が私の顔から逸らされることはなかった。

 

「いや…でも…それだけの理由なはずは…。」

 

「そもそもあれじゃん。美優が怒ったのって私が悪かったじゃん。しつこすぎてごめんね。」

 

「で、でも!たとえそれが本当だったとしても!あなたが命を張ってまで飛び込んでくる必要はなかったではないですか!!あれは私が周りを見ていなかったから起きてしまったわけで!!私を責めないのですか!!!」

 

「…美優、お姉ちゃんとしてはね、初めてできた私の大切な大切な妹が大きな怪我をしなかっただけで儲けものなんだよ。それを責めるだなんてとんでもない。むしろ無事でいてくれてありがとね。」

 

「あ…。」

 

 屈託ない笑顔が目に入る。私は姉が本心で話していることを否応なしに理解してしまった。

 

―――ああ…この人には敵わないな…。

 

「……すみません…今日はちょっと帰ります。」

 

 私は姉の顔を見ることが出来なかった。

 

「えっ、あっうん。分かった。気を付けてね~。」

 

 姉を病室のベッドへ戻し、病院を飛び出してから私は走って家まで帰る。まだ誰も帰ってきていない家の中を駆け抜け、勢いよく自室に入る。そしてそのまま扉の前に座り込む。頬が熱くなっているのを感じる。

 

 私には最近よくないことばかり起きてきた。しかし、それはこの幸せを増幅させるための前座に過ぎなかった。あの人はどんな時でも私のことを考えてくれていた。最後には私のために命をかけてまで救ってくれた。その上、自分のことは二の次で、私の無事だけを祈ってくれていた。

 

 端的に言うと、私はあの人に惚れてしまった。恋などしたことがないので、この感情を恋と言っていいのかは分からないが。

 

 私は気づいた。私はあの人の、お姉さまの妹になるべくして生まれてきたのだろう。これからは態度を改め、精一杯お姉さまに尽くしていこう。そして、私が妹で良かったと心から思ってもらおう。

 

「お姉さま…。」

 

 私は胸の中の温かい気持ちを大切にしていこうと決意した。その夜、ご飯を食べているときにお母さんとお父さんに機嫌の良さを指摘された。

 

「どうした美優、今日は何か良いことでもあったか?」

 

「そうね。確かに今日の美優は機嫌が良さそうね。何があったのか気になるわ。」

 

「ふふっ、そうですか?確かに、今日はとっても良いことがありました。明日からも楽しみです。」

 

「そうかそうか。最近顔が暗かったから心配していたが、調子が良いなら良かった。」

 

「ええ、本当に。」

 

「はい、もう大丈夫です。これから心配をおかけすることはなくなると思います。」

 

 お母さんとお父さんにはくっついてもらわなければいけない。だからこそ、これから心配をかけることは出来ない。

 

 

―――――

 

 病室の前に立ち深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 

「おはようございます、お姉さま。お体の調子は如何ですか?」

 

 私は笑顔でお姉さまに話しかける。

 

「うおぇ!?お、おはよう…。」

 

 お姉さまはぽかんとした表情で、こちらを見つめてくる。

 

「ふふっ、どうされましたか?その綺麗なお顔で見つめられたら照れてしまいます。」

 

 相変わらず綺麗なお顔だ。どんな表情でもお姉さまは可愛い。

 

「み、みゆ…なんだよね?」

 

「ええ、そうですよ。お姉さまの妹である美優です。」

 

 そう言って姉に近づき、手を重ねる。まずは謝るべきだろう。

 

「今までひどい態度を取ってしまい、申し訳ありません。」

 

 罪悪感で心の中が黒く染まる。これから一生を賭けてでも償っていこう。

 

「でもようやく分かったんです。お姉さまが本心から私のことを考えてくれていると。」

 

 頬に手を添える。段々と手のひらに伝わる熱が熱くなっていくのと同時に、お姉さまのお顔が赤くなっていくのを感じる。少しは私を意識してくれただろうか。

 

「そして私も自分の存在意義に気づくことができました。これからもよろしくお願いしますね。愛しのお姉さま。」

 

 

 

 私は大切なあなたと共に、あなたのために一生を過ごすことをここに誓います。

 

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