「あ! やっときましたね杏山カズサ! ここで会ったが百年目! 私の、スイーツ勝負の挑戦状を――受け取ってください!」
「…………は?」
放課後スイーツ部の部室に入るなり、いつもの席に座っていた宇沢が、文字通りその場に飛び上がったかと思うと、私に向けていつものように、いつものアレをぶん投げてきた。
『挑戦状』と書かれた、マカロンやらアイスやらが落書きされた封筒。親の顔よりみた封筒。
とりあえず顔面に向けて飛んでくるそれを手のひらで防ぐ。宇沢の口元が三日月形を描いて、宇沢の指先がまっすぐに私に向いた。
「受け取りましたね杏山カズサ! 私とスイーツ勝負ですっ!」
――スイーツ勝負。宇沢とつるむようになってから毎週のように行われている、それ。
念のため言っておくと、ここであったが百年目も何も、宇沢とは昨日部活で会ったばかりだし、なんなら昨日もスイーツ勝負――という名の利きケーキ――をした。
宇沢の背後には、いつもの席にいつもの面々がいる。アイリはともかくとして、ヨシミもナツもいると言うことは――あとついでにこっちを見てほくそ笑んでいるように見えるのは――おそらく、というかほぼ確にどっちかの肩入れがあったんだろうなぁと簡単に予想が付いた。
で、今私の目の前には、その神輿に担がれた宇沢がいる、と。――状況確認終了。
「はいはい、で、お題は? 勝負の決め方は?」
一応、話は聞いておく。いつも通りのスイーツ勝負だとすれば、宇沢がお題となるスイーツを私に出して、それで私が判断する。
私が負けた、と思えば宇沢の勝ち。私がまだまだ、と思えば私の勝ち。
なんとも勝ち負けの基準も曖昧なこの『スイーツ勝負』ではあるけれど、なんだかんだで宇沢と一年以上このやり方で勝負をし続けている。
まぁ食べたことのない、そして宇沢が勝負に足りると思っている自慢のスイーツを食べられるということで、このやり方は、私的には嫌いじゃない。
「ふっふっふっふ……。杏山カズサ、いつもの私だと思わないでくださいね」
親指と人差し指で直角を作って、その手を顎に当ててしたり顔を作る宇沢。
私の理性が働くのがあとコンマ一秒遅かったのなら、私の手刀が宇沢の脳天にぶち当たっていただろう。割とマジにウザいポーズを決めていた。
「今回のスイーツ勝負の方法は! …………『どっちのスイーツショー』です!」
「どっちの、すいーつ、しょう」
「はい! どっちのスイーツショーです!」
いや、自慢げに胸を張られても。言葉だけでは何をやるのかすらも分からない。スイーツショー? え、何、作るの?
