レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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寒がる宇沢にマフラーを

「へっ…………へぁ………………ぶぇっっくしょぉい!」

 

 隣から、それはそれは騒がしい声が聞こえた。

 

「宇沢、うるさい」

「そん、な、こと言われ……へ、…………へ、っっっくしょぉぉい!」

「…………」

 

 せめてくしゃみをする時くらいは、口に手を当てるか顔を背けるかどっちからしてほしい。盛大に私の右腕に宇沢のつばが飛んだので抗議の視線を向けたけれど、宇沢は鼻をすすっていて気づいていない。あとうるさい。

 

「…………はぁ」

 

 やれやれと思うけれど。

 でもま、宇沢だしなぁ、と思ってしまうし、それで許してしまう自分がいるのを自覚してはいる。結局、この半年以上で宇沢自身も、そして私も、変わっていない。

 

「宇沢さ、昨日モモトークで言わなかったっけ。『明日寒くなるよ』って」

「もちろん見ましたよ。杏山カズサからのモモトークですから。――いや、寒くなるのは分かってましたけど。ま、だいじょぶかなって、おもっ……へっくしょぉぉい!」

「全然大丈夫じゃないじゃん」

 

 もしかして、と思い宇沢の足元を見ると、相も変わらず生足だった。こっちはストッキングを穿いてマフラーも付けて、ついでにカイロも忍ばせて、やっと寒くない、くらいなのに。

 宇沢は寒さに強い――ように見えて、くしゃみをしまくってるのを見ると、実はそれほどでもないのかもしれない。

 

「へぁっぷし!」

 

 二人で歩き始めて、十分かそこら。宇沢はくしゃみが止まらないようだ。まったく。

 

「ああもう、ほら」

 

 私の首に巻いていたマフラーを取って、宇沢の方に掛ける。そしてぐるぐると巻く。巻き方なんて知らないから適当だけど、とりあえず巻いてあれば防寒にはなる。

 

「付けてて。首元があったかければなんとかなるから」

「え、でもこれ杏山カズサの」

「いいから」

 

 宇沢はマフラーに手をかけて、外して返そうとしていたから上から無理矢理押さえつける。――端から見ると、宇沢の首を絞めてるように見えなくも無かったけれど、目撃者がいないことを祈ることにする。

 しばらくその体勢でいると、宇沢は根負けしたのか、大きく息を吐いてから手をマフラーから離した。

 

「……杏山カズサは、寒くないんですか」

「私の防寒対策はばっちりだから。宇沢と違ってね」

 

 心配そうに言ってくるものだから、ほんの少しの強がりを含めてそう言ってやる。

 実際の所、防寒対策はしっかりとしてきたつもりだ。それも、割と過剰なほどに。

 なんとなくの感じではあるけれど、どうせ宇沢にこれ(マフラー)をかけることになるんだろうなって思っていたから。首回りが寒くても、なんとかなるようにはなってる。

 

 ――まさかまぁ、歩き出して早々にその時が来るとは思わなかったけど。

 

 実際寒いかどうかと言われたら、ほどほどに寒い。寒いのは苦手だし、できるならずっと炬燵かヒーターの前にいたい。

 でも、『週末、春限定のスイーツがあるので行きましょう杏山カズサ!』と宇沢に目をきらきらさせて迫られたら断る気はしないし、見せて貰った抹茶ティラミスはおいしそうだったし――何より、隣で宇沢がずっとくしゃみをするのは、寒そうにしているのは、なんとなく、そっちの方が嫌だから。掛けてやった。

 

 ――割と前までは、自業自得、で済ませてたはずなんだけどなぁ。

 

「――――」

 

 そういえば隣が静かだな、と思い、ふと視線をやる。

 

「…………………………」

 

 宇沢は先ほどと変わらずに、私の隣を歩いていた。びっくりするほど静かだったから、後ろに置いてけぼりにしたのかと思うくらいで。宇沢のくるくる回る口はと言えば、雑にぐるぐる巻きにしたせいで、マフラーで口元が完全に隠れてしまっていた。

 まぁ素肌が出る場所が少ない方がいいだろうとその時は思っていたけれど、まさかそのままでいるとは思わなかった。

 

「…………………………はっ」

 

 私の視線にやっと気づいたか、宇沢が結構な速さで私の方を向いた。

 

「え、へへへへ…………温かくてぼーっとしちゃいました」

「ちょっと宇沢大丈夫? 熱あるんじゃない? ……んー、や、ないか」

 

 宇沢のおでこに手を当てたけれど、特に熱があるわけではなかった。私の手が余りに冷たかったのか、手を当てたときに「へぁっ!?」だとか「ちょぉっ!?」とか鳴き声が聞こえたけど聞かなかったことにした。

 念のため、逆の手で自分のおでこに触れてみる。特におでこの温度の差は無かった。むき出しの手は割と冷たくて、やはり今日は寒いんだな、というのを実感する。

 

「うざ…………あれ」

 

 宇沢に触れていた手が空を切っているのに気づいて宇沢を探すと、数歩前を歩いていた。何やら早足になっていて、手を伸ばしても届かない。

 

「ちょっと宇沢、歩くの速いんだけど」

「いいから行きますよ!」

「さっきまで寒がってたのに」

「〰〰〰〰〰〰〰〰ッ! おかげさまで!」

 

 宇沢の歩く速度が、なんか更に上がった。

 さっきまでくしゃみしまくってたクセに。

 少しばかり小走りで付いていくと、宇沢は小走りで逃げる。

 

「宇沢。早いって」

 

 後ろから呼びかけても、綺麗にスルー。

 結局、目的の店まで宇沢の後ろを走ることになった結果。道中で寒く思うことはなかった。




カズサとレイサの立ち絵を眺めていて、生足とストッキングの違いがあるなーって思った瞬間に閃いたのがこちらのお話です。あとマフラーを口元に当てる仕草って可愛いよね!!! ってのを書きたかった。現場からは以上です。

レイサは風の子ではあるけれど寒いのは寒い。そういうのも見越して対策をしているカズサは、レイサへの色んな意味での信頼感が増してるなぁってのを書きながら感じました。少しずつお互いの理解度が深まっていく関係、いいなぁって思います。
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