レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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私のばか!!!!!

「――――――――~~~~~~~~っ!!!!!」

 

 私は帰宅後。即ベッドにダイブした。

 帰り道にそれに気づいてからというもの、顔がもう熱くて熱くて仕方がなくて、っていうか顔だけに止まらなくって体がやけにそわそわしていても立ってもいられなくなって全力ダッシュした。

 帰宅途中、誰とも会わなくて本当によかった。私がどんな顔をしてるのかまったくもって予想も付かないし、どうせ顔が真っ赤だったろうから酷い風邪だとか思われたかも知れない。いや、風邪だと思われたんだったらむしろいい。別な感じに取られたりしたらもう私は外を出歩けない。フードを被ってマスクを付けてサングラスを付けて、太陽から隠れるように歩くしか無い。

 

「なんてこと言っちゃったんですか私はーーーーーーー!?!?!?」

 

 ばったんばったんとベットが軋む。プールでも無いのに足がバタ足の形になる。でもそうでもしないと暴れ出しそうで、なんとかそれだけで発散する。

 ごめんなさい左右の部屋の人。でもそうでもしないと死にそうなんです。私が。

 

 ――主に、恥ずかしさで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の記憶は数時間前に巻き戻って。

 

「杏山カズサっ! お待たせっ、しましたっ!」

「いや、待ってないよ。っていうか待ち合わせ時間よりも前に来て『お待たせしました』は変でしょ」

「いや、だって杏山カズサ、この通りもう、先に、来てますし。待たせ、ちゃったかなぁと」

「私もちょっと前に来たとこだから、大丈夫。まぁまず息整えなよ。全力で走ってきたんだし」

「ありがと、ございます……」

 

 ふぅ、と大きく深呼吸。そこまで長く走ったわけじゃないのだけれど、やけに息が切れているし、心臓が変にうるさい。

 もう一度大きく深呼吸。今日は心もち早く寮を出たはずなのに、集合場所に杏山カズサが見えた瞬間、私の心臓が飛び跳ねた。杏山カズサを待たせちゃうかもしれない、というのと、もしかして集合時間間違えちゃったかも、という焦りと不安とで、走っても上手く足が回らないし、吸っても上手く空気が入ってくれなくて、気持ちだけ急いで走った結果が今の状態で――。杏山カズサと合流してからも少しだけ時間を貰ってる。うぅぅ……面目ない……。

 

「いや、さ。いつもの待ち合わせ場所ってさ、宇沢の寮の前の道を曲がって、そっからここまでまっすぐじゃない?」

「え? ええ、そうですね」

 

 杏山カズサの部屋と私の部屋の中間地点――よりも私側の方が結構近い――にある踏切が、私と杏山カズサの待ち合わせ場所。ここは電車で街に向かうにも、歩いてトリニティ近くの商店街に行くにも、それなりに都合が良い場所で、杏山カズサがここで待ち合わせをしようと言ってくれた場所だ。

 

「あそこの角を曲がった宇沢が私の姿を見つけて、慌てて走り出すのを見るのが毎回楽しくてさ」

 

 ふふん、と猫みたいに笑ってみせる。

 その笑みは全然、嫌みがあるようなものじゃなくて、本当に、それを見て楽しんでるような、そんな目をして、私――ほどほどに息が切れてる――の方を見る。

 ……あれ、今、毎回って言いました?

 つまり。えっと。杏山カズサは。

 角を曲がって、既に杏山カズサがいることに気づいて、待たせちゃいけない! と慌てて走るのを見て楽しんでるって事で。――いや、実際今日もそうだったわけで。

 

「――――――――~~~~~っ! 杏山カズサ、あなたって人は!!!」

 

 見世物になってるのが恥ずかしいのが3割。杏山カズサの笑った顔があまりにも可愛かったからずるいって思ってるのが3割。そのほかやるせない気持ちを発散するのが4割。

 私は杏山カズサの肩を程ほどに強くどつく。一回じゃ満足いかないから何回もどつく。

 杏山カズサは「痛い痛い」とか言っておきながらへらへら笑ってる。全然痛そうに見えない。かといって本当に痛くするつもりは無いから、どつく回数で私の反抗の意を表す。

 朝っぱらから照れさせないで下さい杏山カズサ。朝からこんなんだったら帰る頃には私はどうなってるんですか杏山カズサ! 私の心臓が持ちませんよ杏山カズサ!!!

