レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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三十九度のとろけそうな日 ~後編~

 宇沢が私の家に来て十分ほどが経って。

 宇沢を涼しい場所でまず休ませようということで、動画配信サイトの画面をテレビに映して、ぐーたらとメイリオカートRTAの動画を見ていたところ。

 ぐぅ。

 とどちらともなく音が聞こえた。

 

「――――」

「…………」

 

 私からかも知れないし、宇沢からかも知れない。どっちから聞こえてきたかは分からなかったけれど、その音で今朝から何も食べていないということに気づいた。

 時計を見ると十二時半。お昼を食べるには丁度良い時間。

 

「……えーっと、宇沢、お昼は食べた?」

「いえ、まだです。朝は時間通りに食べましたけど」

「そっか。……あー、どっか食べに行く? よく行く近くのラーメン屋とか、少し足伸ばして軽食屋とかあるけど。コンビニだった十分ちょいくらい歩けばあるし。……とは言っても、この暑さだし……」

「――――え、と。……杏山カズサがよければ、ですが。私、作りますよ?」

「え、」

 

 思わず宇沢をガン見してしまう。言い間違えとかなのかなと思ったけれど、訂正の言葉はない。逆に宇沢は私の方を見て、向けられた視線の意味が分からないというような、きょとんとした顔をしている。

 

「作る? 宇沢が? ご飯を?」

「私だって一人暮らししてるんですから、作れますよ。……杏山カズサ、私を何だと思ってるんです?」

 

 逆にジト目で見られてしまった。ごめん、そんなつもりで見たわけじゃないんだ。ただ――意外だっただけで。宇沢、ご飯、ちゃんと作れるんだって。

 

「ああ、ごめんごめん。その考えがまったくなかったからさ、びっくりしちゃって」

「そんな話、部活中は一度もしてませんでしたからね。一応一通りは作れるんですよ。あとクレープの作り方とかも練習したりしてますし。…………まだ、上手くはできませんけど、へへ」

「……あー、それじゃ、この中歩くのもアレだし、そしたらお願いしてもいい?」

「はいっ! 私にお任せください!」

 

 宇沢は自信ありげに無い胸を張って、部屋を出て行く。一応キッチンも綺麗にしているから、少なくとも料理ができる状況にはなっている、はず。

 宇沢に遅れて私もキッチンへと向かうと、宇沢が調理器具の確認をしていた。

 

「冷蔵庫はこれ。中は適当に使っちゃって大丈夫。って言っても、冷食と、卵と調味料くらいしかないから、だめそうなら食べに行こ」

「それじゃあ、失礼しますね。ふむふむ、卵と、調味料一通りと、鍋の素と、あー、冷凍ご飯とシーフードミックスもありますね!」

「ごめん、思った以上にあんまなかった。どうする? 食べに行く?」

「大丈夫です、作れますのでっ! 杏山カズサは部屋で涼んでてください」

 

 冷蔵庫の中身を見てうんうんと頷いて、宇沢は言う。余り物しか無いと思っていたけれど、宇沢基準では料理を作れるらしい。……マジで。

 宇沢が見たもので何を作んだろうかと、期待と不安が入り乱れるけれど、そこまで言うなら、とキッチンを明け渡した。

 宇沢がどう作るのかと気になって覗こうとしたら、『見られると恥ずかしいので』と扉を閉められた。――この状況は、アレだ。鶴の恩返しってやつだ。宇沢が料理を作ってるのを覗いちゃったら最後、食い殺されるやつ。

 そこまで言われたら仕方ない。クッションの上(さっきの場所)に戻って、メリカのRTA動画を再開しようとして――宇沢と一緒に見ている途中だからそれはやめて、スマホを手に取った。スイーツ店のフェアの情報とかないかなといつものサイトを確認して、何も更新がなかったからスマホを机の上に置いた。

 

 ――なんだか、落ち着かない。

 

 キッチンの方から、何やら包丁で何かを切る音がする。かと思うと、電子レンジが音を立てて、宇沢が「あちちち」とか言ってるのが聞こえた。

 

