レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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早く寝なきゃいけないことは分かっているのだけれど

 ゴミ箱にまた一つ、丸められた紙が投げ入れられた。

「うあーーーーー!」

 頭を抱えたくなるとは、きっとこのことなんだと思う。

「今日のお昼の私をはたきたい…………」

 私は今、大絶賛後悔していた。

 

 ――杏山カズサにバレンタインのチョコレートを渡すなら、メッセージカードとか書いたらいいんじゃないですかね!?

 

 ベッドでごろごろとしていたときに降りてきた天啓に従って、文具屋に行ってメッセージカードを買って、そして夕飯の後に書き始めたはいいものの! いいものの!!!

「ぅあー…………」

 さっきくしゃくしゃにした、元メッセージカードで、ダメにしたカードが通算九枚目。

 シャーペンで下書きをして、ボールペンで上からなぞるだけなのに。シャーペンで文字を書いては消して、書いては消して。上手く行ったと思ったそれを見返したら恥ずかしくなってボツにして――。かれこれ数時間、メッセージカードと戦い続けて、未だに勝利ならず。

 今目の前にあるものが、正真正銘、ラストの一枚。

「何を書けば、いいんでしょう……」

 精一杯悩んで悩んで、スマホで『メッセージカード 書き方』って検索したりして。その上伝また考えて。

「きょう、やま、かず、さ……。…………――――――」

 口にすると余りに恥ずかしいから、心の中でだけ言いながら、シャーペンで下書きをして。

 これでいいかな、と手に取って、眺めて。

「――――――――ッ!」

 ――ダメです! やっぱりこれはダメです! メッセージカードに書くにはあまりにも!!!

 書いた文字を消して、下書きの後が残らないようにしっかりと消して。

「…………無難に、行きましょう。うん、そうしましょう」

 自分にそう、言い聞かせて。

【杏山カズサ いつもありがとうございます】

 シャーペンで書いて、ボールペンでなぞって。

 できたは、できた。……でもなんだか、素っ気ない気がして。

「………………こっち、かな」

【杏山カズサ!!! いつもありがとうございます!!!!!】

 文字でちょっとだけ賑やかにした。

「これで、……よし、と、しましょう。うん」

 カードを持って、眺めて。これなら、大丈夫、ともう一度、自分に言い聞かせる。

「――――え、……あー! 明日は杏山カズサの家に行かなきゃいけないのにー!」

 時計を見て、いつの間にか日付が二月十四日を示していることに気づく。

 自警団で夜のパトロールをやっているから、体としては大丈夫なのだけれど。それはそれ。明日はしっかりと予定があるから早く寝ようと思った結果が、これ。

「色々はまた明日にしましょう。うん」

 やることが色々あって、全部ほったらかしにしているのは分かっているけれど、重要イベントの方が大事。まずは睡眠。そして早起き。

 そして朝一で、杏山カズサの家に行って――。

「…………ふふ」

 忘れちゃいけないものを、鞄の中に大事に入れて。

 私は布団の中に潜り込んだ。

 

 ――――――

 

 

 ――――

 

 

 ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「杏山カズサ!!! おはようございます!!!」

 カン、カン、とけだるげな杏山カズサの足音が聞こえてきて、その姿が見えるやいなや、いつものように挨拶。

 杏山カズサは驚くようなそぶりも見せず、私に向けて、いつものように笑って手を上げる。

「おはよ。宇沢のことだから、どーせいると思った」

「へへへ。先手必勝が勝利の鍵ですからね!」

 杏山カズサが、私の事を分かってくれてるのが嬉しいなって思う。でもここで嬉しいって気持ちで後れを取ると、待ち構えた意味がない。

 口が緩みそうになるのを押さえて、手に持っていたものを渡す。

「杏山カズサ。ハッピーバレンタイン、です!」

「ん、ありがと。じゃあ私からも、はい」

 杏山カズサは私のものを受け取ったあと、鞄の中から、包み紙に覆われた箱を渡してくれる。

 チョコマでお互いがお互いの一番好きなものを買って、バレンタインで渡そう、と約束をした、それ。

「へへへ。ありがとうございます!」

 箱の中身はお互い知っているのだけれど、今日渡して、今日受け取ったことに意味がある、と杏山カズサは言った。

「じゃあ約束通り、家に帰ってからお互い食べるってことで。感想会は電話で、ね」

「はいっ! 私が買ったチョコを食べたら、美味しすぎてふにゃふにゃになりますよ」

「その言葉そっくりそのまま返すよ。……さて、これを学校に持ってくのもアレだから、私の分は冷蔵庫に入れてくるよ。宇沢はちょっとここで待ってて」

「はいっ! 待ってますね」

「すぐ戻るから」

 杏山カズサはそう言って、階段を二段飛ばしで上っていった。

 ――全力を出したら一足でかなり上れそうだな、とか。やっぱり動きが猫ちゃんのそれだな、とか。そんなことを思いつつ、視線を手に持ってる箱に向ける。

「…………へへ」

 包装紙に包まれた、チョコ入りの箱は。

 見ているだけで、なんだか幸せな気持ちになれる気がした。




バレンタインの日の朝のレイサを書きました!


この作品を含む

放課後スイーツ部のバレンタイン対策会議
早く寝なきゃいけないことは分かっているのだけれど
見えなかったもの。見えちゃったもの。

は時系列に従って話が繋がっています。
続けて読んでみてください。
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