レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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春は花見でスイーツを

 地面に敷いた大きめのビニールシートに座り、後ろ手を付いて、空を見上げる。

 いつも通りの透きとおるくらいの蒼空をバックに、桜の花々が咲き誇っているのが見える。

 

「あー、絶好の花見日和だなぁ……」

 

 開花状況は満開。視界一面が、桜色で埋まっていた。

 普段であれば、その隣からアホみたいな歓声か、脇を小突く感触があるんだろうけれど、今の私は一人だけ。思わず、空に向けてため息が出た。

 

「あー…………ちくしょう、ヨシミのやつ…………」

 

 恨みを込めてヨシミの顔を頭に思い浮かべる。口元に手を当てて、プークスクスとにやけ顔をしているのが出てきたので、脳内でその鼻をつまみ上げてやった。

 

  ――いやまぁ、気がつかなかった私も、悪いんだけどさ……。

 

 

 記憶は昨日の部活中に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日は花見をするよー!」

 

 周りを上質な砂糖でコーティングされた、ふわふわな出来たてドーナツを食べていたナツが、突然立ち上がってそう宣言した。いつも通りというか、何というか――まったくと言っていいほど前触れなどはなかった。

 

「今年はびっくりするほど桜が早咲きしている。桜と言えば花見。となれば、やはり我ら放課後スイーツ部も部活動として花見をすべきではなかろうか。花見中に食べるスイーツは、お団子などはどうだろう」

「花見と言ったら、やっぱりお団子は欠かせないよね。いいじゃん、やろ」

 

 むふん、と大仰に頷くナツに、ヨシミがしたり顔で同意の声を上げる。

 

「お団子。みたらしは欠かせないし、あんこも捨てがたいし、ゴマもいい味出すし……、あぁ、春限定の三色団子もあるわね。うーむ、どれも有力候補ね……」

 

 腕を組んでうんうんと頷いているヨシミの頬に、砂糖の欠片が付いている。というか、口の中にまだドーナツが入っているようで、言い終わった後にもぐもぐと口を動かしていた。話をするのか、食べるのか、どっちかにして欲しい。

 食い意地の張ったヨシミらしい同意の仕方に、私の頭には一つの言葉が浮かんでいた。

 

「……花より団子、ってね」

 

 思わず、声が出た。

 隣で宇沢がぶふっと吹き出すのが聞こえた。ツボったらしい。

 

「ふふっ……。ヨシミちゃ、それ…………ふふっ、ふふふっ……」

 

 宇沢はドーナツを手にぷるぷると震えている。特に害はなさそう、とか思ってたら、手に持っているドーナツから砂糖の欠片がぼろぼろと落ちていて、やっぱり宇沢だな、と思う。とりあえず取り皿を宇沢の手の下に持っていき、掃除の手間を少しでも減らす努力をする。

 

「宇沢、笑うかドーナツ食うかのどっちかにしなよ。砂糖こぼれてる」

「そっそんなこと、いったって……ふふっ…………」

 

 結構なツボに入ったらしく、宇沢の震えは止まらない。コイツのツボはよく分からないな――と思った次の瞬間、耳を引っ張られる感覚があった。

 

「痛っ! ――おい」

 

 方向的にそんなことをするのは一人しか居ない。

 

「ヨシミ、腹いせに暴力は良くないよ」

「あんたが言うなあんたが。そんでもって誰が花より団子よ。桜もちゃんと見るわよ」

「いや、ヨシミ、団子のことしか言ってなかったじゃん」

「花見に同意したの! ああもう、話進まないから、カズサはちょっと黙ってて!」

 

 理不尽な叱責だと思うし、私は一言ツッコミしただけじゃん。裁判長(アイリ)に視線を送ると、困ったように笑われるだけだった。ここはヨシミが怒られていい場面なのに。解せない。

 

「んで、花見ってどこで? 何時? 何持ってく?」

 

 ヨシミが矢継ぎ早にナツへと問う。大体いつもの流れではあるし、ヨシミも手慣れたもののようで、スマホのメモ機能を開いて準備する気満々だ。

 ナツはもうひとつむふん、と鼻息を付いて、そして言う。

 

「トリニティ周辺で花見ができるところと言えば、川沿いのあそこしかない。我々はあそこをキャンプ地と決めた!」

 

 どっかにある銅像よろしく、腰に手を当て逆側の手で遙か向こうを指で指し示して、そう言い切った。よほど気に入った決めポーズなのだろう、視線を私の方に向けてドヤ顔をしてきた。うん、割とウザい。