 ひらり、と杏山カズサは私のパンチを避けて、そして進行方向へと向かう。

 

「ほら、宇沢。そろそろ行かなきゃ。また並んでる最中に銃撃戦に巻き込まれるよ?」

 

 ――私がこうなってるのはあなたのせいじゃないですか!!!

 

 と言いたかった、言いたかったけど、振り向いて私に手を差し伸べてくれる杏山カズサを見て、手を差し出したら優しく握ってくれた杏山カズサを見て、その言葉は、引っ込んでいった。

 ただ、私は。

 

「――――――――~~~~~~っ! もぉーーーーー!!!」

 

 今日も、杏山カズサの気まぐれに振り回されっぱなしだな、と、そう思いつつも。

 その空気が何よりも気持ちいいというのを、杏山カズサに出会うたびに、そう思ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、今日は宇沢の番だっけ」

 

 トリニティから徒歩数分の商店街に来た私たちは、アーケードの入り口でいつものように作戦会議を始める。

 

「そうですねっ! 今日こそは私の特選スイーツで杏山カズサにぎゃふんと言わせてあげます! ……と、言いたい所なんですが」

「……うん?」

「今日は、杏山カズサのお勧めを聞きたいなぁ、と」

「誘ったの宇沢の方じゃん。いいの? 私の方で」

「ええ。……実はですね、杏山カズサにお勧めしてもらいたいのは、チョコミントなんです」

 

 ――チョコミント。その言葉を口にした瞬間、杏山カズサの目がキラリと光ったように見えた。目は細められて、その目ははまるで数年前に見た幻の狂猫キャスパ

 

「あ痛った!?!? なんで叩くんですか!」

「なんか失礼な事を想像してた気がして。……っていうか、宇沢の口からチョコミント、ねぇ。自分から食べたいって思うくらいのものだったっけ? どっちかっていうとバニラ系のダイレクトな甘みの方が好きだと思ってたんだけど」

 

 杏山カズサが私を殴る手は、早すぎて見えなかった。二つの意味で手が早い――と思ったらまた叩かれそうなのでこのへんにしておく。

 

「よくご存じですね、杏山カズサ」

「ま、これだけ一緒に食べてればね。……で、どんな心境の変化?」

 

 本当、杏山カズサは私の好みを完全に熟知してるな、って思う。指摘は本当にその通りで、私はどちらかと言えば口溶けのよいミルク系のアイスの方が好きだし、よく食べてる。

 だけど、今日はチョコミントの――もっと言えば、杏山カズサが好きな、チョコミントを食べたい気分だった。

 

「…………ええっと、…………なんというか、上手く言えるかは分かんないんですが」

「うん」

 

 杏山カズサは、そう言ったきり私の言葉を待ってくれている。急いで言葉にしようとすると、時々変な言葉を口走ってしまって、それが相手に誤解を与えてしまうってのがよくよくある。相手を傷付けないように、相手が嫌な思いをしないように、精一杯言葉を探して。

 

「杏山カズサがチョコミントアイスを食べてるとき、すっごく嬉しそうな顔をするじゃないですか。だからその感覚を、私も味わいたいなぁって思ったんです。最近、暑いですし」

「チョコミントアイス食べてる時の私って、そんな感じなんだ」

 

 目を細めて、杏山カズサはアーケードの天井を見る。

 

「んー、それが理由?」

 

 もっとあるでしょ? と杏山カズサは言う。でも私がチョコミントアイスを食べたいという理由は、実のところ、本当にそれだけで。

 

「――――杏山カズサ(好きなひと)の好きなものは、私も知りたいって思いますし……へへ……」

 

