「杏山カズサ杏山カズサっ! 見てくださいっ!」
宇沢が寮の廊下を走る音は、その十数秒前から私の耳にしっかりと入ってきていた。
だからいつものように勢いよく部室のドアが開かれることも、いつものように騒がしい宇沢の声が聞こえてくるのも、想定通りだった。
「………………」
だけれど、宇沢のその服装だけは、想定外だった。
「………………なにそれ」
「やぁぁぁっと見つけたんです、このパーカー!」
頭のてっぺんから声が出ているような、甲高い宇沢の声が部室に響く。
宇沢が着ているパーカーは、私が見慣れすぎている形をしていた。トリニティの校章が付いているところも、パーカーに三角形の猫耳が付いているところまで、まったく同じ。違う所と言えば、黒色ベースではなくて白色ベースということくらい。
猫耳フードが付いたパーカーという、あまりにも挑戦的すぎる学園認定の上着。まさかこれにトリニティの校章が付いてるだなんて、最初見たときは自分の目を疑った。――まぁ、そんなんだから私が買ったときも最後の一着だったわけで。
それを、宇沢は羽織っているわけなのだけれど――着こなしだけで言えば、私のそれとはまったく違っていた。――具体的に言うなら、大きすぎる。
宇沢の左右に広げた腕は、指先がパーカーの袖から出ていないし、パーカーの裾は腰どころか、足の付け根近くまでかかっているし、頭に被ったフードは、頭どころか額近くまですっぽりと隠している。
ぶかぶかと表現するにはあまりにも大きすぎるそれを着た宇沢は、満面の笑みを浮かべて。
「杏山カズサとお揃いですよ!」
などと、満足げに、いつものようにテンション高めの大声で言ってくる。
あの。宇沢。
私だけに見せるならいいんだけど。……ここ、部室。
私の定位置は入り口から一番近いところにあるから、私が見える範囲には宇沢しかいない。けれど背中から、我が放課後スイーツ部員の――具体的にはヨシミとナツの――視線がぐさぐさと刺さる。
針のむしろとはまさにこのことで。変な汗が出てくる。
「ふぅーん。ペアルック、と。なーるほどねぇー?」
ヨシミの声が後ろから聞こえる。どんな顔をしているかなんて、見るまでもない。ほくそ笑むような、悪戯を企むガキのような、そんな顔をしているに決まってる。
「カーズーサ、耳赤いんだけどー?」
「~~~~~~っ」
追撃が飛んでくる。ヨシミが頬杖付いてニヤけているのが、嫌って程に分かる。うん、そろそろ
――よし。
拳を握りしめて立ち上がりかけたそのときになって初めて、目の前に宇沢が来ているのに気づく。
「どうですか杏山カズサ、似合ってますかね?」
両手を広げて、ぺかーとでも効果音が付きそうな、純粋に喜ぶ宇沢の姿を見せられて。
……なんというか、ヨシミなんかにキレそうになってた自分が恥ずかしくなってきた。
自慢だとか、見せびらかしだとか、煽りだとか、そんなんじゃなくて。ずっと探していてやっと見つけたという、嬉しさが100%でできている宇沢の姿は、なんというか後光が差してすら見える。
「………………、似合、ってんじゃない?」
宇沢を直視できなくて、視線を外した状態で、ぽつりと、言う。
「――――――へへ。ありがとうございます!」
心底嬉しそうな声が聞こえてくる。
宇沢の顔? そんなの見なくても分かるから見なくてもいいし、そっちに顔を向けようもんなら色々とバレるから。ちょっとだけ、フードを目深に被る。
これはお揃いなのを見せてるんじゃなくて。まったくその逆で。顔を隠すためにはこれしかない。部室から出ようもんなら、どんな誤解をされるかは分かんないから。
「………………お揃いとか。…………………………ばーか」
誰からも背を向けて。熱が収まるのを、私は待ち続けた。
『杏山カズサのパーカーを着る宇沢レイサ』という電波が降ってきたので書きました!! お揃いですね!って嬉しそうな猫耳パーカーレイサは可愛いし、照れモードのカズサも可愛いよね!! っていう全力パッションでお届けします。
カズサのパーカー、あれトリニティの校章が入ってるってことは学園指定ってことなんですよね。あの猫耳フードがついたパーカーが。……わぁーお。ティーパーティかそこらへんの誰かの息がかかっていると思うんですよね。