レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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放課後スイーツ部 in 桜の木の下出張所

 ヨシミの謀略に見事にはまり、ひとり花見会場で場所取りをしていた私の元に宇沢が来てくれてから、大体1時間ほどが経った。

 せっかくだからと宇沢と一緒に一足早い花見をして、花見団子も食べて。桜の花を見上げて目を輝かせる宇沢を間近で見て。

 割と、私はもうこの時点で結構満足してはいるのだけれど。この後放課後スイーツ部の面々も来るし、花見団子以外のスイーツもやってくる。宇沢との花見は一つのメインイベントではあったけれど、メインイベントはまだこの先に待ち構えている。

 まだ朝の10時。今日という日はまだ始まったばかり。

 

「…………くぁ」

 

 にも関わらず。ふと気が抜けた瞬間に、欠伸が出た。

 見上げると太陽の位置が高くなってきていた。ここに来たときはまだ日の出前で、空はまだ藍色の方が勝っていたのに。

 

「…………ふ、あふ」

 

 一つ目につられるように、もうひとつ。

 太陽の位置が高くなるということは、気温が高くなるということ。

 ほどほどの気温で、時々涼しい風が吹いてきて、木陰から降り注ぐ太陽の光は優しく、周りは割と静か。

 そんな条件が揃えば、そりゃ眠くもなるわけで。

 朝が早かったこともあって、眠いかと言われると、割と眠い。春眠暁をなんとやらというやつで、広いビニールシートを二人で寝っ転がって占領しているとなれば、そりゃ眠くもなる。

 とはいえ、ここは戦場のど真ん中。寝てしまえば私たちの領地は簡単に奪われてしまうから、寝るわけには行かないのだけれど――。

 ふと隣を見る。横になった宇沢が、すかー、すかー、と思いっきり寝息を立てていた。

 

「…………」

 

 つい先ほどまで、口をぽかんと開けて桜の花を見上げていたと思っていたのに。

 見事なほどの早寝。仰向けになって、アホみたいにだらしなく開いた口からは、よだれが見え隠れしていた。

 

「………………」

 

 宇沢の広い額に向けて、手刀を振り下ろした。

 ゴンッといい音が鳴った。

 

「ぁ痛ったぁーーーーーー!?」

 

 うるさい声が響いた。

 

「なにすんですか杏山カズサ! いきなり叩くなんてあなた人の心ありますか!?」

「うっさい。私だって頑張って起きてんだから宇沢も起きててよ。一応、場所取りしてるんだからさ」

 

 額をさすりさすり、宇沢は上半身を起こす。目尻に涙があるのを見て、ちょっと強くやりすぎた、と心の中だけで謝っておく。ごめん。

 

「? ビニールシートを敷いてるんですから、場所取りもなにもないじゃないですか?」

「いやいや宇沢、思い出して。喫茶店での第一(プライマリ)メニューを狙ったとき、お祭りで限定スイーツが出たとき、学食で数量限定のケーキが出ると噂が立ったとき。――どうなった?」

 

 指折り数えて宇沢に説明する。そのどれもが、宇沢と共に戦闘力を用いてスイーツを勝ち取った華々しい記憶たち。

 ここはキヴォトス。銃が全てを支配する場所。宇沢も、自警団で、嫌と言うほどに知っている世界なのだから。

 

「あー…………」

 

 苦笑いを浮かべ、そして納得したように頷く。

 

「やっぱりここも、そうなんですね」

「残念ながら、そうなんだよね」

 

 宇沢の視線が、私が背負う銃に向く。私の今朝から今に至るまでを語る必要はなさそうだ。

 

「ま、そんなとこだからさ。一応周りには気を配って。そんでもって領地を侵してくるような輩は――」

「ええ、分かっています。やられる前に先制攻撃ですねっ!」

 

 鼻息荒くそう言い放つ宇沢を見て。

 なんとなく。本当になんとなく。自警団の同僚――というか宇沢の世話役の――スズミさんの気苦労を垣間見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やー、カズサ、場所取りごくろうさん」

「……やっときた」

「ひゃーこわい。アイリー、カズサが睨んでくるよー」

 

 肩からクーラーボックスを提げたヨシミたちがやってきたのは、集合時間ぴったりの11時だった。しれっと来たヨシミを睨むと、ヨシミはアイリの後ろに隠れて怖がった振りをする。困ったように眉を下げて乾いた笑いをするアイリの後ろで、べーと舌を出してくるのを見ると、やってることが子どもそのものだなぁと思う。

 

「カズサちゃん、場所取りありがとうね。何もなかった?」

「――ま、ね。一応、何もなかった」

「そっか、ありがとね」

「…………ん」

 

 アイリに労われて、頭を撫でられて。ヨシミに持っていた殺意やらもろもろは全て飛んでいった。ヨシミに言われるならともかく、アイリにそう言ってもらえたのは、なんというか、すごく嬉しい。

