レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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スーパー銭湯のコラボスイーツを求めて

「お風呂から上がったら限定スイーツだ。とつげきぃー!」

 

 ナツが歓声を上げて、大浴場の床を蹴る。滑るから気をつけな、とか、風呂場で走るな子どもじゃ無いんだし、とか、タオルで前を隠せバカ、とか、思わず言い出しかけたのだけれど――そのスーパー銭湯の中は結構な人の入りで、私が声を上げようものならきっと浴室内に声が響いてしまうだろう、と理性が働いて、何も言い出せずじまいだった。

 ひとまず滑って転ぶことなく、体を洗う流し場にたどり着けたようで一安心。っていうか、ハラハラさせないでほしい。

 やれやれ、とため息を吐いていると、

 

「ナツちゃんらしいね」

 

 と隣から声が上がる。

 

「仮にもさ、トリニティ総合学園の生徒で、高校生なんだから。少しくらい自覚持ってほしいよ、まったく……」

「ふふ、限定スイーツが待ちきれない、って感じだったもんね。私たちも後で分けあって食べようね、カズサちゃん」

 

 にこーっと笑みを向けるアイリは、体をタオルで隠しているにもかかわらず、どこか色っぽく見えた。

 

「ん。まぁ、食べるしさ。お金出して入った分は堪能したいと思うよ、お風呂」

「ん、じゃあ私たちも行こっか」

「私は宇沢を待ってるから、アイリはヨシミと行ってて。あとついでにあのバカとそこのバカが騒いでるようなら止めておいて」

「あはは。大丈夫だよ、きっと」

「誰がバカよ誰が。銭湯で子どもみたいに走ったりしないし。一緒にしないで」

 

 2割くらい困った表情を混ぜつつ、笑顔のアイリは呆れ顔のヨシミとともに洗い場の方へと向かっていく。

 そして私は宇沢を待って。もう少し待って。……まだ来ない。

 着がえ場へと戻る。宇沢がタオルを体に巻いて、ロッカーの前でもじもじとしていた。

 

「……宇沢、何やってんの」

「えっと、その…………周りの人、みんな裸だなぁって……」

「いや、当然でしょ。スーパー銭湯だもん」

 

 何を当たり前のことを言っているんだろう。不思議に思っていると、宇沢の目線が私の方――の、少し下の方――に向いているのが分かった。

 

「…………」

 

 あー、なんとなく察した。

 

「何、宇沢。恥ずかしい、とか?」

「……………………、えへへ」

 

 照れたように頬をかく宇沢は、言葉以上に語っていた。

 

「こういうとこ、もしかして……初めて?」

 

 まさかそんな、と思いながら聞くと、小さく頷く宇沢の姿があって。

 この企画をやるってなった時に渋ってたのはそういうことか、と納得した。

 

「…………もう、いいから行くよ」

「えっ、ちょ――――」

 

 たぶん口で説得しても無駄だから、手を掴んで引っ張って行く。

 宇沢の足に根っこが生えると、本当に自分では動かなくなるから、こういうときは引っ張って行くのが手っ取り早いってのは今までの経験で得た知識だ。

 最初こそ言葉で抵抗していたものの、やがて宇沢は私の手に従うがままになる、

 浴場に入って足元が滑りやすくなってからは、引く力を弱める。ここまで来ると腹も座ったんだろう、そこまで力を入れなくても付いてきてくれた。

 流し場の椅子に座らせて、宇沢の手にシャワーのノズルを持たせる。念のため温度を見てから、シャワーを出す。飛び出た温水が顔にぶち当たって「びゃっ!?」と声を漏らした。

 

「そこで頭と体洗ってから湯船入るよ。宇沢も同じだけお金出して来てるんだから、入らないと損でしょうが」

「私は、別にみなさんと一緒に限定スイーツを食べられればいいと思っ――ぶふっ!」

 

 世迷い言を言ってたのでシャワーを顔にかけてやった。熱くしてないから大丈夫だと思う。

 

