垂れ流しているテレビからは、『さぁ年明けまで後十五分となりました!』だとかいうアナウンサーの声が聞こえてくる。
その声に顔を上げると、どうやら有名な神社からリポートをしているようで、カメラの向こうにはものすごい数の人が見える。
私たちもこの後こういったところに行くんだろうな、と思うと、ほんの少しだけめんどくさいな、という気持ちが出てくる。
でも宇沢に誘われてるし、宇沢と一緒なら並んでる間の時間潰しには困らないしな――と思いつつ、隣に座っている今日の初詣の同行者の様子を見ると。
炬燵の天板の上に頭を乗せて溶けていた。
天板の中央にはみかんが入った器。そして宇沢側の天板には、みかんの皮が山のように積まれている。
私も宇沢も、確かみかんを食べながら歌合戦を見ていたはずだけれど、どうやら一緒に寝落ちしていたようだった。
隣ではさっきから静かな寝息が聞こえてくる。すかー、と大口を空けたアホ面が見える。
このまま寝かせておいてもいいよね、とも思うけれど『一緒に年越ししましょうね!』だとか言っていたのを思いだして、一応起こすことにした。
「宇沢、起きて。宇沢。……新年になるよ」
肩を揺する。このとき間違っても、宇沢の頭の近くにいてはいけない。――今までの経験上、絶対に頭突きを食らう羽目になるから。
ちょっとだけ体を離して宇沢を揺すること、何秒か。
「――――んぁ?」
宇沢の心底間の抜けた声が部屋に響いて、宇沢の目が開いた。
「あえ? きょーやまかずさ? …………ここど…………えっ、はっ!? 私寝てました!?」
目が開いて、私の方に視線が向いて、数秒。弾かれたように宇沢の頭がぐんっと起き上がった。――予想通り、いつも通りの起こし方であれば私の頭があったであろうところを、宇沢の頭が通り過ぎていった。
「大丈夫、まだ新年にはなってないよ、ほら」
内心でだけほっと息を吐いて、テレビの方を指差す。右上の時計の時刻は、11:56と表示されていた。
「…………はぁぁぁ……よかった…………。杏山カズサと一緒に初詣に行けなくなるところでした……」
「私は別に、宇沢とおせち食べられたらそれでいいんだけ――痛った。なにすんの」
「~~~~、なんでもないです」
顔を明後日の方向に向けながら、肩をグーで殴られた。
なんでもないなら殴んないで欲しいんだけど。ヨシミじゃあるまいし。
『さぁカウントダウンです。十秒前から行きますよ。じゅう! きゅう!』
気がつけば、テレビの向こうではカウントダウンが始まっていた。右上の時計表示は11:59。あとほんの数秒で、新しい一年になる。
『さん、にー、いち――――新年、明けましておめでとうございます!』
アナウンサーの騒がしい声とともに、テレビの向こうからはファンファーレ的な音が流れ出す。長らく年越しのタイミングをテレビで見てこなかったけど、最近はこんな感じなのか、と思っていると。
「杏山カズサ」
隣から、普段よりも静かな、宇沢の声がした。
「明けまして、おめでとうございます」
「ん、明けましておめでと」
にへ、とだらしない笑みを浮かべて、宇沢が言う。
「今年も、よろしくお願いしますね。…………へへ、杏山カズサに最初に言えました」
目を細めて、何がそんなに嬉しいのか分かんないけど、嬉しそうにはにかんで、言う。
「こちらこそ。――さて、と」
新年の挨拶も終えたことだし、やることをしよう。
急に立ち上がったのが不思議なのか、宇沢は私を見上げて、文字通り首を傾げる。
「杏山カズサ、どこかに行くんですか?」
「実はさ、年明け直後に宇沢とお汁粉でも食べようと思って準備してるんだけど……。宇沢、食べる?」
「――お汁粉っ!?」
さっきまでだらけた顔をしていたのに、甘味の話になった途端宇沢の目が急に輝き始めた。
「はいっ! 食べます食べます!」
元気よく挙手までしてくる。そこまで喜ばれると、準備した甲斐があるってもの。
「ん、分かった。じゃあ作ってくるね。――ああ、宇沢はお餅いくつ入れる? 4個くらい?」
「そんなに入れたらお椀から溢れちゃいますよ」
――お汁粉にはお餅がつきもの。お餅がないお汁粉はお汁粉に非ず。
なんてことを和スイーツ専門店で高らかに語っていた部員を思い出す。別にその言葉に従う訳じゃないけど、やっぱりあんこの強い甘さを中和してくれるお餅の存在は、お汁粉には欠かせないと私も思う。だからこそお餅も準備したし、宇沢に何個入れるかも聞く。
――だってこういうときの宇沢は、美味しそうにいっぱい食べてくれるから。
「甘い。そんなこともあろうかと、お餅をたっぷり入れてもいいように宇沢用のお椀は準備してるんだよね」