 何もなかったというのは嘘なのだけれど、アイリに心配かけさせるよりはよっぽどいい。

 それまでに不埒な輩を撃退した回数は、両手の数を少しだけ超えたくらい。大体は睨みを利かせるだけで退散させたんだけど、一度だけ威嚇射撃をかました。

 それで相手がビビったおかげで直接的な戦闘にはならなかったんだけど、その後に宇沢に脇腹を突かれた。『威嚇射撃をする弾がもったいないです! その一発をぶち当てて伸しちゃいましょう!』とか主張してきた。割と思考が私よりになりつつあるのを感じる。まぁいいけど。

 

「っていうか、レイサも早く来てたんだ」

「あははー、なんだか早く目が覚めちゃいまして」

「レイサらしいよ」

 

 ヨシミはクーラーボックスをビニールシートに置く。そして宇沢が持ってきた大荷物を一瞥して、宇沢の方をもう一度見て。一言。

 

「……あれ、レイサ、口元にあんこ付いてるよ?」

「えっ!? ちゃんと食べたあとで拭きましたよ!?」

「――――あ」

 

 自分の口元を指差して、ヨシミは言う。明らかに見え見えの(ブラフ)の言葉なのに、宇沢はそれを聞いて慌てふためき始める。そして盛大に自爆。――なんというか、頭を抱えたくなった。

 

「……食べたんだ?」

 

 ヨシミの口元がニヤリと横に広がるのが見えた。楽しそうだな、コイツ。

 

「え、…………、あ」

 

 自身のやらかしに、やっと気づいたようだ。――全てはもう遅すぎるんだけどさ。

 

「…………ヨシミちゃん、騙しましたね!?」

 

 盛大にフラグを回収した宇沢を見て、思わずため息が出る。やると思った。絶対、やると思った。

 

「宇沢ってさ……やっぱバカだよね。ヨシミなんかの手に引っかかっちゃってさ」

「バカっていう方がバカなんですーーー! っていうか杏山カズサだってヨシミちゃんにそそのかされて早く来たんじゃないですか!」

 

 それを言われると返す言葉はないんだけど。でも、流石にここまでバカじゃないと思う。

 ヨシミは腹を抱えてビニールシートの上で転げ回っている。笑い声がうるさい。そろそろ射程内に入ったらデコピンの一発でもくれてやってもいいかもしれない。

 

「あっはっはっは、ひーーーーー!」

 

 宇沢だけじゃなくて、なんか私までまとめて笑われてる気がする。やっぱデコピンじゃ足りないな、殴っておきたい。

 

「やー、まさかここまで綺麗に引っかかるとは……ふふっ、思ってなかったんだけ、ど。……ひーっひっひ……」

 

 笑いすぎて呼吸が辛くなってきたようだ。その息止めてあげよっか? 手なら貸すよ?

 

「まったく…………」

 

 ――証拠隠滅しましょう! 串とかパックとかが残ってたらヨシミちゃんとかナツちゃんとかに絶対にバレますから!

 

 そう言って二人で食べた花見団子の証拠隠滅を図ったのは何を隠そう宇沢の方からだ。

 状況証拠は完璧に消したはずなのに、宇沢の不意な一言で完全にバレたあたり、やっぱり宇沢だなぁって思う。

 

「ばーか」

 

 宇沢の頬を抓る。

 

「ひひゃいえふおひょーやあかうは」

 

 隣から聞こえる言葉になってない言葉は無視することにした。

 宇沢の頬は今日も柔らかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 春の日の、休日。

 桜の花が咲き誇った木の下で行われる、放課後スイーツ部の部活動。

 円形になって座る私たちの前には、比較的大きめの紙皿。そしてその上には、花見団子が4本――なぜか私と宇沢の紙皿には3本しかない――と、桜餅と、個包装のチョコレートと、桜色をした正方形のミニケーキ。紙コップに入っているのは、温かい紅茶。

 春の空気の香りに、スイーツと紅茶の甘い香りが加わる。大きく息を吸い込むと、透きとおった綺麗な空気が肺一杯に入ってくる。室内での部活動では感じられない空気の美味しさを感じられる。

 そして見上げると、満開の桜。この桜並木の中で一番大きな桜の木の真下という、特等席の下に陣取る我らが放課後スイーツ部。

 隣を見る。宇沢が目を輝かせて今にもスイーツに手を出したくてうずうずしている。『待て』をされた犬そのものだ。

 

「それじゃあ、いただきましょうか」

 

 アイリが全員分の紅茶を入れ終わり、そう言う。

 ちなみに、一番最初に入れてくれた紅茶は私の前にある。全員分を入れる間に、少しでも冷ましておこうというアイリのさり気ない優しさを感じて、胸が温かくなる。最後のナツの前に紅茶のカップを置くときに、私の方を見て片目を瞑ったのを、私は見逃さなかった。