「宇沢を一人で待たせておいて、食べるスイーツなんて美味しくもなんともないの」

 

 宇沢は手で顔を拭っていて、聞こえているかは知らないけど、言う。

 

「スーパー銭湯のコラボスイーツは、銭湯に入った後に食べるから美味しいの。『スイーツは食べる物そのものの美味しさの他に、食べる環境も美味しさのひとつ』。放課後スイーツ部の格言を忘れたとは言わせないから」

「――――…………、はいっ」

「よし。そしたらとっとと洗っちゃいな。入る時間なくなるよ」

 

 きょとんとして私の方を見て。「いい?」と念押しをした後に宇沢が頷くのが見えたから、これでこの話は終わり。

 スイーツをできるだけ美味しく食べる下準備に入ることにする。

 髪の毛を洗って、全身を洗って――宇沢は髪の毛が長い分、ほどほどに時間が掛かったけど、髪が長い子はこんな風に洗うんだ、と参考になった。流石に背中を流したりとかはしない。人前だし。絶対、宇沢が大変なことになるし。

 宇沢が洗い終えたのを待って、浴室内を歩こうとすると再び宇沢がそわそわし始めたので、再び手を引いていく。宇沢の様子からすると、本当にこういった場所は初めてらしく、かつ恥ずかしかったり怖かったり――よっぽど自警団でやってることの方が怖いと思うんだけど、とは言わないでおく――しているのだろう。そうすると、おそらく大きな浴室や露天風呂は難しいだろうと判断。

 

「はい、ここに寝て」

「へ? 寝る? ……えぇと?」

「ここにタオル置いて、頭置いて」

「ああ、なるほど、こうですね?」

「そうそう」

 

 私が連れて来たのは、俗に言う寝湯、別名寝ころび湯。一人につき一スペースを使うこのお湯は、左右が壁で仕切られているから誰かと触れることもなく、かつ寝ることで自分の視線も上向きになるから、宇沢が変に気を使わなくても済む、という宇沢にぴったりの場所だ。

 お湯の深さはちょうど体を覆うくらい。温度もぬるめで、長くゆっくり入るのに丁度いい具合だった。

 

「…………ふぃ」

 

 しばらくすると、隣から息を吐く声がした。

 宇沢の方を見ると、目を閉じて、脱力したような顔になっている。ちょうど炬燵に入って天板に頭を乗せているのと同じ感じ。

 やっとリラックス出来たのかな、と思う。

 

「どう? やっと落ち着けた?」

「…………はい。杏山カズサのおかげですね。ありがとう、ございます」

「宇沢にお礼を言われることなんてしてないよ。むしろ、そんなんでよくここに来る気になってくれたなって思って。気を使わせちゃったかな」

「いえ、全然、そんなんじゃないんですけど。……せっかく放課後スイーツ部の皆でのお出かけですし。私も行かなきゃ――いや、行きたいなーって、思って」

 

 普段の部活動とは違って、今日は電車で数駅のところに来ている。目的のスイーツがスーパー銭湯のコラボスイーツというのもあって、みんなで銭湯に行くのも今日の部活動のひとつになっていた。

 

「初めてだし、やっぱり、怖くもありましたけど。杏山カズサが居てくれるから、大丈夫かなぁ……って。実際、私をずっと引っ張ってくれた訳ですし。…………杏山カズサには、本当に、感謝してもしきれなくて……」

「……ま、宇沢が頼ってくれるのは、嬉しいけど、さ」

 

 そう、まっすぐに言われると。なんか、こう。ちょっと、どう返していいか分かんなくなる。

 顔を横に倒せば宇沢の顔が見られるんだけど、こう、見られないというか。どんな顔をしてるのか見られないというか。

 だから私は、顔の向くまま、天井を見続けていて。

 

「なんだ、こんなとこにいたの」

「――――――ッ!」

 

 横からにょっきりと現れたヨシミの顔に、変な叫び声を上げそうになった。

 