そして同様に、こういうときの宇沢は、何かを気にしてか遠慮がちになる。
だから、その逃げ道を塞ぐ。宇沢用に準備した手の平サイズを越えるお椀を見せて、暗に言う。『そんなの気にしないで、好きな数言いな』と。
「――――――。…………じゃ、じゃあ、……これ、で」
宇沢が手の平を広げて、私に見せつける。
手相を見せるということではなく。これはつまり。
「おっけ、5個ね。――相変わらず、宇沢はよく食べるね。食べさせ甲斐があるよ」
「せ、せっかく、杏山カズサが
「意味違う気がするけど、ま、いっか。宇沢は座ってて。チャンネルは適当なのかけちゃっていいし」
途中、言葉がもごもごとして聞こえなかったけど、まぁ気にしないことにしてキッチンに通じるドアを開けて。
同時に服の裾を掴まれた。
「私も手伝います」
「いいから。宇沢は客。私は家主。客は黙って家主の言うこと聞いてりゃいいの」
「……うー、……でも…………」
上目遣いで少し頬を膨らませて、顔に『不満です』と書かれているのが見える。
「――――、だったら、初詣の時、また案内よろしく。それでいい?」
「――――はいっ!」
◇◇◇
小豆の缶を開けて鍋に投入。そしてお湯と砂糖と隠し味を入れて一煮立ち。
そしてあらかじめ買っていたお餅をレンジへ。
十分足らずで、二人分のお汁粉が完成した。
宇沢の前には大きなお椀。
私の前には中くらいのお椀。――そして少し冷ましたもの。
「杏山カズサ、ありがとうございます! 頂きますね!」
「はい、召し上がれ」
そう言うやいなや、宇沢はお椀を持ち、一気にそれを傾けた。
数秒が経ち、お椀を机の上に置いた宇沢は口元にあんこを付けつつ、
「これ、すっっっっごく、美味しいです!!!」
と、満面の笑みで言う。
「そ、よかった」
「はい!!!」
元気よく頷いた宇沢は、箸を手に持ち、お餅を食べ始める。
頬に手を当てて幸せそうに咀嚼する宇沢は、本当に、幸せそうだな、と思った。
宇沢はお餅入りお汁粉を、文字通り飲むように食べ終え、私の分を食べ終えるのを待つ形になった。
「杏山カズサが食べ終わったら、初詣行きましょうね」
「むぐむぐ。ん、わかった。去年とおんなじ感じ?」
「そうですね。参拝して、おみくじ引いてーって感じでしょうか。……杏山カズサは、それでいい、ですか?」
「もちろん。並ぶだろうけど、ま、大丈夫でしょ。そういえば去年、おみくじで宇沢が大凶引いてたっけ」
「…………そこらへんは、色々と忘れてください。…………いえ、でもおみくじは大凶ではありましたけど、そんなに悪い年じゃなかったですよ。…………杏山カズサと、一緒に色々とできましたし……」
「…………そ」
天板の上に手を出して、指先を付けたり離したり。視線を合わせようとすると、めちゃくちゃ逸らしてくる。
自分で言ったことに、自分で照れている宇沢が、目の前にいる。
――そういうの、ずるいんだよなぁ。
「ま、私も悪い年じゃなかったよ。中吉なりに、ね」
「さり気なくおみくじマウント取ってません?」
「気のせい気のせい」
宇沢が元に戻ったのを見て、安心して残りのお汁粉を片づける。
お餅は二個しか入れてなかったはずなのに、やけにお腹に溜まっている気がする。――宇沢は、これを五個も食べたのかって思うと。……あいつのお腹はどうなってるんだろうな、と思わなくもない。
「ああ、そうそう、初詣行くんでしたら、お願い事、今から考えておかなきゃ。前回は鐘を鳴らしてから願いごとを考えてましたし」
――宇沢もだったんだ、と一年越しに知る。
私も手を合せてから考え始めたのだから、人のことは言えない。……このことは多分言わない方がいいんだと思う。
「そうね、今から決めておけば、スムーズかもね」
「そう言う杏山カズサの願いごとは、もう決まってるんですか?」
「私? ……んー、そう、ね」
宇沢に言われて、私の願いごとは、と考えて。
少しだけ考えて、こたつの正面に座っている宇沢を見て。
やっぱりそれしかないよね、と決意を新たにする。
「私の願いごとは決まってるし、――もう叶ってるかな」
――宇沢と一緒に、普通にスイーツを食べられますように。
新年早々、カズサの3Dモデルが出るわ、新規ボイスが出るわでみょん!さんの感情はてんやわんや。
その熱を叩きつけた作品がこちらになります。
新年を迎えるレイサとカズサは、二人でゆっくりと平和に優しい時間を過ごしてほしい。
新年明けました。
私のブルアカ二次創作は、基本的に平和で優しい物語を紡いでいます。これまでも、これからも。
私の作品で癒やされて、だなんて傲慢なことは言えません。文章を読んでいる間だけでも、少しでも何かを和らげられる何かになれてたら、嬉しいです。