レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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巡り巡るジョーカー

「――――――」

「………………」

 

 宇沢の真剣な顔が目の前にある。爛々とした目が、視線で殺さんとするばかりに私の目をじぃっと見て。

 

「――――っ! こっち、です!!!」

 

 騒がしい声に合わせて、私が持っていた二枚のトランプのうち、魔女の絵柄のカードが引き抜かれた。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! またですか! どうして!」

 

 頭を抱える宇沢が見える。バンッと床が叩かれる音がする。リアクションが大げさなのは見てて面白いんだけど、下の階の人に迷惑を掛けるからそれはやめな、宇沢。

 一騎打ちのババ抜きは継続。負けなくて良かったとほっと一息ついている間に、宇沢は回復したようだ。

 二枚の宇沢のトランプが、私の前に差し出される。

 

「――――――さぁ杏山カズサ、来るなら来てください! 私のババを見抜けるなら見抜いてみてください! さぁっ!」

 

 ずい、と私に二枚のトランプが差し向けられる。どちらかが出ていたりどちらかが引っ込んでたりしていることはない。

 表情から情報が漏れないようにしているのか、宇沢は口元を引き結んで、まっすぐに私の方を見ている。宇沢は表情に出やすいから、その対策は正しいと思う。

 右側のトランプに触れる。宇沢の反応は見えないない。

 左側のトランプに触れる。宇沢の目が、ほんの少しだけ揺らいだ。

 右側のトランプをつまんでみせる。先ほどと変わらない。

 左側のトランプをつまんでみせる。宇沢の指が一瞬ぴくりと動いた。

 トランプから手を離す。宇沢が止めていた息を吐き出した瞬間、視線が一瞬だけ左側のトランプに向いた。

 

 ――ほんっと、宇沢は分かりやすいなぁ。

 

 私は迷うことなく、左側のトランプを引き抜いた。

 

 魔女の絵柄だった。

 

「――ぃよしっ!」

「――――は?」

 

 宇沢がガッツポーズするのが見える。……どうして、宇沢は分かりやすいくらいに左のトランプに反応してたのに。

 今の反応が、罠? いや、宇沢がそんな器用なことできるとは思えない。でも、私の手にあるのは、間違いなくジョーカー。……ババ抜きは継続。

 これで宇沢との一騎打ちは――3回か。お互いにババを引き続けて、今に至る。

 

「ねぇ、そろそろどっちも負けでよくない?」 ヨシミのふて腐れた声が聞こえてくる。

「互角の戦いというのは得てして終わらないものなのだよ。そう、仔猫のケンカのように」 ナツがドヤ顔で謎理論を披露する。

「ババ抜きってこんなにハラハラするんだね。カズサちゃん、レイサちゃん、どっちも頑張って」 アイリの声援だけが心の救いだ。

 

 既に勝ち抜けをしている放課後スイーツ部の面々は、飲み物片手に応援モードに入っている。私もさっさとそっちに混ざりたい。

 

「一応聞いとくけど、宇沢。自分から負けを宣言するつもりは?」

「あるわけないじゃないですか。勝負は勝負です、杏山カズサには負けませんよ!」

 

 ――だよね。聞くまでもなかった。

 

「おっけ、じゃ、やろっか。ケーキが私たちを待ってる。はやく勝って終わらせよ」

「杏山カズサ、それフラグって言うんですよ」

 

 宇沢の口は今日も軽い。手が伸びるところにいたなら頬を抓んでいたのに。

 

 

 ――そもそも。

 

 なんで私たちがババ抜きをしているかと言えば、部活の時間中、先生が突然放課後スイーツ部の部室に現れたのが原因だった。

 なんでも、ケーキの詰め合わせを貰ったんだけれど食べきれないから、ケーキを美味しく食べてくれそうな私たちにあげる、とのことで。

 

 『皆で仲良く選んでね』

 

 と言って、忙しそうな先生は部室から出て行った。

 先生が持ってきた無地の紙箱には、ショートケーキ、チョコケーキ、モンブラン、フルーツタルトにチーズケーキと、多種多様な詰め合わせだった。

 そしてどのケーキも、光り輝いて見えるくらいにつやつやで綺麗で、見た目も鮮やかなものだった。先生の一言がなければ、そしてケーキを食べるのがアイリを中心とする平和を愛する私たち放課後スイーツ部でなければ、すぐに争奪戦になっただろうと思う。