「あー、…………ナツ、解説よろしく」
たぶん宇沢に聞いても同じ言葉の繰り返しだろう。こういう変なネーミングはヨシミよりはナツっぽいから、机に頬杖を付いてニヤニヤとしているナツの方へと言葉を投げかける。
「解説しよう!」
待っていましたとばかりに立ち上がったかと思うと、ナツは私たちがいる方――とは逆の方へと足を進めた。そしてホワイトボードの前に立ったかと思うと、ホワイトボードをドンッと平手で殴る。半回転したホワイトボードには、『どっちのスイーツショー 概要』と書かれていた。
やっぱりナツの企みじゃん。っていうかそれまたどっかからパクってきたの。またバレないうちに返さないと大変だよ。まぁいいや。
「どっちのスイーツショーとは! 二人のお題提供者がスイーツを準備し、採点者がその時に食べたいスイーツをどちらか選択する。多数決で買った方がそのスイーツを食べられるという、フードエンターテイメントである!」
拳を掲げ、ナツは熱く語る。なるほど、多数決で勝者を選ぶことで、公平を期す、という仕組みか。……どこがショーなんだろう。
「なお判定は公平を期すためヨシミくん一人だ」
早速その前提壊れてるんだけど。それはもう多数決ですらない。
「……えーと、宇沢は、そのルールでいいの?」
「ええ、たまには判定を別の人にお任せするのもいいかと思いましてっ!」
宇沢自身はやる気満々のようだ。
「あと、たまには杏山カズサセレクションのスイーツも食べたいですし」
……主な理由はそっちなんじゃないかと思った。まぁいいや。
「えっと、ルールとしては、宇沢と私がスイーツを準備して、ヨシミが食べたいスイーツを選んで、選ばれた方が勝ち、でいいのかな」
「概ね正解だ。そして開催日時は四日後、土曜日に会場はこことする」
「ふーん。ま、いいよ。その時間までスイーツをここに持ってくればいいってことね」
「はいっ! ――――今回こそは負けませんよ、杏山カズサ!」
「その言葉、百回くらい聞いた気がするんだけど」
「余裕の表情を浮かべられるのも今のうちです。こてんぱんのぎったんぎったんにしてあげますから!」
「はいはい」
自慢げに胸を張る宇沢は放っておくとずっとうるさいので、頭を二、三度ぽんぽんと叩く。宇沢はそれで大人しくなった。あとなぜか肩に頭をすり寄せてきた。うっとおしい。
「はい、それじゃ今日も部活始めよっか」
「はいはーい! 今日のスイーツ当番は私! トリニティのスイーツクイーン、宇沢レイ――むが」
「すぐ隣で大声上げない。うるさい」
今日も、賑やかな放課後スイーツ部の部活動が始まった。
◇◇◇
「スイーツショー、ねぇ……」
家に帰って、夕ご飯を食べたりお風呂に入ったりして、今はベッドの上。
部活中に宇沢にあれだけの事を言ったからには、一応作戦は立てて置いた方がいい、と思い、現在情報収集中だ。
なにせ、今度のスイーツ勝負は今までと勝手が違うのだから。
いつものスイーツ勝負であれば、勝敗の判断をするのは私か、宇沢のどっちかだ。
私の方はともかくとして、宇沢の好みは自慢じゃないけど完璧に把握している。どんな方向性の甘みが好きなのか、とか、どんな見た目の物を好むのか、とか。宇沢が即座に白旗を上げるであろうスイーツは、まだ勝負のお題に使っていないもので両手の数くらいはある。
いつ勝負を挑まれてもいいように、常に新作のスイーツの情報は得ているし、ロケハンも欠かさない。勝負は始まる前から付いているのだ。
――ま、こんなこと絶対に宇沢には言えないけど。
で。
今回の判定を下すのは、宇沢ではなく、ヨシミ、ときた。
いつものデータベースを使えないとすると、少し作戦を考える時間が必要になる。
宇沢は分かりやすく、香りが柔らかめで良くて、温かいものを好む。食感が途中で変わったり、別の食感が混ざったりすると、もっといい。具体的にはクリームブリュレあたりを当てておけば、まず負けることは無い。
「うーん……、ヨシミ、ヨシミ、かぁ…………」
