レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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放課後スイーツ部の補習授業

 ――……で、あるからして、――の歴史は――。

 ――ほほう……それは興味深いですね――。

 

「……ん?」

 

 部室に入ろうとしたところ、なにやら中から話し声がするのが聞こえた。

 おしゃべりをしているというよりは、どこか真面目くさったような声色。これはテーブルでナツがスイーツ学の講義(独演会)でもやってるんだろうな、と予想が付く。

 いや、それだとしても違和感がある。ナツのスイーツ学の講義は大体が一方通行で、講義を受ける(ひがいしゃ)ヨシミが頬杖を聞いて、てきとーに相づちを打ってるような光景がほとんどなのに、ちゃんとナツの言葉への反応があって――。

 これはナツの講義じゃなくて、何かの話し合い中かな、と考え直して、部室のドアを開けて。

 

「…………なにこれ」

 

 想像していなかった光景に、思わず声が出た。

 部室の窓側には、なぜか昨日までなかったホワイトボードがあり、何やら文字やらイラストやらが書かれている。『アイスの歴史はバニラの歴史』と書かれた文字には、何度も赤色の○で囲まれていた。

 そしてホワイトボードの前に立つのは、想像通りのナツ―ではあるのだけれど、その手には縮尺自在の棒があり、ホワイトボードの一点をカツカツと叩いているのが見える。

 更にはホワイトボードの正面には、宇沢が正座をして座っていて、熱心にその説明に聞き入っていた。膝の上にはノートまで置いてある。

 

「…………なにこれ」

 

 思わず、もう一回。

 

「つまり、アイスの下部分のコーンとは、持ち手であると同時に食べられる素材という、それまでの常識を一変させた素晴らしい発明品ということだったんだ」

「なるほどぉ! コーンは常識を覆す大発明だったんですね! そして私たちは、その発明における恩恵を享受している、と。スイーツ学、スイーツ史、深いですね……」

 

 宇沢のコメントに、満足げに何度も頷くナツ。その一角だけは、異様な空気に包まれていた。

 

「……で、何? あれ」

 

 とりあえず、机のいつもの席に座って、マグカップに入った飲み物を手にしつつ二人の講義の様子をほんわかと見ていたアイリに聞いてみる。

 

「あ、カズサちゃん、おはよ」

「ん、おはよ」

 

 半分困ったような、もう半分は仕方ないなと言いたげなような、そんな眉を下げた笑顔で、アイリはそれまでの事を教えてくれた。

 

 ――ちなみに、部室で最初に交わす挨拶は午前だろうが午後だろうが変わらず『おはよう』になっている。誰がいつ始めたかは知らないけど。

 

「あっちのことだけどね、私が部室に一番乗りに来て、それですぐナツちゃんが来たんだけど、すぐに鞄を置いて部室を出て行ってね。そしたらホワイトボードを引いて戻ってきたの。『スイーツ学の講義を始める』って言って準備をし始めて、それからすぐにレイサちゃんがやってきたら『受講者がやってきたね、座りたまえ』って背中を押してって、あの場所に座らせたの。背中を押されてる間、レイサちゃんはずっと首を傾げてた」

「だろうね」

 

 つまり、ほぼ無理矢理宇沢を座らせたってことか。

 いつもだと被害者は大体ヨシミなんだけど、部室(ここ)に来るタイミングが悪かったようだ。後で骨は拾ってあげよう。

 ――とは言っても。

 

「…………宇沢、なんか普通に講義受けてない? ヨシミと様子が全然違うんだけど」

「そうなの。レイサちゃんが真剣に聞くものだから、なんだかナツちゃんも嬉しくなっちゃったみたいで、どんどんヒートアップしていったみたいで……」

「あー」

 

 なるほど、納得した。

 ナツのスイーツ学は、なんというか、独特な切り口だから。言うなれば、ホールケーキを四等分するときに、包丁を二回入れて十字に四等分するんじゃなくて、まず側面に包丁を入れてから縦に切るような、そんな普通は見ない切り口だ。