「…………痛い、な」

 

 引き戸ひとつ隔てて宇沢が料理をしている、という状況が、あまりにも現実離れしているものだから、頬に爪を立ててみた。やっぱり痛かった。

 

 

 

「おまたせしました。ご飯全部使ったら、なんだか多くなっちゃいました。へへへ」

 

 皿を手に恥ずかしそうにはにかむ宇沢が部屋に戻ってきたのは、二十分ほど後のことだった。

 手に持った平皿がローテーブルに置かれた瞬間、醤油と海鮮系の香りがふわっと立ち上がった。出来たてを表すように、皿の上からは湯気が立ち上っているのが見える。

 皿の上に文字通り山盛りになっているのは、海鮮チャーハンだった。ほぐれた卵とエビやイカといったシーフードミックスと刻みネギが、つやつやとしたご飯と混ざり合っている。ラーメン屋で頼むチャーハンと遜色ないくらいに、綺麗に見えた。

 そしてその間に再びキッチンに戻った宇沢が持ってきたのは、お椀に入った野菜スープ。そういえば前に買い置きしてたのがあったっけ。

 

「はい、簡単な物ですけど。どうぞ召し上がってください」

 

 皿に載った山盛りのチャーハンと、野菜スープ。お昼に家で食べるには豪華なものだな、と思った。

 

「えっと、……じゃ、いただき、ます」

 

 手を合せて、スプーンに掬って、ほどよく冷まして、一口。

 見た目よりもはるかに深い味が、口の中に広がった。

 

「…………え、おいしい…………」

「…………へへ。よかった」

 

 机の向こうでは、宇沢が満面の笑みを見せた。

 ふんわりと優しい味がして、香りも良くて、もちろん焦げもなければ水っぽくもない。一口を食べたらもう一口が食べたくなる、そんな味で。

 

「ごめん、正直甘く見てた。おいしい」

「――へへへ。もっと褒めてください杏山カズサ。私が言うのもなんですけど、自信作なんですから。卵はふわふわ、ご飯はパラパラにできましたし、隠し味の鍋の素がすっごくハマったんですよ!」

 

 頬を掻いて、嬉しそうにはにかむ宇沢が可愛いと思うし。――ちょっと見直した。

 普段から一緒にスイーツを食べには行っているけれど、どんな生活をしてるとか話したことはなかったから。割と適当に過ごしてるように見えてちゃんとしてるんだなぁと思うと。

 宇沢ってすごいなと、ちょっとだけ、感心した。

 

「――――? なんでふか、きょーやまかうは。こっひみへ」

「……飲み込んでから言って」

「ふぁい」

 

 口いっぱいにチャーハンを頬張る今の宇沢からは、そうは思えないけれど。

 やっぱこれが宇沢だよなぁと思いつつ、私は残りのチャーハンもおいしく頂くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人で昼食を食べ終え、洗い物くらいは、と私がやって。

 それからメリカをやったりRTAの続きを見たりして、三時になったら冷凍庫に大事に保管していた少しだけお高いバニラアイス(バーゲンダッツ)を食べたりして、エアコンの効いた室内で宇沢と過ごした。

 いつものように宇沢とぐーたらと過ごしていて、気がつけば午後七時。

 外の気温はと言えば、この時間でも三十七度と表示されていて、馬鹿も休み休み言ってほしいと叫びたいくらいの気温だった。なおトリニティ総合学園周辺の最高気温は39.9度を記録していた。バカ。

 

「一応聞くけど。……確か冷蔵庫の中って、あと碌なのないよね」

「そうですねぇ。スイーツやアイスはありましたけど、夜ご飯のものって言えば、無いですね」

 

 予想通りの回答だった。まぁここで宇沢が『作りますよ?』とでも言ったところで止めていたけれど。二食も作ってもらうのは、流石に気が引けるし。

 

「よし、宇沢。折角だし、ちょっと贅沢しよっか」

「贅沢?」

「うん、ピザでも宅配しよっかなって」

「そ――っ!? そんな贅沢、しちゃって良いんですか!? お店に取りに行くならともかく、宅配なんてしちゃったら五割くらい値上がりしちゃいますよ!?」

 

