レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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秋祭りは銃声とともに

 ――明日、学校近くの神社で例大祭があるらしいんだけど、行かない?

 

 私が杏山カズサから誘いを受けたのは、土曜日のお昼――しかも私が昼寝を貪っている最中のことだった。

 杏山カズサとはモモトークのIDを交換しているのだから、電話が来るのはなんら不思議なことではない――のだけれど、それとこれとは話が別で。チャットじゃなくて通話が飛んでくるとか、ましてあっちの方から連絡してくるとかまったく想像だにしていなくて。しかもしかも、お祭りのお誘いだなんて!!

 おかげで持ち上げていたスマホは顔に落とすわ、口は回らないわ、寝起きで変な声だったわで、大変だった。色々と。

 それから大急ぎで着るものを決めて――結局いつもの制服姿に落ち着いた――、いつも通りに銃の整備をして、早くに布団に入った割には寝る時間はいつもより遅く、次の日を迎えた。

 そして、予定時間より少しだけ早めに、待ち合わせ場所の踏切に着いた私は。

 

 一言。

 

「――――え。なんで杏山カズサひとりなんですか???」

 そこに居たのは、いつもの黒パーカーに身を包んだ、杏山カズサ。一人。

 いつも一緒に居る、ヨシミちゃんやアイリちゃんやナツちゃんの姿は、ない。

「え、私だけだけど」

 なんでそんな当たり前のことを聞くの? とばかりに杏山カズサは首を傾げる。

「えーっと、放課後スイーツ団のみなさんは?」

「あれ、部の皆と一緒に行くって話ししてたっけ?」

 この状況と、反語的な杏山カズサの言葉。それは、つまり、えっと?

「だってあなた、例大祭があるって聞いたって電話で――」

「ああ、お祭りがあるってはナツに教えてもらったんだけど、皆して都合が悪いみたいでさ。宇沢なら暇かなって思って誘ったんだけど」

「や、暇でしたけど。何もありませんでしたけど」

 ――杏山カズサのお誘いだったら予定は全部飛ばしてましたけど! とは言わない。

 というか、むしろ。放課後スイーツ団のみなさんの次に、私が候補に挙がってるということが、嬉しい。勝手にほほが緩む。

「ん、じゃあ大丈夫だね。行こ」

 杏山カズサから隠れて口元を戻していると、杏山カズサは肩に背負った銃を抱え直して、すたすたと歩き出す。私の気苦労なんてまったく知らない上に気にしていないような、そんないつも通りの足取り。

「ほら、宇沢。行くよ」

「ちょっとぉ!?」

 数歩歩いて、振り返る。猫みたいに目を細めた笑みを浮かべて、杏山カズサは、私を呼ぶ。

 そして私の返事を待たずに、また歩き出す。それを見て、私も慌てて駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トリニティ総合学園の生徒が遊びに行くとすればまずここ、と言ってもいいくらいの、学園からほど近く、ほどよく栄えていて、探せば銃火器からスイーツまで何でも揃う商店街。

 今日は、その商店街の組合が主催する、秋祭りと称したイベント、らしい。

「おおおおぉ…………」

 その会場の、とある一区画に足を踏み入れた瞬間――思わず、声が出た。

 それまでは、お好み焼きやたこ焼きのソースの香りやら、烏賊焼きの醤油の香ばしい臭いやら、お腹が空く匂いに満ちていたお祭り会場。

 しかし、お祭りの中の企画区域、『スイーツゾーン』に入り込んだ瞬間、空気がガラリと変わるのが分かった。

 何か境界を越えてしまったかのごとく、その一歩を踏み入れた瞬間、キャラメルやバターやクリームの甘い香りが、暴風となって私たちを襲う。

 見えるのは一本道の左右に並ぶ屋台の数々。その全てがスイーツの屋台という、夢のような光景が広がっていた。

「ね、すごいでしょ」

 ふふん、と隣で杏山カズサが鼻を鳴らす音が聞こえる。会場入り口でもらったマップを見ると、28ものキッチンカーが軒を連ねているらしい。

「宇沢だったら、ここは楽しめると思ったからさ。じゃ、見て回ろっか」

 他の場所に比べて、人混みは結構ある。歩き出す杏山カズサからはぐれないようにと後ろをぴったりと歩いていると、「あ、そうそう」道の途中で突然止まったせいで、杏山カズサの銃身が鼻にぶつかった。痛い。