 割と講義の内容自体は突拍子も無くて、『いやいやそうはならないでしょ』と言いたくなるものが多い。だからアイリも、ヨシミも、当然ながら私も――ナツのスイーツ学という名の講義は、今の宇沢ほどあまり真剣に聞いていなかった。

 ――もちろん、本人の名誉に誓って言うならば、目をキラキラとさせて語るナツを見るのは楽しいし、ナツの語りあってこその我らが放課後スイーツ部とも言える。むしろナツがスイーツ学の講義を二週間も開いていないのなら、どこか体調が悪いんじゃないかと思うくらいで。

 それまでのナツのスイーツ学講義を聞いてこなかった分、宇沢には新鮮に映ったんだろうと思う。宇沢は割といろんなものの感受性が高いし、物珍しさもあったんだろう。あと宇沢はサボり方とか分からないだろうし、真剣にナツの話を聞いていたに違いない。きっと、ナツにはそれが嬉しかったんだろう。

 

「そもそも、歴史書に置いてアイスというものが出てきたのは――」

 

 部屋の端から聞こえてくる話の内容は移り変わり、今は『なぜバニラアイスは人を狂わせるのか』という話になっている。

 二人の様子を見ると、ナツも宇沢も、生き生きとしているのが見えた。

 

「やけに楽しそうに講義してるじゃん」

 

 気がつけば、机のいつもの席にヨシミが座っていた。

 頬杖を付いて、講義している二人に目が向いている。口元を尖らせて、どこか不満げに二人の方を指差していた。

 

「ヨシミ、今でも講義は間に合うから受けてきたら?」

「それはカズサに譲っとく。私はもうスイーツ学の単位取ってるから」

「アレに単位なんて無いでしょ。背が伸びるスイーツの話題になるかもしんないよ?」

「あんたそれ前にも言ったよね。そして二時間コースになった上にまったく参考にならなかったし。割と根に持ってるんだからね」

「そうだっけ。聞いてないから分かんないや」

「そう言うカズサこそ受けてきたら? レイサと仲良く二人でさ。ついでに猫舌も治してきたらいいじゃん」

「猫舌が治るスイーツなんてな……いや、私猫舌とかじゃないし」

「そっか。じゃあ今から熱湯で紅茶淹れてあげるから、飲んでみる?」

「出された瞬間に頭からぶっかけてやるから覚悟しなよ?」

「二人とも」

 

 アイリのふわふわとした声が間に挟まる。

 思わず視線がアイリの方へと向く。

 いつものように笑顔だった。

 別に額に青筋が見えるわけでもないのに、これ以上ヨシミとこのやり取りを続けるのはいけないような気がした。

 

「スイーツは仲良く。食べ物で遊ばない。ね?」

 

 有無を言わさないアイリの言葉に、ヨシミも私も、頷くしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日のところは、ここで終わりにしよう。最後まで真剣に聞いてくれたレイサには、特別に私のプリンを進呈しよう」

 

 銀色の棒を勢いよく短くしたナツは、そう言いながら冷蔵庫へと向かい、マジックで名前が書かれているプリンを取りだした。

 表面のフィルムを破って、3つのうちの1つを宇沢に渡す。

 

「え、いいんですか? お話を聞かせてくれただけじゃなくてプリンまで!? やったー!」

 

 万歳をして受け取る宇沢はそれは嬉しそうで。スイーツ学の講義を受けたあとの反応とは思えないくらい、満ち足りているように見えた。

 

「………………」

 

 そんな宇沢を見ていたナツは、おもむろに宇沢の後ろに回ったかと思うと、背後から包み込むように手を回す。

 

「え? ……あの、ナツ、ちゃん?」

 

 後ろから抱きつかれた体勢になった宇沢は、目に見えてうろたえている。プリンの蓋は開いていないけれど、動こうものならプリンがパックの中でシェイクされてしまい、カラメル部分との境界が曖昧になってしまうから、動けない。

 

「レイサ、私のものにならないかい?」

「――――え?」

「――――は?」

 

 宇沢の声と私の声の、どっちが早かったろう。

 頭が言葉の意味を理解するよりもまず、威嚇の声が上がってしまったのはなんというか。条件反射的な物なんだろうと思う。

 ナツの目線が私の方に向いていたのも、すぐ反応することになった原因かもしれない。

 それはともかくとして。

 