 いただきます、と全員の声が桜並木の中に響く。

 花見団子はさっき食べたので、それ以外のものに手を付ける。昨日の打ち合わせの中ではなかった、桜色のケーキを半分に割って、口へ。桜風味の香りが口いっぱいに広がる。息を吐く。吐く息すらもおいしい。

 ふと、肩をつつかれる感覚。宇沢とは逆側の方を見ると、ナツが自慢げな顔を見せていた。

 

「ルワゾー・ブッレの春の新作。お気に召してくれたかな?」

 

 なるほど、このケーキを買ってきたのはナツだったようだ。ナツのスイーツ選びのセンスはかなりいい所を行っている。今日のこの場所にまさにぴったりなスイーツ選び。流石はスイーツ学専攻第一人者(自称)。

 

「やるじゃん」

「ふふ、もっと褒めてくれたまえー」

 

 ドヤ顔を見せた後、頭を私の方に向けてきた。撫でろ、とその頭は言わずとも語っている。

 

「調子に乗らない」

 

 額を掌底で押し返す。一応、ヨシミにするよりも力は抜いておいた。

 口の中が少し乾いてきたので、紅茶を飲もうとして――紅茶が入った紙コップに桜の花びらが浮いているのが見えた。蒼空に映る桜色もいいし、紅茶の紅葉色をバックにした桜色も乙な物だな、と思いながら、口にする。甘かった口の中がすっきりと洗われるのが分かった。

 さて、そろそろお団子を――と手を伸ばしたところで、ふとした違和感があった。視界の隅に、なんだか見てはいけないものが見えた気がして。

 視線を横にずらす。具体的には、宇沢の更に隣に座る人物の、紙皿の上に。

 

「――ヨシミ、流石に食い過ぎじゃない?」

「むぐ? …………ん、レイサと組んで私たちより先に食べたあんたが言えることじゃないでしょ?」

 

 ヨシミの紙皿の上には、花見団子の、串だけになったものが積み上がっていた。そしてその近くには、お団子が入っていたプラスチックのパック。もちろん中身は綺麗になくなっている。

 一人で相当な数を食べたのが、状況証拠から見ても確定的に明らかだ。

 

「やっぱ花より団子じゃん」

「ちゃんと花も見てるって。ただ、このお団子がおいしいのが悪いの。この美味しさは罪よ。そしてこれをおいしく食べないのも罪なの。分かる?」

 

 花見団子の串を持って、したり顔で自慢げにフリフリと振る。そして私の返答を聞く前に、お団子にかぶりついて、頬に手を当てて頬を緩めた。幸せそうなヤツ。

 

「ま、おいしいのは分かるけどさ。むぐ。……一人で全部食べないでよ?」

「まだ半分もあるから大丈夫よ」

 

 半分()一人で食べたんじゃん、とは喉元まで出たけど、言うのは躊躇われた。先に私と宇沢で一パック分食べたのは、紛れもない事実なんだから。――でも最初の紙皿の上のお団子まで減らさなくてもいいじゃん、とは思った。言わないけど。

 そんなやりとりをしている間、ずっと正面からは視線。私の正面に座るアイリがにこにこと眺めているのが見えていた。

 嬉しそうに放課後スイーツ部のやりとりを見ているのが、アイリのいつもの日常で。そんなアイリの姿を見ると、なんとなく嬉しくなるのが分かる。

 今日もアイリは楽しそうだな、と。今日この場所を守り抜いた私――宇沢も含む――を褒めてやりたいなと、そう思った。

 

 

 

 大量に持ち寄ったスイーツは、量が量だけに長らく無くなることはなく、花見をしつつ――ヨシミはどうか分からないけど――私たちはスイーツ会を行った。

 日が暮れ始めた頃。『桜の木のライトアップがあるんですって!』と言い出した宇沢に付き合って、結局私たちは夜までこの場所に居続けた。

 来る時には全員が大荷物だったにも関わらず、帰るときには全員の荷物がスッキリと軽くなっていた。宇沢に聞いたところ、買ったお団子の本数は200を数えたそうで――よく私たちのお腹に収まったな、と。帰り際にそんな話をした。

 

 ――ちなみに。

 キヴォトスの生徒でごった返した桜並木の中、その日に銃撃戦が起こることは最後までなく、自警団の出動も、正義実現委員会の出番も、珍しく無かったという――。




先週投稿した『春は花見でスイーツを』の先が見たくなったので書きました!
レイサ、割と単純だから簡単にブラフに引っかかって自爆しそう。そんなレイサが可愛くて大好きです(˶′◡‵˶)

ところで、回を追うごとに、なんとなくヨシミのIQというか、ずる賢さが上がってきている気がしてなりません。私の世界においては、放課後スイーツ部における頭脳派はナツに次いで二番目までありそうな気がする。ヨシミ、恐ろしい子……!
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