レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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その矢印が示す先

 ――みんなに見せたいスイーツがある。

 

 いつもの部活中に、いつものように唐突に、いつものように急に立ち上がって、スイーツ学先攻第一人者(ナツ)はそう言い放った。

 

「明日の放課後になったら、電車で私セレクションでのスイーツを食べに行くよ」

「はいはい。一応聞くけど、持ち物とかは?」

「お店で食べるのでいらない。強いて言うなら――そうだな、写真を撮る準備は必要、かな」

 

 にひ、とナツは子どもっぽく笑ってみせる。

 ナツの突然の宣言はいつも通りなので、今更驚くことは無い。そっか、二週間ぶりくらいだな、という気持ち。部員たちの反応も至って淡泊だ。いつも通りにスマホのカレンダーを開いて、予定を入れ込む。

 ナツが見せたいスイーツとはなんだろうか、と打ち込みながら考える。

 写真が必要ということは、『映え』るもの、ということだろうか。そして明日は七月七日だし、もしかしなくても、そっち方面なんだろうな、と予想はつく。

 けれどあくまで予想は予想。ナツは良い意味で私の予想を裏切ってくれるから、正直なところ、楽しみだったりはする。ましてそれが、トリニティではなく電車で向かう遠征なのだから――期待度はより上がってしまう。

 

「杏山カズサ杏山カズサ」

 

 隣に座る宇沢が、私の脇を肘で小突いてくる。その後小声で私の名前を呼ぶ。初撃が割と強くて、声が上がりそうになるのを頑張って防ぐ。宇沢はそろそろ力加減を覚えてほしい――ってこれ数日前にも言ったような気がする。宇沢。学べ。

 

「明日の朝テスト、点数取らなきゃいけませんね」

「あー……宇沢、ヤマ張っといて」

「んー、いいですけど、当たるか分かりませんよ?」

「いいから、あとで送っといて」

「はぁーい」

 

 宇沢とこっそりと裏取引をしつつ、今日の夜くらいは単語帳開かないとなぁ……と決意を新たにする。

 ――小テストの追試なんぞで時間をロスできるほど、スイーツは甘くはないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事朝テストを乗り切った私含む放課後スイーツ部の五人が向かうは、百鬼夜行。

 ナツの案内で大通りから外れ、細く複雑な道をずんずんと進んでいく。十分ほど似たような道を歩き続けて、コイツ迷ってるんじゃ? と思い始めた途端、ナツの足が止まった。

 

「私が連れて来たかったのはここだよ」

 

 入り口の上部には『鶴屋清永』と白い文字で店名らしきものが書いてある。

 ガラス張りのショーウィンドウには、箱詰めにされたスイーツの数々が飾られていた。

 そして中から聞こえる、ざわめき。駅から歩いた時間にしては、中は賑わっているようだ。

 

「さ、歩いて暑くなったことだし、涼むとしよう」

 

 ナツは私たちをエスコートするように、店内へと入っていった。

 

 

 和装の店内には、七夕らしく所々に笹の葉が飾られていた。

 折り紙を使った飾り付けがされている笹もあれば、レジ横にある大きな笹のように、願いごとが書かれた短冊が何枚も吊り下げられている笹もあった。

 スイーツを食べる上で、店の内装や飾り付けというもの自体は、直接的に味に関わるものではない。だからお店によってはそこらへんが無頓着だったりしているところもある。

 その一方で、お店の雰囲気というものは、スイーツをおいしく感じさせるものがある、というのもまた事実で。私としては店の雰囲気は割と大事だと思ってるし、宇沢を誘う場所はそういうところを狙って選んでる。

 でも、ナツもこういうお店を選ぶんだな、というのが意外に思った。

 

「ふぅん……ナツも、こういう所見つけたりするんだね。いいとこじゃん」

「ふふ。放課後スイーツ部の鉄則その七『おいしいスイーツは雰囲気のいい店内だとよりおいしい』だよ」

「その鉄則、初めて聞いた」

 

 似たようなことは、いつだったかどこかで聞いたことがあったような、なかったような。

 記憶を探っていると、視界の隅で宇沢がメニュー表をぱたぱたと捲っているのが目に入った。初めてのお店でメニュー表を眺めるの、宇沢好きだもんな。目がきらきらしてるのが見えて、吹き出しそうになった。

 

「で、ナツが私たちに見せたいってのはどれ? それ注文しちゃって、それ以外のシェアしちゃおうよ」

「私が頼むのはこれだよ。『星づく夜空』。これは一人でひとつ食べる物だから、それ以外のを選んでいこう。ここは餡子がおいしいお店だから、きんつばや羊羹がお勧めだよ」

 