 とまぁそんなナツは置いておいて、明日の予定のことに思考を向けることにする。

 ナツが花見に行くと行った場所は、トリニティから歩いて十分かそこら、繁華街とは逆方向に向かうと見えてくる、桜並木の、あそこ。――端的に言って、あまりよろしくない。色んな意味で。

 

「ちょっと待て、ナツ。あんた正気?」

「正気も正気だとも」

「あそこの込みよう、知らない? すごいよ?」

 

 道沿いに桜並木が続くそこは、桜の時期はキヴォトス中の生徒でごった返す。そしてキヴォトスの生徒が来るということは、そこが大人たちにとって金稼ぎの場所となる。具体的には、数々の出店が道の両側を埋め尽くす。食べ物だけじゃない、スイーツの屋台もそこそこに出る。なので更に生徒が来る。

 端的にまとめると、割とヤバい場所なのだけれど――ナツはそこに行くと言う。

 

「本気で言ってんの?」

「少し早めに場所取りをすれば大丈夫」

「マジで…………花見場所を探して路頭に迷っても知らないからね」

「なんとかなるさ。何せ私たちは、スイーツがあればどこにでも出没する、放課後スイーツ部なのだからっ!」

 

 再びノリノリでポーズを決めるナツ。そして何やら聞いたことのない口上まで出てくる始末。いつから私たちはそんな神出鬼没になったんだっけ。まぁいいけど。

 そしてそんなやりとりをしているうちに、後ろの方ではアイリとヨシミと宇沢が持ち物や買い出しするものの相談をしていた。そしてその流れで、明日は臨時でミラクル5000の屋台が来るということを知り、危険度が増すのを感じたりして。

 持っていく荷物の分担や集合時間を決め終わって、その日の部活はお開きになった。

 

 

 その日の夜。

 【カズサ、集合時間変わったんで連絡。6時に予定の場所で】

 ポン、と軽い通知音が鳴る。モモトークを開くと、ヨシミからの個チャが飛んできていた。

 

 ――聞いていた時間は11時だったのに。やけに早まるな、と思った。帰り道の途中でナツが日和って、早めに確実に場所を確保する作戦にしたのだろう、と。私はそう捉えて。

 

 【分かった。6時ね。寝坊しないでよ?】

 【カズサが寝坊したら、私が喜んでカズサの分のお団子食べちゃうから安心して】

 【コロス】

 【ひゃーこわい】

 そんなやりとりの後、そんな事をヨシミに言った手前で本当に寝坊しないようにと、早めに布団に入って。

 いつもより相当早く目を覚まして、持ち物当番として持たされたビニールシートと紙コップやら紙皿やらを持って桜並木の場所へやってきて。

 

 

 集合時間ぴったりの時間に来たのに、集合場所と指定された場所には誰もいなくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、今に至る。

 

「…………本当(ほんっっっとう)に、誰も来ない…………」

 

 ビニールシートを敷いてから30分。誰かくらいは来るだろうと思ったけれど、そんなことはなくて。ヨシミにモモトークを送るも、既読すらも付かない。

 もしかして、集合時間が変わったのは事実だけれど、それは私だけなんじゃ……、と気づくのに時間はまったくかからなかった。

 

「あんのやろ………………」

 

 まだ寮の朝食も終わっていない時間帯、当然ながら周りに人なんていない。何もしないで突っ立っているのも馬鹿馬鹿しいので、桜の木が一番大きい場所にビニールシートを敷いた。

 ビニールシートを広げた瞬間は、五人で使うには割とデカいな、と思っていたけれど。敷いてみてその理由が少しだけ分かった。――場所取りだ。

 実際に座る場所の部分だけだと、他の花見面子の領域が浸食してきて、狭く感じてしまう。その一方、座る場所よりも広いビニールシートを使えば、浸食の度合いも収まる、と、そういうことなんだろう。

 このビニールシートを準備したのはナツだから、ナツだったらそこまで考えていてもおかしくはない。唐突に物事を言い出したり、急に変なことを言い出す割に、結構深いとこまで考えてたりするからなぁ……。

 とは言え。それはそれ、これはこれ。

 デカいビニールシートのど真ん中に、私一人だけという事実はなにも変わらないわけで。

 

「…………あーあ、暇」

 

 準備なんてビニールシートを広げて、飛ばないように四隅に石を置くくらい。ここにあるのは紙皿と紙コップ。以上。スイーツやら飲み物の準備は、残った面々で分担しているから、誰かが来ない限りは食べる物もないし、やることも無い。

