レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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放課後スイーツ部に炬燵が導入された日

「…………なにこれ」

 いつものように授業に出て、つつがなく授業を終えて、いつものように放課後スイーツ部の部室に入って。そして目に入ってきた違和感に、そう呟かざるを得なかった。

 昨日まではなかった、異物としか言えないものが、部室の中心部で圧倒的な存在感を放っている。

「説明しよう。木製の天板、そして布団のようにふかふかの外布、そして中は電熱線のおかげで温かい。これは一般的に炬燵(こたつ)と――」

「ああ、細かいことはいいから端的に。なにこれ? っていうかなんであんの?」

 ナツがいつものように演説モードというか解説モードに入りかけたので遮っておく。ナツの話はほどほどで遮っておかないと、成り立ちから始まって最終的に『どこにロマンを感じるか』へと行き着く一大演説になる。

 炬燵に両手まで突っ込んで、決め顔で解説をし始めるナツは置いておくとして、一番事情を知っているであろうアイリへと問う。

「ほら、私たち、晄輪大祭の組体操で一位を取ったじゃない? それに個人競技でもみんないい成績を取ったおかげで、臨時の部費が出ることになったの。食べ物で消費するのもなんだから、残るものを買おうって話になったときに、ナツちゃんがね、『冬は炬燵でみかんを食べるのがロマンというものだろう』って話したの、覚えてる?」

 同じく炬燵に入ったアイリが解説をしてくれる。

 ――あー、そういえば、そんな話をしたような、しなかったような。

 確か、野スイーツ会をしたころだったから、大体、2ヶ月くらい前か。

「カズサ、『部室に残るものを買うのは賛成。でも何を買うかは任せるよ』って一任してたじゃん。文句は言わせないよ」

「いや、文句を言うつもりはないんだけどさ……。改めて見ると、なんかこう、違和感しかないな……って」

 昨日まであった白い無骨なテーブルが、木の天板に藍色のふかふかな外布の炬燵に変わっていたら、それは誰だって驚くと思う。きっと宇沢だってビビる。

「それまではただの白い机だったもんね。でもほら、温かいよ。カズサちゃんも、ささ」

 アイリに手招きをされて、空いている一辺のこたつへと入ってみる。

 下半身に感じる、じんわりとした温かい空気。膝上には、心地いい外布の微かな重み。ここに来るまでに冷えていた体が、足先からじんわりとほぐされていく感覚。温かさは下半身だけに止まらず、体全体が温まっていく感覚がある。

 ああ、これは、確かに……。

「そんでもって、はい」

 ヨシミが体を伸ばして、机の中心部で積まれていたみかんを一つ、私の前に置いてくる。ふとゴミ箱を見ると、みかんの皮がゴミ箱から溢れていた。――どれだけ食べたんだろう。

「さぁ、カズサも感じるのだ。炬燵とみかんのマリアージュという壮大なロマンを」

 ナツが横行にそんなことを言う。

 みかんを一通り揉んでから、剥いて、一欠片を口に。ほどよい甘みと心地いい酸っぱさが口の中いっぱいに伝わってくる。

 体の中の温かさと、みかんのほどよい冷たさが心地よくて、頬がにんまりとするのが分かる。悔しいけれど、分からされてしまう。ナツの言う、ロマンというものを。

「ふふふ……これでカズサも炬燵の魔力に捕らわれたな……」

 なんだか不敵な笑みを浮かべてくるナツを尻目に、みかんをもう一欠片。うん、おいしい。

 みかんそのものの美味しさもあるし、こたつに入って食べるという贅沢さが美味しさを更に増しているように感じる。食べ物の美味しさというものは、環境によって更に増進するものなのだと、ナツのスイーツ学の深さをほんの少しだけ理解した気がした。

「はふぅ…………」

 思わず息が漏れる。炬燵の気持ちよさはここまでなのか、と考えると。この買い物は大いに正解だな、と思わずには居られない。

 今回ばかりは、ナツのいつもの突拍子も無い言い出しに感謝し――

 カシャリ、と音が聞こえた。

 目を開ける。音がした方に目を向ける。ヨシミがスマホを私の方に向けていた。

「カズサは、炬燵で、丸く、なる……、と。よし」

 何やら操作して、満足げに鼻息一つ。コイツ、もしかして。

「ヨシミ、今のどこにやった?」

「え、レイサにだけど。あ、部のグループモモトークにも送った方がいっか。ごめんごめん」

 わざとらしくそう言って数秒後、私のスマホが着信音を立てた。見なくても届いたであろうものは分かるから無視。アイリとナツも同様なようだった。

「ヨシミ、あんたねぇ…………」

「いいじゃん、こんなふにゃふにゃカズサ珍しいんだから」

 私の頭は天板の上にあって、気分としては一日干した布団に入り込んだ直後くらいの気持ち。簡単に言えば、ここから動きたくない。

 別に今ヨシミをシめなくたって、部活動が終わった辺りでやればいい。だから今は、炬燵から出ないでみかんを食べるのが一番最適な時間の使い方だ、と。そう自分に言い聞かせる。

