レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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歌ってよ、宇沢

 ――文化祭でバンドをやろう。バンド名は『SUGAR RUSHだ』

 

 ナツの――いつもの事ながら――突然の思いつきの提案が出て、何故かあれよあれよと言う間にやることが決まって、その日の内に申し込みまで完了させてしまった。

 トリニティ文化祭の総合部門一位の選択報酬の中に、ワンダー6000が、しかも一年分とあったのが全ての原因だと思う。

 ともあれ、申し込みまでしてしまったのだから、あとはやるしかない、と腹をくくり、皆で相談してやる楽器を決めて、先週の日曜日に、スイーツ食べに行くついでに楽器店にも立ち寄った。

 ――この時点で、『軽音部辺りから借りればよくない?』と提案したのだけれど、『実際にお金を出して買うことで逃げ道を塞ぐのだよカズサくん。我々にはワンダー6000一年分が待っている。逃げ場を作る必要も何もない!』などと言われた。言ったのは言うまでもなく、ナツだった。

 ――なんだかんだで、こういうイベント事好きだよなぁ、ナツ。

 何を考えているかよく分からないときも結構な頻度であるのだけれど、ナツはナツで、私たちを楽しませよう、という気持ちがちゃんと伝わる時もある。その上でいろんな事に巻き込まれることもあるけれど、それはそれ。

 結局、部費も少しだけ回すことで、全員が担当の楽器を揃えることができ、次の週から部活がない日は練習日、ということとなった。

 なお、私の担当はベースギター。アイリはピアノを昔からやってると言っていたので、即決定となった。後はジャンケンで、ヨシミがギター、ナツがドラムとなった。

 アイリを除いて、全員が初心者もいいところ。文化祭まで本当に形になるのだろうか、と不安はあるけれど――ワンダー6000を一年分ともなれば、それはもう、全力でやるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…………さて、と」

 バンド活動も部活動の一部ということで、購入した楽器関係は部室に置くこととなった。

 今日は部活動が無しの日。よって各自練習に勤しむこと――とナツからモモトークのグループに飛んで来ていた。

 銃と鞄は一旦部室に置いて、ベースギターが入った鞄を背負う。長さとしては元々持っている銃と同じくらいだし、重心の位置も同じ。重さは銃の方が重いくらいだから、背負った感じにはまったく違和感がない。

「練習、練習かぁ…………」

 スマホを見て、放課後スイーツ部のグループチャットを見、ナツの発言の後にそれぞれのスタンプが飛んできているのを見て、少しだけ悩む。

 ――どこで練習しようか、と。

 ベースギターはその名の通り、バンドにおける基礎となる楽器だ。ドラムと合わせてリズム隊とか言われたりする。

 弦は四本で、太く、押さえるのに結構な力が要る。そしてその音は、と言えば、結構低く、お腹の底から響くような音がする。

 静かに鳴らそうとしても、その低い音は壁を貫通して聞こえてしまうため、放課後スイーツ部の部室なんかじゃ決して練習ができない。

 かと言って、軽音部の部室なんかに行けるほど、私は上手くないし、そこに一人で入っていけるほど、私は――自分で言うのもなんだけど――コミュ力は、高くない。

 じゃあどこで練習しようか、と頭を巡らせて、巡らせて、まだ答えは出ていない。

 できれば一人になれる場所で、音を出してもバレなくて、できれば誰にも知られていないような――。

「そんな都合のいいところなん――――あ」

 頭で考えていて、自分で笑ってしまった。そんな都合のいいところあるわけない、と。

 その時何故か、宇沢の事が頭に浮かんだ。音を出しても――の辺りで、騒がしい宇沢のことが浮かんだろうと思う。

 宇沢、一人になれる、誰にも知られていない――頭で考えていたことが、一つの場所に繋がっていくのが分かった。

「…………ああ。あるじゃん」

 ふふ、と思わず笑みが漏れる。

 ――宇沢、ありがとね。

 ここに居ない宇沢に、心の中でだけ感謝して。そして私は、教室棟の方へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 何ヶ月かぶりに上る屋上への階段は、相変わらず自分の足音以外の音がなかった。

