レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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私の新しい『挑戦状』

「――へへ、やっと、やぁっと、手に入れました!」

 お目当てのスイーツを目の前にして、胸がうきうきするのが止まらない。それがちょうどスイーツの食べ時なら、なおさら。

 授業の後、やはり疲れた頭には甘いものが一番だし、甘いものを食べるんならよりおいしいものを食べたいと思うのは、女の子として当然の流れだと思う。うん。

 よく分からないキャラクターが描かれた蓋を、ぺりぺりと剥がす。目に入ってくるのは、器一杯に盛られた真っ白なクリーム。クリームのおかげで、その下にあるはずのプリンが見えないほど。

「これが……噂の『私たちのプリン』……!」

 食欲旺盛な、そしてスイーツ好きな生徒たちのために、と考案された――とはヨシミちゃん情報――私たちトリニティ総合学園の購買で販売されている『私たちのスイーツ』シリーズ。

 その中でも、入った直後に即完売が続き、存在自体が伝説のものとされていた『私たちのプリン』。それをついに、授業終わりの即ダッシュで入手できたのだ。嬉しくない訳がない。

「それでは……っと」

 スプーンでまずクリーム部分を掬って、食べる。

 軽い。でも、濃い。そして更には、舌の温度でクリームが溶けて、ミルクの甘くて優しい風味が口いっぱいに広がってくる。

 これは、当たりだ。間違いなく、私向けの、大当たり。

 スプーンを深くまで刺して、プリンと一緒にクリームを掬う。おいしいものと、おいしいものを、同時に食べるという背徳感がたまらない。

 食べる。大きく息をはく。クリームの甘さ、プリンの卵の風味、カラメルのほんのりとした苦さ。それら全部が一つにまとまって、口の中で混ざり合って。

「んんんーーーーーー、おいしい…………」

 ほっぺたが落ちそうなおいしさとはこのこと。思わず頬に手が伸びる。自分の頬が上がってるのが分かった。鏡を見なくても、きっと口元もにんまりとしてるんだろうなということが分かる。

 

 ――宇沢はおいしそうに食べるよね、ほんと。

 

 そんなことを考えているとふと、あの杏山カズサの声が頭を過ぎった。

 ついこの間の休みの日、カフェで突然声をかけられて、突如始まった杏カズサとのスイーツ会のとき。

 杏山カズサお勧めのマカロンがあまりにおいしくて、ほっぺたが落ちそうなほどのマカロンを初体験して、ああ、そうそう、こんな感じで落ちそうなほっぺたを手で支えていたときだ。

 杏山カズサは、頬肘をついて、そんな風に言ったんだ。

 猫みたいに目を細めて、いつもクールな口元が少しだけ横に広がって、その声色はいつもの静かな中にも優しい感じがあって。なんというか、その日の杏山カズサは、嬉しそうに見えた。

 食べてるときの自分の顔を見たことはないし、誰かとああやってスイーツを食べたこともなかったから。その時の杏山カズサの言葉は、なんとなく『そうなんだ』で終わったのだけれど。

 それからスイーツをよく食べるようになって、改めて甘いものを食べている自分は、結構顔がにやけてるものなんだなぁと、再認識しなくもない。だから、鏡はテーブルから見える場所に置かなくてよかったと思う。きっと今の私は、結構アホな顔をしているだろうから。

 もう一口食べる。甘くておいしい。にやける。もう一口。

「んん、おいしいですね。甘くて、濃厚で――、っと」

 口に出してから、視線を上げてしまったのが分かって。ちょっとだけ苦笑い。それと鼻の頭がちょっとだけむずかゆくなる。

 ここは私の部屋で、食べるのは私一人だけ。それは今までも変わらないのに――。

「…………うぅん……。や、おいしい、ですよ? 間違いなく。流石は『私たち』シリーズ。うん、おいしい」

 もう一口。プリンの甘さに、頬が緩む。の、だ、けれど。

 食べている『私たちのプリン』は、値段がそこそこの割にクリームもプリンもおいしい、お店で出されるようなプリンと遜色がないくらい。

 ――でも。

「…………むぅ」

 少しだけ。ほんの少しだけ。物足りなさを感じてしまう。今までは、絶対に、そんなことは無かったのに。

 ああもう、これもそれもあれも全部杏山カズサがあの時話しかけてきたから!

 食べる『おいしい』の他に、誰かと一緒に食べる『楽しい』を知っちゃったから。

 誰かとしゃべりながら食べるスイーツのおいしさと楽しさを一度でも知っちゃったら、――もう、戻れなくなった。

 おいしいはおいしい。でもなんだか、足りない。

 ちょっとだけ寂しい気持ちになって、モモトークを開いて、そして、閉じる。

 一緒に食べたいからスイーツ食べに行こ、だなんて、まだ言えない。あの杏山カズサに言えるわけがない。

 前みたいに一方的に挑戦状を叩きつけて先手必勝で勝負を挑むだけなら、相手のことなんて考えなくてもよかったの――に。

 ――あ。

 ひらめきが私の頭を過ぎった。『挑戦状』、そうだ、その手が。

 よし。この方法で行こう。

 善は急げ、私は学園の購買へと走る。買うのは前と同じ、少しだけお高い、両開きの白い封筒。

 封筒は同じ。表に書く文字も同じ。だけど中身は前のものとは違うのだと、どこかでアピールしなければ、杏山カズサが勘違いしないように。だったら、封筒には――。

 廊下を走る私の口元は、きっとにやけているんだろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ…………うふふふ」

 私は放課後スイーツ部の部室に繋がる廊下でスタンバイ。新たな挑戦状を手に、ひたすら杏山カズサが来るのを待つ。通りがかる生徒が変な目で私を見るけれど気にしない。

 超天才的発想。今までの決闘と同じような形で、スイーツで勝負を挑めば合法的に杏山カズサをスイーツに誘えるではないか!

 私の脳細胞に感謝したい。

 後は、杏山カズサがここを通りがかるのを――――来た!

「杏山カズサ! 私の挑戦状を受け取ってください!」

 角から飛び出して、握りしめていた白い封筒を、杏山カズサの額目がけて投げつける。彼女はそれを手で受け止めて、ものすごーく、苦い顔をする。『これはなに?』とその目が語る。

 私は満面の笑みを浮かべて、そして、言う。

 

 ――今度は高校生らしく。スイーツで勝負しましょう(いっしょにスイーツを食べましょう)、杏山カズサ!




平和なレイカズください。
書きました。
宇沢レイサは杏山カズサと食べたスイーツをきっかけに、色々と意識とかあたりまえが変わってたら尊いなって思います。
そしてレイサが意を決してカズサを誘うとき、ちょっとだけ不器用な形でお誘いしてたら可愛いなって考えてたら、こんなお話ができました。最後の一文に全てを詰め込みました。

それはそうと、カズサはテーブルに頬肘付いて猫みたいに目を細めて笑う姿がすごく似合うと思うんですよね。きっとレイサとスイーツを食べている時のカズサのお耳はぴこぴことたくさん動いていたんだろうなって思います。可愛い。
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