今までの部活中での様子を思い出しつつ、子どもが好きそうなスイーツはどんなのかな……と考えながらブックマークしている『キヴォトススイーツランキング』を眺めていて。
「――――あ」
一つの新作スイーツの記事を見つけた。
子どもっぽいヨシミなら絶対に好きであろうものに、ヨシミみたいな分かりやすく甘い物が好きな子が好みそうな物の組み合わせのスイーツ。そして出しているお店は、品質は誰もが認める、あの――――。
「ふ。……ふふふ」
どうしても堪えようも無い笑みが、口元に浮かぶのが分かった。
――なんとなく、どうしようもなく、優越感が湧いて。
「ちょっと、宇沢をからかってやろ」
モモトークを起動して、一番上にある『宇沢』の名前をタップする。
通話開始を押して、コール二つ。騒がしい声が聞こえてきた。
「どうしたんですか? 杏山カズサ」
「土曜日のやつ、私はもう出すもの決まったけど、宇沢はどう? もう決まった?」
「え??? もう??? え??? 冗談ですよね???」
スマホを手に、慌てふためく宇沢の姿が見えた気がした。
「ふふ。土曜日が楽しみだなー。ああ、そうそう、昨日の利きケーキの中にあったベイクドチーズケーキのお店なんだけどさー」
宇沢との夜の電話は、いつもよりも長く続いた。
◇◇◇
土曜日。宇沢とのスイーツ勝負の日。
休みの日にも関わらず、私はアラームで目を覚ました。
全ては宇沢との勝負に勝つため。
全てはこのスイーツを得るため。
朝ご飯を手早くかき込んで、昨日しっかりと整備した銃を携えて、家を出る。
休みの日の朝七時。普段の休日であれば、誰もこんな時間にはこの『トリニティ通り』を歩かない。
人が歩き始めるとしても、あの店の前に並ぶとしても、精々が午前九時ほどだ。
この時間に並べば間違いなく、一番を取れる。一番を取ってしまえば――私の、勝
「え」「あれ?」
同時に声が出た。
「なんで宇沢が」「なんで杏山カズサが」
言葉が重なった。
そのお店までは、ここを曲がってあとはまっすぐ。
ちょうど、その角で宇沢とばったり鉢合わせてしまった。
――まさか、と私の頭の中で一つの考えが浮かぶ。
「…………ちなみに、聞くけど」
「…………はい」
宇沢の笑顔が引きつっているのが見えた。
「どこに行くつもり?」
「杏山カズサは?」
「質問に質問で返すのは感心しないよ」
「…………この先の、クリスピー・ミセス・ドーナツです」
少し迷ったような間があった後、頬を掻きつつ、宇沢がその店の名前を出す。
悲しいかな、私が目指している店の名前も、同じ名前だ。
「あー…………うん。まさかとは思ったけど。やっぱり」
「やっぱり、ってことは。……杏山カズサも?」
頷くことで、答えとする。
宇沢と目が合って、ほんの少し間があって。
「…………」「…………」
同時に、ため息を付いた。
宇沢の方も、いつもの格好に、いつもの銃を背負っている。
つまり、私と同じく、殺る気満々ということで。
「買うのは――って決まってるか。今週の土日限定の、生ドーナツ特製ホワイトチョコレート掛け、だよね」
「当然ですよ。…………はぁ、やっぱり杏山カズサもですか」
「ため息を付きたくなるのはこっちだよ……はぁ」
二人で仲良く並んで歩いて、二人同時に足を止める。
『CLOSED』とプレートが欠けられているドアの前に、私と宇沢が並ぶ。
「これは、つまり、アレだよね。この戦いで勝ち残ったら……ってやつ」
「それは死亡フラグっていうんですよ、杏山カズサ」
「いや、だって事実だし」
「いやまぁそうなんですけどね。…………あー、やっぱり来てますねぇ」
宇沢とどうでもいい話をしているうちに、私たちの後ろには生徒が一人、また一人と増えていく。
まだ午前九時。開店まで一時間はある。のに。
「あー……、もう列の最後尾が見えませんよ」
「やっぱりそうなっちゃうかぁ。……どうする? もうちょっとしたら開戦かと思うんだけど」
「ここまで一緒だったら、もうやることは一つだと思うんですけど」