 足元に埃がないのは、おそらくミレニアム製のロボットが学校内をくまなく掃除しているからなのだろうと思う。こんな所は誰も通らないのに――と思うけれど、ロボットはそんなことを気にしない。

 そのおかげで、私がこの階段を上る証拠も消せて助かるのだから、ロボットには感謝しなくてはいけないな、と思う。

 屋上に通じる鉄製の丈夫なドア――の手前にある窓を引っ張ると、窓枠ごと綺麗に外れた。――何回も言うけれど、私が壊した訳じゃなくて、勝手に外れるようになっているだけ。

 そしてベースギターを窓枠の向こうに押しやってから、私自身も窓枠の向こうへ。

 上を見る。透きとおるくらいの青空が、広がっていた。

 教室棟の屋上――入り口は鍵が閉まっているけれど、別の入り口のおかげで入れるこの場所――は、かつて宇沢が私から逃げたときに使った場所だ。

 宇沢とこの場所がリンクして頭に残っているくらいには、あの日の出来事は、私の中で鮮明に残っている。あの時から見るに、屋上の様子は変わっていない。つまり、ここに入れる場所を知っている人は、今のところ宇沢と私しか知らないということになる。

 誰も知られて居ない場所でかつ、一人になれる場所。そしてここは屋外だから、音を出してもそうそう聞かれることはない。つまり、私のベース練習にはもってこいの場所だった。

「なんだ、わざわざ探さなくてもよかったじゃん。色々心配して損した」

 楽器を買ってからというもの、この二日間、練習場所について悶々と考えてた自分が馬鹿らしく思える。――軽音部に世話になる、となった場合、最悪先生にお世話になることすらも考えた。

 それが解決したんだ、思わず口からため息交じりに声が出てしまうのも、仕方ないと思う。

「…………さ、練習しよ。私だけ遅れちゃったら、皆に迷惑だし、ね」

 満場一致で、ボーカルは私になった。以前、放課後スイーツ部の出張部活動でカラオケルームコラボをした時の事が皆の頭の中にあったのだろう。

 ――これはカズサしかないよね。

 ――うむ。カズサしかあり得ないな。

 ――カズサちゃん、頑張って。

 私に反論の余地は全く無かった。アイリから歌が上手いと褒められたのは正直嬉しかったし、まんざらでもなかったから、まぁいいのだけれど。

「……それはそれとして、弾きながら歌う、んだよねぇ……。難しいなぁ」

 カラオケルームでは、当然のことながら歌うだけだった。けれど文化祭のバンドでは、私に限ってはベースギターを弾きながら、かつ歌う、ということが求められている。

 片方だけだったらなんとかなるかもしれないけど、それを同時に、となると――難しいなんてもんじゃない。家では実際に音を鳴らすことなんてことはできないから、音を鳴らせる場所で、しっかりと練習しなければ。――一応これは、チームプレーなんだから。

「さ、練習練習」

 声を出して、気持ちを切り替える。

 教本によると、最初から立って弾くのは難しいから、最初は座って練習した方がいいらしい。それに習って、金網に寄りかかって座る。譜面を広げて、飛ばないようにして、イヤホンを付けて、スマホで動画再生サイトを開く。

 ひとまずの練習曲として私が提案した、バンドサウンドで、そこまでBPMも早くなくて、ベースも弾きやすそうで、私が好きな曲。『きみロック』を再生させる。

 まずは曲を最初から流しつつ、左手の位置をなぞる。右手はピックを持つだけで、弾いたフリ。

 家で繰り返し練習をした通り、左手は外でもスムーズに動かすことができた。続いては、実際に弾いてみる。

 曲がゆっくりということもあり、右手と左手は思った通りに動いてくれた。そして次の段階、歌いながら、弾く。

「きみはロ――ん、きーみーは、――きーみーは、んん?」

 サビが結構な高音から入るこの曲、カラオケで歌ったときは難なく出たはずなのに、左手で弦を押さえ、右手で弦を弾きながら、なおかつ発声をしようとすると、どれかがズレる。