 宇沢が見るからにうろたえるのが見える。私たちはスイーツのために割と節約気味なところがあるから、宇沢の反応は真っ当だと思う。私が言われても、やっぱりそう返すと思う。

 とは言え、今日は宇沢が私の家にお泊まりに来ているという珍しい日。そうであれば、ちょっとくらい、いい物を食べてもバチは当たらないと思う。

 

「いいじゃん、こういうときくらいしか使わないんだしさ。あと夜なのに三十七度とか、外出たくないでしょ」

「……いや、そう、ですけど…………」

「よし、決まり。食べる物だけどさ、この間チラシに挟まってたピザがおいしそうでさ。一人では食べられない感じだからどうかなって思ってたんだ。えっと、……ああ、これこれ」

「……ほほう。…………罪深い気配がしますね?」

「でしょ? この中のね、チーズ増量肉増量、耳にチーズインってメニューがあって……」

「わぁ……。これは杏山カズサ、ズルいですよ」

「よし、決まりね。じゃああとナゲットと、オニオンリングフライと――」

 

 注文してから届くまではほどほどに時間があるらしく、ナゲットのソースを巡ってのメリカ三番勝負が行われた。もちろん私が勝った。

 ピザが届く頃には私も宇沢もお腹が減っていて、もう一枚頼めば良かったかも、などと話をしつつ、届いた物を見て。『これでよかった』と顔を合わせることになった。

 届いたピザ――とついでに写った宇沢の手――を写真に撮って放課後スイーツ部のグループモモトークに投げておいたところ、即ナツから『ずるいぞ』と飛んで来た。ふふん。

 

「それじゃあ――」

「いただきますか!」

 

 二人で手を合せて、ピザを頬張る。延々と伸び続けるチーズと格闘する宇沢を写真に撮りたかったけれど、汚れた手でスマホを手にすることができず、その光景は私の記憶の中だけに残ることになった。残念。

 宇沢と食べるピザは、ジャンキーで、健康に悪そうで、栄養が偏りそうで、そして何より、楽しかったし、おいしかった。

 

「今度は、放課後スイーツ部のみんなでピザパーティとかもいいかもしれませんね」

「いいかもね。ピザ食べて、おいしいスイーツで締める。今度提案してみよっか」

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局だらだらと動画を見つつ夕ご飯を食べていたら、気がつけば夜の二十二時を回っていた。まぁピザやサイドメニューを食べた後に、別腹だと言って冷蔵庫のシュークリームを食べつつ優雅にティータイムを決めてたりしていたのもあるんだけど。

 そうは言っても、健康的な高校生はそろそろ寝る準備に入らなければいけない。とりあえず寝る準備をしておけば、いつ寝落ちしても大丈夫だから。――私はともかく、宇沢は見回りとかで夜も慣れてるだろうけど。

 

「宇沢、ここに来るまでに汗かいてるでしょ。シャワー貸すからさ、浴びて来なよ」

「え。……いや、家主の杏山カズサより先に入るのは、ちょぉっとご迷惑かなぁと……」

「むしろその間にここ片したり寝る準備しとくからさ。入ってもらった方がむしろ都合がよかったりするんだよね。だから、はい」

 

 今までの経験上、こういうときの宇沢は100%遠慮する。だからそっちの方が都合が良いと私にメリットがあると言えば、宇沢は聞いてくれる可能性は高い。

 反論の間を与えないようにして、宇沢にバスタオルを手渡す。宇沢は私の顔と、手に持ったタオルとの間で何回か視線を行き来して。

 

「…………分かりました。では、少しお時間いただきます」

「中のシャンプーとかリンスとか石鹸とか泡立て器とかは勝手に使っちゃっていいから。ゆっくり入っておいで」

 

 宇沢はおずおずと部屋を出る。浴室のドアが閉まる音がして、しばらくしてから水音が聞こえてくる。

 

「よし。……さて、と」

 