「前みたいにさ、それぞれで好きなの買ってさ、シェアしない?」

 振り返った杏山カズサは、そう提案する。

 いつもよりも少し、杏山カズサの声が弾んでいるのが分かる。嬉しそうな顔をしているのが分かる。お祭りという空気に当てられて。うきうきしているのが、私だけじゃないんだって分かる。

「はいっ! そうしましょう!」

「よし、決まり。売り切れる前に一通り買っちゃおう」

 再び、杏山カズサは歩き出す。

「え、そんなに早く無くなっちゃうんですか?」

「一番奥の店の名前、見た? 例のあそこの、第一(プライマリ)メニューの、なおかつ限定フレーバーが――」

「行きましょう。すぐに行きましょう。並んでいるなら武力行使も視野です。そのための銃ですから」

「いや、そこらのチンピラ連中みたいなことしないでよ」

「スイーツを巡る争いに勝つためには、まず戦闘能力が必要、ってヨシミちゃんが言ってました!」

「あのちんちくりんの言葉を鵜呑みにしないで」

 そんな話をしながら、人混みを避けつつ向かった最奥部。列が出来ることを想定しているような場所にあるそこには、想像通りに人の列ができていた。

「ま、大人しく待とうか、宇沢」

 ぽん、と私の頭に杏山カズサの手が乗せられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んんんー、おいしいれふ……! これは、決して出店なんか出していいスイーツじゃないですよ!」

「宇沢、だからフォークで人を指さない」

 一時間ほどが経って、私たちはイベント会場の広場で購入したスイーツに舌つづみを打っていた。屋台が建ち並ぶ区域とは少し離れたここは、椅子とテーブルがあって休憩できるようになっている。そしてどでかいステージが作られていて、そこでパフォーマンスやら何やらが行われている。

「このシフォンケーキの柔らかさ、鼻に抜けるバターの優しい香り、クリームといっしょに食べると更に甘さが広がって、そして付け合わせのラズベリーがまた味わい深くて……はぁ、しあわせ……。

 それにしても、杏山カズサのリサーチ力は侮れないですね。私のスイーツセンサーに引っかからないものを買ってくるとは。その嗅覚、流石はキャス」

「それ以上言ったら殴るよ。……私も初めてのお店なんだけど、ビビッときてね、買ってみたらめちゃくちゃ当たりだった。すごいね、これ」

 おでこに杏山カズサの爪が刺さる。痛くはないけど、それ以上にオーラ的なものを感じて、私の言葉は途中で止まる。

 杏山カズサも、そう言いつつフォークでシフォンケーキを一口大に切って、口へ。ほんのわずかに、頬が上がって、優しそうな目になる。耳がぴこぴこと揺れる。美味しいって感じているのが、ひと目で分かる。

 目の前には、所狭しと並べられたスイーツたち。同じものをつついては、美味しさに頬を緩める。沢山のスイーツを目の前にしたときの幸福感は、やはり何にも勝るものなんだなぁと感じる。しかも向かいには、杏山カズサ。

「このお店も商店街のお店なんですよね? お店の場所は……あれ、『トリニティ総合学園から徒歩七分』? あ、そっか、裏通り。どうりで知らないわけですね」

 思った以上に近い場所のお店だった。そしてキッチンカーで作ったスイーツがこれならば、お店で食べたらさぞ――。あ、いいこと思いついた。

「杏山カズサ! スイーツ勝負を申し込みます! 場所はこのお店ですっ!」

「いや、ここ見つけたの私なんだけど。っていうか別に、『一緒に食べに行きましょう杏山カズサ!』でいいじゃん。わざわざ勝負にしなくても」

「……私の声真似、まったく似てないですね杏山カズ――いった! 蹴ることないじゃないですか!」

 視線を逸らされたまま脛を蹴られた。痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全部合わせていくつ食べただろう。数々のスイーツを平らげた私たちは、スイーツ区画以外の所も回ることにした。

 お好み焼きやたこ焼きといった粉物を売っているところ、サイダーやかき氷といった冷たい甘味を売っているところ、ヨーヨー釣りや金魚掬いやくじ引きをやっているところ、陶器やら花やらを売っているところ――沢山の種類の屋台が建ち並んでいる。