 声が上手く言ったと思ったら右手のリズムが崩れるし、鳴らす音が完璧だと思ったら歌の方の音がズレる。

 何回か試してみるけれど、どれもがきっちりとハマることはなくて、どれかが足りなくなる。右手、左手、声、どれもが別々の動きをするというのがどれだけ難しいかというのを、身に染みて感じる。

「うーん、弾く方はシンプルだから、体に覚え込ませれ――」

「杏山カズサ!!!」

「ぅわぁっ!?」

 ――突然、左側から爆音が聞こえた。

 思わず体が反応しちゃって、後頭部が金網の支柱にぶつかるわ、左足がベースにぶつかるわで全身が結構痛い。

「~~~~、痛ったぁ…………」

「だ、大丈夫ですか?」

 痛みに悶えていると、聞き慣れた声がすぐ近くから聞こえた。顔を上げると、パステルブルーと桜色の、見慣れた髪色が目に入った。

「…………宇沢? なんで?」

 宇沢が心配そうな顔でしゃがみ込んでいた。

「なんで? は私の方ですよ。杏山カズサ、なんでこんな所にいるんですか? しかも楽器なんて持って」

「いや、それはこっちの方。なんで私がここにいるって分かったの」

「え。……だって、杏山カズサの歌声が聞こえたので」

「え。」

 変な鳴き声を漏らすのは、こっちの番だった。え、私の音、そんなに聞こえ、た?

「え、あ、いえいえ、いえいえいえそこまで聞こえてきたって訳じゃないんですが、いろんな部活の音が聞こえる中で、『なんだかかすかに杏山カズサの綺麗な歌声が聞こえるなー』って思って、いろんな所で聞き耳を立ててたら、あ、この建物からですね!ってなりまして!」

 宇沢の動きが一瞬止まって、それから勢いよく手が左右にぶんぶんと振られる。そして結構な勢いで言われることをまとめると、『杏山カズサが心配するようなことはないですよ!』ということで。

「……一応、聞くけど。…………他の人に聞こえてそうな感じだった?」

「いえ? 本当に微かな感じでしたし、杏山カズサの歌声だったら私が聞き逃しませんし」

「…………そ」

 ちょっとだけ、ちょっとだけスルーしちゃいけないような言葉があったけれど、今ここで反応すると逆にこじれそうだから、あえてスルー。

 宇沢の話は、少なくとも、嘘を言っている訳ではなさそうに思えた。

「ふぅ……。ま、いっか。で、入り口は? 偽装工作した?」

「もちろんです。ここに上るときは――って、杏山カズサも知ってるじゃないですか」

「いや、念のため。……じゃあ、ここを突き止める人も居なさそうだね」

 焦ったけど、まぁ大丈夫そうだ。

 このまま練習しても、聞く人は宇沢だけ。外に声とかが漏れる心配はない。……となれば、それまで通り、練習するだけ。

 ――あと、今は。共犯もいることだし。巻き込むことにしよう。私だけなのは、恥ずかしい。

「宇沢、折角だし練習に付き合ってよ。前言ったでしょ、文化祭で、放課後スイーツ部でバンド組むって話」

「はい、杏山カズサとのモモトークで。……ああ、そういうことですか」

 私の顔を見ていた宇沢の視線は下へ移る。それから納得したように、宇沢は頷いた。

 察しがよくて助かる。きっと宇沢の頭には、私が言わなくてもどうせ伝わる部分まで伝わっちゃってるんだと思う。

 例えば、まだ合わせるのが怖いから一人で練習しているのも、まだまだ下手だから人前で練習もできないのも。きっと、全部。

「そういうこと。じゃ、歌ってよ、宇沢。譜面はこれ」

「――――え」

 ぎょっとした宇沢の顔があった。

「さっき納得してたじゃん。宇沢、ここまで来たんだったら、『じゃあ杏山カズサ頑張ってくださいね! それでは!』ってのも薄情ってもんでしょ」

「杏山カズサ、相変わらず私の口調似てな――痛った!」

「減らず口叩かないでさ」

「素直な感想ですよ! ただの!」

 思わず手が出てしまった。弁明するけど、殴ったわけじゃない。手刀を頭にたたき込んだだけ。それでも宇沢は涙目で私に抗議する。……そこまで、だったとしたら謝っとく。ごめん。