 こっちはこっちで準備だ。

 まず、ピザのゴミを適当に袋にまとめて、机を端の方へ持っていく。そして押し入れから冬用の布団を出して、ベッドの隣に敷く。

 敷き布団は冬用だけれど、掛け布団を使わなければそこまで暑くならないだろうし、エアコンを付けて寝れば、まぁ大丈夫だろうと思う。枕はないけどクッションで勘弁してもらおう。そして私のベッドもほどほどに整える。

 よし、準備完了。後は宇沢のシャワーが終わってから私もシャワーを浴びて、眠くなるまでゆっくりとすればいい。

 そして明日は、元々がかき氷を食べに行く予定だったから、そのまま一緒に家を出ればいい。予定は完璧だ。

 

「――――…………杏山、カズサ。ありがとう、ございました」

 

 そんなことを思っていると、微かに開けた扉から宇沢の顔が覗いていた。けれど宇沢はその姿勢のままで、入ってこようとしない。

 どこか遠慮してそうなその様子に違和感を覚えた私は――一気に近づいて、扉を開け放つ。

 

「わぁぁぁあーーー! ちょっ、ちょ――っ! きょぉカズサぁ!」

 

 両手で自分の体を抱きしめる宇沢の姿を見て、なるほど、と納得。

 宇沢が着ているのはそれまでの夏服ではなく、寝間着姿で。その後に言うであろう言葉は。

 

「…………うぅぅぅ…………。変、じゃない、です、か…………?」

「いや、別に。過ごしやすそうだと思うけど」

「…………人前で着るの、初めてなので……その…………」

 

 やっぱりそういうことだった。ゆったりとしていて着やすそうだし、夏の夜に着るには最適だと思う。あと淡い桃色の色合いも目に優しそうだし。……ただ。

 

「猫耳生えてるのは面白いけどね」

「うぅぅぅ――――!」

 

 宇沢の首の後ろに着いているフード状の、それ。私のパーカーのものと、同じシルエットが見えた。

 

「うぅぅぅ……これ、着易そうだからって買ったあとに気づいたんですよ。杏山カズサのパーカーとおんなじだって。被らなければいいんですけど、それでもあるのは変わらないですし……」

「別に被ってもいいと思うけどね、宇沢なら似合うと思うし。…………ふふ」

 

 口を尖らせた宇沢に、無言で小突かれた。

 

 

 

「一応、宇沢はこっちで寝ることになるけど大丈夫?」

 

 恥ずかしがる宇沢を部屋に引きずり込む。ある程度吹っ切れたのだろう、それ以上恥ずかしがる様子は見せなかった。

 

「はい、お布団があるってだけでも十二分です。杏山カズサ、お布団まで準備してくれてありがとうございます」

「ん、宇沢を床に寝かせるわけにはいかないしね」

「床で寝るのは慣れてるのでいいんですけど」

「それに慣れちゃだめだって。……いや、私が言うのもなんだけどさ」

「ふふ。分かってますよ。…………へへへ」

 

 布団の上に正座してぽんぽんと自分の布団を叩いてみせた宇沢は、緩んだ顔で私の方を見上げる。

 宇沢の話しぶりからして、私がベンチで寝かせた事がある以上に、床で寝た経験があるらしい。そういえば前もカフェテーブルの上でぐーすかと寝ていたし、宇沢はある意味で、どこでも寝られる体質なのだろう。それはそれで羨ましいけれど、そうはなりたくないし、できるなら布団の上でゆっくりと寝てもらいたい。今日みたいに寝苦しい日は、特に。

 

「ま、私もシャワー浴びてくるからさ、宇沢はゆっくりしてて」

「はーい。ごゆっくりー」

 

 枕代わりのクッションを抱きしめながら、宇沢は手を振る。シャワーを浴びて、そして寝間着になってリラックスできているのだろう。

 宇沢を暇させる訳にはいかないし、とっととシャワーを浴びようか、と着替えを準備して、私は浴室へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私がシャワーを浴びていたのは、たぶん十分も掛かってないと思う。

 ちょっとだけ念入りに洗ったとは言っても、大体いつも通りの感じだったし。

 