 じゃあ何で決めよう、となった時に、宇沢が鞄から取りだしたのがトランプセットだった。

 誰とも結託できない、自分だけの戦いとなるババ抜きで決めよう、となって、トランプを持ってきた宇沢が率先してカードを切って、配って。

 

 

 そして、今に至る。

 ちなみに、ナツとアイリは即抜けした。

 アイリはずっとにこにこして表情が読めなくて、あれよあれよという間に上がっていった。ナツは運が良かったのか、はたまた直感が冴えたのか、一度もババを引くことなく、スムーズに上がっていった。

 ――で、残った私、宇沢、ヨシミで泥仕合を続け、ヨシミ(うらぎりもの)が先上がりし――なお上がった途端に煽ってきたから後でデコピンの刑に処することにする――私と宇沢の一騎打ちになった訳で。

 

「さぁ杏山カズサ、はやくカードを出してください。私があなたのハートのエースを奪ってあげます!」

 

 自信満々に言う宇沢に向けて、カードを二枚差し出す。

 ジョーカーは上げて、本命は下げる。

 上げたカードの方に宇沢の目が行くのが分かる。そして私の方を見て、ほくそ笑むように口元をゆるませる。

 

「あなた、見え見えの罠に引っかかる私だと思ってますか? 甘いですよ杏山カズサ、『私たちのプリン』のクリームよりも考えが甘いです。――そして罠と見せかけての本命であるということも私にはお見通しです。裏の裏は表! つまりハートのエースはこっちですっ!!!」

 

 したり顔でそう言って、宇沢はジョーカーを綺麗に引き抜いていった。

 

「~~~~~~~~っ!!!」

「…………ふふっ」

 

 バンッと床が叩く音がする。ここまで綺麗に引っかかってくれるとは思わなかったし、自分から罠に突っ込んでくのは見てて面白すぎた。

 もうこれだけで宇沢に勝ちを――というかケーキを先に選ぶ権利を――与えてやってもいいとは思うんだけど、きっと宇沢はそれを認めようとしないだろうと思う。

 

 だってこれは、宇沢とのれっきとした『勝負』なんだから。

 

「さ、宇沢、カード出して。そろそろ勝負決めに行こ」

 

 散々床を叩いて、何度も大きく深呼吸して、やっと宇沢が私の方に向き直る。あれだけ言っておいて本命を引けなかった辺り、結構恥ずかしかったんだろう。顔が少しばかり紅い。

 そろそろ終わらせてやったほうがいいだろうと思う。私もケーキ食べたいし。

 宇沢がカードを二枚差し出してくる。

 私を真似てなのか、片方を上げている。

 宇沢の目は、上げた方のカードに向いている。分かりやすすぎる反応に、そろそろ罠を疑ってもいいと思う。つまり本命はこっち。

 私は上げてある方のカードを引いた。

 

 またジョーカーが巡った。




『ああ……放課後スイーツ部がわーぎゃーとババ抜きしてるのを壁に転生して眺めてたい……』(スマホに残ったネタメモ原文ママ
いつ打ち込んだのかは定かでないんですが、この願望は常に持ち続けてるので折角なので小説にしました。騒がしい部活中の一幕、楽しんでいただけたら嬉しいです。

自分の中での放課後スイーツ部ババ抜き勢力図は以下の通り。
アイリ:いつもニコニコポーカーフェイス。強い
ナツ:直感でババを見抜く。強い
ヨシミ:めちゃくちゃ顔に出る。けど変なところで運が良い。普通
カズサ:顔はポーカーフェイス――だけど耳の動きで察知される。弱い
レイサ:反応が分かりやすい。一級フラグ建築士で弱い
最終的にカズサとレイサで一騎打ちになって欲しいし、同レベルでなかなか勝敗が付かないババ抜きをするのをずっと見ていたいなって思います。
ババ抜きに限らず、トランプとかボドゲとかするとき、レイサはいい反応してくれそうだし、絶対ゲームやってて楽しくなるなって思うんですよね。あとカズサってなんとなく心理的な駆け引き弱そう。
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