「…………へ?」

 

 宇沢は言われたことがさっぱり理解できておらず、しかも突然の事で固まってるから、とりあえずその言葉の意味を説明してもらおうか。

 私が穏便に対応するかどうかは、その後のナツの言葉次第だ。

 

「こんなに熱心に聞いてくれる生徒はレイサが初めてだ。レイサを私のスイーツ学講義の名誉生徒にしたい。レイサが良いというなら毎日講義をしてもいい。どうだろうか?」

「えっと…………え、と…………その…………」

 

 耳元で囁かれ、宇沢が目に見えてうろたえ始める。両手はナツの腕で固められているから手は動かせないし、後ろから抱きしめられている体勢のせいで足を動かす訳にもいかない。――動かそうもんなら、多分二人してコケる。

 宇沢の目が、ペットショップの仔犬ばりの目になって、私の方を向く。

 

 ――杏山カズサ、助けてくださいぃぃぃ……。

 

 宇沢の声が、聞こえるようだった。

 一応、周りを確認。

 アイリはいつものように困ったような笑顔を浮かべて。

 ヨシミはいつものようににやついた顔で頬杖を付いて、宇沢の方を指差す。

 ああもう。ナツも宇沢も、まったくもって面倒くさい。

 どのレベルで制裁を加えようかと考えつつ、机から立って、二人の元へ。

 相手はナツだし、アイリも見てるし、暴力にならない程度の力加減にすることに決めた。

 ほどほどの強さでナツの脳天に手刀を加えてから、宇沢の前で組んだ手を無理矢理引き剥がす。

 再度ナツが宇沢を確保にかからないとも言い切れないので、宇沢を引き寄せて、首に手を回して確保する。

 

「宇沢をナツの生徒にするのはいいけどさ、とりあえず宇沢の返事も聞いてやんなよ」

「ぁ…………そ、そ、の…………きょ、やま………………」

「ほら、宇沢もさっきからテンパってるし。とりあえずスカウトするなら落ち着かせてからやりなよ。あとホワイトボード、どっからパクってきたの? バレないうちに返しとかないと備品とか割とうるさいし――」

「ふむ。カズサの話にも一理ある」

 

 私がナツに言いたい事を言い終わる前に、ナツは大きく頷く。そして自分の中で結論が出たと言わんばかりにホワイトボードの掃除をし始めた。

 そして掃除が終わったかと思うと、何事もなかったかのように机のいつもの席へと向かう。

 すれ違いざまに私の肩を意味ありげに叩いて、なにやらにんまりとした視線を送ってきたのは、何の意味があるんだろう。相変わらずナツのやることは半分も分からない。

 視線を落とす。宇沢の頭頂部が見える。思い返してみると、さっきから宇沢が動いていないことに気づく。

 そして自分の体勢を改めて見たら、宇沢を確保した姿勢のままで、宇沢は動こうにも動けない状態だったのを思い出す。

 

「……っと、ごめん」

 

 宇沢を解放する。

 数秒立っても宇沢は動かない。

 

「…………?」

 

 肩を持ってくるりと反転させてみる。

 ナツのせいかは分からないけれど、目を回した宇沢が、目の前にあった。

 

 ――あぁ、これ、部活終わるまで戻んないヤツだ。




ナツのスイーツ学の講義、レイサは真剣に受けてくれそうな気がする。目をきらきらさせて元気いっぱいに挙手するレイサと、むふんと自慢げに『はい、レイサくん』ってレイサを教鞭で指す様子が放課後スイーツ部の部室で見れたら微笑ましいな。
って思ってたらこんなお話ができました。

なんか書いてて勝手にナツ✕レイサがにょきっと生えてきたんですが、じぇらしーカズサはそれを許しませんでした。そろそろ「宇沢は私の」とか言い出しそうなんだけど、カズサだし、言葉にするよりも行動で示しそうな気がしてます。意識的にやってたらいいんだけどね。ね、カズサ。
今回レイサはずっと照レイサでしたね。あわあわレイサはかわいい。
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