レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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放課後スイーツ部のバレンタイン対策会議

 ――制限時間がある相談事項に限って、旨く進まないというものは世の中の常というものなのだと思う。

「うーん。うぅぅぅぅーーーん」

 私は、思いっきり悩んでいた。

 杏山カズサが補講から戻ってくるまで、あと一時間もなくて、残り時間も無いというのに。

 名案も浮かばず、さっきから唸りっぱなし。相談に乗ってくださっている放課後スイーツ部の皆さんにも、段々申し訳なくなってきて、余計に頭が回らなくて――。さっきから思考がぐるぐるとしたまま。

 

 ――杏山カズサへのバレンタインのチョコレートを、どうしたらいいでしょう?

 

「そこまで悩まなくても大丈夫だよ、レイサちゃん」

 アイリちゃんの優しい声が、私の心を優しく抱きしめてくれる感覚がある。

 すぐにでも、その優しさに身を任せてしまいたくなる。

 ――でも。だけど。その優しさに甘えてばかりじゃ、いられないのだと思う。

 ――だってスイーツは、戦いなのだから。

「杏山カズサに渡すバレンタインのチョコレート、一体何を渡せば、喜んでもらえるんでしょう…………」

 一月の中旬くらいからずっとずっとずっとずっと考えてきたこの命題に、バレンタインが来週に控えているにもかかわらず、私は答えを出せないでいた。

 今私がいるのは放課後スイーツ部の部室。机にはアイリちゃんとナツちゃんとヨシミちゃんが相談に乗ってくれている。――なお杏山カズサは補講中。なんでも、『色々と準備とか手伝いとかしてたらちょっと時間無くなっちゃって……あははは……』だとか。

「カズサちゃんだったら、レイサちゃんからのものならなんでも喜んでくれると思うよ?」

「ええ、きっと杏山カズサなら、よほど変なものを渡さなければ、きっと受け取ってくれるし、食べてくれると思うんです。……でも、去年――」

「去年?」

「い――――いやいやいやなんでもありません! なんでも!」

 危うく盛大に自爆するところだった、危ない!

 去年、杏山カズサが精一杯悩んで悩んで選んでくれたチョコレートケーキは、ほっぺたが落ちるなんて言葉じゃ表現できないくらい、私が大好きなもので――。

 だから今年はお返しに、杏山カズサが喜んでくれるものを贈りたいな、だなんて思ってはいたのだけれど――。で、思考はまた、はじめに戻る。

「――私に、いい考えがある」

 先ほどから目を瞑って顎に手を当てていたナツちゃんが突然すっくと立ち上がって、腰に手を当てる。ずっと考えていたせいか、ふふん、と鼻を鳴らす様子からは、自信しか見えない。

「――ナツちゃん、もしかして、秘策が、あるんですか!?」

「あるとも。準備するのは結構な量のチョコレート、それと湯煎(ゆせん)の道具。そして赤いリボンだ」

「湯煎。チョコレートを溶かす道具ですね! ……ということは、手作りチョコレートで杏山カズサを迎え撃つ、と、そういうことですか!?」

「ちっちっち。甘い。サッカリンよりも甘いぞレイサくん。それではロマンが足りない」

 人差し指を立てて、左右に振るナツちゃん。

 ちなみにサッカリンとは、合成甘味料の事で、ごく少量でもとってもとっても甘い。――よほどのことがないかぎり、私たちが食べるものには入っていない。

「チョコを溶かすまでは合っている。その後が問題だ。まず服を脱いで、刷毛(ハケ)でチョコレートを体に塗りつけて、そしてリボ」

「何言ってんのよあんたはぁ!」

 ゴンッと、結構な音が鳴った。

 いつの間に立ち上がったのか、私の目にも映らなかった。拳を握りしめたまま息を荒く吐くのはヨシミちゃん。もしここに杏山カズサがいたのなら、きっとその役目は杏山カズサだっただろうと思う。――二人とも、大体やってることはおんなじだし。

