「――――――」
体が重い。
重力が何倍にもなったみたいだ。
体を動かそうにも、動けない。
エアコンは消した覚えがないのに、やけに体が暑く感じる。
――あー、これは、風邪、やっっちゃった、かな……?
喉の痛みは、ない。
熱も、ない。
でも、体が重い。
瞼も重くて、目を開けるのには結構力が必要で。
「………………」
目を開ける。
パステルブルーと桜色の綺麗な髪色が目に入った。
すん、と息を吸うと、宇沢の匂いがした。
――なんで、宇沢がここに……?
少しだけ考えて、昨日の昼からのことが頭に蘇ってきた。
宇沢が勝手に私のベッドで寝ていて、そして手を掴まれたから同じベッドで寝る羽目になったのも、思い出した。
そこまでは分かった。――けど。
「……なんで、宇沢は、私の上に乗ってんの……?」
改めて、私の体勢と目に見えるものから考えて。
結論は頭の中にすぐ浮かんだけれど、それに納得するまでにほどほどに時間がかかった。
仰向けに寝ている私のお腹の上に、宇沢が乗っていた。
そして、絶対に離さないと言うかのように、その両腕は私の身体をしっかりと抱きしめていた。重いと思ったのも、暑いと思ったのも、全部宇沢のせいだった。
というか現在進行系で、宇沢の寝息が私の胸辺りに定期的にかかってきて、その時だけほんのりと温かい。
――ともあれ、風邪じゃないと分かっただけよかった。
だって今日は、宇沢とスイーツを食べに行くのだから。楽しみの日を風邪なんかで吹っ飛ばしたらもったいなさすぎる。風邪で休むのは、学校だけで十分だ。
「…………んー、」
壁掛けの時計を見る。
まだ七時前で、起きるにはまだ早い時間帯だった。カーテンからは光が差し込んでいて、今日も暑くなるだろうな、ということは分かる。
さて、目下の荷物はどうしよう。
腕を振り払って隣に寝せるのは簡単だ。……たぶん。
……だけど。
「…………すぅ、…………すぅ」
口元に笑みを浮かべて、静かな寝息を立てている宇沢は、やけに可愛く思えて。
すぐ目の前にある宇沢の頭を、撫でてみる。柔らかな宇沢の髪の毛の感触が手に伝わってきて、思わずふふっと息が漏れた。羨ましいくらいに髪の毛がふわふわしていて、さらさらで、昨日私と同じシャンプーを使ってるのとは思えないくらいの手触り。
「…………くぁ」
ずっと触っていたいのだけれど、触りすぎると宇沢が起きるかもしれないし、早く起きすぎててまだちょっと眠い。
「…………宇沢も寝てるし、私ももう少し寝よ」
エアコンは付いている。宇沢の体温で暑いは暑いけど、まぁなんとかなる。
宇沢を降ろそうとすればできなくないけど、体から降ろすのも、そして宇沢を起こすのも、なんだかもったいない気がして。
宇沢はそのままにしておくことにした。
「……おやすみ」
手を回してみる。
抱き枕ってこういうものなんだな、とおぼろげにそんなことを思った。
◇◇◇
「…………ん、」
地面が揺れた気がして、ふと目が覚めた。
体に感じていた重さも暑さも、気がつけば無くなっていて、やけに体が軽いような気がした。
目を開ける。視界の隅に、見慣れたヘイローが見えた。
「…………ぁ、杏山カズサ、起こしちゃいましたか?」
宇沢の、やけに小さい声が聞こえる。
宇沢がベッドに腰掛けて、今にも立ち上がろうとしているように見えた。
「……いや、大丈夫。…………宇沢は、今起きたとこ?」
「――――――、ぁ、はい。杏山カズサが隣で寝てたので、危うくびっくりして声が出ちゃうかと思いました。…………へへ」
気恥ずかしそうに頬を掻く宇沢は、どこかぎこちなく笑う。
おそらく昨日は、気がつかないうちに寝てしまっていたんだろう。それで目が覚めたら隣に私が寝ていたら――まぁそれは驚くだろうと思う。宇沢の叫び声が目覚ましにならなくてよかった。……それはそれとして、宇沢は私が二度寝しているうちに私から転げ落ちていたらしい。その方向が、ベッドの外ではなく、壁側の方へと向かったと願いたい。