 つまり、暇。

 やることがないし、近くに暇つぶしできるものもないので、寝っ転がってトリニティ周辺のスイーツ店まとめサイトを見て、次は宇沢とどこに行こうかな、などといくつかの店をピックアップしたりしていて――それなりに時間を潰せたと思って周りを見ると、様子が次第に変わっていっているのが分かった。

 一時間以上前の私のように、ビニールシートを持ったキヴォトスの生徒が目に見えて多くなってきていた。

 そして私と同じように場所取りをもくろんでいるんだろう、物色するように辺りを見回しては、花見をするのに都合のいい場所を見繕っている。――そして当然ながら、全員が全員、銃を携えている。

 

 ――ま、そうだよねぇ。

 

 頬杖を付きつつ、私たちの陣地の周りを通りがかる面々を眺めて、そう思った。

 この状況、ナツに言わせるならば。

 『ここはスイーツを得る為に銃撃戦が行われるキヴォトス。どうして花見でも同じ事が起こらないだろうか』

 ってとこだろうか。

 実際、それからほんの数分後、隣に陣取りしようとしていた集団がしれっと私たちの陣地を侵そうとしていたので、優しく肩に手を置いて、心もち優しく声をかけてやった。ヤツらは撤退した。

 それが何回か続いた。

 運良く銃撃戦に発展することはなかったけれど、これが私以外だったら割と大変だったろうな、と思わなくはない。

 

 ――ある意味で、適任なのかもなぁ、と、不本意ながら、そんなことをしみじみと実感していると。

 

「――――あれ? 杏山カズサ」

 

 宇沢の声が聞こえてきた。

 振り向くと、いつものパーカーに身を包んだ宇沢が、大きな荷物を持って佇んでいた。

 

「集合時間は11時ですよ? なんでもうここにいるんですか?」

 

 心底不思議そうに、首を傾げる宇沢。時計を見る。まだ9時前。

 

「宇沢こそ、まだ9時にもなってないじゃん。なんでもう来たの」

「やー、初めてのお花見が楽しみで楽しみで、6時には目が覚めちゃったんですよね」

「子どもじゃん」

「杏山カズサもそうじゃないですか」

「や、私は――――、ま、座んなよ。立ったまんまは疲れるよ」

「あ、そうですね。それじゃ、お言葉に甘えて」

 

 首の後ろを掻いて恥ずかしさを紛らわす宇沢を見て、とりあえず座るように促す。

 靴を脱いで、おずおずとビニールシートに足を踏み入れた宇沢は、私の隣に腰を下ろす。

 そして桜の木を見合えて、「わぁ……」と歓声を上げた。

 

「ねぇねぇ杏山カズサ。見てくださいよ満開ですよ、満開」

 

 宇沢の肘が脇腹に入って。少し息が漏れた。手の位置を体の後ろから変えてなかったのがいけないのはあるけれど、宇沢はそろそろ力加減というものを知ってほしい。

 

「そう、ね」

「杏山カズサ、意外と反応薄いですね」

「だって、さっきから見てるし」

 

 それこそ何時間も。日が昇ることで見え方も結構変わってきてはいるけれど、まぁそれだけ見たら割と飽きる。

 

「あれ、杏山カズサ、何時から来てるんです? 8時くらいですか?」

「6時」

「ろぅくじぃ?」

 

 耳元で宇沢の高音が響いて、耳を倒す。うるさい。

 

「なんでそんな時間に! 遠足前の子どもですか!」

 

 それ私がさっき言った。

 

「ヨシミの企みでね。場所取りってことで、私だけ早い時間の集合時間だったんだよね。……や、宇沢とかに聞いてたら分かってたんだろうけどさ。昨日、割と眠くて」

「そうだったんですね。……んー、でもそのおかげで、こんなにいいとこで、しかも杏山カズサとお花見ができてるんですよね」

 

 もう一度宇沢は桜の木を見上げて、ひらりと落ちてきた桜の花びらを器用に捕まえる。

 

「杏山カズサ。こんなにいい場所を取ってくれて、ありがとうございます」

 

 そう言って、満足そうなにんまりとした笑みを見せた。

 

「………………や、まぁ。……そう、ね」

 現金だと思う。単純だと思う。

 だけど――宇沢にそう言ってもらえただけで。早く場所取りした苦労が、全部消えて無くなったように思えた。

 