 いつもより饒舌なナツの解説を聞いていて、好きな物を語るときのテンションの上がりようは部員の誰も変わらないんだなというのを実感する。

 きっと私も、自覚していないだけでそうなのだろうな、と思う。大体宇沢のせい。

 ナツは店員を呼び、ナツセレクションのスイーツとお茶系の飲み物を注文する。

 そしてあれやこれやと話すこと、十分後。

 

「お待たせしました」

 

 と店員が持ってきたスイーツを見て。話し声がぴたりと止まった。

 カタリ、カタリ、とそのスイーツが載った木製の皿が私たちの前に置かれていく。

 私たちはそのスイーツから、目が離せなかった。

 

「…………」

 

 その皿の中に広がっていたのは、星空だった。

 長方形の蒼色のゼリー状の中に、三日月と星と、細かい星々がちりばめられている。横から見ると、それは二層構造になっていることが分かる。上が透明なゼリー、下が蒼色のゼリー。真上から見ることで綺麗な夜空となれるように、色合いも考えられている。清涼感たっぷりなそれは、見ているだけで涼しくなれる気がする。

 手の込んだ、という言葉すらももったいない、芸術品とでも言えるような、それ。

 私たちはしばらくの間、無言でそのスイーツを眺めていた。

 隣を見ると、宇沢がいやってほどに目を輝かせているのが分かる。真っ先に手を付ける宇沢が未だに手を付けないくらいには、そのスイーツの出来がすさまじいのが分かる。

 

「お気に召してくれたかな?」

 

 ナツが、ふふんと自慢げに言う。見た目は今日この日に食べるには丁度良く、そして見た目の美しさは抜群。何よりも見た目を重視する、和スイーツの真髄を見た気がした。

 今日ばかりは、そのウザいくらいのドヤ顔を許してやってもいいと思う。

 

「綺麗だね、ナツちゃん」

 

 アイリが感慨深く言うと、ナツは途端に表情をほころばせ、そしてアイリの方に頭を差し出す。『ご褒美に撫でろ』と暗に言う。アイリは嫌な顔ひとつせず、ナツの頭を撫で繰り回す。

 ――割と甘えるの好きだよなぁ、ナツ。

 と、そんなことを思いつつ。アイリがナツの頭を撫で終え、写真を撮って、いつものように「いただきます」と挨拶をして、全員で一斉に食べ始め。

 

 柔らかな舌触りと、口いっぱいに広がる甘さと冷たさに、揃って息を吐いた。

 

 それからはわいのわいのと星づく夜空を食べ終えると、宇沢はもうひとつ! と自分の分を再度注文し、ナツセレクションできんつばと羊羹と、皆でつまめるようにとあんみつを注文した。

 

「そういえばさ」

 

 抹茶ラテを飲むときに付いてきたストローを咥えつつ、ヨシミは言う。

 

「入り口に笹の葉あったよね。あれ自由に書いていいんだってさー。張り紙に書いてあった」

「あー、なんか飾ってあったっけ。ヨシミは『背が伸びますように』ってでも書く?」

「ならカズサは『バカが治りますように』だね。あ、『猫舌が治りますように』でもいいね」

「――ヨシミ、いい度胸してるじゃん?」

「最初に売ってきたのあんたでしょうが。私は買っただけよ。どう? 表出る?」

「カズサちゃん、ヨシミちゃん」

 

 机に乗り出しかけているヨシミと、ついでに私にアイリからの静かな声が飛んでくる。

 

「だーめ」

 

 アイリから言われたら、それまでだった。私に向けてべーっと舌を出して、子どもっぽく反抗してるヨシミは置いておくことにする。

 

「じゃ、私はお花摘みついでに見てこよっかな。スイーツが来たらモモトークちょうだい」

「あ、じゃあ私も行きますっ!」

 

 『お花摘みぃ?』とか言ってきたヨシミに手が届くのならば、手刀かデコピンを入れていたのだけれど、届かない距離だったので後でまとめてやることにする。

 席の関係で、ちょうど席を立つためには宇沢を乗り越えなければならない。どけてもらうのも宇沢に悪いなぁと思っていたから、一緒に行くと言ってくれたのが助かった。

 用を済ませて、宇沢と一緒に店の入り口へ。

 天井に届きそうなほどに大きな笹の葉には、確かに短冊が何枚も下げられていて、そこに願いごとが書かれていた。

 

 【背が伸びますように】

 【あらゆる実験が成功しますように】

 【にんじんがたべられますように】

 【推しのグッズを無限回収したい】

 【プリンを二つと言わず沢山食べられますように】

 

 といった正統な願いごともあれば。

 

