レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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宇沢が見つめる円盤の行方

「あーーーーーーっ!?」

 ガコンッ、と高い音を立てて、白い円形のパックが宇沢のゴールへと吸い込まれる。

 エアホッケーの筐体上部に表示されているスコアは、『15-0』の大差が付いている。もちろん、15は私の方。

「ううぅぅぅ…………」

 犬のようなうなり声を上げながら、宇沢は筐体の下の方に落ちてきたパックを取り、再び台の上へ乗せる。下からの空気によって微かに浮かび上がったパックは、静かに宇沢に打たれるのを待っている。

「ここ! だぁぁぁーーーーーぁぁぁぁあああああ!?」

 カッ、カカッ、ガコンッ。再びパックは音を立てて宇沢のゴールへ。

 ちなみに、今の攻防で私は何もしていない。宇沢が全力で撃ったパックは、狙い違わず私のゴールを外し、その反射で返ってきたパックを打ち返そうとしたら空振って自滅。筐体のスコアは『16-0』を数え、ちょうどそのタイミングで制限時間のブザーが鳴った。

 私の側のスピーカーから、ファンファーレ音が鳴り響く。

 宇沢の方はというと、マレット――パックを打つプラスチック製の白いアレのこと――を握りしめて、ぷるぷると震えていた。

「どうして――っ! どうして、勝てないんですかっ!」

 握り拳をどん、と筐体に叩きつけて悔しがる宇沢の姿がそこにはあった。エアホッケーの筐体はそれなりに丈夫に出来ているとはいえ、壊れない保証はないし、叩いていいというわけでもない。とりあえず台パンは怒られるから、止めるように言っておく。

「いや、私ほとんど攻撃してないから。ほとんど宇沢の自滅じゃん」

「う…………」

「っていうか宇沢も逆に器用だよね。私のゴールを綺麗に外してくし」

「ううぅぅぅ…………」

「全力全開で打ってくるのは本当、宇沢らしいよね。そして返ってくるパックに対応できてないところまで含めて」

「うううぅぅぅぅ……」

 宇沢の口元が段々と尖っていくのが分かる。

「もう一回! もう一回です! 次は勝ってやりますよ!」

 ――やっぱり。そう来ると思った。

 このエアホッケーをプレイしてしているときも、そうなるに至る流れも、宇沢は本当に、私の期待を裏切らなかった。

 毎週恒例となった宇沢とのスイーツ会の帰り道。ゲームセンターの前を通りかかったときに、宇沢の足が止まった。入り口に備え付けられてある巨大なクレーンゲームの向こうで、小さい子供が和気藹々とエアホッケーをやっていた。宇沢は数秒立ち止まってそれを見ていたかと思うと、目をきらきらとさせて指さし、『杏山カズサ! あれやりましょう!』と誘ってきた。

 プレイする前は自信満々に『ふふん、勝負です杏山カズサ! ぎったんぎったんのけちょんけちょんにしてあげますよ!』と意気揚々と宣言し、『負けたら買った方にジュース一本ですよ!』と自分の首を絞め――そして、プレイ後、負けず嫌いな宇沢のことだから、と薄々予想していたら、案の定で。

 宇沢らしくて、本当に、笑えてくる。

「ふふん、笑ってるのも今のうちですよ、杏山カズサ! 私はさっきのでとっておきの秘策を思いつきましたからねっ!」

「ふぅん、いいよ。待ちは……いないね。じゃあやろっか」

 周囲を確認。椅子に座っている人も、立って待っている人も、周りにはいない。こういう場所では、込んでいる喫茶店と同じ。待っている人がいて、自分たちのひとまずの用事が終われば、待っている人に譲るのがマナー。

 プレイ位置に移動して、百円玉を入れる。そして筐体に備え付けられているマレットを取る。

 そして宇沢の方を見て――少しだけ、戸惑った。

「…………それが、秘策?」

「ひとつでダメなら、ふたつで勝負です! 『三本の矢』という逸話もありますからねっ!」

 マレットを両手にそれぞれ構えてドヤ顔をする宇沢は、その後の発言も含めて、オブラートに包んで言ってすごくアホそうに見える。

「いや、それって……まぁいいや。おいで、宇沢。先行は譲ってあげる」

「二倍になった私の強さ、見せつけてやりますからね!!!」

 