「レイサに! 変なこと! 教え込まないで!」

「……それは冗談として」

 よほどヨシミちゃんのげんこつが効いたのか、結構な時間蹲っていたナツちゃんは、頭に手を当つつ、再び立ち上がる。

 どこまで冗談なのか、ナツちゃん――いや、ナツ師匠の考えは、私には決して及ばない部分だ。もしかしたら、ここまでも演技かもしれない。……違うかもしれないけど。

「カズサの好きなチョコレートを探す旅に出るとしたら、その場所はたった一つ。今週末にキヴォトス展示場で行われる、チョコレートマーケット、略してチョコマに行くしかない」

 ナツちゃんはそう言い切ると、むふん、と鼻息をひとつ。

 それから「そう、チョコマというものはだね」と言いながらスマホを操作して、その画面を私に見せてくれた。

 私に見せてくれたのは、広い広い建物の中に、お祭りの屋台の豪華版みたいなものが、等間隔に配置されている写真。そしてよく見ると、かなりの人がその写真には写っていた。

「ちょこれーと、まーけっと、ですか」

「そう、チョコマ。言い換えるのであれば、私たちの戦場さ」

「…………え、っと?」

「えっとね、レイサちゃん」

 ナツちゃんの言葉はどこまで行ってもふわふわとしてて、私の頭にはハテナマークがいくつも浮かぶ。

 そこに声をかけてくれたのが、アイリちゃんだった。

「前に、スイーツフェスって皆で行ったよね。あれって実は、このイベントが元になっていてね。チョコマは、キヴォトス中のお店が一箇所に集まって、チョコレートだけを売り出すイベントなの。去年の出店数は151もあったらしいよ」

「ひゃ…………え?」

 アイリちゃんの話の規模が大きすぎて、話が理解できない。

 写真に写ってるだけでも、かなりの屋台みたいなのが写っている。……もしかして、これの一つ一つが、その、お店……ってこと?

「それだけのお店が、全部、別々のチョコレートを出す、ってこと、ですか?」

「そう。全部のお店を回るだけでも時間が無くなっちゃうから、事前に色々下調べをして、対策をしていくの。ナツちゃんが言う戦場ってのも、頷けるでしょ?」

 そこまで言われると、納得する。

「もちろん、ミントフレーバーのチョコレートもいっぱいあってね、少し前に行ったときは両手に持ちきれないくらい買っちゃった」

 アイリちゃんはその時のことを思い出しているのか、すごく幸せそうな顔をする。なんだか私の顔も釣られて緩んでいる気がした。

 ――チョコマ、ここならきっと、杏山カズサに合うチョコレートが、きっと見つかるはず!

 お先真っ暗だった道のりに、光が差した気がした。

「ナツちゃん、アイリちゃん、ヨシミちゃん、ありがとうございます! チョコマ、行ってみますね!」

「検討を祈るよ、レイサ」

「はいっ!」

 そしてバレンタイン対策会議は、チョコマの対策会議へと変わり――それからしばらくして、杏山カズサが部室へとやってきた。

 相当お疲れなようだったので、糖分をたっぷり補給できるようにと、部室の冷蔵庫に保管してある、ビッグサイズシュークリームを皆で訳あって食べた。

 口元にクリームを付けたままの杏山カズサは、いつもよりもふにゃふにゃとしていてかわいげがあって。

 クリームにいつ気づくかな、と思ってわくわくしながら杏山カズサの方をずっと見ていたら、ほっぺを抓られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅぅぅぅぅぅぅん………………」

 私はまた、盛大に悩んでいた。

 手には様々な書き込みをした、宝の地図(フロアマップ)

 チョコマ経験者の三人に色々と聞いて、宝の地図に行きたいお店を書きこんで行ったはいいものの、通りがかった途中で見かけたお店で良さそうなチョコを見つけて――をかれこれもう十回以上は繰り返した。

 試食もさせていただいて、「あ、これはきっと杏山カズサも好きそう」なものが、両手で数え切れないくらいはある。

 ここなら杏山カズサが好きなチョコレートがあるはず――そう思って来たチョコマ。その予想は間違いはなかった。

 ――ただ問題なのは、それが一つに絞りきれない、ということで――――。

「うぅぅぅぅ……」

 ホール内を歩く人たちの邪魔にならないように壁沿いに立って、宝の地図と、お店でもらった沢山のパンフレットをもう一度見て、どこのお店を買おうか、もしかして早く行かないと売り切れになっちゃったりするかな……と思っていて。

