レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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勢いだけで言うからこういうことになるんだよ、宇沢

 ばたばたばたばた、と廊下を走る音が微かに耳に入ってくる。

 ――あぁ、今日も来たな、宇沢(さわがしいの)が。

 この寮の廊下を、ここまで足音を立てて走る人物なんて、一人しかいない。

 無駄に、宇沢の足音だけは聞き分けられるようになっている自分が憎い。

 はぁ、と息を吐いて、少しだけ心の準備。不意打ちであの『杏山カズサ!』という騒がしさをぶつけられたら、割とビビる。慣れたけど。それでも、一息つく時間は必要。

 足音はすぐ近くまで来ていて、そろそろ私以外の放課後スイーツ部の面々も、宇沢の足音に気づき始める。

 部屋の中はお取り寄せのスイーツを決める段階では賑やかだったけれど、それが終わってスイーツが届くまでは、面々が思い思いのことをして過ごしているから、部室の中は割と静かだった。それも、すぐにうるさくなる。

「杏山カズサっ!」

 ばんっと勢いよくドアが開かれる。毎回勢いを付けて開かれるドアが不憫だと思うし、壊れたらそれは宇沢のせいだと思う。

「今日はポッキーゲームで勝負ですっ!」

 息を切らせた宇沢が、鼻息荒く赤色の箱を見せて、そう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………、は?」

 ほんの少しだけ、思考が止まった。

 ――何を言ってんだろ、こいつ。

 いつもよりも数割増しで目をきらきらさせる宇沢をとりあえず放っておいて、後ろの三人に目配せをする。

 ナツ――大仰に頷いてサムズアップ。

 ヨシミ――机に頬杖を付いたままニヤニヤ。

 アイリ――私と目が合った途端、困ったように苦笑い。

 助けが入る見込みも期待も、無いようだ。

 宇沢に向き直る。印籠を掲げるかのような勢いで、赤い箱を私に見せつけてくる。

「…………宇沢、今、なんて言った?」

「だから、ポッキーゲームですよ、杏山カズサ! 昨日、『これに私が勝ったら、明日私の勝負を受けてくださいね!』って約束して、私が勝ったじゃないですか!」

「あー、…………あー? 言ったっけ?」

「『言ったっけ?」じゃないですよ! ここの放課後スイーツ団の皆さんが証人です! 言質だって取ってるんですからね!」

 そう言ってびしっとナツたちを指差す。人を指差すのはよくない、と何度か言ってるんだけど、コイツは癖になっているのか、治る気配は一向に見えない。――まぁ自警団という立場上、そう言って啖呵を切る必要があるのは理解するし、私もその行為が意味することも知っているから。なんとも、強く言えなかったりする。

 ともあれ。

 昨日言ったことは覚えてる。やったことも、覚えてる。

 3つあるガムのうち、ひとつだけすごく酸っぱいものが入っていて、それに当たったら――という、小学生みたいなノリで話した、それ。

 運悪く私が当たって、宇沢とヨシミが揃って私を煽ってきたから、まとめて頬抓りの刑に処したんだけど、宇沢はどうやらしっかりと覚えていたらしい。

「勝負、ねぇ。宇沢が勝負を仕掛けてくるのなんて、アイスコーヒー頼んだらミルクが付いてくる、くらいなものだったじゃん。いつものスイーツ勝負だったら普通に流そうと思ってたんだけど。……いや、まぁ、約束だから守るけどさ」

「ふっふっふ、そう言ってくれると思ってました。今更やっぱやめた、は無しですからねっ! さぁ、やりましょう杏山カズサ、ポッキーゲームを!」

 ――自信満々に、めちゃくちゃ恥ずかしいことを言ってるんだけど、こいつは気づいてないんだろうか。

 ポッキーゲームって、アレじゃん。こう、ポッキーの両端をお互いに咥えて――ってやつ。こいつはそれをやりましょうやりましょう、と言っているんだけど。

「――――――」

 もしか、して。

 嫌な予感がして、手に提げたビニール袋から次々と出てくるポッキー――のような棒状のお菓子も含む――を見て、問う。

「ねぇ、宇沢。……ポッキーゲームって、何のことか、知ってんの?」

「バカにしないでくださいよ! ポッキーをいかに早くたくさん食べるかってゲームですよね?」

 

 バカ。

 本当、ほんっっっとう、バカ。

 全然違うし、それを自信満々に言えるのは本当にすごい。バカ。

 

「んなことだろうと思った……」

 勝手にため息が出る。手が自然と額に伸びる。眉間にはくっきりと皺が出来ていたので、揉みほぐす。

 もちろん、何かを期待したわけじゃないんだけど。こう、色々と心労を返してほしい。

「宇沢、悪いことは言わないから、一回その単語をスマホで検索して」

 私も元々知っていたわけじゃなくて、コンビニのお菓子売り場で物を物色しているときに、ヨシミからそんな『遊び』があると聞かされた。――なおその直後、ナツから『ふぅん、じゃ、やってみよっか』と言われたときに『そんな子供みたいなことやるわけないじゃないの!』と顔を真っ赤にして反論していた――そんな物があるのだなとその時は思っただけで、まさかその知識が役に立つ日が来るとは、まったく思いもよらなくて。

