コンビニに行ったら、店内が賑やかにデコレーションされているのが目に入った。クリスマスには早いし、秋のスイーツフェスでもやっているのかな? と思ったら。目に入った文字に納得した。……もう、そんな時期になるんだな、と。
「そっか、もうハロウィンなんですねぇ」
去年、杏山カズサと一緒にハロウィン衣装を着てハロウィン会場を練り歩いた、とってもとっても楽しい記憶がある。
その時に撮った――撮られた、とも言うけれど――写真は、私の大事な宝物だ。
あの日は、腹痛で参加できなくなったヨシミちゃんたちのために、先生や大人の人を見つけては「トリックオアトリート」って言って、お菓子を貰ったんだよなぁ、と。去年の事なのに、やけに昔のことのように思えて。
「……ん? んんん?」
何やら考えが浮かびそうな気がして。ちょっとだけ立ち止まって、考える。
「……あ」
ぽん、と思わず手を打った。
「トリックオアトリート」、訳せば「お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ」。……つまり、逆を言えば、「お菓子がなければイタズラされてしまう」、ということで。
――つまり、杏山カズサから「トリックオアトリート」と言われたときにお菓子を持っていなければ、私は杏山カズサにイタズラしてもらえるってことでは?
――私、天才なのでは???
「くふ、ふふふふ…………」
そうだ。その手があった。
そうと決まれば、そして明日の部活で、ハロウィン会を提案して――。
「ふふふふふ…………」
天才的な考えが頭の中に広がって、笑いがこみ上げてくる。
杏山カズサに、合法的にイタズラしてもらえる! そう思うと、ちょっと高いお菓子を買ってもいい気がした。
レジの所にいる人に変な目で見られているような気がしたけど、気にしないことにした。
そして時は過ぎて――十月三十一日。ハロウィンの日。
私たち放課後スイーツ部は、トリニティの裏庭に集まっていた。
去年は通りがハロウィン仕様になっていたのだけれど、雑踏対策だとかでトリニティの校内で行われることとなった。
その分、衣装は無料で借りられるし、お茶会用のビュッフェは行われてるし、でむしろこっちの方がいいんじゃないかって思えるくらい、至れり尽くせりだった。
「さぁさぁ、ハロウィンですよみなさん、ハロウィン!」
円形のテーブルに、仮装に身を包んだ皆が座る。いつものみなさんなのに、衣装が違うだけで、すごく新鮮な気持ちになる。
――ちなみに私は、ひらひらで可愛い魔法使いの服だ。
「宇沢はほんと、元気だよね。
頬杖を付く杏山カズサは、マントを羽織った吸血鬼。全体的に黒なのは変わらないのに、どこか可愛さが増して感じられる。
「だからこそじゃないですか! テストから解放されたんですから、おいしくお菓子やお茶を楽しまなきゃ損です! はい、杏山カズサやみなさんの分も持ってきましたよ!」
「お、ありが――いや、盛りすぎじゃない?」
「え? そうですか? せっかく無料で食べられるんで、一杯持ってきちゃいました」
「レイサありがとう、助かるー」
「ありがとうね、レイサちゃん」
「えへへへ。もっと褒めてください」
そう言うと、私の頭を撫でてくれたのは杏山カズサ――ではなくて、逆の方に座っている私の師匠だった。
「私の一番弟子なだけはあるな。見よ、この盛りの造形美を。これはかの文豪――」
「はいはい、それは後にして。――じゃ、食べよっか」
「そうね。お茶も冷めちゃうし。食べよっか。みんな、テストお疲れさま。そして――ハッピーハロウィン」
アイリちゃんの合図で、私たちはお皿一杯のケーキを食べ始めた。
◇◇◇
「………………」
ふふふ、と私は口に出さず、胸の中だけで笑みを浮べる。
さて、ハロウィンと言えば。――そう、例の呪文だ。
ちょっと前の部活の時に、「お菓子交換をしましょう!」と提案して、ナツ師匠が面白そうだからと乗ってくれた結果やることになった、それ。
「アイリちゃん。トリックオアトリート! です!」
「ふふ。はい、レイサちゃん。チョコミントフレーバーの○ットカット。これ地域限定なの」
「ありがとうございます!」
「じゃあ私も。レイサちゃん、トリック・オア・トリート」
「はいっ、カフェ・ゴールドノートの秋限定フレーバーのマドレーヌです!」
「ありがとう、レイサちゃん。早速頂くね」
「どうぞどうぞ!」
皆でトリックオアトリートと言い合い、お菓子を交換していく。私は狙って、杏山カズサを最後に持って行き――そして、作戦に出る。