 いつぞやの家庭科の授業で聞いた、『好きな人が好きな物を好きになる』という心理的行動、それを『同一化』と呼ぶらしいんだけど、私が感じている物はまさにそれで。

 好きなひと(杏山カズサ)があんなに美味しそうに食べるものを、食べてみたいって思っちゃうのは、仕方ないことなのだと思う。杏山カズサがお勧めした物を、おいしいと言われたときに浮かべる嬉しそうな笑顔を見るのが好きだし、実際美味しいから私の場合は演技とかじゃなくて本音だし。だったら、杏山カズサが大好きだと公言しているチョコミントアイスだったら――――。

 その瞬間を想像して、思わず顔がニヤけかけて、顔に力を入れて表情を整える。

 なんとなく、今杏山カズサと目が合ったら色々と隠してるのがバレそうで、杏山カズサから視線を外す。それと、なんだか恥ずかしくもあって。それ以上の言葉は、出てこない。

 

「…………」

「…………」

 

 私の言葉もなければ、杏山カズサからの声も、返ってこない。

 なんだかそわそわして、居ても立っても居られなくなる。でもここには私と杏山カズサ二人きりだから、立ち上がってどっか行くわけにも行かないし、かといって隣に居る人の様子を見るわけにももちろんのことできないし。

 思わず、手が頬に伸びる。私のクセになっちゃってるなぁ、と思いつつも、頬をぽりぽりと掻いてしまう。恥ずかしくて、なんだか、なんだか――――。

 

「――――、い、いや、ま、私が好きな物をお勧めするのは、別に悪い気はしないけど、さ…………」

 

 やっと、声が聞こえてきた。

 私の方は回復しつつあったので、隣を見る。

 杏山カズサが口元を隠して、後頭部を掻いている。「あー、」とか「うー、」だとか、そんなことを言いながら。

 そして何回か、いや、何度も、深呼吸する音が聞こえたかと思うと。

 

「………………ん、じゃ、行こっか。おすすめのお店、近くにあるから、さ」

 

 杏山カズサは、私を先導するように歩いて行く。

 杏山カズサの足は結構速くて、追いつくのに小走りにならざるを得なくて。

 杏山カズサの耳は、せわしなく動いているのが見えた。

 

 杏山カズサお勧めのチョコミントは、想像していたよりも遙かに美味しくて。

 透きとおるようなミントの風味と、柔らかなチョコレートの甘さのマリアージュが最高に気持ちがよくて、私の語彙力を尽くして、いかにこのチョコミントアイスが美味しいかというのを力説していたら、杏山カズサが「そ、よかった」と恥ずかしがるようにほほえむのを見て、やっぱり、勇気を出して誘ってよかったなと内心でめちゃめちゃガッツポーズをして。

 

 そして、帰り道。

 そういえば、お店に行くときに杏山カズサの様子がちょっといつもと違ったな、と引っかかって。

 よーく、よーーーーく、思い返してみて。

 

 私は、気づいたんだ。

 

 頭に描いていた言葉と、口に出していた言葉が、違っていたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、今に至る。

 

「ああああぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 ばたんばたんばたん。

 バタ足が止まらない。

 

「間違っちゃいないですし本心ですしああああでもそれは口から出ちゃ行けない方の本心だしでああもう明日どうやって杏山カズサに会えばいいんですかぁぁぁぁぁ!!!」

 

 クッションにうつ伏せになってるから声はそこまで漏れない。はず。

 だからこそ言いたい事は思いっきり言う。

 

 

「私のばかーーーーーーーーー!!!」

 

 

 今日は、寝られそうにないかもしれない。




レイサは、カズサとスイーツデートして、帰ってから一人反省会してそうな気がするんです。
それは「一日楽しかった」だったり「杏山カズサが可愛かった」だったり「スイーツが美味しかった」だったり、満ち足りた一日を過ごした後の、満ち足りた感想がほとんど全てだと思います。
しかしある日、その時意識してなかったけどよくよく考えたら恥ずかしいこと言ってて、「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!」ってベッドでどったんばったんしててもいいと思う。そんなレイサは可愛いと思う。っていうか絶対可愛い。
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