「…………、――――――、~~~~~~っ!」

 正座してスマホを見ていた宇沢は、目を見開いたかと思うと、スマホを額に当ててうずくまる。耳が赤くなっているのを見ると。……いや、この先は言うまででもない、か。

「…………杏山カズサ」

 うずくまった姿勢のまま、くぐもった宇沢の声が聞こえる。

「…………なんなんですか、これ」

「なんなんですかもなにも、ポッキーゲームのやり方でしょ、書いてあるの」

 私に見せたスマホの画面には、私が知ってる『ポッキーゲーム』のやり方がイラストで解説されていた。

 ゆるゆると顔を上げた宇沢は、案の定、顔が赤くなっている。やっと自分が言っていることに気づいたようだ。

「…………あの、杏山カズサ。さっきの話、やっぱり――」

 ――でも、気づくのが遅い。

 宇沢が取り出したポッキーの箱をひとつ手に取って、開ける。チョコが付いていない手持ち部分を持って、宇沢に突きつけて、言う。

「宇沢。『今更やっぱやめた、は無し』なんでしょ?」

「いや、杏山カズサ、その」

 部屋に入るなりの第一声で、宇沢が勘違いしていることはなんとなく分かってた。宇沢のことだし。ただそれはそうとして、ここ最近も散々宇沢に振り回されているのだから、少しくらい、宇沢への仕返しをしてやってもいいんじゃないかと思う。

 最近食べるお菓子の量が増えたことも、毎週のようにスイーツを食べに行って資金が心許ないことも、最近体重計に乗るのが少しだけ怖いことも、大体が宇沢のせいなんだから。

 宇沢の中途半端に開いた口に、ポッキーを突っ込む。変なところに行かないように、先の所だけに止めておく。そのままだとすぐに墜ちてしまうから、逆側から私が口で支える。

「――――――――――!」

 宇沢の目が驚愕に見開かれるのが見える。視界の隅で手がわたわたと動くのが見える。

 ――自分から言った手前、約束は守るもの。そうよね、宇沢。

 前歯でポッキーを削り取り始める。始めはチョコが付いていないから無味だけれど、ここはこれで私は好きだ。チョコに到達する。宇沢の顔が近くなる。チョコ部分も遠慮無く削っていく。宇沢の方から進んでくる気配は、ない。削り進める。宇沢の顔が更に近づく。

「~~~~!」

 目を白黒させて何やらうめき声を上げるけれど無視。前歯で囓って、ポッキーを削っていって、宇沢の目に映る、私の姿が見えて――――。

 ちゅぽっ、と音を立てて、短くなったポッキーが宇沢の口から引っこ抜かれる。

「……………………へ?」

 宇沢の口から漏れ出る、気の抜けたような声。

 見たかった顔が見れて、思わずニヤけてしまう。ふふん、と息が漏れる。

 ぽかんと口を開けている宇沢は、私が宇沢の口から抜き出したポッキーをぱき、と口の中に入れた辺りでやっと動きを見せた。

 ぱちぱちと何度も瞬きをして、私の顔を凝視してくる。宇沢の口に合ったポッキーはもう胃の中。出せと言われても出せない。

「………………きょうやま、カズサ。今の、は」

「宇沢がやりたいって言ってたポッキーゲームだよ。ま、最後までは行かなかったけどね」

「――――、いや、やりたいって、いった、訳じゃ」

「いや、言ってたじゃん。言質はばっちり」

 ここに来たときの勢いと騒がしさはウソかのように、宇沢は正座を崩して前に手を付いた姿勢のまま、私を上目遣いで見てくる。

 恥ずかしさでしおらしくなっているのを見て、ちょっとやり過ぎたかな、と思わなくはない。

 けれど、調べないで勢いのまま言った宇沢も宇沢なのだから、自業自得。

「ま、これに懲りたら勢いばっかで言うのやめな? ――そこが宇沢のいいとこでもあるけど」

「――――――え、杏山カズサ、今」

 周りをきょろきょろとして、私の後ろに視線を投げた宇沢は、それから私の目を凝視してくる。

 ――言わなくてもいいことを口にしてしまったかも知れない。

 膝立ちになって、手だけで私に近づいてくる宇沢の前髪をくしゃくしゃと掻き回す。目を瞑って手の動きに合わせて頭を揺らす宇沢に、今のは何も聞かなかった、忘れろ、と念を手に込める。

「こほん」

「…………、」

 そういえば、と。今の今まで、ここは部室で、そして先客がいることを、忘れていた。いや、忘れていただけじゃなくて、意識になかっただけで。

 今の一部始終を、部員の三人が見られる状況にあったということを、今更になって、ヨシミの咳払いで、実感して。

「………………」

 全然やましい事なんかしてないし、いつも私が宇沢に振り回されてる分反撃した程度の話ではあるのだけれど。

 柄にもないことを言った上に、それを聞かれていたというのを認識した途端、どうにも耳の辺りが熱くなってきて仕方ない。

 今宇沢に顔を上げられたら、きっと、顔が赤い私は、何かを察せられてしまう気がするから。

 

 私は手に力を込めて、しばらくの間、宇沢の頭を撫で続けた。




11月11日はポッキーの日。つまり好きな子のレイサとカズサに短絡的にポッキーゲームをさせてもいい日。
そうです、今は11月11日の40時。つまりセーフ!
ポッキーゲームがなんたるか知らないレイサがポッキーゲームの勝負をカズサに申し込む、という電波を受信したら書かざるを得ませんでした。書いててめっちゃによによしたので個人的にめちゃくちゃ満足です。
秋の夜長に甘めのによによを。平和なレイカズ推奨委員会です。
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