「今、弾くのと声出すのとを一緒にしても上手く行かなくってさ。宇沢に歌ってもらって、それに合わせて弾いたらいい感じに行くんじゃないかって思って。スマホから聞くよりも、たぶんやりやすいんじゃないかってね。どう?」

「私が、ですか」

「そ。宇沢が」

「練習相手にならないかもしれませんよ。……その、歌、人前で歌うの、授業以外じゃ初めて、なので」

 ――なんとなく、そんな気はした。

 放課後スイーツ部でカラオケ店コラボに行ったのは宇沢が部に入る前だし、それより後にカラオケに行くことも無かったし。宇沢と一緒にスイーツ食べに行ったときも、空き時間はカフェでケーキ食べながら駄弁るのがメインだったし。

 ――初めて、なんだ。

 そう思うと、少しだけ宇沢に悪い気がした。……でも、初めてなのは、私も一緒。人前でこれを弾くなんてのは、誰にも、まだ見せてないんだから。

「私だって、人前で弾くのは初めてだよ。だから宇沢も、私も、初めて同士。ね? 折角私の歌に釣られてきてくれたんだしさ」

「釣られて…………。いや、そう、ですけど」

「じゃ、練習終わったら、一緒にお疲れさま会って事でパンケーキ食べに行こ。付き合ってくれたら、奢ったげる」

「――――っ!」

 宇沢の目が、急に輝くのが見えた。分かりやすいなって思う。

「分かりました! やりますっ!」

「ありがと、助かる。――じゃあ、この曲だけど、分かる?」

「はい。たまに杏山カズサが口ずさんでる曲ですよね」

「…………え、いつ」

「帰り道とかに、時々?」

「…………」

 なんか、自然と、手がおでこに伸びた。え、いつ、そんなことしてたっけ、私。全く無意識だったのに。だったら言ってよ宇沢。いや、言うわけないか、宇沢だし。言ったら絶対私が手出してるし。そういうことか。

「………………、うん、その曲」

「頭抱えてましたけど、いいんですか?」

「うん、いい。気にしないで」

 大きく息を吸って、気持ちをリセットする。吸って、吐いて。もう一度、吸って、吐いて。

 ――おっけ、落ち着いた。

「じゃあ、最初のところからでいい? ああ、イヤホンは私の片耳付けていいから」

「は――――――は、はい」

 右耳に付けていたものを、宇沢の方へ。少しだけ戸惑いながらも、装着を終えたようだった。

「音量は大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

「じゃあいくよ、いち、にぃ、――――」

 

 前奏の後に、宇沢の歌声が、隣から響き始める。

 それは、思った以上に綺麗な歌声で、屋上からどこまでも、広がっていきそうな歌声で。

 想像していた、騒がしい歌声じゃなくて、隣に居る私に寄り添ってくれる歌声で。

 視線はまだ、譜面から動かすことはできないから、これは想像なのだけれど。

 屋上で歌う宇沢の顔は、きっと笑ってるんだろうなと思えた。




※これはイベント『-ive ALIVE』実装前に作った作品です。イベントの内容と異なる部分がありますが、修正をしていませんのでご了承ください。


屋上でベースギターの練習をするカズサと、それに巻き込まれるレイサが見たい!!!
書いた!!!
この作品の制作秘話です。9割くらい本当です。

SUGAR RUSHが実現する世界線なのであれば。屋上で練習するカズサの隣にレイサが座っているというザ・青春な構図が実現する世界線も存在する…………?(Twitterの原文ママ
という天啓が降りてきたので、書きました。
バンド活動、屋上での練習――ザ・青春!って感じですよね。
そんな青春の一コマを書きたかった。カズサとレイサ、二人で一組のイヤホンを共有して、仲良く歌ってて欲しい。そんな光景があったらいいなって思います。
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