宇沢からもらったチョコ入りの箱を冷蔵庫に入れて、部屋の鍵を掛けてから再び階段を降りる。
宇沢がものすっごく、にへーっとしただらしない顔をしていた。
これが学校の前じゃなくてよかったと思う。あまりに、その、アホそうで。
「お待たせ」
「――はっ、きょ、うやまカズサ、おかえりなさい!」
宇沢の顔が一瞬でいつもの顔に戻る。切り替えの速さは大したものだなって思う。
とは言っても、口元がゆるんでるのはずっと変わってないけれど。
「じゃ、行こっか」
「はいっ!」
久しぶりに二人で歩いて学校へ向かう。
普段歩く道なのに、いつもとは違って見えた、ような気がした。
チョコマでお互いに好きなものを選んだ私たちは、二つの約束をした。
ひとつ。お互いに買ったものは一人で食べること。そしてそのあと感想会をすること。
ふたつ。それとは別にそれぞれでチョコを買って、放課後スイーツ部のみんなで食べること。
チョコマで宇沢と会ったことは偶然ではあるのだけれど、どうにもナツの作戦に引っかかったような気がして。ひとまずバレンタインということで、放課後スイーツ部の皆で食べるチョコを別々に買っていった。二人は会わなかった。ということにした。
――その日の事をそのまま言ったら、きっとヨシミあたりがうるさいだろうし。
◇◇◇
放課後スイーツ部のみんなで食べたチョコレート詰め合わせは、風味豊かで本当に美味しかった。名前は直球で『スペシャル・チョコレート・アソート』。
フレーバーの違いではなく、カカオの量で異なるチョコレートの風味。カカオの量が少ないから甘すぎる、ということではなく。カカオの量が多いから苦すぎる、ということでもなく。
口の中に入れた後のカカオの風味と甘さとのバランスが最高にマッチした、普段食べるチョコレートでは絶対に味わえない、まさしくスペシャルな一品だった。
「…………さて」
家に帰って、冷蔵庫を開けて、宇沢からもらったチョコレートを取り出す。
ふと、後ろを見ると、テープで封筒が貼り付けられているのに気づいた。
手触りで分かるはずなのに、今になって気づくのは――きっと、今朝は相当浮かれてたんだろうな、と思う。
鍵をかけ忘れたりしてなくて本当に良かった。
「んー、と……」
冷蔵庫の前で開けるのもなんだと思い、部屋のテーブルの上に置く。
封筒の中は、ほどほどの厚さの紙でできた、メッセージカードだった。
【杏山カズサ!!! いつもありがとうございます!!!!!】
「…………ふふっ」
宇沢の声が今にも聞こえてきそうな、勢いばかりの文字と、言葉。
文字にして見ると、なんだか余計に騒がしく感じられる気がした。
「宇沢、こういうところ、凝るのズルいよね……」
私はなにもしてなくて、チョコレートを渡しただけ。宇沢になんだか先手を取られたような気がした。
次に宇沢と何かをやるときはこっちが先に――と考えながらメッセージカードを眺めていて。ふと、違和感。
ボールペンの文字に、ちょっとだけ凹みがある気がして。
ちょっとだけ、カードを水平気味に持ってみた。
「……………………」
見えてなかったものが、うっすらと浮かび上がって、いや、凹んで、見えた。
思わず、口元に手が伸びる。
自分の口元が、変に、横に伸びてるのが分かった。
ふふ、と。息が漏れるのが分かった。
これはきっと、下書きの後だとか、そんなものなんだろうと思う。
宇沢の文字は勢いがあって、力強く、書かれてるから。――一度書いたであろう文字も、見えてしまう。
宇沢が、一度書いて、そして何らかの理由で消した。その言葉。
五文字の言葉が、見えてしまって。
「あー………………」
直接言われたわけじゃなくて。
見えてしまっただけの、宇沢が見せようとしてなかった言葉なんだろうけれど。
見えちゃったものは、仕方が無くて。
「………………ズルい、よね…………これ」
ちょっと。どうしようもなく。
口元がゆるむのが。止められない。
バレンタインの日の夜のカズサを書きました!
この作品を含む
放課後スイーツ部のバレンタイン対策会議
早く寝なきゃいけないことは分かっているのだけれど
見えなかったもの。見えちゃったもの。
は時系列に従って話が繋がっています。
続けて読んでみてください。