 【銀行を狙う】

 【革命成功】

 

 といった殺伐とした願いごともあった。

 宇沢の目が割と本気(マジ)になりかけてるのを見て、頭に手を載せて戻してやる。恥ずかしそうに笑って見せた宇沢は、やっぱりその自覚はあったようだ。自警団だし、そう言う部分への注意力は必要なんだろう。

 

「えーっと、短冊、は……あー、これか」

 

 笹の葉の近くにある棚に、【ご自由にどうぞ】と書かれた張り紙があって、短冊と紐、そしてマジックペンが置いてあった。ここで書いて、飾っていいということだろう。

 

「宇沢、書いてみる?」

「ええ、せっかくだし書いてみよっかなーと。やっぱり【杏山カズサから一勝!】ですかね」

 

 いやまぁいいんだけどさ。百鬼夜行だからトリニティの生徒にバレる訳でもないし。

 でも宇沢の願いごとがそれでいいんだろうか、とは思うけれど。まぁ宇沢の念願ということであれば、私は否定はしないし、受け入れるし、勝負は全力でたたきのめしてやりたいと思う。

 

「んー…………」

 

 マジックペンを持って、願いごとは、と考えて。考えて。

 半年前と変わってないな、と思いながら、割と丁寧に、マジックペンを滑らせる。

 

 【普通にスイーツが食べられますように】

 

 願いは現在進行系で叶っているけど。まぁこれからも、という気持ちで、書いて、吊す。

 宇沢は――と言えば。私に背を向けて、マジックペンの頭で自分の頬を突きながら、まだ考えてる最中のようだった。

 近くに行くとたぶん見えちゃうだろうから、この位置から、声をかける。

 

「宇沢、私は書いたから、先に行くね」

「あっ、はーい、分かりました! 私も書いてからそっち行きますね!」

「ん、スイーツ届いたらモモトーク送るから」

「了解ですっ!」

 

 私が席に着いてから、程なくして宇沢が来て、それからすぐにスイーツ第二段がやってきた。

 羊羹に、きんつばに、あんみつ。

 久しぶりに食べる和スイーツのオンパレードに、お腹が鳴るのが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局はスイーツの注文は第三弾まで続き、お腹いっぱいになった私たちは会計へと向かう。

 席が一番奥だった私は、念のためみんなの忘れ物がないかをしっかりと確認して、席を離れる。

 全員で食べた物は割り勘してるから、私が払うのは自分で注文したものだけ。

 レジ下におみやげの星づく夜空があったので手が出かけたけれど――今日に、皆で食べるからこそのものだと自分に言い聞かせて、すんでの所で思いとどまる。

 会計を終えて、入り口近くの笹の葉が目に入って。

 そういえば宇沢は何書いたんだろうな、とふと気になって。宇沢の筆跡を探してみる。

 

 すぐ見つかった。

 

【↑に同じ】

 

 そしてその近くには、見覚えのある筆跡の短冊が並んでいた。

 

【←におなじ】

【↓に同じ】

【→に同じ】

 

 それぞれの矢印が向かうのは、【普通にスイーツが食べられますように】と書いてある短冊。

 

「………………」

 

 ちょっとだけ眉間に手を当てて、大きく息を吐いて。

 

「あいつら…………」

 

 そう呟いて、もう一度はぁぁぁぁと大きく息を吐いて。

 出入り口のドアは締められている。開けたらたぶん、ニヤニヤと憎たらしい顔をした部員たちがいるんだろうなってのが、手に取るように分かる。

 言い出しっぺは誰だろうか。いや、最初に書いた奴が元凶だ。

 つまり、犯人は――宇沢。

 けれどそれに便乗した三人も共犯だと思う。

 まったく、あいつらは変なところで息が合うんだから。まったく!

 

 ドアを開く。

 完全に予想通りの四人がいる。

 

 

 

「――――あんたたち! 願いごとくらい自分で考えなさいよね!」




今日は7月22日ですが、宮城県仙台市的には七夕が来てないので、まだ七夕ネタを投稿しても大丈夫だって古事記にも書いてある。隣県だし適用可! セーフ!
『皆の願いごと』ってテーマは作者の数だけあると思うので、私の場合の放課後スイーツ部の願いごとを描いてみました。カズサ視点だから表現できる後半のたたみかけっぷりは書いてて楽しかったです。

そして作中で出したスイーツですが、京都にある和菓子メーカーの、亀屋清永さんの『星づく夜』というスイーツをモチーフにしています。これは一度食べたことがありまして、見る角度によって見え方が違う、見た目でも楽しめて、もちろん味もおいしい、一品で二度おいしいスイーツでした。京都行ったときはまた買いたい。
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