 ――それなのに。

 

「…………ちょっと」

 

 すかー、すかー、と私のベッドで寝息を立てている猫耳フードを被った人物が一人。というか、宇沢。

 私が枕用に、と渡したクッションはベッド脇の布団に置かれていて、宇沢の頭はと言うと、私の枕の上にあった。

 

「あー…………まったく」

 

 本当に幸せそうな寝顔と寝息。ほんのちょっとまで騒がしかったはずの宇沢は、今は本当に静かだ。口元をにやけさせながら、バカみたいに幸せそうに寝ている。ヘイローは消えているから、寝たふりでないということも分かる。

 その寝付きの良さは、心底羨ましいと思う。

 

「宇沢。……起きなよ。おーい、うーざーわ」

 

 体を揺すってみる。起きる気配はない。

 

「寝付き良すぎでしょ。宇沢、そこ私のベッド。ほら、起きて」

「む……………………。…………んにゃ、きょ、や、ま……かず、さ…………」

 

 一瞬起きるかと思ったけど、目を開くことも、ヘイローが灯る事もなかった。

 

「きょ、やまかず、さ……、ほら、あれ、でふ……。はや、く、なら、ばない、とぉ……」

 

 宇沢の寝言が続いたかと思うと、宇沢の右手が、何かを探すかのように彷徨い始める。

 夢の中で私を呼んでいるってことは、と、戯れに、冗談半分で、宇沢の手の先に、いつも宇沢と繋いでいる方の手を近づけてみた。

 その手に触れた瞬間、宇沢の手が強く強く握られた。それはもう、がっちりと。

 

「ちょ」

 

 離そうとする。離れない。

 宇沢の腕を引っ張る。私の手も引っ張られる。

 無理矢理その指を解こうとする。握力測定をしているのかと思うくらいに、がっちりと解けない。

 

「宇沢。ちょっと。――宇沢」

 

 こういうときは腕に手刀をたたき込むのが常套手段ではあるのだけれど、今は戦闘中でもないし、割とマジに折れちゃったりするから、できればやりたくないし。そもそも相手は宇沢だし。

 

「…………ああもう」

 

 好奇心は猫をもなんとやら、とは良く言ったもので。戯れにやったことを後になって後悔するということはよくあることだ。――今とか。

 

「……どうすんの、これ」

 

 私の左手を、宇沢の右手ががっちりと掴んでいる状態。ベッドはほどほどの高さがあって、宇沢がベッドに寝ている以上、私が下に寝るしかないと思っていた計画は崩れた。

 

「…………~~~~!」

 

 そうなったらもう、取れる手段としては、ひとつだけで。

 

「ぁぁぁぁぁ、もう、…………宇沢のせいだからね」

 

 宇沢の体を壁方向に押し込んで、空いたスペースに体を潜り込ませる。

 一人だと十分に広くて、寝返りを打っても落ちるようなことはないと思っていた私のベッドは、二人だと相当狭く感じる。

 宇沢とくっつかないようにすると、ちょっと寝返りを打っただけでベッドから落ちかねない。

 

 ――仕方なくなんだ、これは落ちないようにするための、仕方ない方法なんだ、と自分に言い聞かせて、宇沢の方へと体を寄せる。

 

 背中から、宇沢の体温が伝わってくる。

 背中から、宇沢の羨ましいくらいに静かな寝息が伝わってくる。

 背中から、私の心臓の動きが宇沢に伝わってないだろうかと、割とマジに心配になる。

 

「…………ああもう………………」

 

 頭をがしがしと掻く。乾かしたはずの髪の毛は、汗のせいで微かに湿ってるように感じる。

 エアコンの設定温度は結構下げているはずなのに、部屋の中も、背中も。やけに暑く感じた。




レイサがカズサの家にお泊まりをするお話の後編。
レイサとカズサが頭の中で動くままにタイピングしていったら、いつの間にか同衾していた。お泊まりだしそういうこともあるよね、うんうん。家主であるカズサは寝れたのかどうかは、みなさまのご想像にお任せします。
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