 宇沢はエアホッケーの台に身を乗り出して、曲げた腕に、力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウソです……ウソですこんなことぉ!!!!」

「――まぁ、こうなるよね」

 ゲーム終了のブザー、そして私の側で鳴り響くファンファーレ。

 スコアはさっきよりも悪化して、『25-0」を数えた。

 ゲーム終了と同時に、宇沢は崩れ落ちた。両膝と両手を床に付けた宇沢は「どうして……私の秘策が…………」と嘆き節。

 右手を攻撃専用に、左手を防御専用に、と役割を割り振っているのは、ほんの数回打ち合うだけで分かった。それはつまり、右手の有効範囲内に打ち込んでしまえば、防御は中途半端になるということ。そしてそもそも、右手一本でプレイしていたのが、左手も使うということになれば意識が分散されるのも当然のことで。――結果、自滅の回数はさっき以上になった。

 宇沢のプレイスタイルは、守りは無視してひたすら攻撃、の前のめり型。残念なのは、全力で打ち込んでくる加速度の付いたパックが反射して自分の所に戻ってくると、その速度に反応しきれずに自滅するというところ。左手で守りに集中するときは意外と堅かったのに、わざと攻撃の手を緩ませて攻撃を誘うと、面白いくらいに自滅してくれた。

 防御だけに集中すればそれなりに強いのにな――とは思ったけれど、口にはしない。絶対に調子に乗るから。

 不器用だし、勢いばかりだし、打つときはうるさいし。でも、エアホッケーをやっている宇沢は、終始笑顔で、楽しそうで。それを見ているこっちも、面白い、と思えてしまうのが不思議でならない。

「……で、秘策って?」

「…………ぅぅぅぅ……。『策士、策に溺れる』とはこういうことなんですね……」

 いや、策士でもなんでもないけど。との指摘は胸の中に止めておくことにする。

 ゆるゆると起き上がった宇沢は、二刀流で使っていたマレットを所定の位置に戻す。

「宇沢は器用じゃないんだから、小細工しない方がいいと思うんだけどね」

「いいや! 戦いはトライアンドエラーの繰り返しです、最後に勝てばいいんです!!! ――と言うことで、杏山カズサ! もーいっかいです!」

 ――あぁ、これは。『もう一回』が続くやつだな。

 悔しそうに台に手を乗せる宇沢は、額に汗が見える。そりゃあ、打つ度に全力を出してるし、いちいち声に出していれば、消費カロリーは多いだろう。それこそ、ここに来る前に食べた、ホイップクリームダブルふんわりパンケーキ秋のフルーツトッピングで接種した分のカロリーを、全部使い切る勢いだ。

「あの」

「――――ぴゃっ!?」

 宇沢の方から声が聞こえたのは、その時だった。

 文字通り飛び上がった宇沢は、台に置いていた手のおかげで転倒を免れる。

 宇沢が顔を向けた方向には、ラグビーボールを横に倒したような形状の顔をした人物がいた。

「な――ななななんですか!? 私は別にエアホッケーの台を壊したりとか――」

「あぁ、驚かせてしまいすみません。ここの機械主任をしている者です。当館のゲームを遊んでいただき、ありがとうございます。楽しげに賑やかにプレイされていたので、声をかけさせてもらいました」

 水色で表示されている表情のモーションが変わり、笑顔の形になる。

 この人物――機械主任と言ったか――が言った、楽しげに、賑やかに。それは大方宇沢のことだろう。腕前はともかくとして、無駄にうるさかったし、面白がってたし。

「…………」

 私は、相手の様子を注意深く探る。

 こういう店の店員というのは、あちらから干渉してくるということは少ない。こちらから声をかけて、機械の故障や対人トラブルなどを解決するもののはず。――何か、ある?