「――――、よし」

 

 隣の宇沢が何か決心したように、声を上げたかと思うと、隣でごそごそし始めた。

 

「予約して開店直後に受け取ってきた、杏沢庵の出来たてお団子なんですが。――せっかく二人だけのお花見ですし、こっそり食べませんか?」

 

 宇沢が持ってきた大荷物は、パックに入ったお団子が10パックほどと、桜餅が2パックほどだった。お団子は、みたらしに、あんこに、ごまに、赤白緑の三色とバリエーションもある。

 宇沢は、その中から三色団子を取り出し、私の方に差し出してくる。春風に乗って、ふわっと優しい甘い香りが漂ってきた。

 

「出来たてなので、柔らかいですし、まだほんのりあったかいですよ。さぁ、食べるなら今です。さぁ」

 

 ずい、とお団子を更に私に向けてくるので、受け取る。直接お団子に触れてないのに、じんわりと指に温かさを感じられて、宇沢の言うことを実感する。

 普段食べる和スイーツは、作られてからそれなりに時間が経っていることが多い。時間が経っても美味しく食べられるのが和スイーツの特徴であり、良さではある。だけど今手元にあるのは、それの出来たて。特別感に、なんだかわくわくするのが分かる。

 

「ヨシミちゃんたちには内緒ですよ?」

 

 口元に人差し指を当てて、いたずらっ子のように笑みを見せる。共犯者になるからお互い黙ってよう、と、そういうことなんだろう。

 

「宇沢が口を滑らせなきゃ大丈夫でしょ」

「私はそんなヘマしませんよ!」

 

 盛大にフラグを立てる宇沢に、「どうだろうね」という言葉はとりあえず飲み込んでおいた。

 宇沢が先に付いている朱色のお団子を口に入れて、満足そうに咀嚼するのを見て、私も一つ目を口に入れる。

 

「…………――――、」

 

 今まで食べたことがないほどの、お団子の柔らかさと、温かさ。優しい甘さが舌に伝わって、鼻を抜ける風味が心地いい。一つ目を食べたら、二つ目の白色も食べたくなって、そして三つ目の緑色になって。手に持ってるのが串だけになるのに、さほど時間は掛からなかった。

 隣を見る。宇沢はまだ口の中にお団子が残っているのか、咀嚼しながら、桜の木を見上げている。

 もぐもぐごっくんと喉を鳴らして飲み込んだ宇沢は、満足げに息を吐く。

 

「おっきな桜の木を見上げて、おいしいお団子を食べて、杏山カズサと一緒に居て。……はぁ、言うことないです」

「三つ目はあってもなくてもい――」

「大事です。一番(いっちばん)大事です」

 

 途中で遮られた。隣から、気配で何度も頷いているのが分かる。

 

「杏山カズサと一緒に、お花見をやりたかったので。今日だって、もしかしたら杏山カズサが早く来たりしてないかなーとか、ほんの少しだけ思ったりしてたので。――本当にいてびっくりしましたけど」

 

 あはは、とため息交じりに笑う。とりあえず、これで仕組んだのはヨシミということがほぼ確定となったので、後でデコピンの刑に処すことに決めた。

 

「なので。今、私は今すっごく幸せです」

「…………ふーん」

 

 ――そうやってまっすぐに言ってくるの、ズルいんだよなぁ。

 

 とは言えるわけないから、とりあえず、相づちを打っておく。聞いてるよ、と伝えておく。

 

「……うん、まだ時間はかなりありますね。もうちょっとだけ、杏山カズサと桜を独占しておきますね。えっへへ」

 

 隣を見なくてもその声だけでどんな顔をしているのかが分かるから。

 私はしばらく、隣を見ないで、桜の木を見上げることに徹する。

 

 

 さっきよりも、桜が綺麗に彩って見えた気がした。




レイカズでお花見をテーマにしたSSを書きたいなと思ったら、こんなお話ができていました。ビニールシートの中央に座って、周りに威嚇しまくるカズサの姿を想像しながら書いてたんですが、ムーブが番犬そのものでほほえましいですね。

桜の花見の場所取り、実際にやったことあります。割と暇でやることないし、なんなら花見の時期の朝方って割と肌寒いこともあるんですよね。もし指定された集合時間がやけに早い人が居たら、ブランケットとかホッカイロとかを持っていくことをお勧めします。

一つ余談。
このお話はホワイトデーの少しだけ後。首謀者はヨシミ。つまるところは、そういうことです。
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