レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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黒猫カズサの習性

 授業が終わって、放課後から部活動が始まるまでの間。それは平日の中では特にトラブルが起きやすい時間――だと私は思っている。

 ヘルメット団が部活動と称して教室を占拠したり、部活動を行う場所を巡って銃撃戦が起きたり、購買でスイーツを巡る銃撃戦が発生したり――まぁこれは私も参加するときはあるんですが――トラブルの内容を数えると、両手両足の指の数では絶対に足りない。

 私たち自警団は、そのトラブルに対して対処する集団ではあるのだけれど、スズミさんや他の方々も含めて、それぞれ立ち位置は異なったりしている。

 なら私はどうか、と言えば。『トラブルが起きるのは仕方ない。ならば起きたトラブルはできるだけ早く駆けつけて原因をぶちのめして解決しましょう!』のスタンス。だから詰め所に居るよりは、学校の中をパトロールする方が性に合ってる。決して、詰め所で待機するのがつまらないとか、立って待つのはなんだかそわそわして仕方がないとか、詰め所に居る人たちと何話していいか分からないとか、そういう訳ではないのです。決して!

 ということで、今日も校内のパトロールをしていたところ。

 

「…………ん。…………あー、あれは……?」

 

 トリニティ総合学園のメインの建物の裏側、私たちが『裏庭』と呼んでいる区画の奥で、見慣れたヘイローがちらりと見つけた気がした。

 なんとなくこっそりと、そちらの方に足を進めてみる。

 裏庭の、更に奥側にある、ほどほどに大きい木の下。周りには座るためのベンチや、ティーパーティに最適なテーブルもたくさんあるのに、木陰に寝そべっている杏山カズサがいた。両手を頭の後ろで組んで、目を瞑っている。

 そして、ちょっとだけ違和感。

 授業が終わってから、まだ一時間も経ってない。――あれ、杏山カズサって、確か。

 

「…………」

 

 ゆっくりと近づいてみる。杏山カズサの丸いヘイローは見える。……ということは、眠っては、いない?

 

「…………きょーやまかずさ、……おきてますかー?」

 

 声をかけてみる。私の普段の声はうるさいのを自覚しているので、心もち、声を抑える。

 ……声を抑えすぎたせいか、返事はない。ただの杏山カズサのようだ。

 もうちょっと、そろり、そろり、と近づ

 

「なんだ、宇沢か」

「――――ぴゃっ!?」

 

 私のせいで杏山カズサが起きないようにと、声も出さないで、足跡も抑えて近づいたはずなのに、木陰に入るかどうかという瞬間に、杏山カズサの声が聞こえた。そしてその開いた目は、私の方を向いていた。

 それまで全然動く気配もなかったのに――ミレニアム製の警護ロボットを思い起こさせた。あれは、強敵だったから。

 

「…………えと、杏山カズサはお休み中ですか?」

 

 寝ている杏山カズサを起こしちゃったかな、という浮かんできた気持ちを少しだけ抑えつけて、声をかけてみる。

 杏山カズサは何回か瞬きをした後で、ふっと目を細める。「いいや」と優しい声をかけてくれる。

 

「ちょっと休憩中。ほら、ここって涼しいからさ」

「え、でも杏山カズサ。今って補講中じゃ――」

「休憩中」

「あっはい」

 

 ――まったく。またですか。仕方ないですね。知りませんからね。

 

「宇沢も来なよ、こっち、涼しいよ」

 

 杏山カズサが、優しい目をして私を手招きする。

 今日は春にしてはほどほどに暑くて、授業もかなり頭を使うものだった。そして目の前の杏山カズサが、かなり過ごしやすそうに寝ている。……ぐらり、と私の意志が揺らぐ音がした。

 

 ――決めた、今日のパトロールは終了。スズミさん、あとはお任せしました。

 

「……それでは、失礼しま――――あ」

 

 杏山カズサに誘われるままに木陰に入った瞬間に、すぅっと涼しい風が肌を撫でる。直感的に、ここの空間が涼しいというのが分かる。

 

「ね、涼しいでしょ。私のお気に入りなんだ」

 

 くぁ、と欠伸をして、杏山カズサは再び頭の後ろに手を当てる。確かにここで横になるのは気持ちよさそう。

 

「よくこんな穴場見つけましたね」

「ま、涼しいとこ見つけるのは得意だからね。ほら宇沢も。横になりな。ここまできたら共犯だって」

 

 杏山カズサが寝ている場所は、地面に何か敷いているだけでもなく、芝生がそこにあるだけ。そこに横になるというのは、なんというか――ちょっとだけ、背徳感。

 だけど杏山カズサがあまりにも気持ちよさそうだから、思い切って、横になってみる。

 

「…………はふぅ」

「ね。いいもんでしょ」

 

 真隣から、杏山カズサの、ふふんといった鼻息が聞こえる。確かにここは、いい所だ。

 涼しいだけじゃなくて、広がった葉っぱからの木漏れ日が目に優しくて、すごく気持ちがいい。さやさやと葉の擦れる音も、気持ちよさをより高めてくれる。

 杏山カズサのお気に入り、というのが、感覚的に分かった。

 

「――――ん、宇沢なら、いっか。……ねぇ、宇沢」

「はい? なんですか?」

 

 すぐ隣から呼ばれて、顔を横に倒す。杏山カズサの、優しい顔が見える。

 

「私は寝るから、後はよろしくね。部活が始まる頃に起こして」

「……え? それはどういう……」

 

 くぁ、と欠伸をした後、杏山カズサは目を瞑る。その数秒後、頭に灯っていたヘイローが見えなくなった。

 私たちは、寝たり気絶したりすると、ヘイローが見えなくなる。つまり今の杏山カズサは、完全に眠りに入っているということで。

 ほんの数分が経って、隣から、すぅ、すぅ、と静かな寝息が聞こえ始めた。

 ……ちょっとだけ、杏山カズサの頬をつついてみる。ぷにっとした弾力が返ってくる、いつもはされる側だから、ちょっとだけお返ししてみる。もう一回。気持ちがいい。……もう一回(いっか)

 

「あれ、レイサ?」

「ぴゃっ!?」

 

 跳び上がるかと思った。って言うか杏山カズサの頬に勢い余って爪が刺さった。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!