 ゲームの音はうるさいけれど、銃声や喧噪は聞こえない。周りに怪しい人物の影は無し。なら、単独犯――? もしこいつが銃か何かを抜こうもんなら、こっちにも反撃する準備はある。私はいつでも銃を構えられるように、背中に手を回して――。

「つかぬ事を伺いますが、お客様はお急ぎでしょうか? もし、お客様にお時間がおありなら、現在開発中の、対人ロボットのテストプレイをしていただければと思いまして。もちろん、お題はいりません」

「…………はい?」

 両手を広げたその人物の手に、銃器の類いは存在しない。体に何かを隠し持っている様子は、今のところ見えない。

 警戒はしつつ、宇沢の方へと足を進める。

「…………えっと、テスト、プレイってなん、ですか?」

「当館では、お一人様でもエアホッケーをお楽しみいただけるように、ソロプレイ用の対人ロボットを開発中なのです。導入の目処が立ちましたので、どなたかにプレイしていただき、難易度の調整などを行おうと思っておりまして」

「それで、宇沢に?」

 先ほどからあわあわとしている宇沢の代わりに、答える。宇沢の頭に手を乗せると、宇沢はやっと動きを再開した。

「ええ、せっかくなら、楽しくプレイしてもらおうと思いまして。もちろん、プレイ代はいただきませんし、もし最高難易度に勝てたなら、当館の景品をどれでもひとつ差し上げます」

「――――――!」

 宇沢の体が、ぴくりと反応した。

「どれでもひとつって、なんでもいいんですかっ!?」

「ええ。お気に召す物はございましたか?」

「入り口右側にあった大きなクレーンゲームの景品の、『BIGウェーブキャットぬいぐるみ』でも!?」

「ええ」

「――――! やります! やりますよっ!」

「承知しました。それでは準備をする時間をいただければと思いますので、しばらくお待ちください」

 そう言って機械主任は、その場を離れていく。

「運がいいですね、私たち!」

 両手で握り拳を作っている宇沢は、これ以上にないくらい、目を輝かせていた。

「そっかぁ、あれがもらえちゃうのかぁ……。へへ、へへへ」

 なんだかもう景品をもらったような顔をしてるんだけど、宇沢はその前提条件をクリアするっていうのを忘れてないだろうか、と思う。

 宇沢が欲しいと言った、ウェーブキャットというのはモモフレンズというキャラクターシリーズの一体だ。モモフレンズは、ヨシミに連れ――半分拉致に近かった――られたハンバーガーショップで知った。なんでも、『ラッキーセットをコンプしたいの、お願い!」とのことで、その最後まで出なかったのが、ウェーブキャットだった。黒猫で、胴がやけに長い、特徴的なキャラクター。宇沢の口から、キャラクターとかそういった類いの話は聞いてこなかったから、意外に思った反面、宇沢は猫好きなのを知っていたので、不思議と納得できた。

「最高難易度に勝てたら、でしょ? 取らぬ狸の皮算用はよくないよ、宇沢」

「なぁに、勝てばいいんです、勝てば!」

 ――宇沢のこの自信は、いったいどこから湧いてくるんだろうな、と。つくづく思う。

 まぁそれがあるのが宇沢なのだから、深く考えるだけ野暮ってもの。

「ところで宇沢。ジュースは?」

「ジュースって? …………あ、あぁ、忘れてませんよ? いつ買いに行きます?」

「今でいいよ。ちょうど汗かいたしね。スポドリでお願い」

「えぇと、自販機、自販機っと……、あっちですね、では行きましょう!」

 ――言われるまで忘れてたな、こいつ。

 何のジュースにしようかな、と口ずさみながら、スキップするような足取りで宇沢はゲームセンターの中を歩いていく。ホワイトスノーのツインテールが、歩く度にぴこぴこと跳ねる。

 宇沢は今日も楽しそうに生きてるな、と、そんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自販機の隣にある椅子に座ってジュースを飲み、宇沢は追加で棒付きアイスを平らげてから、私たちはエアホッケーがある場所へと戻って。