「……宇沢、頭とか打ってない?」
「へぁっ!? あっ、私、何か変なこととか言いました!?」
宇沢の声量が元に戻った。この騒がしさが私にとってはいい目覚ましだ。
「や、そういう意味じゃなくて。物理的に。ほら、私のベッド、そんなに広くないからさ。ベッドから落ちたり壁に頭ぶつけたりしてないかって」
「あ、そういうことですか。……いえ、特に痛かったりはないですね。おかげさまで」
「そ、よかった」
宇沢は頭に手を触れて、特に痛がる様子もなかった。まだ二本に結われていない宇沢の手から溢れる髪の毛は、一本一本が分かれてさらりと流れるのが見えた。羨ましいくらい。
宇沢は私に見られているのに気づくと、足をベッドに戻して体をくるりと反転させて、私に背中を見せる。うつむき加減になった何か宇沢がもごもごと口の中で言うのが聞こえたような気がしたけれど、何を言っているかまでは分からなかった。
「……くぁ、ぁ。…………さて、と」
ベッドから出て、カーテンを開ける。憎たらしいくらいに眩しい光が、部屋の中に入ってきた。今日も暑くなりそうだ。
「宇沢、朝ご飯食べる? それとも、一緒にスイーツ食べにいくのに合わせて、ついでにお昼も食べるってことにしよっか?」
眩しそうに目を細めた宇沢の動きが止まる。そしてじわじわと宇沢の表情が、嬉しそうなもになっていくのが見えた。
「――なら、早めに出て、喫茶店とかに行きませんか? KOメダに入ればモーニングも行けますし」
「あ、それ名案。……宇沢、前みたいに頼まないでよ? 今回は二人なんだから」
「だいじょーぶですっ!」
自慢げに無い胸を張って、拳で胸を叩く宇沢を見ていると、あの日の悪夢が頭に浮かぶ。
ま、前回で学んだろうし、バカみたいに頼むのはないだろうと思う。
「それじゃ、出る準備しよっか。宇沢は髪整える時間もあるだろうし、私はゆっくり待ってるよ」
「あ、ありがとう、ございます。すぐに整えるので、そんなに待たなくても大丈夫にしますので」
「急がなくていいよ。何なら私がやってあげてもいいし」
「――――――ツ! いえいえいえいえいいです大丈夫です! で、ではちょっと洗面所おかりしますねっ!」
何やら顔を爆発させた宇沢が、走って部屋を出て行く。
「痛っっったぁ!?」
ドアの向こうで宇沢の叫び声。小指でもぶつけたかな。
様子を見に行こうかと思ったけれど……今行くのはダメそうだ、と第六感が言うから、やめておく。
学習机――本来の用途で使うことはそうそうないけど――に置いてある鏡を見つつ、手ぐしで髪の毛を整える。ヘアピンで耳に掛かる髪をまとめたら、それで完成。
準備はできた。化粧は――ま、いっか。それはそれで時間がかかるし、宇沢を待たせるのもアレだし。
一応、と鏡で自分の顔を見る。
自分の顔が、どうしてもにやけてしまっていること以外は、いつも通りの自分の姿が鏡に映っていた。
――今日は宇沢と喫茶店に行って、昼はかき氷を食べに行く、か。
今日一日、宇沢と予定があるというだけで。やっぱり、楽しみで仕方がないんだ、私は。
寝るまでを読んだら、やっぱり一緒に朝を迎えたカズサとレイサが読みたい!って私の頭の中のゴーストが囁いた。書いた。
なんとなくのイメージだけど、レイサは寝相悪いと思う。そして寝相が悪いレイサと一緒に(カズサ曰く、事故)寝ることとなったカズサはいったいどんな被害を受けるのか――って色々と考えた結果、レイサの抱き枕という結果になりました。
カズサだけが起きて、レイサが寝ている状態で、振り落としたり殴らないあたりが今のカズサだと思うんですよね。
そんなカズレイ、いいよね。