 杏山カズサの頭に目を向けるけれど、猫耳がぴくぴくっと動いただけで、特にヘイローが灯る気配はない。……よかった。杏山カズサを起こさなくて。

 私の焦りはまったく気にしないように、ヨシミちゃんは私たちの方へとやってくる。この場所、普通に歩く場所からは見えにくいはずなのに。

 

「カズサがいないなーって思って探しに来たんだけど。で、レイサは何してんの?」

 

 杏山カズサとそれなりに長くいるヨシミちゃんは、杏山カズサを詳しく知る人の一人。おそらく一人でゆっくり出来る場所、という予想を立てて探しに来たんだろうな、というのが分かった。

 

 ――杏山カズサ、あとで数学の先生から怒られないといいんですが。

 

「杏山カズサがお休みしているところを偶然見つけて、誘われたので一緒に休んでました」

「へー。あ、涼しいねここ」

「ですよねですよね。杏山カズサのお気に入りの場所らしいです」

 

 杏山カズサのお気に入りの場所に一緒にお休みしてるって言う状況を考えると、ちょっとだけ恥ずかしいけれど。相手はヨシミちゃんだし、そこまで深くは考えられないと思いたい。

 ……いや、よく考えなくてもこれ、逢い引きみたいな感じでもあるし。

 

「…………っていうかカズサ寝てる? マジ?」

 

 ヨシミちゃんの目が杏山カズサの方に向いたと思うと、驚きの声を上げた。それなりの声で、杏山カズサが起きたら大変なので、人差し指を口に当てて静かにしてください、とやんわりと伝える。

 

「あ、ごめんごめん。……へぇ、カズサが、外で、かぁ…………」

 

 感慨深そうに、ヨシミちゃんが何度も頷く。……何かあったのかな。

 

「杏山カズサが寝てるのって、そんなに驚くこと、なんですか? 部室の中で、結構炬燵に入って寝てますけど」

「部室は、ね。よく考えてみてよ、ここは外よ?」

「…………ええ、外、ですね。風が気持ちいいですし」

「や、そういうことじゃなくて」

 

 やれやれとヨシミちゃんは肩をすくめる。分かってないわね、と腰に手を当ててため息を付く。

 

「カズサって、周りへの警戒心丸出しじゃん?」

「あー、分かります」

 

 ヨシミちゃんたち放課後スイーツ部の人たちには優しいけれど、割とそれ以外の人には目つきが悪かったりする。懐いてない仔猫みたいな感じは、ヨシミちゃんも感じてたんだなぁと内心で嬉しくなる。

 

「うんうん。だからね、カズサって、自分で無防備になるようなことをしないっていうか、さ。いつも周りを警戒してるっていうかさ。だから外で寝るってのが驚いちゃって」

「そう、でしたっけ?」

「みんなでピクニックに行ったときくらいよね。あの時はアイリやナツもいたからって思ってたんだけど」

 

 ヨシミちゃんの視線が、再び杏山カズサへ。

 

「レイサと一緒の時も、カズサは寝ちゃうんだなぁって。……レイサ、カズサから何か言われたりした?」

「え? ……うーん、特に、は……」

 

 ――『宇沢なら、いっか』と。杏山カズサの優しい声が、頭に響いた。

 

 一気に、背中から汗が出てきた。涼しかったはずなのに一気に暑くなる。どうして。

 

「な――――なんにも! ない! ですよ!」

「ふぅん。――そっか。そっかそっか」

 

 なんだかわざとらしく、頭の後ろで手を組んで。ヨシミちゃんは私たちに背中を向ける。

 

「今日のスイーツ、レイサとカズサの分は取っておいてあげる。だからカズサが勝手に起きるまで、隣にいてやんなー」

 

 そう言ってヨシミちゃんは、手を振りながら校舎の方へと帰っていく。

 『宇沢なら』。そう、言われたのは。……いや、深く考えない方がいい。うん、そうしよう。

「――――――」

 

 ――でも、それはそうとして。

 

 口元がにやつくのが、ちょっと、当分、止められそうにない。




『杏山カズサは猫の習性を持つ』という概念が吹っ飛んできた結果できた短編がこちら。
猫は涼しいところを見つけるのが得意なので、きっと杏山カズサは涼しいところ、かつサボりやすいところを探すのが得意なんだろうなぁって思う。
そんなお気に入りの場所を共有するカズサとレイサは尊いなって思うし。レイサなら、と気を完全に許して無防備に寝ちゃうカズサが愛おしいなって思うし。それを察してはわはわするレイサも可愛いなぁぁぁぁって思います!!!



レイサ実装、ありがとう。当日にお迎えして、偶然誕生日だったのでレイサの誕生日ボイスを最速で聞きました。何から何まで最高にレイサしてて、運営にかんしゃ~~~って気持ちです。

改めて、レイサ実装、おめでとう、ありがとう! 末永くカズサといちゃついててね!
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