「…………」

「…………」

 二人で、声を失った。

 エアホッケーのプレイ位置に鎮座するそれは、何というか、得体の知れない、何かだった。

「…………象、でしょうか?」

「…………いや、腕が四本あるから、一応、人、じゃない……?」

「おまたせしました。こちらが当館の対人エアホッケーロボット、Ganeśa-1です!」

 人の姿をしていつつ、顔は象で、腕は四本。象の外見でありがならも肌は人と同じなところが、なんとも言えない不気味さを醸し出している。

 ――これ、私たちの前にプレイしてた子供たちにさせてたら、泣かれてただろうなぁ。

 機械主任の趣味なのか、はたまた別にデザイナーが存在するのかは分からないけれど、少なくとも外見においては一考の余地有りなんじゃないか、と思える。

「難易度は一から十まで選べます。どの難易度に挑戦されますか?」

「十で!」

 宇沢は迷わず即答した。マジか。

「承知しました。それでは難易度を十に設定します。それでは位置についてください」

「それでは、行ってきますねっ!」

 ぐっと胸の前で握り拳を作って、宇沢は背筋を伸ばして台へと向かっていく。

 その後ろ姿は、少し前の晄輪大祭で見せた姿に似ていた。

 ガコンッ、と、白い円形のパックが落ちる音がする。

 宇沢はそれを台の上に載せて、マレットを構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなの! どうやって! 勝てって! 言うんですかぁ!!!!」

 ――だよねぇ。

 私の前まで戻ってきた宇沢は、地団駄を踏む。

 スコアは『33-0』。びっくりするくらいの完敗だった。

「……ふぅん、これが最高難易度、ね」

 プレイ中、隣に立つ機械主任が様々な情報を話してくれた。――というよりも、きっと話したくてたまらなかったんだろう。「何で見てんの? これ」と言った途端、蛇口を全開にするかのごとく言葉が流れ出した。

 曰く、センサーカメラを両目に二台準備し、搭載している高性能AIにより前後左右の壁反射は寸分の誤差無く防御でき、相手の防御側の癖を学習して直線攻撃と壁反射を織り交ぜる。腕の四本はそれぞれが分離した動きが出来るので二対二どころか四対四での対戦も可能。ただしスペースが狭いので二対二が限度かと思う。プレイヤーはとある神様を元にしていて、商売繁盛の願いを込めている。ここで上手く行けば増産して一ゲームセンターに一体いられるようにしたい、と。

 話半分で聞いていたけど、言われていたのはそんな感じだったと思う。

 機械主任の様々な思いが込められたこのエアホッケーロボット、プレイは結構な、いや、かなりの腕前だった。Ganeśa-1の攻撃してくるパックの速度は、早いけれど見切れないほどの速さではなく、宇沢が打った方が早いように感じた。瞬間敵には捌ききれない訳ではないけれど、防御一辺倒になればいつかは崩されてしまうだろうと思う。そして問題は防御が堅すぎること。宇沢が――攻撃があまり上手とは言えないにせよ――放つ攻撃が、センサーカメラによって完全に見切られてしまっていた。このゲームは相手より多く点を入れなければ勝てない仕組みだし、私たちは体力と集中力という制限がある。この難易度に勝つにはなかなか――。

 と、考えていると、いつの間にか宇沢がプレイ位置から忽然と消えていた。かと思うと、その姿は機械主任の近くにいた。

 何やら話し込む、というよりも、お願いをしているように見える。何やら機械主任が頷いた、かと思うと、宇沢が私の方へとやってくる。

 息を弾ませ、宇沢は私をまっすぐに見て、言った。

「どうもテストプレイの対象は私のようなんですが、二人プレイならどうですか、と言ったらそれでも大丈夫らしいんです!」

 一息でそう言った宇沢は、一呼吸置いて、そして、

「杏山カズサ、私に、力を貸してください!」

 両手を合わせて懇願される。宇沢からお願いされること自体が少ないから、珍しいことだと思うし、そこまでして景品が――、と思っていると。

「杏山カズサ。あなたとなら、絶対に勝てます! 一緒に、やってくれませんか!?」

 根拠もないのに自信満々に言われて、そこまで買いかぶられるほどでもない、と思うのだけれど。――不思議と、悪い気分じゃない。

 あとついでに、あの無駄に自慢げにぺらぺらと話してきた機械主任の鼻も明かしたい、とも思う。

「…………ん、分かった。――宇沢」

「はい」

「やるからには、勝ちに行くよ」

「――――はいっ!」

 背負っていた銃を置く、宇沢の方も降ろさせる。

 台に付く。目の前のGaneśa-1が、やけに大きく見えた。

 すぐ右隣に、マレットを両手に持った宇沢が立つと、台がやけに狭く感じる。

「やるよ、宇沢。作戦は――――」

 

 開始の合図の前。誰にも聞こえないように、宇沢の耳元で、そっと、作戦を伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦は、お互いの攻守の分担だった。