遠くから、一発の銃声が聞こえた。
――ああ、始まったな。
「――それとも、本気で殺りあって、勝ち残った方が全取りします?」
宇沢の挑戦的な視線が私を刺す。
キヴォトスで、更にはここ、トリニティでよく言われる言葉として、『キヴォトスでスイーツを得ようとするのなら。まず銃を手にせよ』というものがある。
実際、その通りで。これから行われる戦いの末に勝ち残った者だけが、お目当てのスイーツを手にすることができる。そして敗者はその余りしか得られない。
つまり、欲しければ、戦うしかない。
だけど。宇沢と争って勝ち取ったスイーツを、おいしく食べられるかと言ったら――。
「……いいや」
答えは決まってる。
――スイーツは、ひとりで食べるより、誰かと食べる方がもっとおいしいし、楽しいんだよ。
私たちは、放課後スイーツ部だ。
皆で食べるスイーツの美味しさを、誰よりも知る部だ。
「共闘しよう。分け前は半々で」
「――――はいっ」
私の言葉に、宇沢は満足げに頷く。
戦いの音が近づいてくる。
残弾確認。遮蔽物は――まぁ宇沢がいるから大丈夫か。
「宇沢、前は任せた」
「後ろは任せましたよ、杏山カズサ!」
合図はいらない。
二人で同時に飛び出して、それぞれ通りの逆側に隠れる。宇沢が盛大にショットガンを二発ぶちかまし、声高らかに名乗りを上げる。分かりやすい標的の出現に、
「――背後にご用心、ってね」
私はマガジン一つ分を、まとめて吐き出した。
◇◇◇
「――――――で」
頬杖を突いて、子どものように――実際子どもだけど――頬を膨らませる審判員が一人。
「その場の流れで私が審判役になったのは、まぁ百歩譲って分かるけど」
じとっとしたヨシミの視線が、私に注がれる。
「同じものが並んでるのはなんなの? 馬鹿にしてんの? ねぇ?」
『本日の主役』と書かれた安っぽいタスキを掛けたヨシミが、不満げに言う。ヨシミのテーブルの上には、二つの皿が置いてある。その二つとも、同じ種類のドーナツが置いてあった。
その後ろ、観客Aのアイリは苦笑いを浮かべ、観客Bのナツは腕を組んでうんうんと頷いている。
「や、だって……ねぇ?」
「これは杏山カズサが譲らないのが悪いんですよ? テイクアウトなら別のものもあったんですから」
「いや、宇沢がこのドーナツ選んで、私が別の選んだら私負けるじゃん。やだよ」
「いやいや、ここは私に勝ちを譲ってくれても」
「だーめ。宇沢には一勝だって渡さないから」
宇沢が私の脇腹に肘を入れてくる。
お返しに肘を入れ返す。
足を踏んできたので、耳を引っ張ってやった。
「だーーー! なんで私がこんな役回りなのよ! ただの見世物じゃないの!」
そんなやりとりをしていたら、ヨシミが勝手にキレた。どうやらカルシウムが足りないらしい。牛乳が足りないな。ナツから分けてもらうといい。
「どう勝敗付けたらいいのよこんなん! ~~~~っ! ナツ!」
「このパターンは私も初めて見るな……。そうだな、この勝負、引き分け!」
観客Bもとい、審判のナツから裁定が下された。
「え、じゃあこれどうすんの?」
「せっかくたくさんあるし、みんなで食べましょっか」
「ま、そうなるよね。じゃ、ドーナツに合うようにココアでも入れよっか」
「私牛乳たっぷりでお願いしますね!」
「私はどうなんのよぉ!」
ヨシミの叫び声とも悲鳴とも言えない嘆きが、部室の中に響いていった。
――そして今日も、平和な放課後スイーツ部の部活動が始まった。
スイーツを得るために、日々バトルを繰り広げるカズサとレイサのお話を書きました。
嘘は言っていません。
カズサとレイサの。
カズサ&レイサとちんぴらたちの。
でもやっぱりカズサとレイサの。
そんな『バトル』の模様をぎゅぎゅっと詰め合わせた、マカロンのアソートみたいな物語です。
第三回 ブルアカ二次創作企画『ブルアカ概念祭』参加作品。
テーマ『バトル』
レイサとカズサの繰り広げる、日常、時々、バトル。
お楽しみいただけたら幸いです。