 どこもかしこも、トリニティの生徒を含む、人だらけ。この間行われた、キヴォトス晄輪大祭の中にあった屋台エリアに勝るとも劣らない賑わいを見せている。

「…………宇沢、太るよ?」

「いいんです。こんな美味しそうな食べ物がたくさんあるのがいけないんです! 500円ですね、はい」

 半目になった杏山カズサの視線を受けつつ、私は500円を渡す。

 ありあとやしたーの声と共にたこ焼き8個入りのパックを手に持った途端、たこ焼きの温かさが伝わってくる。ふわりと香るソースと鰹節の香りが、食欲をそそる。早速、パックを開けて、爪楊枝に刺して、一口。

「あ、それ――」

「熱っふう!?」

 めちゃくちゃ、熱かった。隣から「だから言ったのに……」と聞こえてきているけれどそれどころじゃなくて。

 あついあついあついあつい。口の中が大火事になって、数分後にやっとのことで飲み込んだ。

「焼きたてを、しかも一個丸ごと口に入れるとか。正気?」

「ここまで熱いとか知るわけないじゃないですか! ……というわけで、はい」

 爪楊枝に刺して、杏山カズサへと突き出す。

「……何?」

「おすそ分けです。美味しいですよ」

 ものすごく、苦々しい顔をされた。

「あなたも同じ苦しみを味わえ杏山カズサ――って内心が見え見えなんだけど」

「そんなことはないですよ。スイーツで口の中が甘味になったところで、ソースの味は格別ですよ?」

「食べたいのはやまやまだけど、宇沢が大変なことになってるのを見てるからね。冷めてから頂戴」

「しょうがないですねぇ。その時まで残ってるか分かりませんよ?」

「……え、宇沢、それ全部、ここで食べきる気?」

「そのつもりですけど」

「…………マジで」

 私の手には、さっき買ったたこ焼きが入った袋の他に、チョコバナナとりんご飴、それとわたあめの袋とお好み焼きが入った袋が下げられている。ちなみに、チョコバナナは買ったときにじゃんけんで勝ったので一本は杏山カズサに食べてもらった。

「よく食べるね、宇沢」

「へへ、褒められても何も出ないですよ」

「褒めてない。むしろ呆れてる」

「何でですか!?」

 両手に美味しい屋台の食べ物を手にして、杏山カズサと屋台巡りをしていた、そんな時。

 

 パンッと、乾いた音が聞こえた。

 

「――――――!」

 そして何やら、響き渡る声。

 方向は北東。お祭りの地図を見ると、つい先ほど杏山カズサとスイーツを食べた広場がある。

 再び何発か、続けて乾いた音が聞こえてきた。重く響くような爆発音とは違うないけれど、間違いなく散発的な銃声。少なくとも、祭りの日に聞こえる空砲なんかじゃない。その証拠を示すかのように、向こうの方から、人が走ってくるのが見えた。

 何かが起きているのは間違いない。銃声が聞こえてくる以上、ただ事ではないということも。

 祭りの中を杏山カズサと練り歩く間、警備らしき人は何人も見かけた。だから、何かが起こっているならば、その人たちに任せればいい。

 そう、頭の中では分かっていた。――――けれど、私は。

「――――。杏山カズサ、これ、お願いします」

「え、宇沢。ちょっ――」

 持っていたチョコバナナとりんご飴とたこ焼きとお好み焼きとわたあめの袋を押しつけて、私は、走り出した。背後から杏山カズサの声がしたけれど、今は、私の中で、もっと優先すべきことがある。

 地面を、全力で蹴る。走りながら、背中に回していた銃を手に携える。いつでも撃てるように安全装置は外しておく。残弾数確認、問題なし。

 人の流れに逆らって走り抜けること数分――広場とともに見えたのは、イベントステージの上を、ヘルメットを被った集団が占拠している光景。飲食スペースにいたであろう人が見えないのは、不幸中の幸いと言えた。