「はい、宇沢。トリックオアトリート」
四人目ともあれば飽きてきたのか、少しだけぶっきらぼうに杏山カズサは呪文を唱える。
――そして、私は。
「ええ! 杏山カズサにもお菓子を――あれ? あれれ? おやぁ?」
鞄の中に手を入れて、そして首を傾げるフリをする。鞄の中は、アイリちゃん、ナツちゃん、ヨシミちゃんにもらったお菓子しか入ってなくて、三つだけ買っていたお菓子は、既に交換済みだ。
「おっかしいですねー。準備してたお菓子が無いですねー」
「宇沢、ちょっとジャンプしてみて? 音するだろうから」
「カズサ、どこぞのヤンキーみたいなこと言わないで。あ、そっか、カズサは元ヤ――痛ったぁ!」
杏山カズサが、ノールックで隣に居たヨシミちゃんの頭に拳骨を入れた。
「それ以上言ったら叩くから」
「それ以上言ってないしもう叩いてるじゃん! 頭叩いて成長止まっちゃったらどうすんのよ! 責任取ってよ!」
「もう伸びないから安心して。あと責任なんて取るわけないじゃん」
「あんたねぇー!」
「ま、まぁまぁ、二人とも、そのへんにして」
真っ白いシーツみたいな衣装を着たお化けのアイリちゃんが、杏山カズサとヨシミちゃんのケンカに割って入る。
杏山カズサとヨシミちゃんは毎回のようにケンカするけど、アイリちゃんが入るとそれでぴたりととまる。もうここまで来ると、様式美という言葉が綺麗に当てはまる。
「宇沢、本当に無いの? ちゃんと四個買った?」
「ばっちり買いましたよ。……あれぇ? おっかしいなー? お菓子がないなら、イタズラされるしかないなー?」
ちらっと杏山カズサの方を見る。
「…………」
めちゃくちゃ苦いコーヒーを飲んだ時みたいな顔で見られた。
「ねぇ……。宇沢、自分で食べちゃったみたいだし、宇沢の分は交換無しでいい?」
吸血鬼さんは、周りのお化け、ミイラ男、ジャックフロストに助けを求める。三人とも、揃って首を横に振った。
「だってもう言っちゃってるしねぇ。トリックオアトリートって」
「覆水盆に返らず――言ってしまったことは元に戻らないのだよ」
「あ、あははは。私の分の飴、使う?」
優しいお化けの提案はお断りして、そして再び吸血鬼さんへと顔を向ける」
「あー、残念ですねー! さぁ、お菓子がないなら仕方ないですね! さぁ、ひと思いに! トリック!」
「ひと思いもなにも。…………はぁ、まったく」
杏山カズサはため息を付いて、私の方へとやってくる。
今日の杏山カズサはマントを羽織った吸血鬼。付け牙とかは無いけど、出で立ちそのものが吸血鬼らしい黒の色合いをしている杏山カズサらしい衣装。
吸血鬼、となれば、甘噛みでもされるのかな、とちょっとだけ期待して。
「……私が死神の衣装着てれば、宇沢を刈れたのに」
すごく小さい声で、何やら物騒な言葉が聞こえた。
かと思うと、杏山カズサの両手が、がっしりと私の肩を掴む。……結構、というか相当強い。……ついでに、痛い。この手は簡単には外せないな、と私の頭が警告する。
あれ、これ、割と本気で噛まれちゃうのでは? 私の頭がめちゃめちゃ警告してくる。
いやいくら杏山カズサと言えどマジ噛みは私の身体が――――。
杏山カズサの顔が、ゆっくりと私の首筋の方へと近づいて行って――。
ちゅ、と。
「…………」
頬に。
「………………」
何やら、感触、が。
「……………………え」
杏山カズサの顔を見る。
してやったりといったような、顔がある。
「見え見えの演技してんじゃないの。ばーか」
そう言って。
にやりと笑って。
ぺろりと舌を出した。
「……………………」
ん?
あれ。
……今。
そこに、触る。少しだけ、濡れた感覚。
「………………~~~~~~っ!」
熱いお風呂に入ったみたいに、一気に顔が熱くなって。
すぐ近くにいる杏山カズサの顔も、なんだか、やけに――眩しく見えて。
「きょ――――――――杏山カズサぁぁぁーーーー!!!!!」
私は。力一杯。その名前を叫んだ。
レイサのハロウィンボイスが可愛すぎて可愛すぎてなにこの子愛おしいな!!!
って思ってたらこんな物語ができていました。
「飴が無かったらイタズラをしてもらえる日です!」ってレイサのボイス、これもうお杏山カズサにかまってもらえる!って思考が見え見えで可愛い。この子絶対分かってて飴を忘れてくでしょ! もうレイサ可愛いなぁってなりました。
レイサのボイス追加がある度にレイサへの解像度が上がっていくし、レイサへの愛おしさが増していくのが分かります。本当この子、愛おしい。