「くふ、ふふふ………………」
勝手に笑いがこみ上げてくる。もうすぐで杏山カズサの鼻を明かせるかと思えば、そりゃ笑いの一つや二つや三つはでてくるというもの。
今日はクリスマスイブの、更に前日。部活動でケーキを食べるのは明日だけれど、今日は今日で和の方のスイーツを食べようということになっている。
「ふふふ……いよいよですよ、杏山カズサ……」
部活動が行われると言うことは、杏山カズサが部活動にやってくると言うこと。
明日がクリスマスと言うことは、それを理由にプレゼントを渡せると言うこと。
今私の胸ポケットの中にあるのは、白と赤の包装紙で包まれた、小さな箱。中に入っているのは、マカロンで有名なあのお店の、クリスマス限定フレーバーのマカロンセット。今私がいるのは、部室に繋がる廊下の、部室からは死角になる位置にいる、角。
杏山カズサへの、クリスマスプレゼントの箱を、今持っていると言うことは。ふふ、そういうこと。
いくら杏山カズサでも、クリスマスイブの更に前日にプレゼントを渡されるとは、毛の先ほども思うまい。これまで散々杏山カズサには先手を打たれ続けて、驚かされてきたけれど、今日こそは、このプレゼントこそは、杏山カズサの先を取る。
ちょいちょい。
何やら、肩に何かが当たる感覚がした。私は忙しいんです。無視。
ちょいちょい。
杏山カズサが廊下を歩いてきた所を見逃すわけには行かないんです。無視無視。
ちょいちょい。
「なんですうかもう。私は忙し――――きょ――うやまカズサ!?」
なんで!? 杏山カズサなんで!?
ちょっとまって杏山カズサが教室から部室にやってくる最短ルートはこの廊下のはずでは!?
口から心臓やら何やらが出そうになった。
振り返った先にいたのは、あきれ顔の杏山カズサで。私がずっと廊下の向こうからやってくると信じて疑わなかったその人で。
「さっきから見てたけど、怪しすぎ」
「なんでそっちから来るんですか杏山カズサ!?」
「え、別に。理由なんかないよ。こっちの道を通りたくなっただけ」
そんな気まぐれな理由で私の完璧な作戦を崩されても困るんですが!!!
だけど驚かされただけで、私の作戦はまだ実行中で――
「そんでもって、はい」
ぽす、と。私の頭に何かが当たる。
視界の上の方に微かに見えるのは、何やら赤い色をした、何か。
手で触れる。何やらつるつるとした感触の、ちょっと堅いもの。
「一日早いけどさ。クリスマスプレゼントってことで。明日部活中に渡すとさ、あいつらがうるさいし、変な風に勘ぐるし。ってことで、今日渡すね」
「…………はい?」
「いや、話聞いてた? 明日はクリスマスでしょ? それのプレゼント」
いたずらっ子みたいな、にんまりとした顔を浮かべた杏山カズサが、そんなことを言って、私の手にある赤と緑の包装紙の箱を指差す。右上にはリボンも付いている。――――ええっと、これは、つまり。
「ぷれ、ぜんと。…………――――ややややや待ってください杏山カズサ!」
「何よ、一日早く渡してもいいでしょ」
「ずるいですよ杏山カズサ! 先に渡してくるなんて!!!」
杏山カズサが「プレゼントに後も先もないでしょ」と吹き出すように笑うけれど、それじゃあ私の計画が、完璧な作戦が、台無しじゃないですか!
「杏山カズサが来るのを待ってた私の苦労を返してくださいよ!」
「そんなこと言われても」
腕組みをして、ため息を付きつつも楽しそうな
「ほら、今日はナツが注文してくれてるから部活行こ」
途中まで歩いて、振り返って手招きする杏山カズサ。ほんっとう、さっき驚かされてから胸がうるさくて仕方が無い。
「まったくあなたと言う人は……いっっっつも私の予想を裏切ってくれるんですから……」
私の作戦は、杏山カズサの気まぐれのせいで綺麗にダメになった。けれど、それはそれ、これはこれ。杏山カズサに渡したいと思ったものは確かだから。
「先を越されちゃいましたし、まさか杏山カズサも同じ考えとは思いませんでしたけど。
……私も、先に渡そうかなって思ってたんですよ。というわけで、私からも。はい」
胸ポケットに入れてあった、白と赤の縞模様の箱を取り出して。杏山カズサへと、渡す。
「…………なんだ、宇沢もか」
「ええ、私もだったんですよ」
箱を手にして、目を見開いて。それからはにかみ笑顔を浮かべる杏山カズサを見て。
先手は取れなかったし、先に驚かされたけれど。その顔を見れたから、よしとしましょう。
レイサとカズサのプレゼントを巡る仁義なき戦いを書きました。
宇沢レイサの完璧な作戦(※完璧とは限らない)をぶち破る、杏山カズサという罪深き女という概念です。
なおこのやりとりは部室内にしっかり聞こえていて、部室に二人で入った後の、三人のほほえま笑顔を見た。というところまでがセットです。
ツイッターで行われている、#第二回ブルアカ概念祭に合わせて作りました。
レイカズ流行れ、という願いを込めて。