 人質がいないのなら――全力で、制圧するだけだから。

「――――っ! さ、せ、ません!」

 速度は緩めずに、そのまま突貫。走りながらショットガンを構えて、前方にいる手頃な相手に一発ぶっ放す。そいつはふらふらと左右に振れたかと思うと、前のめりに倒れた。

「何者だ!」

 ステージの上から、マイクを通した大きな声とキィーンとハウリングした音が同時に響いて聞こえた。

 こういうとき、私の銃は便利だ。音と衝撃がでかい分、一発撃つだけで目立つ。宇沢レイサという存在がいることを、その場に知らしめることができる。

「何者だ! と言われたら、答えてあげるのが礼儀というもの! この私、『トリニティの審判者』の前で不埒な行動は許しません! さぁ、全員お縄になりなさい!」

 指刺しながら、私は大声で宣言する。ヘルメットを被った不埒な輩に、不敵な笑みを見せる。

「ヤロウ――ぶっ殺してやる!」

 ――よし。

 挑発は成功。周りに見えるほとんどの銃口が、私の方を向くのが見える。

 もう一発をぶっ放してから、机を蹴り飛ばして遮蔽物にする。直後に背中に聞こえ始める、着弾音。

 ヘルメットを被った武装集団対、私のみ。自警団の任務で慣れた状況とは言え、状況はいつも通り最悪。

 けれど、私は不安などころか、大船に乗った気分。

 だって、今の私は――一人じゃないから。

「…………へへ」

 マシンガンの連続した発砲音。

 ステージの上にいた一人が倒れた。

「――――まったく」

 ため息と共に、私の大好きな人の声が、マイクの音に乗って聞こえてくる。

「宇沢は一人で突っ走りすぎ。全員黙らせるだけの弾、持ってないでしょ」

「あははー、勝手に足が動いちゃったといいますか、自警団の血が騒いだといいますか。……でも、あなたが来てくれるって信じてましたし」

「貸しひとつだからね」

 言葉を交わしているうちにも、銃声が何発も響く。けれど、杏山カズサには一発も当たらない。猫のようにすばしっこく、遮蔽物から遮蔽物を渡り歩き、そしてその間から敵を狙い撃つ。

 やがて、背にしているテーブルから、着弾音が消えた。おそらく杏山カズサが、私を狙い撃っている面々を撃ち倒してくれたのだろう。そうと分かれば、私も負けていられない。遮蔽物から飛び出して、私を牽制するように銃口を向けていた人物に向けて一発。吹っ飛ぶ。そのすぐ近くにいた人物に、一発。リロード。視界の端で銃口が向くのが見えるけれど、遅い。キャスパリーグだったら、この間に私のおでこに一発ぶち当ててた。

 銃弾が当たらないのは当然として、しっかりと狙う余裕もある。狙う。撃つ。倒す。

 人数は二十人と少し。こっちは二人だから、大体十倍。

 けれど私と杏山カズサがいれば、その数なんて――敵じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は、ものの数分で終わった。スズミさんを中心にして自警団が駆けつけたころにはもう戦闘は終わっていて、残りの処理をお願いして、私たちは場を後にした。

「レイサさん」

 スズミさんに呼びかけられる。

「目撃者から聞きました。また一人で制圧に乗り出したみたいですね。……怪我などはありませんか?」

「いつもどーり、大丈夫です。それと、今日は一緒に戦ってくれる人がいましたから」

 私の言葉に、スズミ先輩は杏山カズサの方を見て、目をきょとんとさせる。

「あなたたち、いつのまに…………いえ、これを聞くのは野暮というものですね。こほん、杏山カズサさん」

「え、はい?」

 いきなり名前を呼ばれて、杏山カズサは少しだけ嫌そうな顔になって、私に視線を送ってくる。状況が読み込みきれない私は、曖昧に笑うしかできなくて、杏山カズサからため息を付かれた。

「暴動の鎮圧へのご協力、感謝します」

「え、……あー、私は、別に…………」

 まっすぐに礼を受けて、杏山カズサは、居心地悪そうに頬をかく。何かを言おうとして、口を閉じて。視線をスズミさんからも、私からも逸らして。

「私は、一人で突っ走ってった宇沢を助けただけ。だから感謝される謂われはない。礼を言うなら、宇沢に言ってやって」

 そう、ため息交じりに、言った。

「…………レイサさん。鎮圧、ご苦労様です。正義感が強いことは素晴らしいことですが、周りと協力を――」

「あ、はいはい分かりました。そこらへんはまた今度ということで。それでは、お疲れさまでーす!」

 再び私の方にスズミさんの視線が来て、説教が始まりそうだったので、私は逃げの一手を打つ。杏山カズサの手を取って、二人で現場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元の場所へ戻ってきた私たち。