 攻撃が苦手――もとい、防御が上手い宇沢は、我慢して防御に徹してもらう。もちろん、右に持つマレットは使わず、左手のみで自陣を守らせる。

 宇沢は、攻撃さえしなければ、強かった。むしろ、それまでの3戦の大量失点はなんだったのかと思うくらい、防御は鉄壁とも言えるほどで。私は何の気兼ねすることなく、全力で攻撃に回る。

 緩急織り交ぜて攻撃をするも、やはり全て弾かれてしまう。

 攻撃は通らない、けれど失点もしない――スコアは0-0の膠着状態のまま、制限時間のゲージが残り数目盛りになる。パックを上から押さえつけて、攻撃の態勢に移る。おそらくこれが、最後の攻撃。

 攻撃の速度を上げるため、マレットを引いて。

「――――宇沢!」

 私の合図で、宇沢が右手のマレットを前方へ滑らせた。

 そして敵陣まで滑ったマレット目がけて、全力でパットを打ち付ける。

 その位置に打ち込むための練習は、この一戦の中で何度も練習した。手の動きも、打ち込む角度も、完全にイメージ済み。

 全力で打ち付けたパットは、一度壁に反射し――その先にいた、マレットに直撃。突然方向が変わったパットに、Ganeśa-1の左腕は、対応しきれない。

 ガコンッ、と。打ち付けた勢いそのままに進んだパットは、敵側ゴールの左端に吸い込まれ、音を立てた。

 スコアの表示が、0から1へと変わる。その瞬間、ブザー音が鳴る。

 こちら側のスピーカーから、ファンファーレが鳴り響く。

「………………」

 宇沢は、マレットを放った姿勢のまま、固まっていた。

 たっぷりと、数秒をかけて。

「――――――――~~~~~~やぁっっっっったぁぁぁ!!!」

 その日一番の歓声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへ、えへへへへ…………」

 大きなウェーブキャットぬいぐるみをマフラーのように首に巻いて、宇沢は隠しきれない変な声を上げる。目の下までウェーブキャットで隠されているけれど、その緩みきった目尻と漏れ出す声で、宇沢が相当にご機嫌なのが分かる。

 私の手には、小さなビニール袋。そしてその中には、ウェーブキャットのふかふかしたタオル生地のキーホルダーが入っている。

 結局、二対二で勝ったことにより私も商品を得る権利を貰ってしまった。特にゲーセンのものに思い入れがないので辞退しようとしたら、宇沢が『ならこれにします! いいですよね!』と押しつけてきた。

 私に黒猫のキャラクターを押しつけるのはいい根性してるな、と思わなくもないけれど。宇沢が貰った物と同じであるなら、宇沢が好きな物を選んでくれた、と好意的に解釈することにしよう。

 相当なカロリーのスイーツを食べたのが、昼ちょっと過ぎ。そして今は空が少しずつ茜色に染まり始める時間帯。

 なのに――。

 ぐぅ、と、お腹の音が聞こえた。もちろん、隣から。決して、私の方じゃない。

 宇沢の方を見る。何故か私と目が合った。

「…………何か、買って行きましょうか?」

「そう、ね。……この近くだと、あぁ、ルワゾー・ブッレの支店があるから、そこで何か買ってこうか」

「あぁ、この杏山カズサが買ってくれたお店ですね! じゃあフルーツタルトにします!」

「……太るよ?」

「いいんです! エアホッケーでカロリーを消費したので実質ゼロです! むしろマイナスなのでゼロに戻しましょう!」

 そのゼロである根拠は全く無いし、眉唾この上ないけれど。きっとカロリー的にはオーバーなのだろうけれど。

 勝負に勝ったご褒美を自分に与えても、今日くらいはバチは当たらないだろう、と。

 私は、宇沢の理論に乗っかることにした。




ゲーセンに行って全力エアホッケーをするカズサとレイサという電波を受信したので書きました。
レイサは絶対エアホッケーやったら楽しそうに騒ぐと思うんですよね。あと絶対に自爆するタイプだと思う。
それを見るカズサもまんざらじゃなく楽しいなって思えてたら尊いし、そんなほほえま空間が繰り広げられているゲームセンターの壁に僕はなりたい。
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