 ばさばさ、と音がして、目の前を横切った人の手にあったであろうカタログが、地面に散らばるのが見えた。

 私の足元にもいくつかのカタログが滑ってきて、あ、これ私がもらった物とおんなじだ、とか思いつつ、手が届く範囲のパンフレットを拾って、同じように散らばったパンフレットを拾っている人にお渡しして。

「はい。こっちにあるものは全部拾いましたよ」

「あ、ありがとうございま――――」

 手を伸ばすその人の手に、パンフレットを乗せて。

「いえいえ、どういたしま――――」

 顔を上げて。

「「え」」

 そう頭が理解した瞬間、体が動かなくなった。

「「なんで」」

「杏山カズサが」「宇沢が」

 声が不思議と重なって。

 体が動いたと思ったら、相手も――杏山カズサも、私と同じく、相手の方を指差すポーズをしていて――――。

 

 先に硬直から解放されたのは、杏山カズサの方のようだった。

「…………はぁ」

 ため息を吐きつつ、私の隣に来て、壁に寄りかかる。

「情報源は誰?」

「え。…………ナツ、ちゃんですけど」

「うぁー…………なんか思いっきりナツに乗せられた気分」

 杏山カズサの反応からするに。……もしかして。

「……杏山カズサ、も……?」

「【補講解放記念に、いいイベントがある】ってモモトークが飛んで来て、チョコマのリンクが張られてた」

 私もナツちゃんから教えてもらったことからすると。……ナツちゃんの『いい考え』ってのはどこまでのことだったんだろうかって思う。

「や、まぁ。さ。……チョコ、買いたかったし。折角なら、宇沢にいいのを選びたいなって、思ってたからさ。来てみたんだけど。……まさか会うとか思ってなかったからさ。まだちょっと、整理付いてなくて」

「ただでさえ広いのに、会うなんて思ってもみなかったです――――、し」

 杏山カズサ、なんか言ってたような。あれ、……あれ?

 隣を見ると頬を掻いてる杏山カズサ。視線はもちろん明後日の方向。

「――――――、」

 落ち着きかけてた呼吸がまた変に狂い始めた。なんか聞き逃しちゃいけない言葉があった気がする。あれ、ちょっと前の発言に戻れませんか杏山カズサ。

「宇沢は、買うもの決めた? 結構見て回ってるみたいだけど」

 視線はそのままに、杏山カズサは問う。

 私の手元のパンフレットは結構な厚みになっていて、まだチョコの袋が手に無いってことはそれはつまり、私が現在進行系で悩んでる真っ最中だってのは、きっと杏山カズサにも分かってると思うんだけど。

「…………まだ、です。ちょっと、選び切れて無くて」

「――――うん。よし。決めた」

 杏山カズサは、壁を蹴る音と共に数歩前に出て。

「宇沢、チョコ買うの付き合ってよ」

 そう言って、私に向けて、手を伸ばす。

「宇沢が好きそうな店はいくつか見つけてるんだけどさ、まだどれって決められてなくて。せっかくだから、最後は宇沢に選んでもらう。決めた」

 ――決めて、それをどうするんですか。

 だなんて野暮なことはきっと、聞かない方がいいんだと思う。

 だって、私も同じ事を、やろうとしてるんだから――――。

「いいですよ。じゃあその後、逆に私の方も付き合ってもらっていいですか。私の方も、決められてなくて」

「ん、分かった。――宇沢が見繕ったとこ、どんなとこかな」

「へへへ、杏山カズサが見つけられてない、穴場かもしれませんね!」

「それは楽しみ。……さ、行こ」

「はいっ!」

 ――一緒に買っちゃったら、来週のネタバレになるかな、だとか、そんなことは一瞬だけ考えて、その次の一瞬で頭の向こうに追いやった。

 私が買いたかったのは、杏山カズサが一番喜んでくれるものだから。

 私が見たいのは、杏山カズサが喜ぶその顔なんだから。




カズサとレイサが二人でチョコを買いに行く概念が見たかったので書きました!!!
二人は息をするようにいちゃついてたらいいなって思います!!!


この作品を含む

放課後スイーツ部のバレンタイン対策会議
早く寝なきゃいけないことは分かっているのだけれど
見えなかったもの。見えちゃったもの。

は時系列に従って話が繋がっています。
続けて読んでみてください。
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