「ばっ…………ヨシミ、いるならいるって声かけてよ」

「や、なんか二人きりの世界で話し込んでるみたいだからさ。お邪魔かなーって思って」

 

 そう思うんだったら最後まで入ってこないでよ、と思うんだけど、ヨシミだし、いい感じの所で入りたくなったんだろうなというのが今までの経験上で分かる。こう、シャボン玉を飛ばしてたら触って壊しに行くようなヤツだし。

 

「あ、ここ気持ちいい。ほら、アイリもナツも来なよー」

 

 ヨシミが手招きする方向を見ると、アイリとナツも居た。ナツは腕組みをして――もちろん前は隠してない――私たちの方を見ているし、アイリはアイリでいつものように優しい笑顔で私たちの方を見ていた。

 

「寝転び湯はちょうど5つ。私たち放課後スイーツ部のためにあるようなお湯だな。ここでコラボスイーツのデラックスかき氷を食べたらどれだけロマンを――」

「場内飲食禁止だから。ロマンは分かるけどやめて」

「ほんとだ、気持ちいいね、カズサちゃん」

「……ん」

 

 寝転び湯に横たわった状態から、上半身だけを起こして私たちの方を向く。

 

「レイサちゃんも、このお湯、気持ちいいよねぇ」

「……はい。とっても!」

 

 起き上がった宇沢は、元気よくアイリに返す。大浴場の中だけれど、途端にいつもの部室の中のような空気になった。

 

「レイサは大丈夫? カズサに変なことされてない? 共闘ならいつでも大丈夫だからね?」

「はいっ! 今のところ大丈夫です!」

「今も後もないっての。ヨシミこそ、お湯をかけるとか子どもみたいなことやらないでよ? 仮にも高校生なんだから」

「今カズサの顔にお湯ぶっかけたらさぞ楽しいだろうなって思ってた。え、やっていいの?」

「やったらコロス。この後にスイーツ食べられると思わないでよ」

「ちょうど私とレイサで挟んでるしさ、強襲するには丁度いいよね。レイサ、やる?」

「え、…………いいえ、止めときますっ!」

「そっか、ざんねーん」

 

 一瞬宇沢を睨んでおいて正解。変にお湯かけられたら耳に水が入って大変だし。

 

「じゃあ、みんなが温まったら上がろうね。どのくらいいる?」

「私はー……、宇沢は、どうする?」

「んー、あと15分くらいここでおしゃべりしてたいなって。そんなに熱いお湯じゃないですし」

「ん、じゃあそうしよっか。じゃあ、今日食べるコラボスイーツなんだけどさ、コラボフードもあって、それがなかなか――」

 

 放課後スイーツ部の五人で占領した寝転び湯は、部室にいるのと変わらない賑やかさだった。

 なお、このおしゃべりは、結局一時間ほどになった。

 後半は気持ちよくてうとうとしてて、何かをされたという記憶がおぼろげにだけあるんだけど、正しい記憶かどうかは分からないので、不問としておいた。宇沢に聞けばボロが出るんだろうか。どうせ犯人は分かりきってるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから私たちは、本来の目的のスイーツタイムを迎えた。

 スーパー銭湯コラボスイーツの『特製ミルクレモンかき氷~ペロロジラ級~』と、コラボドリンク、甘味だけでは飽きるだろうからとコラボフードの桶盛りおつまみセットを注文した。

 銭湯で温まった体に、ドデカいかき氷。――宇沢とヨシミが揃って頭を抱えたのは、言うまでもない。




放課後スイーツ部の五人がスーパー銭湯でわちゃわちゃするお話。
レイサはこういう場所は得意じゃなさそうなので、カズサに手を引いてあれやこれやと手を焼かれていてほしいし、湯船に入ってほっと一息つく様子を見るカズサにほほえまれててほしい。
放課後スイーツ部で裸の付き合いしてる図ってほほえましくていいよねって!
そしてこんなお話を書いていたら行きたくなったので、来週あたりスーパー銭湯に行って、寝転び湯の後にサウナってくることにしよう。そうしよう。
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