 中心部にある山積みにされたみかんから、もう一つを貰う。

 みかんの皮を剥きつつ、ぼんやりと、今日はなんか平和だな――と、そんなイメージが頭を過ぎった、その瞬間。

 廊下の向こうで、足音が聞こえた。

 一度微かに聞こえた足音は、次第にその音を大きくさせる。この全力で走ってくる足音は、もう幾度と無く聞いたし、もう完全に聞き分けられる。

 あと数秒もすれば、部室の扉が音を立てて「炬燵があると聞きまして!」開かれるのが分かっていたから、みかんから手を離しておいた。こんな静かな中に宇沢の声が突然飛んできたら、びっくりしてみかんを潰しかねない。

「宇沢、来るにしてもさ、もう少し静かに来られない?」

「あははは。気が(はや)っちゃうというかなんというか……。あ、これが噂の炬燵ですね?」

 宇沢は相変わらず、私の話を聞かない。私たちが入っている炬燵に視線を移すなり、すたすたと歩いてくる。

 ここで一つ状況確認。

 宇沢がここに炬燵があると知ったのは、大体ヨシミのモモトークによるもの。

 そこから宇沢が数分以内に全力ダッシュで駆けつけてきた。

 私たち放課後スイーツ部は、私を含めて四人。そして炬燵は正方形の形をしている。

 結論。

 一辺につき一人炬燵に入っている以上、炬燵の席は埋まってしまっていて、宇沢の入る炬燵の場所は無――

「よい、しょっと」

「――――ちょ」

 宇沢が、私のすぐ隣に割り込むように入ってきた。

「わ、温かいですね! やっぱり炬燵の温かさは別物です!」

 真隣から宇沢の跳ねるような声が聞こえてくる。声高い。うるさい。肩当たってる。

「宇沢、なんでこっち入ってくんの。狭いんだけど」

「だって全部埋まっちゃってますし。杏山カズサの隣ならまだ入れるかなぁって」

 首を傾げたまま、炬燵に入ったせいで数割増しに緩んだ顔の宇沢が見える。

 にへ、と緩んだ顔のまま「ま、いいじゃないですか」と言って、そして天板に頭を乗せる。宇沢が炬燵に籠絡されるのはほんの一瞬だったようだ。

「……よりにもよって、なんで私のとこなの」

「いいじゃないですか、減るものじゃないし。……あ、みかんみっけ」

「今目の前からみかんが一つ減ったんだけど」

「机の上にたくさんありますよ?」

「調子に乗るな」

 丁度射程圏内に宇沢の額があったので、とりあえずデコピンしておく。額を抑えて小さく震える何かは無視して、剥いていたみかんを食べ――ようとしたら剥いていた皮ごと、忽然と消えていた。

 机の上を探すと、我関せずといった様子で頬杖を付いたヨシミの元に、剥いた状態のみかんを発見する。やっぱり後でシめよう。 

「みかんくらい自分で剥きなよ」

「やー、仲良くじゃれあってるからいらないのかと」

「んなわけないでしょ。あとじゃれあってない」

「はいはい。ごちそうさま」

 そう言って私が剥いたみかんを食べ終え、もうひとつのみかんへと体を伸ばす。

 元々を言えば、ヨシミが写真を撮ったからでしょうが、と小言を言いたくもなったけれど。今までの経験上、それを言うと、間違いなく墓穴を掘ることになるからやめておいた。

 机の中心から、もうひとつみかんを取り出す。

 剥いて、その一欠片を口に入れようとして。

 隣で、雛鳥のように口を開けて待っている宇沢がいたので、頬を抓っておいた。




『いくら泣く子も黙るキャスパリーグでも、炬燵の魔力には抗えなかったようですね!』――ヨシミのモモトークに残った返答の一部。

放課後スイーツ部の部室に炬燵が導入されたらどうなるか、という電波を元に作った話がこちら。
カズサはこたつの天板に頭を乗せて、気持ちよさそうに目を細めたまま動かず、時々お耳をぴこぴこゆらす姿が可愛いと思うので、そんなモーション付き家具ください。待ってます。
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