 屋台が集まっている区画は、近くで暴動があったからか、先ほどよりもざわついていたものの、暴動が鎮圧された旨のアナウンスが流れたからか、ほどよい賑やかさを保っていた。

 ――結局、私が杏山カズサに押しつけた食べ物たちは、杏山カズサが走り出す前に近くにいた誰かに渡してしまったらしい。杏山カズサ曰く『緊急事態だし、仕方ないよね。宇沢には悪いと思ってるけどさ』とのことで。すぐに駆けつけてくれたのだから、その事に私は不満はないし、むしろ押しつけてしまって申し訳ないという気持ちもある。

 杏山カズサは、渡してしまった分を買い直すよ、と言ってくれたけれど、遠慮しておいた。むしろ逆に、迷惑を掛けた分として、杏山カズサが食べたいと言った物――なぜかその大半が焼き物以外だった――を買うことにした。

 杏山カズサと歩きつつ、雑踏の声が、耳に入ってくる。噂好きのトリニティの生徒の声が、主なもので。

「イベント会場で暴動があったらしいよ」だとか、

「白い髪のトリニティの生徒が制圧したんだって」だとか、

「もう一人居たって話だよ」だとか。

 ――なんだか、聞いてて、なんというか。くすぐったい。

 よく考えたら、今まで自警団として活動したら後処理は他の人に任せきりだったし、その後は家に直帰だったし。騒ぎが起きた近くにいたことなんて、一度もなかったから。

「『トリニティの審判者』って名乗ってたんだって。カッコいいなぁ」

「…………ふへ」

 私が、勝手に、独断で、やったことだったとしても。間接的にでも、それを褒めてもらえるのは、嬉しくて。勝手に、声が漏れる。

 ――途端。むに、と、頬がつねられるのを感じる。

「ひひゃ」

 今日こんなことをするのは、一人しかいない。隣を見ると、案の定というか、杏山カズサが私の頬を引っ張りながら、猫みたいに目を細めて笑っていた。

「あにふんですか」

「宇沢のアホ面がすごいなって」

「む。ほんな顔してまへんでしたよ」

「なんていうか、ニヤけてたというか」

「…………否定は、できあへんけど」

 杏山カズサに触れられている逆側の頬に触れる。頬が上がっているのが分かる。

 うりうりと杏山カズサは私の頬をこねくり回してくる。痛いわけじゃないけど、くすぐったいし、息が詰まりそうになる。

「宇沢が飛び出してったのを見たときさ。――カッコいいなって思った」

「――――――は」

 息が詰まった。

 空耳かなって思った。疲れてるのかなって思った。頬に爪を立ててみた。痛い。

「何言ってるんでふか杏山カズサ。あなたも疲れたんでふか?」

「失礼な。放課後スイーツ部だからって(やわ)い体してないよ。……じゃなくて、そう思ったのは本当。いつものアホそうな顔から、仕事をする顔になるのを見るとさ、やっぱり、自警団の一員なんだなぁって思ったよ。カッコよかった」

「………………」

 顔が熱い。心臓が、嫌ってほどにうるさい。杏山カズサの方を、見れない。

 他の生徒に言われた『カッコいい』なんて、全然目じゃなくて、杏山カズサに言われたその一言がものすごい破壊力を持って襲ってくる。

 なんというか、こう――めちゃくちゃ、嬉しい。

「――――ふふ」

 杏山カズサの手が、さっきからずっと私の頬を引っ張ったりつねったりぐにぐにしたりする。いたずらっ子のような、猫のような顔をして、私の頬の感触を楽しんでいるようにも見える。

 でも、かえって、それでよかった。私の頬は勝手にニヤけちゃって、上がってしまってるだろうから。

 ただ――頬の温度だけはどうしようもないから。それだけはバレなければいいな、と。そう祈った。




『お祭り会場を練り歩くカズサとレイサ』という電波が吹っ飛んできたので書きました。
レイサ、屋台の物を手当たり次第買い込みそうだし、それを見てカズサがドン引きするところまで脳内再生余裕でした。
手首に屋台で買った袋を下げて、手には割り箸に刺さった物を持つ姿が似合いすぎる女、それが宇沢レイサ。
今回は不埒な乱入者がいましたが、二人は平和に仲良くお祭りを満喫してほしいものです。
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